とある店員は見た
公開 2023/09/24 18:35
最終更新
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※モブ視点
私のアルバイト先のスーパー、出るんだよね。
……幽霊とかじゃなくて。黒光りするアレでもないってば! ……いや、そっちは多分いるけど今はそんなのどうでもいいから。
実はさ、超絶美人が出……というか来るのよ。ごくごく普通のうちの店にさ、不定期にだけど。スーツ姿がかっこよくて金髪で瞳は青くてモデルみたいに手足が長い……は? いやいや妄想じゃないから! 盛り過ぎって言われても全部本当のことなんだから仕方ないでしょ!
私だってその人を実際に見るまでは、店の人がみんなで私のことからかってると思ってたくらいなんだから。
でさ、私のシフト夜に変えたでしょ。そしたら遭遇するようになったんだよね、その王子様に。
……あ、ちなみに王子様ってつけたのは店長の娘さんだから。お気に入りの絵本の王子様に似てたんだって。まあ夢の国のプリンスが現実世界に出てきたのかと思うくらい王子様然としてるから気持ちは分かるわぁ。
その王子様、私の担当してるレジで会計したんだけど、あれはヤバい。睫毛バッシバシだった。
ガン見しなくても分かるくらい。あれはタバコが乗るね、間違いないよ。あと良い匂いしてた。
夜のスーパーなんてくたびれたサラリーマンが多いのにさぁ、その人は「今ファッション誌から現界いたしました」ってくらいスーツをキッチリ着こなしててさぁ、所作も綺麗なんだよね。
どう見ても外人さんなんだけど日本語上手くて会計の後でお礼言ってくれるの。イケボで。耳が幸せになりました。
……まあその王子様が買っていったの、うちの店で一番大きいサイズの砂糖なんだけど……。
え? あぁうん、砂糖。あのサイズ買ってくの近所でも有名な大家族の人と、家でお菓子作りの教室開いてるおばさんくらいだからまぁびっくりしたよね。そのサイズ使い切るの? って。でも王子様のギャップは砂糖だけじゃないんだなぁ。
その王子様、なんと毎回エコバッグを持参しているんです。「袋は不要です」って背景に薔薇を背負って微笑みながら言うんです、毎回!
サッカー台で、折り畳めるエコバッグをスッと取り出す姿すら無駄にかっこいいのよ。無駄って言っちゃった。でも驚くのはそこじゃないんだ。きれいな緑色のエコバッグを広げるとね……犬のイラストがバーンと。ちょっと舌出てるところがまた可愛くてさ……。
は? いや、だから犬よ。ドッグ。わんわん。柴系のちょっととぼけた感じの顔がね、プリントしてあるんだよ……それを王子様が丁寧に広げて砂糖の大袋を入れて持ち帰るわけよ。
意味が分からないでしょ。私も分からない。
とにかく謎が多い人なんだよねー。店長が言うには、私のシフトが変わる少し前から来るようになったらしくてね、最近この辺に引っ越して来た人なんじゃないかなって。たまに小さいキャリー持ってたりもするみたい。私はまだ四回しか見たことないんだけど、四回ともレジ担当だったから王子様を近くで見たのも、声を掛けられてるのも一番多いのが私になっちゃったんだけど。
……でも、実は五回目があったんだ。昨日。
昨日はバイトじゃなかったけど夜に買い物しに行って、そこで私見ちゃったんだよね。
王子様が買い物してるところ。
いつも通りに砂糖の大袋持ってて笑っちゃったけど。あの人どれだけ砂糖使ってるんだよ。
だけど昨日は一つだけ違ってて、いつもの緑のエコバッグがなかったんだ。なかったというか、忘れたみたいで、サッカー台でポケットの中とか探してたからそうなのかなって思っただけ。
昨日に限って砂糖以外の品物も買ってたから、大変そうだなぁって遠くから眺めてたら……男の人が王子様に声かけて、何か渡してたのよ。一瞬ナンパしてるのかと思ったんだけどね、王子様がその人に笑いかけてて……いやそれがまたほっとした顔でさぁ、めちゃめちゃ尊かった……。
どうやら知り合いだったらしいんだけど、またその人がイケメンなんだわ。顔がいい。そっちも手足が長くて、王子様が王道イケメンなら黒髪のその人はワンコ系イケメンで……あぁうん、その人は日本人っぽかった。で、差し出してたのよ。青い小さいやつ……王子様がいつも持ち歩いてるものと色違いの、エコバッグ。
嘘じゃないって。だって犬のイラストも描いてあったのをこの目で確認したんだから。
それで、うん、それでさぁ。
ワンコくんに渡されたお揃いのエコバッグに、王子様が買ったものを詰めたところまでは、まあ普通だったんだけど。
それを持ったの、ワンコくんだったんだよね。代わりに、ワンコくんの持ってた紙袋を王子様が持って一緒に店を出てったんだけどさぁ。
……これって、ただエコバッグ借りただけじゃなくて、一緒に住んでるってことだよね……?
□ □ □
「ふーん。それが冬の新刊のネタなの?」
「だ、か、らぁ! 事実だって言ってるでしょ!お姉ちゃん、私の今のバイト先がスーパーなのも知ってるくせに! まぁでもネタにはします」
「たくましい妹だわー。でもそんな綺麗な人なら私も一度くらい見てみたいな。ね、今度王子様がよく来る曜日調べて教えてよ」
「お客様のプライバシー侵害に繋がりかねませんのでお断りしたしますぅ。というかお姉ちゃん、もうすぐ結婚するのにまだ独身気分なの?」
「あら、私は『まだ』独身よ?」
そう言いながら、向かいの席で優雅に微笑んでいる美女は私のたった一人の姉だ。美人で仕事が出来て頭も良くて……と私とは真逆のスペックを持っているが、私たちはかなり仲が良い。両親の夫婦関係が良くなかったせいかもしれない。
今日だって、姉の結婚指輪のデザインの下見に付き添って銀座までやって来たくらいだ。
「そろそろ時間だから行こうか。あ、そういえばそのお店の店長さんもかなりの美形なんだって」
「へー、同僚さんが紹介してくれたんだっけ?」
「うん。昔馴染みらしくて。小さいけどしっかりした店だからって……えっと、店の名前が」
――ジュエリー・エトランジェ、だってさ。
銀座七丁目、茶色いビルの階段を上がった先。
お姉ちゃんが鳴らしたベルの音で開かれた扉の向こうにいた二人の男性の姿を見た私が、どんな奇怪な悲鳴を上げてしまったのかはさすがに教えられないので、ご想像にお任せするけれど。
……あの日以降、バイトのシフトをまた変えたことだけは、お伝えしておきたい。
(……だけど、だけども)
(昼間だと二人で来ることもあるって、どうして誰も教えてくれなかったの!?)
昼も来るとは聞いてない!
私のアルバイト先のスーパー、出るんだよね。
……幽霊とかじゃなくて。黒光りするアレでもないってば! ……いや、そっちは多分いるけど今はそんなのどうでもいいから。
実はさ、超絶美人が出……というか来るのよ。ごくごく普通のうちの店にさ、不定期にだけど。スーツ姿がかっこよくて金髪で瞳は青くてモデルみたいに手足が長い……は? いやいや妄想じゃないから! 盛り過ぎって言われても全部本当のことなんだから仕方ないでしょ!
私だってその人を実際に見るまでは、店の人がみんなで私のことからかってると思ってたくらいなんだから。
でさ、私のシフト夜に変えたでしょ。そしたら遭遇するようになったんだよね、その王子様に。
……あ、ちなみに王子様ってつけたのは店長の娘さんだから。お気に入りの絵本の王子様に似てたんだって。まあ夢の国のプリンスが現実世界に出てきたのかと思うくらい王子様然としてるから気持ちは分かるわぁ。
その王子様、私の担当してるレジで会計したんだけど、あれはヤバい。睫毛バッシバシだった。
ガン見しなくても分かるくらい。あれはタバコが乗るね、間違いないよ。あと良い匂いしてた。
夜のスーパーなんてくたびれたサラリーマンが多いのにさぁ、その人は「今ファッション誌から現界いたしました」ってくらいスーツをキッチリ着こなしててさぁ、所作も綺麗なんだよね。
どう見ても外人さんなんだけど日本語上手くて会計の後でお礼言ってくれるの。イケボで。耳が幸せになりました。
……まあその王子様が買っていったの、うちの店で一番大きいサイズの砂糖なんだけど……。
え? あぁうん、砂糖。あのサイズ買ってくの近所でも有名な大家族の人と、家でお菓子作りの教室開いてるおばさんくらいだからまぁびっくりしたよね。そのサイズ使い切るの? って。でも王子様のギャップは砂糖だけじゃないんだなぁ。
その王子様、なんと毎回エコバッグを持参しているんです。「袋は不要です」って背景に薔薇を背負って微笑みながら言うんです、毎回!
サッカー台で、折り畳めるエコバッグをスッと取り出す姿すら無駄にかっこいいのよ。無駄って言っちゃった。でも驚くのはそこじゃないんだ。きれいな緑色のエコバッグを広げるとね……犬のイラストがバーンと。ちょっと舌出てるところがまた可愛くてさ……。
は? いや、だから犬よ。ドッグ。わんわん。柴系のちょっととぼけた感じの顔がね、プリントしてあるんだよ……それを王子様が丁寧に広げて砂糖の大袋を入れて持ち帰るわけよ。
意味が分からないでしょ。私も分からない。
とにかく謎が多い人なんだよねー。店長が言うには、私のシフトが変わる少し前から来るようになったらしくてね、最近この辺に引っ越して来た人なんじゃないかなって。たまに小さいキャリー持ってたりもするみたい。私はまだ四回しか見たことないんだけど、四回ともレジ担当だったから王子様を近くで見たのも、声を掛けられてるのも一番多いのが私になっちゃったんだけど。
……でも、実は五回目があったんだ。昨日。
昨日はバイトじゃなかったけど夜に買い物しに行って、そこで私見ちゃったんだよね。
王子様が買い物してるところ。
いつも通りに砂糖の大袋持ってて笑っちゃったけど。あの人どれだけ砂糖使ってるんだよ。
だけど昨日は一つだけ違ってて、いつもの緑のエコバッグがなかったんだ。なかったというか、忘れたみたいで、サッカー台でポケットの中とか探してたからそうなのかなって思っただけ。
昨日に限って砂糖以外の品物も買ってたから、大変そうだなぁって遠くから眺めてたら……男の人が王子様に声かけて、何か渡してたのよ。一瞬ナンパしてるのかと思ったんだけどね、王子様がその人に笑いかけてて……いやそれがまたほっとした顔でさぁ、めちゃめちゃ尊かった……。
どうやら知り合いだったらしいんだけど、またその人がイケメンなんだわ。顔がいい。そっちも手足が長くて、王子様が王道イケメンなら黒髪のその人はワンコ系イケメンで……あぁうん、その人は日本人っぽかった。で、差し出してたのよ。青い小さいやつ……王子様がいつも持ち歩いてるものと色違いの、エコバッグ。
嘘じゃないって。だって犬のイラストも描いてあったのをこの目で確認したんだから。
それで、うん、それでさぁ。
ワンコくんに渡されたお揃いのエコバッグに、王子様が買ったものを詰めたところまでは、まあ普通だったんだけど。
それを持ったの、ワンコくんだったんだよね。代わりに、ワンコくんの持ってた紙袋を王子様が持って一緒に店を出てったんだけどさぁ。
……これって、ただエコバッグ借りただけじゃなくて、一緒に住んでるってことだよね……?
□ □ □
「ふーん。それが冬の新刊のネタなの?」
「だ、か、らぁ! 事実だって言ってるでしょ!お姉ちゃん、私の今のバイト先がスーパーなのも知ってるくせに! まぁでもネタにはします」
「たくましい妹だわー。でもそんな綺麗な人なら私も一度くらい見てみたいな。ね、今度王子様がよく来る曜日調べて教えてよ」
「お客様のプライバシー侵害に繋がりかねませんのでお断りしたしますぅ。というかお姉ちゃん、もうすぐ結婚するのにまだ独身気分なの?」
「あら、私は『まだ』独身よ?」
そう言いながら、向かいの席で優雅に微笑んでいる美女は私のたった一人の姉だ。美人で仕事が出来て頭も良くて……と私とは真逆のスペックを持っているが、私たちはかなり仲が良い。両親の夫婦関係が良くなかったせいかもしれない。
今日だって、姉の結婚指輪のデザインの下見に付き添って銀座までやって来たくらいだ。
「そろそろ時間だから行こうか。あ、そういえばそのお店の店長さんもかなりの美形なんだって」
「へー、同僚さんが紹介してくれたんだっけ?」
「うん。昔馴染みらしくて。小さいけどしっかりした店だからって……えっと、店の名前が」
――ジュエリー・エトランジェ、だってさ。
銀座七丁目、茶色いビルの階段を上がった先。
お姉ちゃんが鳴らしたベルの音で開かれた扉の向こうにいた二人の男性の姿を見た私が、どんな奇怪な悲鳴を上げてしまったのかはさすがに教えられないので、ご想像にお任せするけれど。
……あの日以降、バイトのシフトをまた変えたことだけは、お伝えしておきたい。
(……だけど、だけども)
(昼間だと二人で来ることもあるって、どうして誰も教えてくれなかったの!?)
昼も来るとは聞いてない!
