しのぶ山
公開 2023/08/27 18:27
最終更新
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しのぶ山
むかしむかし、 よせばいいのに悪い癖が出た男がいたそうな。
とある鄙の家へ男は密かに通うようになった。それも相手は夫のある身である。というのも夫の方はつまらない身分の小者であったが、妻の方は陸奥の山奥には場違いなほど垢抜けた人であったので、田舎くさい女に辟易していた男は「鄙にも稀な…」とすっかり逆上せてしまったのだった。
薄暗い家の中に、明り取りの窓から月明かりが差し込んでいる。今夜も夫が不在の間に事を終えた男は、しどけなく横たわる女をうっとりと眺めた。
(…どうしてだろうなぁ…こんなところで澱んでいるような人とも思えないけど…)
気だるい体を横たえて、女の肌を指先で撫でながら
「…誰にも知られずあなたへ通う道があったらいいのに…もっともっとあなたのこと…心の奥まで知りたいんです」
と詠んだ。女は大層喜んでかんばせを輝かせていたけれど……旦那の留守に男引っ張り込んで事に及ぶような、意地の悪いカッペ女の心の底なんて見てどーするんですか、業平殿。
むかしむかし、 よせばいいのに悪い癖が出た男がいたそうな。
とある鄙の家へ男は密かに通うようになった。それも相手は夫のある身である。というのも夫の方はつまらない身分の小者であったが、妻の方は陸奥の山奥には場違いなほど垢抜けた人であったので、田舎くさい女に辟易していた男は「鄙にも稀な…」とすっかり逆上せてしまったのだった。
薄暗い家の中に、明り取りの窓から月明かりが差し込んでいる。今夜も夫が不在の間に事を終えた男は、しどけなく横たわる女をうっとりと眺めた。
(…どうしてだろうなぁ…こんなところで澱んでいるような人とも思えないけど…)
気だるい体を横たえて、女の肌を指先で撫でながら
「…誰にも知られずあなたへ通う道があったらいいのに…もっともっとあなたのこと…心の奥まで知りたいんです」
と詠んだ。女は大層喜んでかんばせを輝かせていたけれど……旦那の留守に男引っ張り込んで事に及ぶような、意地の悪いカッペ女の心の底なんて見てどーするんですか、業平殿。
