猫を飼う男、犬に拾われた男 2
公開 2023/09/24 12:31
最終更新
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※山田さんが殺し屋なパロの続き
前作はこちら>https://simblo.net/u/p5iQS4/post/16351
「おいこら起きろバクスチャー。もう昼になるぞ!」
何度呼び掛けても起きる気配すら見せない寝汚い男──容姿だけなら超一級品──の
寝室のドアを殴るように開ける。キングサイズのベッドの上には最早見慣れた白い繭が出来上がっていた。
俺が「元ターゲット」であり「俺のモノ」としたこの男、エドワード・バクスチャーと一緒に暮らし始めてから、今日でちょうど一週間。
この繭を解体するのも、六回目だった。
「なにここ。モデルハウスかなんか? 生活感ゼロじゃん」
「失礼ですね。私のセーフハウスの一つだと言ったでしょう。まぁ、ほぼこちらで生活していますしもう自宅と言ってもいいのですが」
「はー、お前いいところに住んでるねぇ。お、立派な冷蔵庫に最新のオーブンレンジもあるなんて最高じゃん」
「あなたは料理をするのですか?」
「簡単なものならいくらか作れる程度だよ。売ってる総菜も美味しいんだけどさ、味の調整が出来ないからちょっとしょっぱかったりするんだよね。アンタはするのか?」
「……………………ええ、まあ」
「……その間はなんだよ」
一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をしたのを見逃すようなヘマはしない。制止の声がかかるよりも早く冷蔵庫の扉を開ければ──中に入っていたのは数本のミネラルウォーターと『要冷蔵』と側面に書かれた洋菓子の大きな箱。
まさかと思い冷凍室も開けてみれば、そちらにはジンやウォッカなどの酒のボトルとコンビニでも買えるお高めのアイスクリームが数種類。それだけだった。
「あんた、料理出来ないんだな」
「誰にでも得手不得手はあるものです」
「設備だけはしっかりしてんのになぁ、キッチンもIHで三口だし」
「……別の場所で試したことはありますが、退去せざるを得ない状態になりまして」
気のせいか、どこか遠い目をしたまま呟く姿にムクムクと庇護欲が湧く。こんなにも容姿も頭脳も優れた、羽を生やしてラッパでも吹いている方が似合いそうな男が料理の腕前だけは壊滅的だなんて可愛いにも程がある。
「まあいいや。ここに住まわせてくれるんなら食事くらいは作るよ」
「……私と生活を共にしても良いと?」
「そもそもお前は俺が『飼う』んだから、飼い主としての世話くらいするだろ。寝床を与えてもらうのはありがたいよ。確かにここと比べたら俺がいたところは物置だ」
「私はあなたが『私のモノ』になることを望んでいるんですが」
「は、冗談も程々にしておけ、バクスチャー」
「あなたこそ年長者の言葉は素直に聞いておくべきでは?」
ピリッと走った殺気……に似た緊張の糸は、すぐに切れた。そもそも、お互い本気で相手をどうにかしようと考えたなら言葉よりも先に手が出るのだ。そして現状武器でも素手でも俺の方が優勢なことには変わりがない。バクスチャーも、それを十分理解しているようだった。
「……来なさい、中を案内します。ところでベッドを共にする気はありますか? 手を出さないという確証はありませんが」
「うっかり手元を間違えて刺し殺すかもしれないけど、それでもいいなら。あー、でもあんたは死んでも綺麗なまま残しておきたいな。剥製とかにして」
「……最初のうちはゲストルームをどうぞ」
「そういう物分かりがいいところも可愛くていいなぁ。あとで撫でてやろうか」
「結構です。まずここがバスルーム、それから……」
それから一週間。呆気ないほど穏やかで生温い日々が続いた……俺の可愛いペット、もとい家主の本性が朝に弱いシーツの魔物だということ以外は。
「お前が昨日食いたいって言うからオムレツ作ってやったっていうのに、起きてこないとはいい性格してんな。食わないなら捨てるぞ。そして二度と作らねぇからな」
「おき……おきて…………たべぅ……」
「そういうのはしっかりしゃっきり身体を起こしてから言え!」
──そうして今日も、俺は世界で一番美しく、我儘で、金色の髪と白い肌に透き通るような青い瞳を持つ『俺の可愛い獲物』を起こすのだった。
前作はこちら>https://simblo.net/u/p5iQS4/post/16351
「おいこら起きろバクスチャー。もう昼になるぞ!」
何度呼び掛けても起きる気配すら見せない寝汚い男──容姿だけなら超一級品──の
寝室のドアを殴るように開ける。キングサイズのベッドの上には最早見慣れた白い繭が出来上がっていた。
俺が「元ターゲット」であり「俺のモノ」としたこの男、エドワード・バクスチャーと一緒に暮らし始めてから、今日でちょうど一週間。
この繭を解体するのも、六回目だった。
「なにここ。モデルハウスかなんか? 生活感ゼロじゃん」
「失礼ですね。私のセーフハウスの一つだと言ったでしょう。まぁ、ほぼこちらで生活していますしもう自宅と言ってもいいのですが」
「はー、お前いいところに住んでるねぇ。お、立派な冷蔵庫に最新のオーブンレンジもあるなんて最高じゃん」
「あなたは料理をするのですか?」
「簡単なものならいくらか作れる程度だよ。売ってる総菜も美味しいんだけどさ、味の調整が出来ないからちょっとしょっぱかったりするんだよね。アンタはするのか?」
「……………………ええ、まあ」
「……その間はなんだよ」
一瞬、苦虫を噛み潰したような顔をしたのを見逃すようなヘマはしない。制止の声がかかるよりも早く冷蔵庫の扉を開ければ──中に入っていたのは数本のミネラルウォーターと『要冷蔵』と側面に書かれた洋菓子の大きな箱。
まさかと思い冷凍室も開けてみれば、そちらにはジンやウォッカなどの酒のボトルとコンビニでも買えるお高めのアイスクリームが数種類。それだけだった。
「あんた、料理出来ないんだな」
「誰にでも得手不得手はあるものです」
「設備だけはしっかりしてんのになぁ、キッチンもIHで三口だし」
「……別の場所で試したことはありますが、退去せざるを得ない状態になりまして」
気のせいか、どこか遠い目をしたまま呟く姿にムクムクと庇護欲が湧く。こんなにも容姿も頭脳も優れた、羽を生やしてラッパでも吹いている方が似合いそうな男が料理の腕前だけは壊滅的だなんて可愛いにも程がある。
「まあいいや。ここに住まわせてくれるんなら食事くらいは作るよ」
「……私と生活を共にしても良いと?」
「そもそもお前は俺が『飼う』んだから、飼い主としての世話くらいするだろ。寝床を与えてもらうのはありがたいよ。確かにここと比べたら俺がいたところは物置だ」
「私はあなたが『私のモノ』になることを望んでいるんですが」
「は、冗談も程々にしておけ、バクスチャー」
「あなたこそ年長者の言葉は素直に聞いておくべきでは?」
ピリッと走った殺気……に似た緊張の糸は、すぐに切れた。そもそも、お互い本気で相手をどうにかしようと考えたなら言葉よりも先に手が出るのだ。そして現状武器でも素手でも俺の方が優勢なことには変わりがない。バクスチャーも、それを十分理解しているようだった。
「……来なさい、中を案内します。ところでベッドを共にする気はありますか? 手を出さないという確証はありませんが」
「うっかり手元を間違えて刺し殺すかもしれないけど、それでもいいなら。あー、でもあんたは死んでも綺麗なまま残しておきたいな。剥製とかにして」
「……最初のうちはゲストルームをどうぞ」
「そういう物分かりがいいところも可愛くていいなぁ。あとで撫でてやろうか」
「結構です。まずここがバスルーム、それから……」
それから一週間。呆気ないほど穏やかで生温い日々が続いた……俺の可愛いペット、もとい家主の本性が朝に弱いシーツの魔物だということ以外は。
「お前が昨日食いたいって言うからオムレツ作ってやったっていうのに、起きてこないとはいい性格してんな。食わないなら捨てるぞ。そして二度と作らねぇからな」
「おき……おきて…………たべぅ……」
「そういうのはしっかりしゃっきり身体を起こしてから言え!」
──そうして今日も、俺は世界で一番美しく、我儘で、金色の髪と白い肌に透き通るような青い瞳を持つ『俺の可愛い獲物』を起こすのだった。
