サンタクロースたちの夜
公開 2023/09/24 18:11
最終更新
2023/09/24 18:13
※本編>https://simblo.net/u/p5iQS4/post/16442
三人で就寝のあいさつを交わして、それぞれの部屋に入ってから一時間後。
小さめのノックをしてから正義の部屋に入ったリチャードが目にしたのは、鼻を啜りながら泣く正義の姿だった。何事かと驚いて駆け寄りそうになるも、正義の手の中にあるものを見て、すぐに納得した顔になって微笑んだ。
「……まったく、あなたは本当に……」
「…………うぅぅ」
「まさかずっと泣いていたのですか?」
「だっで、じがだないだろ……」
手の中に在るそれを見るたび、正義の瞳からはぽろぽろと涙が溢れていた。
みのるが、正義とリチャードへと渡してくれたクリスマスプレゼントの、ハンカチ。
正義とリチャード、それぞれのマフラーの色に合わせたのだろう太めのストライプが入れられたそれに、二人で何度もみのるにお礼を言った。
みのるは優しい子だと、正義はいつも思う。
お小遣いを渡していたのは、みのるが日頃使う文房具や本を好きなように買えるように、という意味もあったのだけれど、もちろんそれだけではなかった。
長い間、母親の為にたくさんのことを我慢していただろうみのるに、自分たちと一緒にいる間は何も気にせずに、みのる自身のためだけに使ってくれればいい、と思ったからだ。
だけどみのるは貯めていたお金をリチャードの誕生日プレゼントと、共に暮らしている二人へのクリスマスプレゼントを買うのに使ったのだ。
辛い環境にいたのに、いつも他の誰かのことを想っている、かなしいくらい、優しい子だと。
そんなことを口にしながら、めそめそと泣いている正義に、リチャードは柔らかく微笑みながら何度も相槌を打った。
その気持ちはリチャードも同じだった。自室に戻ってから、リチャードもみのるからの誕生日とクリスマスのプレゼントに、たまらない気持ちになったのだから。
それでもチラリと時計を見て申し訳なさそうにリチャードは口を開いた。
「……昔から泣き虫な、私の可愛いサンタさん。あなたを慰めて差し上げたいのですが、そろそろ準備を始めなくては。今夜、あなたが眠る時間がなくなってしまいます」
「っうん、そうだよな。明日もご予約が詰まっているんだし、おまえのことちゃんと休ませないと専属秘書として失格だ。ありがとうリチャード」
「私のほうこそお気遣いありがとうございます。二人でやらないと、あの量は大変ですから」
ぺしょぺしょになっていた正義の顔面を整えてから――慰めのキスが目元に落とされて、すぐに涙は引っ込んだ――正義の部屋から出た二人は、こっそりみのるの部屋の中を覗いて、部屋の主がぐっすりと眠っていることを確認する。
そのまま足音をころして向かったのは、客間として残してある空き部屋だった。いつでも使えるように掃除はしてあるが最低限の家具しか置いていない無機質な部屋なのだが。
今は、部屋の中央に小さな山が築かれている。
色とりどりの包装紙に包まれた。大小さまざまなクリスマスプレゼントの山が。
□ □ □
「どうしよう……」
「まだ決め兼ねているのですか」
「だって本当にたくさんあるんだ、みのるくんにあげたいもの。似合いそうな服とか、好きそうな本とか……全然絞り切れない。どうしよう」
「あと一ヶ月半しかありませんよ」
「分かってるんだけどさぁ……。って、そういうおまえはプレゼント決めたのか?」
「それは…………まだです」
「だよなぁ」
十一月の半ば、銀座・エトランジェにて。
予約の合間にいつものミルクティーとプリンで一息つきながらも、この時期はどうしても話題が来月末に迫るクリスマス商戦に向けた業務調整、追加の仕入れや応援要員の確保などがメインなのだが、今年はそれだけではなかった。
霧江みのる――正義にとって半分だけとはいえ血の繋がった、実の弟――と暮らし始めて最初に迎えるクリスマスなのだ。
当然「ええかっこしい」な兄と、その雇用主であり今は同居人でもあるリチャードは、それぞれみのるにクリスマスプレゼントを贈ろうと決めていたのだが。
「決められない……」
「難しいですね……」
二人揃って、何を買うべきなのか延々と悩んでいるのだった。
「俺、今ならおまえの気持ちがすごく分かる」
「は?」
「おまえ、何かとプレゼントをくれただろ。俺がここでバイトしてる頃からだけど、秘書になってからも福利厚生がどうのって言ってさぁ。正直、こんなに与えられてばかりで申し訳ない! って気持ちが強かったんだけど、今は俺もみのるくん見てるとそういう気持ちになるんだよなぁ」
「……左様で」
「左様です。だからさ、俺がおまえからもらった優しさとか思いやりを返していきたいんだ。俺の大切な人に。おまえはもちろん、みのるくんにも渡していきたい。おまえがしてくれたみたいに」
「ええ。あなたはあなたのやりかたで、これからみのるさまとの関係を築いていけば良いのです」
「うん……みのるくんに会えなかった時間の分もこれから全部」
「ああ、その手がありましたね」
「ちゃんと…………うん? その手?」
「話を途中で遮ってしまい、申し訳ありません。ですが正義、あなたのその言葉で私たちの悩みを解決する方法がひとつ、見つかりました」
「へ?」
きょとんとする正義に向かって、リチャードは惚れ惚れするくらい優しく、微笑んだ。
「今年はこれまでの分もクリスマスプレゼントを渡せばいいのです。十三年分の、プレゼントを」
リチャードの提示した「作戦」を聞いてすぐに正義は賛同した。それからの行動は早く、まずはお互いのピックアップしていたプレゼント候補を開示して、かぶっているものがどれくらいあるか確認する作業から始める。
ずっと絞り切れずにいたプレゼント候補たちがこんな形で昇華されるとは、実のところ提案したリチャードにも予想外だった。いっそのこと二つ買ってしまおうかと思っていたくらいだ。
それは正義も同じで、あれが、これがと二人で話し合っただけで、あんなに悩んでいたのが嘘のようにスルスルと決まっていく。
そうして出来上がった「プレゼントリスト」はみのるが生まれてからの十三年分、しかも正義とリチャード二人から、ということもあって結構な量になっていた。
「……これは逆に、急いで買わないとだな?」
「手に入り難そうなのは……この辺でしょうか。あとは随時買い集めましょう」
「そうだな。でもこの量はさすがに当日運んだらバレちゃうよな?」
「……空き部屋があるでしょう。あそこに仕事の荷物を置いていることにしてはどうでしょうか。みのるさまはあの部屋には入りません」
「そうだな。じゃあ大きめのものはみのるくんが学校に行ってる平日に運び入れよう」
「うっかり口を滑らせないように」
「もちろんだ!」
それからは日々の分刻みのスケジュールの間に二人で分担しながら、プレゼントを買い集めた。あらかじめ、空き部屋に仕事で使う荷物を入れてあるので出来れば入らないで欲しい、と伝えればみのるはすぐに了承した。
そもそも、自分の部屋と共用部以外にみのるが立ち入ることはほとんどないので、ただの報告のようなものだ。
そうして日々少しずつ山は積み上げられ、今や絵本の中の情景のようになっていた。
□ □ □
「……なぁ、おまえの家のクリスマスも、あんな感じだったのか」
「あんな感じ、とは?」
「こう……プレゼントの山が大きなツリーの下にどーん! みたいな」
「……まあ、近いものではありました」
「そうかぁ」
二人で静かに、息を殺しながらみのるの部屋と空き部屋を往復し続けること十数回。予定通り、みのるを起こすことなくプレゼントをすべて運び入れることが出来た。
正義の部屋に戻った二人は、蜂蜜入りのホットミルクを飲みながら他愛もない話をした。明日の仕事を考えたら早く寝なくてはいけないと頭では理解していたのだけれど。
「明日、みのるくん驚くかな」
「きっと驚くでしょう。もしみのるさまが驚いた声を出しても、部屋に飛び込んだりしないように気を付けましょう」
「そうだな。そうだ、窓開けておいたってことにしようか。サンタの侵入経路としてさ」
「良い考えですね」
空になったマグカップを手で転がし続けている正義の声の中に、詰まったような色を感じ取り、リチャードはそっと正義に自分の手を重ねた。
「書いて頂けて、良かったですね」
「……うん」
プレゼントの山、その一番上に載せられたのは一通のメッセージカードだった。
ツリーの形をしたそれは、みのるの母親である霧江ゆらからのものだ。
まだ万全ではないものの、かなり回復していたゆらにせめてカードだけでもと正義が人づてに頼んでいたことを、リチャードは知っている。
カードになんと書いてあるのかは、受け取った正義も知らない。一番最初に読むべきは贈られたみのるであるべきだからだ。
「リチャード」
「はい」
「おまえがいてくれて、よかった」
「ええ」
「今日のことも何度感謝しても足りないよ。あと朝も昼も言ったけど、誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます。あなたに出会えて、本当に嬉しい」
「それ、今は俺のセリフじゃないか?」
「ならばあなたも言えばいいのです」
楽しそうな、どこか揶揄うようなリチャードの優しい声で耳元を擽られて、みるみる正義の顔が赤く染まっていく。
正義の手から冷たくなったマグカップを奪ってサイドボードに避けながら、リチャードは空いていた片手で正義を抱き締めた。
抱き締めたせいでリチャードは正義の顔を見ることが出来なかったが、髪の隙間から見えている真っ赤な耳で察することが出来た。
もぞもぞと動いてリチャードの背に腕を回した正義は、ぎゅうっと強く抱き締めてから呟いた。
「……おまえに会えて、嬉しい。おまえが好きだ。大好きなんだ、リチャード。生まれて来てくれてありがとう。……心から、愛してる」
じわりじわりと、正義の声がリチャードの心の中に融けていく。こぼれそうになる涙をなんとか押し止めて、同じだけの力で抱き締め返した。
「……私も、あなたを愛しています。私のことを見つけてくれてありがとう、正義」
正義が顔を上げるとすぐに鼻先がぶつかった。それに小さく苦笑を零しながらも、自然に二人の唇は軽く重なり、すぐに深くなっていった。
三人で就寝のあいさつを交わして、それぞれの部屋に入ってから一時間後。
小さめのノックをしてから正義の部屋に入ったリチャードが目にしたのは、鼻を啜りながら泣く正義の姿だった。何事かと驚いて駆け寄りそうになるも、正義の手の中にあるものを見て、すぐに納得した顔になって微笑んだ。
「……まったく、あなたは本当に……」
「…………うぅぅ」
「まさかずっと泣いていたのですか?」
「だっで、じがだないだろ……」
手の中に在るそれを見るたび、正義の瞳からはぽろぽろと涙が溢れていた。
みのるが、正義とリチャードへと渡してくれたクリスマスプレゼントの、ハンカチ。
正義とリチャード、それぞれのマフラーの色に合わせたのだろう太めのストライプが入れられたそれに、二人で何度もみのるにお礼を言った。
みのるは優しい子だと、正義はいつも思う。
お小遣いを渡していたのは、みのるが日頃使う文房具や本を好きなように買えるように、という意味もあったのだけれど、もちろんそれだけではなかった。
長い間、母親の為にたくさんのことを我慢していただろうみのるに、自分たちと一緒にいる間は何も気にせずに、みのる自身のためだけに使ってくれればいい、と思ったからだ。
だけどみのるは貯めていたお金をリチャードの誕生日プレゼントと、共に暮らしている二人へのクリスマスプレゼントを買うのに使ったのだ。
辛い環境にいたのに、いつも他の誰かのことを想っている、かなしいくらい、優しい子だと。
そんなことを口にしながら、めそめそと泣いている正義に、リチャードは柔らかく微笑みながら何度も相槌を打った。
その気持ちはリチャードも同じだった。自室に戻ってから、リチャードもみのるからの誕生日とクリスマスのプレゼントに、たまらない気持ちになったのだから。
それでもチラリと時計を見て申し訳なさそうにリチャードは口を開いた。
「……昔から泣き虫な、私の可愛いサンタさん。あなたを慰めて差し上げたいのですが、そろそろ準備を始めなくては。今夜、あなたが眠る時間がなくなってしまいます」
「っうん、そうだよな。明日もご予約が詰まっているんだし、おまえのことちゃんと休ませないと専属秘書として失格だ。ありがとうリチャード」
「私のほうこそお気遣いありがとうございます。二人でやらないと、あの量は大変ですから」
ぺしょぺしょになっていた正義の顔面を整えてから――慰めのキスが目元に落とされて、すぐに涙は引っ込んだ――正義の部屋から出た二人は、こっそりみのるの部屋の中を覗いて、部屋の主がぐっすりと眠っていることを確認する。
そのまま足音をころして向かったのは、客間として残してある空き部屋だった。いつでも使えるように掃除はしてあるが最低限の家具しか置いていない無機質な部屋なのだが。
今は、部屋の中央に小さな山が築かれている。
色とりどりの包装紙に包まれた。大小さまざまなクリスマスプレゼントの山が。
□ □ □
「どうしよう……」
「まだ決め兼ねているのですか」
「だって本当にたくさんあるんだ、みのるくんにあげたいもの。似合いそうな服とか、好きそうな本とか……全然絞り切れない。どうしよう」
「あと一ヶ月半しかありませんよ」
「分かってるんだけどさぁ……。って、そういうおまえはプレゼント決めたのか?」
「それは…………まだです」
「だよなぁ」
十一月の半ば、銀座・エトランジェにて。
予約の合間にいつものミルクティーとプリンで一息つきながらも、この時期はどうしても話題が来月末に迫るクリスマス商戦に向けた業務調整、追加の仕入れや応援要員の確保などがメインなのだが、今年はそれだけではなかった。
霧江みのる――正義にとって半分だけとはいえ血の繋がった、実の弟――と暮らし始めて最初に迎えるクリスマスなのだ。
当然「ええかっこしい」な兄と、その雇用主であり今は同居人でもあるリチャードは、それぞれみのるにクリスマスプレゼントを贈ろうと決めていたのだが。
「決められない……」
「難しいですね……」
二人揃って、何を買うべきなのか延々と悩んでいるのだった。
「俺、今ならおまえの気持ちがすごく分かる」
「は?」
「おまえ、何かとプレゼントをくれただろ。俺がここでバイトしてる頃からだけど、秘書になってからも福利厚生がどうのって言ってさぁ。正直、こんなに与えられてばかりで申し訳ない! って気持ちが強かったんだけど、今は俺もみのるくん見てるとそういう気持ちになるんだよなぁ」
「……左様で」
「左様です。だからさ、俺がおまえからもらった優しさとか思いやりを返していきたいんだ。俺の大切な人に。おまえはもちろん、みのるくんにも渡していきたい。おまえがしてくれたみたいに」
「ええ。あなたはあなたのやりかたで、これからみのるさまとの関係を築いていけば良いのです」
「うん……みのるくんに会えなかった時間の分もこれから全部」
「ああ、その手がありましたね」
「ちゃんと…………うん? その手?」
「話を途中で遮ってしまい、申し訳ありません。ですが正義、あなたのその言葉で私たちの悩みを解決する方法がひとつ、見つかりました」
「へ?」
きょとんとする正義に向かって、リチャードは惚れ惚れするくらい優しく、微笑んだ。
「今年はこれまでの分もクリスマスプレゼントを渡せばいいのです。十三年分の、プレゼントを」
リチャードの提示した「作戦」を聞いてすぐに正義は賛同した。それからの行動は早く、まずはお互いのピックアップしていたプレゼント候補を開示して、かぶっているものがどれくらいあるか確認する作業から始める。
ずっと絞り切れずにいたプレゼント候補たちがこんな形で昇華されるとは、実のところ提案したリチャードにも予想外だった。いっそのこと二つ買ってしまおうかと思っていたくらいだ。
それは正義も同じで、あれが、これがと二人で話し合っただけで、あんなに悩んでいたのが嘘のようにスルスルと決まっていく。
そうして出来上がった「プレゼントリスト」はみのるが生まれてからの十三年分、しかも正義とリチャード二人から、ということもあって結構な量になっていた。
「……これは逆に、急いで買わないとだな?」
「手に入り難そうなのは……この辺でしょうか。あとは随時買い集めましょう」
「そうだな。でもこの量はさすがに当日運んだらバレちゃうよな?」
「……空き部屋があるでしょう。あそこに仕事の荷物を置いていることにしてはどうでしょうか。みのるさまはあの部屋には入りません」
「そうだな。じゃあ大きめのものはみのるくんが学校に行ってる平日に運び入れよう」
「うっかり口を滑らせないように」
「もちろんだ!」
それからは日々の分刻みのスケジュールの間に二人で分担しながら、プレゼントを買い集めた。あらかじめ、空き部屋に仕事で使う荷物を入れてあるので出来れば入らないで欲しい、と伝えればみのるはすぐに了承した。
そもそも、自分の部屋と共用部以外にみのるが立ち入ることはほとんどないので、ただの報告のようなものだ。
そうして日々少しずつ山は積み上げられ、今や絵本の中の情景のようになっていた。
□ □ □
「……なぁ、おまえの家のクリスマスも、あんな感じだったのか」
「あんな感じ、とは?」
「こう……プレゼントの山が大きなツリーの下にどーん! みたいな」
「……まあ、近いものではありました」
「そうかぁ」
二人で静かに、息を殺しながらみのるの部屋と空き部屋を往復し続けること十数回。予定通り、みのるを起こすことなくプレゼントをすべて運び入れることが出来た。
正義の部屋に戻った二人は、蜂蜜入りのホットミルクを飲みながら他愛もない話をした。明日の仕事を考えたら早く寝なくてはいけないと頭では理解していたのだけれど。
「明日、みのるくん驚くかな」
「きっと驚くでしょう。もしみのるさまが驚いた声を出しても、部屋に飛び込んだりしないように気を付けましょう」
「そうだな。そうだ、窓開けておいたってことにしようか。サンタの侵入経路としてさ」
「良い考えですね」
空になったマグカップを手で転がし続けている正義の声の中に、詰まったような色を感じ取り、リチャードはそっと正義に自分の手を重ねた。
「書いて頂けて、良かったですね」
「……うん」
プレゼントの山、その一番上に載せられたのは一通のメッセージカードだった。
ツリーの形をしたそれは、みのるの母親である霧江ゆらからのものだ。
まだ万全ではないものの、かなり回復していたゆらにせめてカードだけでもと正義が人づてに頼んでいたことを、リチャードは知っている。
カードになんと書いてあるのかは、受け取った正義も知らない。一番最初に読むべきは贈られたみのるであるべきだからだ。
「リチャード」
「はい」
「おまえがいてくれて、よかった」
「ええ」
「今日のことも何度感謝しても足りないよ。あと朝も昼も言ったけど、誕生日おめでとう」
「……ありがとうございます。あなたに出会えて、本当に嬉しい」
「それ、今は俺のセリフじゃないか?」
「ならばあなたも言えばいいのです」
楽しそうな、どこか揶揄うようなリチャードの優しい声で耳元を擽られて、みるみる正義の顔が赤く染まっていく。
正義の手から冷たくなったマグカップを奪ってサイドボードに避けながら、リチャードは空いていた片手で正義を抱き締めた。
抱き締めたせいでリチャードは正義の顔を見ることが出来なかったが、髪の隙間から見えている真っ赤な耳で察することが出来た。
もぞもぞと動いてリチャードの背に腕を回した正義は、ぎゅうっと強く抱き締めてから呟いた。
「……おまえに会えて、嬉しい。おまえが好きだ。大好きなんだ、リチャード。生まれて来てくれてありがとう。……心から、愛してる」
じわりじわりと、正義の声がリチャードの心の中に融けていく。こぼれそうになる涙をなんとか押し止めて、同じだけの力で抱き締め返した。
「……私も、あなたを愛しています。私のことを見つけてくれてありがとう、正義」
正義が顔を上げるとすぐに鼻先がぶつかった。それに小さく苦笑を零しながらも、自然に二人の唇は軽く重なり、すぐに深くなっていった。
