闇堕ちの能力者 第二章 旅人の進む道と優しさの祈り(2/2)
公開 2025/05/24 15:24
最終更新 2025/05/28 14:04
(空白)

 砂漠を抜けた先には街が広がっていた。重かった足取りもここなら軽く感じられた。しかし街に辿り着いたのはいいものの、消え去った少女の行方を追うにはどうしていいかわからなかった。街の人々に聞くとしても真っ白な少女なんてどう説明すればいいのか、彼は考えながら歩いていた。その道、異様にも多くの人が歩いているのに、人同士のぶつかりは一度もなかった。
 人混みから外れて誰もいない道に出た。そこで本を開いてみた。ページは進んでいたが、途切れ途切れだった文章は空白を埋めて、その空白には登場人物の名前達が書かれ、その人物達が多くの選択をして物語は動いていた。そこには少女の名前もあったが、何故そうだとわかるのか彼には理解できなかった。しかし可能性があるなら、その少女に会うことが出来れば、自分が一体何者なのかはっきりしてきそうだと思った。すると本から一枚の写真が落ちた。それを拾ってみるとどこかの施設で撮られた集合写真だった。
「どっかの施設……これは……」
 ツクシの頭を痛める何かが襲い、その場にしゃがみ込んで本を落としていた。


 ビル街の静かな通り道、そこに一人の男が歩いていた。深く帽子を被っていたが、隙間から見える紙の奇抜さに、いろんなものを引き寄せてしまいそうだった。影の方によってあまり光に当たらないように歩く彼は人々から不気味にも見えた。しかし通り過ぎようとする彼にすれ違う女性は気づいて、誰かの名前を口にした。その名前に他の人々も反応して、彼を逃がさないように囲んでいた。「またか」と彼はうんざりして、囲んでいた隙間から抜けだし走り出した。人々は彼を追いかけるが、いつの間にか見失っていた。それを感じた彼は走るのをやめて徐々に歩き出した。そうしているとビルから屋台街へと移動していた。疲れて立ち寄ったラーメン屋で食事を取って休憩していると、彼に話しかける者がいた。その者に対して警戒することはなく、横に座られても気にすることはなかった。その者はある封筒を渡した後、店から出ていった。彼はその封筒を開けて中身を確認すると、複数枚の写真とそれに関する説明を書いた手紙が入っていた。写真には病院が映っているが、その一枚は屋上が撮られていた。屋上にいる人の数は多いが、彼が探し求めていたそれはそこにいた。
『屋上は頼まれた通り、庭園へと変えておきました。しかし会話は許可が下りず、限られた人物のみになっています。新しいものではこれ以上み込めません。あなたの能力ならば、警備を乗り越えて入り込めそうではありますが、他の者達にも伝えておきます。すべては“原石”を持ち帰らなければなりません。そのためには何があろうともバレるわけにはいかない』
 最後はいつもの文章で締められ、病院にいる警備隊に紛れた仲間が書いた、説明という名の手紙を読んだ。彼は写真とその手紙を封筒に仕舞って店を出た。

 店を出てビル街の方に戻ろうとした時、彼のそばで車が止まって窓が開いた。その人は少し怒っていたが、彼が知らんぷりで通り過ぎようとするのを車から降りてでも掴み、強制的に乗せて連れ去った。
「また抜け出したんですか! ダンスレッスンからいなくなったって連絡が来て……探しましたよ」
「会う用事があるって言ったよな。今、二人っきりだから言うけど……あまり騒がないでくれ」
「それは分かっているけど、今回のはリハーサルも兼ねたものだったから抜けられるとこっちが怒られるの」
「……そんなことしたって求めている者が来なければ意味がない」
「楽しませる気持ちはないの? 確かに“原石”は必要だけど……現にあなたは」
「ただ情報を集めるだけに過ぎない。この姿もすべて終われば必要ないし、お前もやめられる」
 彼の冷たい言葉に言い返す気力もなくなり、車を走らせていると一つの建物に辿り着いた。その中に入ると彼の帰りを待っていた多くの人々がいた。それを見た彼はうんざりした表情を変えて、明るく振る舞っていた。その人は深いため息をつきながら、人々に混じってその様子を見ていた。
 リハーサルは終わり、片付けが始まった頃、彼は新たに手紙を受け取っていた。しかしそれには何も書かれていなくて白紙のままだった。普通なら間違って渡したのかと思うが、彼は白紙の意味を理解していた。外は夕暮れを過ぎて藍色の夜になっていた。誰にも気づかれず外に出た彼は、路地に入ってライターでその白紙を炙ると文字が浮かび上がり読めるようになった。
『準備は完了しました。ただ警備はあってすべてを動かせるかは未知数であり、作戦の成功率は低めだと考えている。しかしながらどうかあなただけでも会ってほしい。私達では触れることも叶わない。あんな近くにいても邪魔者が多すぎる』
 読み終わると彼はその手紙を破り捨てて、暗い路地の中に消えた。


 時は流れ、変わらない病室の日常をこなしていたリイノのもとに謎の封筒が送られてきた。朝の検査を済ませて病室に戻ってきた彼女は、車椅子に乗ったままベッドについている机に近づいて気づいた。その封筒を取って裏を見ると『天弓(てんきゅう)メノカ』と知らない名前が書いてあったが、封筒を切って手紙を取り出してみた。そこに書かれていたのはリイノに会いたいことと『満月の日 病院の屋上で』と途中まで書かれた文章だった。そういえばとリイノはスイリアからもらっていたコンサートのパンフレットを見た。そこには封筒の裏に書かれていた名前と同じものがあった。確か今日がその日で、昨日の夕方、スイリアが嬉しそうに語っていたのを思い出した。
「満月……カレンダーだと……今日だ」
 カレンダーを指でなぞり、月の形を追って満月を見つけた。ルジオさんに警備のこともかねて相談しようと思った時、足音がしてビクッとし、ゆっくりとそっちを見るとセオンが立っていた。
「あっ、どうも」
「……」
「驚いていたけど何か考えていた?」
「セオンさんは天弓メノカという人物を知っていますか?」
「あー、知ってますよ。それがどうした」
「手紙が届いてて……」とリイノは言いながらセオンに手紙を渡した。彼はその手紙に目を通し、少し考えた後に口を開いた。
「別に危険人物ってわけじゃないんですよ。この人単体なら」
「単体なら?」
「この天弓メノカを調べていくと、彼の後ろで暗躍する大量の人物がいまして、その者達が妙な動きをしていて、そこに《呪われた血》も絡んでいる。まだ調べ終わってないけど、屋上の庭園もその者達の仕業である可能性が出てきた」
「やっぱりルジオさんに言った方が」
「いや、彼なら今日いないはず」
「え?」
「今日はそいつのコンサートだから警察も忙しいって。でも何かあればすぐに連絡は出来ると伝えてくれって頼まれた」
「そうですか……。ソルヒも今日は忙しいって言っていたし」
「俺なら別に構わないが」
「でもまだ調べ終わってないから忙しいんじゃ……」
「あれはいいんです。俺が出来ることはやったんで。あとは成分などの結果待ちなので。それよりもリイノの命が危ないなら守らないと……まだ聞けてないこともあるし」
 最後の言葉さえなかったらかっこいいで終わったのにとリイノは思っていた。

 しかしセオンは何かを思い出し、少し席を外すと言って病室からいなくなった。セオンということで消えていた寂しさと恐怖が一度に襲ってきて、どうしようと頭がいっぱいになった。するとすぐに足音がして戻ってきたのかと思って見てみると、見知らぬ男がリイノに触れようと手を伸ばしていた。とっさに悲鳴を上げようとしたが、その体がうっすら透けているように見えて、能力による分身の部類ではないかと何故か冷静になっていた。
「あなたは誰?」という言葉に男は体をビクッとさせていたが、無口のままで一枚の写真を渡してきた。その写真を見たリイノは一度目を閉じて考えた後、もう一度見ていた。
「僕は碧海ツクシ、旅人。それ以外の記憶は曖昧で覚えていない。けれどこの写真を見つけて君に会えば何かわかるかもしれないと思った」
「私はあなたを知らない……と最初見た時思った。けどこの写真を撮った日、何か、思い出せない。わからない……」
 頭を抱えるリイノにツクシは触れようとしたが、リイノはそれを払おうとしてその意思に反応した白い蛇が現れてツクシの体に触れた。しかし白い蛇は弾かれて、代わりにリイノの頭に『不明』の文字が浮かび上がった。能力がわからないから弾かれたのだと思ったが、その『不明』の言葉に得体の知れない恐怖を感じてリイノは震えていた。ツクシは白蛇に触れられたことで謎の記憶が流れ込み固まっていた。白い蛇の『封印』とは違う謎の光、そこから流れ出した映像には一人の少女がいて、彼と同じく本を持っていた。少女は本を持っていろんな世界を旅していたが、それは罪を償うため、物語を終わらせる行為だと言っていた。世界を記録するために存在する『記録者』よりも何かを抱えた少女のことを彼は助けたいと思った。しかしその望みは叶わず、少女は姿を消して行方不明になり、彼の体は魂だけとなっていた。なぜそうなったのか彼にはわからない。消えかけた命は抗って抜け出したが、記憶はこの世界に鍵を落とした。
「そうか、僕は……」
「……」
「だから君だったんだ。わからなくてもいい。もう終わったことだから」
「私には何もわからないけど……でも」
 話を続けようとするとセオンが戻ってきてリイノに話しかけた。その視線はおかしいと何度も言われて、セオンにはツクシの姿が見えていないのかと思った。ひとまずリイノはセオンの方を見ながら、放置されたツクシは静かに二人の会話を聞いていた。するとツクシが持っていた本が勝手に開いてページを更新していた。ツクシはそれを見て曖昧だった記憶が整理されて、思い出すべきことが彼の頭に浮かんでいた。

 世界の書庫、すべての物語がそこにはある。彼は『記録者』と呼ばれていた。しかし彼の存在は伏せられており、他の『記録者』は名を知らなかった。彼の住処は世界の書庫ではなく、あらゆる世界の裏側に存在していた。存在が『不明』という意味から『不明の記録者』の名が与えられ、とある世界では最後の『記録者』と言われていた。
 しかしある世界の分岐、『二つの世界』が崩れ去ろうとしていた。そんな日に生まれたのが彼の記憶の隅に存在していた少女『空白の記録者』だった。彼女はその他の『記録者』と同様に本を持っていたが、記録や修正を主に行う『記録者』とは違い、世界を終わらせる力を持っていた。まるで「誰か」を写し取ったような姿をしていた。


 煌びやかな世界、そこに足を踏み入れることにしたのは、星のみんなを救うためだった。はじまりは自星で発生した病の蔓延だった。その病を治すために調べて知った“原石”の言葉。“原石”さえ存在すれば薬の調合はたやすく、すぐに治療することが可能になると書かれていた。しかしそれは研究対象としてあらゆる世界に渡り、過去にはこの星にも存在していた。彼は当時、まだ病にかかっておらず動くことが出来る者として選ばれ、自星を出て旅をし、この世界に辿り着いた。そこからは地道に少しずつ情報を集めて繋がった線を手繰り寄せていた。仲間達の協力により情報はたくさん集まったが、その一人から手紙が届き、状況は悪化した。そこには『“原石”は能力として散らばった』と書かれていた。意味が理解できずにその手紙は捨てられたが、探し求めていた“原石”は人に植えつけられ、その中で血と混ざって溶け出していた。そしてそれを人々は《呪われた血》と呼び、能力はその血に選ばれた者にのみ開花して宿ることを知った。
 もうその血は残されておらず、この世界にいる意味はなかった。しかし彼は真実を星にいるみんなに伝えることが出来なかった。それはここにいる仲間達も同じ想いだった。今更成果がなかったと戻れば、何をされるかわかったもんじゃなかった。けれど遅かれ早かれ、《呪われた血》を持つ少女に辿り着いた。
 会場には多くの人々が今か今かと彼を待っていた。ダンスメンバーが踊っている途中で暗闇に入り込み、ライトが当たって彼の姿が見えるということになっていた。彼はその通りに動いてライトを浴びる。歓声が上がり、曲が流れ始めて歌い始めた。その歌は人々を惹きつけ、視界は彼だけを映し出した。あらゆる歌が人々の心を動かして行く中、彼は後ろのメンバーに合図をした。すると突然ライトが消えて彼がいなくなった。しかし人々にはまだ彼がそこに立っていると錯覚していた。
 彼はというと一般人に紛れて病院に向かっていた。煌びやかな衣装を捨てて、満月が輝く夜の空を走り続けていた。

 光り輝く屋上の庭園、警備は誰一人いなくて、リイノは車椅子に乗って、藍色の空に浮かんだ満月を見ていた。そこにツクシの姿もあったが、記憶を取り戻したことで姿を完全に消すことが出来ると気づいて、リイノの恐怖を煽らないよう、彼女にすら見えないようにしていた。セオンは度々呼び出しをくらって今はいなかった。するとビルの電光掲示板に天弓メノカの姿が映し出され、別の映像が流れていたビルも次々と侵食されていた。映像がジャックされたことで街が混乱状態に陥り、コンサートに外れたファンからすればサプライズだと喜び、大騒ぎになった街を警察官達がどうにかして抑え込もうとしていた。
「本来はもう意味がなかった」
 変わっていく街に気を取られて、その声に驚きリイノは周りをキョロキョロするが、何も見つからずに恐怖を感じていた。するとリイノの足元をつつく小さな生き物がいて「ここだよ」と喋っていた。
「あなたは……」
「……この姿じゃ不便だし、慣れた姿になろう」
 そう言って小さな生き物は光を纏って人の姿に変わり、その姿は映像で流れている天弓メノカそのものだった。
「俺は天弓メノカ。しかしそれはこの世界に紛れるための名前。所謂仮名だ。本当はユピテル・アストランチアという別の星から来た宇宙人と言った方がいいかな。あの小さい生き物が本来の姿。人の姿は擬態しているだけに過ぎない。俺は君を……厳密にいうとその体に宿っていたものを探していた」
「宿っていたもの? もしかして《呪われた血》のことかな」
「そう呼んでいるようだが、俺の星では“原石”と呼ばれていた。それがあれば星に蔓延した病を治すことが出来ると言われた。それ以外の情報は皆無に等しかったが、旅をしているうちにこの世界に辿り着き、情報を集めるために俺は囮の役割をした。それが能力との相性も良くて、注目の的になることは容易だった。俺が持つ能力は『幻虹(げんこう)』で、多くの人に夢を見させる『幻覚』と多くの人を引き寄せる『虹声』からなるものだった。しかし集まる情報は残酷性を持っていた。“原石”は少女の体に宿り、溶けて血と混ざって能力に変容した。“原石”はもう君の体には残っていない」
「……それってセオンさんが言っていたこと……?」
「何を言われたのかは知らないが、おそらく血の効果が失われたという話だろうか」
「うん……でもそれじゃ」
「病は治らずに死へと落ちるしか道は残されていない。今まで何のために……君は何も悪くない。すべてはみんなを救うことが出来なかった俺のせいだ」
「あなたのせいなんかじゃ。それに別の方法があるかもしれないのに……」
「……もういいんだ。最後に君に会えてよかった」
 メノカは下がって寂しそうな顔をして屋上を飛び降り、足は地面から離れていた。リイノは急いで車椅子を動かして彼の体を掴もうとしていた。しかし車椅子は倒れてリイノの体は転げ落ち、痛みを感じながら手を伸ばして掴んだが、彼女の上半身も地面から離れていた。彼の重さに耐え切れずに少しずつ体はズレていたが、死ぬ高さであることは明白だったから、その手に力がある限り放したくなかった。しかし彼の擬態は効果の時間を過ぎてしまったのか、メノカは小さな生き物状態となって軽くなったが、すでに遅くてリイノの体は空中に浮いていた。声を出す前にその体は落ち、せめて彼だけでも救うために、小さな生き物を包み込み、彼女の体は背から落ちて守ろうとした。しかし硬いコンクリートには当たらず、代わりに静かな着地音がリイノの耳には聞こえた。
「落ちるなら、先に言っといてください」
 そう言いリイノをお姫様抱っこしていたのはセオンだった。電波障害で鳴り響く電話のせいで情報が錯綜し、多少の混乱に巻き込まれたものの、病院周辺に飛んでいた鳩のおかげで騒ぎを聞きつけて、リイノを救うと衝撃を抑えるために『転移』を駆使して少しずつ降下していた。
「……い、生きている?」
「生きているよ。ほっぺでも引っ張ってみるか」
「……痛い。うぅ……」
「怖いことはしないでくださいよ……そろいもそろって危険なことをするな……」
「ごめんなさい。でも」
「わかっている。それよりもちょうど良かった。おい、起きろ! そこの生き物」
「へ?」
「あんたの正体は知っている。だからこそこれを受け取ってほしい」
「何だ?」
「開けてみればわかる。ここだと人が多いから擬態するなら別の場所にしとけよ」
 何もかも知っているのだと理解したメノカはセオンに渡された封筒を口にくわえて走り出し、暗い路地に入って再び人の姿になって封筒を開けた。そこには手紙と何か固形のものが入っていた。ひとまず手紙を開いて読んでみた。
『天弓メノカ、いやユピテル・アストランチアとその仲間達へ
 手紙を読んでいる人物が誰であろうが構わないが、お前達の星の話は情報屋経由で手に入れた。屋上の庭園も警備隊にいた者も情報を抜き出そうと頑張っていたようだが、そんなもの最初から気づいていた。だから泳がしていたというわけではないが、そのおかげで治療薬を作る時間が稼げた。お前の仲間の一人から病の症状を聞き、あてはまるものを作ったつもりだと研究者は言っていたが。《呪われた血》を使用しなくとも作れた品で、複製も容易。誰かが死のうとするかもしれないが、その前に渡せていたらいいが』
 手紙を読みながらメノカは無意識に泣いていた。字は機械で印刷されたものだったが、その文章には人の優しさがこもっていた。死のうとした自分の愚かさを呪い、こんなにも手を差し伸べてくれていたことに驚いていた。封筒の口を手に当てると落ちてきたのは錠剤の薬だった。飲みやすいように小さくして、紙に成分の説明を書いてクリップで止めてあった。

 数日後、それらを起こした犯人の調査が始まったが、あっけなく逮捕されていた。その話をセオンから聞いたリイノは「本当に良かったの?」と心配そうに確認していた。
「嘘の情報を渡したことか」
「だって、その……メノカさんの仲間が引き起こしていたことでしょ。別のそれも関係ない人を犯人にでっち上げて良かったの?」
「メノカが自分の星に戻りたいっていうから、そのためにしただけ」
「誰か気づいたら大変なことになるんじゃ」
「……気づいたら『転移』で消すだけさ」
「いいのかな、それで」
「リイノ」
「何?」
「ソルヒの時も思ったけど、死を受け入れないでくれ」
「だってあれは」
「死なせたくない想いは分かるが、自分を大切にしろよ。今は」
『今は』という言葉に悪い意味を含んでいることはすぐにわかったが、リイノは言い返さなかった。ふとリイノはセオンから視線を外して、病室の壁を見ていた。そこには壁を背にして本を開いているツクシの姿があった。
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