姉歯の松
公開 2023/08/27 18:26
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姉歯の松
むかしむかし、あるところに宛もなく陸奥を放浪する男がいたそうな。
田舎女には都の男はさぞかし眩い高嶺の花に見えたのだろう。
「なまじ恋い侘びて死なないのは蚕くらいのモンよ。繭になったらネンネのまま…恋も知らずに釜で茹でられて死んじまうンだから。」
アタシも同じさ…。と切々と想いを詠み送った。人も歌も実に田舎臭く野暮ったいが、女の健気な想いに心を動かされたのだろう。それならば一夜の情けを…と娘と関係を持ったのだった。しかし土臭い女の肌は、京男の口には合わなかったのだろう。
寝こけていた女が物音で目を覚ますと、男はまだ夜も明けぬというのにそそくさ帰り支度をしていた。
「あれ…もうお帰りに…?」
「えぇ…もう鶏の声も聞こえましたし、京へ戻らなくてはいけませんので。」
帯を締めつつ素知らぬ顔で言うと、そんなぁ…と女は甘えた声で男の腕に体を寄せて、
「…まったくクソ鶏め、夜が明けたら水桶にトリ頭ブチ込んでやる。寝ぼけて鳴くもンだから、旦那様が帰っちまうじゃないか。」
となんとも野暮ったい後朝の歌を詠んだ。
(……。)
男は振り払いたい気持ちを堪えて、「…貴方が姉歯の松であったなら、さぁ一緒に都へ参りましょうと言うのですが…。」と暗に拒絶の歌を返したが、「アタシを京へ!?そう仰ると思ってたンですよ!」と女は見当違いの大喜びをするのでますます男は辟易したのだそうな。
むかしむかし、あるところに宛もなく陸奥を放浪する男がいたそうな。
田舎女には都の男はさぞかし眩い高嶺の花に見えたのだろう。
「なまじ恋い侘びて死なないのは蚕くらいのモンよ。繭になったらネンネのまま…恋も知らずに釜で茹でられて死んじまうンだから。」
アタシも同じさ…。と切々と想いを詠み送った。人も歌も実に田舎臭く野暮ったいが、女の健気な想いに心を動かされたのだろう。それならば一夜の情けを…と娘と関係を持ったのだった。しかし土臭い女の肌は、京男の口には合わなかったのだろう。
寝こけていた女が物音で目を覚ますと、男はまだ夜も明けぬというのにそそくさ帰り支度をしていた。
「あれ…もうお帰りに…?」
「えぇ…もう鶏の声も聞こえましたし、京へ戻らなくてはいけませんので。」
帯を締めつつ素知らぬ顔で言うと、そんなぁ…と女は甘えた声で男の腕に体を寄せて、
「…まったくクソ鶏め、夜が明けたら水桶にトリ頭ブチ込んでやる。寝ぼけて鳴くもンだから、旦那様が帰っちまうじゃないか。」
となんとも野暮ったい後朝の歌を詠んだ。
(……。)
男は振り払いたい気持ちを堪えて、「…貴方が姉歯の松であったなら、さぁ一緒に都へ参りましょうと言うのですが…。」と暗に拒絶の歌を返したが、「アタシを京へ!?そう仰ると思ってたンですよ!」と女は見当違いの大喜びをするのでますます男は辟易したのだそうな。
