秘密(せじせぎ)
公開 2023/09/24 17:17
最終更新
-
※はにさんのアイドルせじせぎ本「めざせトップアイドル」に寄稿させて頂きました。
リチャ正・バク山前提でのせじせぎです。
「そういえばさぁ、正義はリチャードさんとのデートの時、どうしてるの」
「どうって、何が?」
明日は久し振りの完全オフの日だなー、とちょっと浮かれていた、金曜の夜十時。
いつも二人で寝ているベッドに転がっていた誠司から変な質問が飛んできたのは、俺が日曜にレコーディング予定の新曲の歌詞を確認している時だった。ちょうどキリがいいところだったのでサイドボードに歌詞カードを置きつつ誠司の方を見れば、立てた肘の上に顎を乗せて、何かを企んでいる時特有のニヤリとした顔が向けられている。
誠司も俺と同じように日曜の深夜帯にあるラジオ生放送に備えてタイムスケジュールを確認していたはずなのだが、手元に既に進行表はない。誠司は昔から手順なんかを覚えるのが早いし、俺との会話がメインだからと要点だけを頭に入れたのだろう。
「やだなぁ正義ってば。デートの時にすることなんて決まってるでしょ。手を繋いだり、キスしたり、それからぁ……エッチとかエッチとか、エッチとかだよ!」
「わぁー! 三回も繰り返すな!」
「んふふ、相変わらず正義は初心で可愛いなぁ。で、どうなの?」
「どうって、そんなの、言われても……」
誠司が俺のデートの相手と言ったリチャードとは、英国人の宝石商、リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアンのことだ。俺たち二人がアイドルユニットとしてちゃんと活動するかなり前から、俺たちの……特に『俺のファン』だと言ってくれている、パリコレモデルもハリウッド俳優も顔負けの、絶世の美貌の持ち主。
そんなリチャードと俺は紆余曲折あって、少し前からアイドルとファンの関係を越えて恋人同士として付き合うようになった。誠司はそれを応援してくれていて、秘密のデートスポットや隠れ家みたいなお店を色々と紹介してくれる。
誠司自身エドワード・バクスチャーという、こちらも昔からの俺たちのファンの男性とデビュー前から付き合っているから、自然とそういう場所には詳しくなるらしい。
明日のオフもリチャードとデートの予定だ。宝石商のリチャードは土日以外は世界中を飛び回っているから、意外とお互いの予定が合うことが少ない。今週末はビルの工事があるから休みだと教えられたとき、ならゆっくり会えるな、とこっそり喜んでしまった。
「そ、そういう誠司はどうなんだよ」
「俺? 俺は結構普通にどこででも手繋ぐよ。さすがにキスは隠れてしてるけど。最近はファンの人も増えたしねぇ。先生がさ、人の視線が届かないとこっていうか、死角? そういうのよく知ってて、階段の角とかビルの谷間で突然キスしてくるんだけど……ふふ、外でするキスってさ、誰かに見られるんじゃないかって緊張感があるからすっごく気持ちイイよね。俺大好き。エッチはさすがに外じゃ無理だから、いつも先生の家でシてる」
「……やっぱりバクスチャーさんと、えっち、してるのか?」
「え? そりゃまあ恋人同士だし、付き合い長いし………………ねぇ正義、一応聞くけどリチャードさんとどこまでいってる?」
「どこまでって」
「もうはっきり聞いちゃうけどさ、セックスはしてないとしても、さすがにキスくらいはしたんでしょ?」
「それはまあ……その、リチャードがいつもデートの帰りに家まで送ってくれた時」
「うんうん」
「俺が車降りる直前に、おでこに」
「うんうん。……うん?」
「ちゅって、してくれる」
「……は? それだけ? 子供かよぉ!」
誠司はぐおお、と頭を抱えたかと思えば、すかさず俺の髪を両手でがしゃがしゃとかき混ぜた。混乱した時の誠司の癖だ。あまり力加減がされていないから脳がグラグラと揺れる感じがするけれど、誠司は誰かと仲良くなっても絶対に俺以外にはこれをしないから、俺だけに甘えてくれているのだと思えて、ちょっとだけ嬉しかったりする。
「いやー、うん。そうかぁ。そうかぁ……」
「やっぱり、もうちょっとスキンシップというか……こ、恋人らしいこととかしたほうがいいのかな……? 俺はリチャードにキスしてもらえるとすごく心が温かくなって、幸せだって感じるし嬉しいし、もっとキスして欲しいなって気持ちが正直ある、けど……でもリチャードも俺と同じように思ってくれてるのか、わからないし」
「リチャードさんは絶対キス魔だし絶倫だと思う。だってリチャードさんと先生、俺たちみたいに双子じゃないのにあれだけそっくりなんだもん。お互い独占欲も強いし、絶対に前戯がねちっこいとことか、性癖とかも似てるに決まってるよ!」
「そっくり? うーん、そうかなぁ、確かに髪と瞳の色は似てるけど、バクスチャーさんよりリチャードのほうが俺は綺麗だと思ってるよ」
「……俺は、リチャードさんよりも先生のほうが綺麗だと思う。ってか正義。そんなことより今はもっと大切なことを正義に教えなきゃダメだと、おにーちゃんは気付きました」
ベッドの上に身体を起こした誠司は、珍しく自分のことを「お兄ちゃん」と言った。
確かに戸籍上は誠司が兄だけど、兄とか弟とか関係なく仲良くしていこうよ、と言ったのも誠司自身だ。だからこれはある意味で非常事態である。
「俺の、世界一大切で大好きで、とぉっても初心で可愛い弟である正義に、お兄ちゃんが責任もっていろんなコト、教えてあげる。だけど、俺のアレコレは先生に仕込まれたのがほとんどだから、ちょっと刺激強いかもなぁ」
だから、クセになっちゃったら、ごめんね?
謝っているのは口先だけだとはっきりわかる顔で、誠司は唇を舐めて笑った。
□ □ □
「誠司、や、ちょっ、まって」
「だぁめ。ヤダもダメも聞いてあげない。イイとか好きなら大歓迎だけど」
うつ伏せになった俺の上に乗った誠司が耳元でものすごく楽しそうな声を上げるのを、ただ聞くしか出来ない。両手首は誠司がいつの間にか取り出したリボンで縛られて、腰を太股で挟むように跨られているせいで起き上がることも不可能だった。
「ねぇ、正義? 俺たちは双子だからさ、小さい時からずーっとそっくりだって言われてきたでしょ。学校でも外でも、この業界に入ってからも」
お揃いのパジャマの裾から差し込まれた誠司の指の冷たさに息を呑む。指はそのまま脇腹から臍へ、そして腹筋を撫で、胸元へとゆっくりと上がっていく。
ちぅ、と音を立てながら耳の後ろを吸い上げる誠司の声が、項を擽るようだった。
「でもさぁ、俺たちが似てるのって声とか見た目とか……声は多分骨格のせいもあるんだと思うんだけど、とにかく、それくらいだと思わない? 性格も結構違うし、好みも全然違うよね。美味しいものが好きなのはおんなじだけど」
「……はぅ、ん。そう、だな?」
指と首元にかかる息の擽ったさに身体を震わせながら答える。誠司の言う通り、俺たちには結構真逆な部分が多くて、好きになるものが一緒になるのは珍しい方だった。それについては俺も同意するけれどいまいち誠司が何について言いたいのかが分からない。
「だけどさぁ、やっぱり身体のつくりは似てるところが多いから、俺が先生に触れられて気持ち良くなっちゃうトコは、正義もすっごく感じちゃうんじゃないかなーって、さっき思いついちゃったんだよね。つまり……開発できるのかも、って」
「は? 開発ってなに……んぁっ!」
耳に吐息と声が触れた次の瞬間、そのまま形をなぞるように誠司の唇が俺の耳輪を食んでいく。背中を一気にかけ上がっていく痺れるような感覚を逃がそうと身体を揺らしても誠司の拘束は弛む気配もなく、逃げ場がないと知った身体は余計に刺激を快感に変えた。
「せい、じぃっ。みみ、や、やぁんっ」
「正義、ここがね、俺の弱いトコロ。先生はいつもこうやって甘く噛んでキスしてくれて、俺の名前読んでくれるんだぁ。ちゃんと気持ちイイですって声出せた時は『誠司、いい子ですね』って言って褒めてくれるの」
「んんぅ、ん、ひあぁっ」
「正義も想像してみてよ。正義もリチャードさんに呼ばれるの好きでしょ? こうやって耳の中に直接吹き込むみたいに、二人きりのとき限定のあまぁい声で、ね……?」
「ふぁっ、リチャ、ァド、に?」
空を切り取ったような青い瞳が俺を見つめてくれる時の柔らかさとか、砂糖菓子よりも甘やかに俺の名前を呼ぶ声を思い出す。
「そう、こんな風に。……正義。せいぎ」
『……せいぎ』
『正義、ちゃんと気持ち良く感じて、いいこですね。……かわいい』
「っあ、だめぇ、や、リチャ……!」
「うん、上手だねぇ、正義。もっと考えて? リチャードさんのこと。俺の好きなところ全部教えてあげるから。同じことリチャードさんにされたらどうだろうって、感じて?」
頭がふわふわする。いつの間にか胸を弄っていた指から与えられる快感にも、声にも。
今、俺に触れてくる指も唇も声も誠司のものだと分かっているはずなのに、じわじわと熱に溶かされた脳は、勝手にすべてをリチャードのものに変換してしまう。
「胸とか、男は感じないと思ってるかもしれないけど、そんなことないからね? こんな風に摘まんだり、弾いたりして……ふふ、ね? ほら、震えて固くなってきた」
「あ、ぃあん、ひぅっ」
「あとは後ろの……ここ。この孔をじっくり解してもらうの。トロトロになるまで」
「や、やだっそこは、せいじ、やだぁっ」
あらぬ場所に誠司の指が触れて来て、思わず涙が出る。誠司が俺に酷いことをするはずがないのだと知っていても、どうしても怖い。必死に後ろを振り向こうとする俺の目尻に浮かんだ涙を誠司が唇で吸い取ってくれる行為に、徐々に気持ちが落ち着いていった。
「よしよし。大丈夫だから泣かないで、正義。今は撫でてあげるだけだから。正義の初めて奪っちゃうのはさすがにリチャードさんにも先生に怒られちゃうしね。でもねぇ、ここの浅いところを押されるとすごく感じるってことは覚えておいて」
「……ん、うん、わかった……」
「あーん! もう、正義ってば本っ当に素直で可愛いんだから。ほら、手のリボン解いて続きしてあげる。仰向けになって、俺のことリチャードさんだと思って真っ直ぐ見て」
「うん」
もうただ言うことを聞くことしか頭にない。さっき一瞬だけ浮かんだ恐怖心も、誠司が一緒だと思うと霧散してしまう。それにずっと『リチャードを思い浮かべろ』と言われているせいで、抵抗しようだとか逃げ出そうだなんて選択肢が出てこない。
「いい子だねー、正義。さっきのとこから中に全部入れてもらうと、お臍の下、ここらへんがちょっとぽこってするかも。外からでも入ってるのが分かるってエッチだよね。熱いしちょっと苦しいかもしれないけど、大好きな人の一部が自分の中の、指じゃ届かないトコにあるのって最高の気分だよぉ。んー、リチャードさんのはどこまで届くかなぁ」
臍の下の、のぺりとした腹を二本の指がなぞっていく。その指で開けた幅が太さと同じくらいなのだと気が付いてぶわりと熱が蘇った。ゆるく反応する俺のモノに気付きながら無視をする誠司の指は、根元から臍へと向かって腹を撫で上げていく。
「……先生のはね、この辺まで来るよ。そしてここが、俺の一番弱いトコ」
ぐり、と押された位置が思っていた以上に身体の内側で、咄嗟にひんっと変な声を上げてしまった。誠司はそのまま俺の足を持ち上げて、自分の股間を俺の尻に押し付ける。
誠司のモノもいつの間にか勃ち上がっていて、服越しに伝わってくる熱に腰が逃げそうになるけれど、もうベッドの上に逃げ場はなかった。そのままゆさゆさと誠司に腰を揺らされながら臍の下を押されると、まるで実際に挿入されているような錯覚を覚える。
「リチャードさんにこうやって押し倒されて、射れられて、揺さぶられたら、どれくらい気持ち良いだろうねぇ、正義。想像してみて? 大好きなリチャードさんが正義のことを欲しがってる姿。一回でもココでの快感を知っちゃうとね、もうおでこのキスなんかじゃ物足りなくなっちゃうから。まあ今だって、正義は足りてないんだけど」
「んっ、んぁ、ふぁ、リチャ……が、こう、やって……?」
「そうだよ。正義のことをリチャードさんが全部愛してくれるの。嬉しいでしょ?」
……今、ベッドの上で俺を押し倒しているのが、リチャードだったら。あの美しくて気高い男が俺の身体を欲して暴かれて──抱き合い、身体と心の一番深い場所で愛を交わし合って一つになるのを想像しただけで腹の奥がずくりと疼いて、一際甘い声が出た。
「っ、ふふ、正義の気持ち良さそうな声、俺とおんなじ……ぁん、俺も先生の思い出したらムズムズしてきちゃった。ねぇ正義、気持ちイイねぇ? このまま俺と一緒に、最後まで楽しもう? あ、でもここから先はリチャードさんと先生には内緒ね」
「ぁえっ、せい、んんーっ!」
俺の足を抱えたまま身体を前に倒した誠司に、口ごと食べるようなキスをされる。日頃から頻繁にキスをしてくるから行為自体は別に驚かないけれど、こんな風に最初から舌を絡めてくるキスは初めてだった。しかも、そのまま俺と自分のをパジャマから取り出して一緒に握り扱きながら、さっきよりも強く腰をトントンと合わせて揺らしてくる。
疑似的な感覚と直接的で強烈な快感に、疼いたままの奥がきゅんとする。目の前の誠司の背に腕を回しながらも頭の中で抱き締めていたのは、今一番会いたくて愛おしい、彼。
「りちゃあ、やっだめぇ、きもちぃ、リチャード……!」
「……っあ、せんせ、イっちゃうよぉ、せんせぇ……っ」
意識が一気に高まって、世界が真っ白になる直前。お互いの嬌声を飲み込むように深く口付け合った俺たちはそのまま熱を吐き出して、ベッドの上でしばらく脱力していた。
□ □ □
シーツとパジャマを新しいものに交換して、一応窓を開けて換気も済ませてから誠司と一緒に布団に包まれる。隣から伝わる温もりが気怠い身体に眠気をすぐに運んできた。
「で、明日のデートで実践できそう?」
「んん、けどさぁ? そんな突然リチャードにエ…………ッチして欲しいとか頼めないし、そもそも日曜は朝からレコーディングなのに、声が、その、嗄れそうなことするのは」
「あ、レコーディング延期になったって伝えるの忘れてた」
「…………は?」
初めて聞く情報に眠気が吹き飛んだ。思わず目を開ければ、悪びれもせずに笑う誠司がいる。もしかしてこいつ、全部企んでたな?
「機材トラブルが出たらしくて、交換部品取り寄せてるけど二日くらいかかるみたい。なので日曜日の仕事は深夜ラジオだけでーす。だから、正義はゆーっくりリチャードさんと愛を確かめ合っておいで? 俺も先生と久々に熱くて濃厚な夜を楽しんでくるしさっ」
「うぅ…………が、がんばり、ます」
「あーあ、俺の正義がオトナになっちゃうの寂しいな。もちろん楽しみでもあるんだけど。可愛さに加えて色気たっぷりになった正義、想像するだけでも最高だもん。さっきのイく直前の顔も堪んなかったし……。食べちゃうの我慢したこと、褒めて欲しいくらい!」
「そっ、それを言うなら誠司だって、すごく! その、俺でも今まで見たことないくらい色っぽい顔してて、触られてる間ずっとドキドキしてたんだからな!」
「え、ウソ、正義も俺で気持ち良くなりそうだった? えー、今度ちゃんと触り合いっこしよっか? あっそうだ! ホテルのスイートルーム借りてさ、ダブルデートしようよ。で、朝も夜も関係なくイチャイチャして部屋のいろんな場所で四人での見せ合いセッ」
「そんなことするかぁ!」
金曜の深夜、高層マンションの一室に、枕のぶつかる音と俺の叫び声が響き渡った。
さて、その後。
俺がちゃんとリチャードにキスの先の行為を「おねだり」出来て、そしてそれが上手くいったのか。それから誠司がふざけながら提案した「スイートルームでのダブルデート、四人で過ごす素敵で淫らな一日」が実現したのかどうかは。
──俺たちだけの、秘密だ。
リチャ正・バク山前提でのせじせぎです。
「そういえばさぁ、正義はリチャードさんとのデートの時、どうしてるの」
「どうって、何が?」
明日は久し振りの完全オフの日だなー、とちょっと浮かれていた、金曜の夜十時。
いつも二人で寝ているベッドに転がっていた誠司から変な質問が飛んできたのは、俺が日曜にレコーディング予定の新曲の歌詞を確認している時だった。ちょうどキリがいいところだったのでサイドボードに歌詞カードを置きつつ誠司の方を見れば、立てた肘の上に顎を乗せて、何かを企んでいる時特有のニヤリとした顔が向けられている。
誠司も俺と同じように日曜の深夜帯にあるラジオ生放送に備えてタイムスケジュールを確認していたはずなのだが、手元に既に進行表はない。誠司は昔から手順なんかを覚えるのが早いし、俺との会話がメインだからと要点だけを頭に入れたのだろう。
「やだなぁ正義ってば。デートの時にすることなんて決まってるでしょ。手を繋いだり、キスしたり、それからぁ……エッチとかエッチとか、エッチとかだよ!」
「わぁー! 三回も繰り返すな!」
「んふふ、相変わらず正義は初心で可愛いなぁ。で、どうなの?」
「どうって、そんなの、言われても……」
誠司が俺のデートの相手と言ったリチャードとは、英国人の宝石商、リチャード・ラナシンハ・ドヴルピアンのことだ。俺たち二人がアイドルユニットとしてちゃんと活動するかなり前から、俺たちの……特に『俺のファン』だと言ってくれている、パリコレモデルもハリウッド俳優も顔負けの、絶世の美貌の持ち主。
そんなリチャードと俺は紆余曲折あって、少し前からアイドルとファンの関係を越えて恋人同士として付き合うようになった。誠司はそれを応援してくれていて、秘密のデートスポットや隠れ家みたいなお店を色々と紹介してくれる。
誠司自身エドワード・バクスチャーという、こちらも昔からの俺たちのファンの男性とデビュー前から付き合っているから、自然とそういう場所には詳しくなるらしい。
明日のオフもリチャードとデートの予定だ。宝石商のリチャードは土日以外は世界中を飛び回っているから、意外とお互いの予定が合うことが少ない。今週末はビルの工事があるから休みだと教えられたとき、ならゆっくり会えるな、とこっそり喜んでしまった。
「そ、そういう誠司はどうなんだよ」
「俺? 俺は結構普通にどこででも手繋ぐよ。さすがにキスは隠れてしてるけど。最近はファンの人も増えたしねぇ。先生がさ、人の視線が届かないとこっていうか、死角? そういうのよく知ってて、階段の角とかビルの谷間で突然キスしてくるんだけど……ふふ、外でするキスってさ、誰かに見られるんじゃないかって緊張感があるからすっごく気持ちイイよね。俺大好き。エッチはさすがに外じゃ無理だから、いつも先生の家でシてる」
「……やっぱりバクスチャーさんと、えっち、してるのか?」
「え? そりゃまあ恋人同士だし、付き合い長いし………………ねぇ正義、一応聞くけどリチャードさんとどこまでいってる?」
「どこまでって」
「もうはっきり聞いちゃうけどさ、セックスはしてないとしても、さすがにキスくらいはしたんでしょ?」
「それはまあ……その、リチャードがいつもデートの帰りに家まで送ってくれた時」
「うんうん」
「俺が車降りる直前に、おでこに」
「うんうん。……うん?」
「ちゅって、してくれる」
「……は? それだけ? 子供かよぉ!」
誠司はぐおお、と頭を抱えたかと思えば、すかさず俺の髪を両手でがしゃがしゃとかき混ぜた。混乱した時の誠司の癖だ。あまり力加減がされていないから脳がグラグラと揺れる感じがするけれど、誠司は誰かと仲良くなっても絶対に俺以外にはこれをしないから、俺だけに甘えてくれているのだと思えて、ちょっとだけ嬉しかったりする。
「いやー、うん。そうかぁ。そうかぁ……」
「やっぱり、もうちょっとスキンシップというか……こ、恋人らしいこととかしたほうがいいのかな……? 俺はリチャードにキスしてもらえるとすごく心が温かくなって、幸せだって感じるし嬉しいし、もっとキスして欲しいなって気持ちが正直ある、けど……でもリチャードも俺と同じように思ってくれてるのか、わからないし」
「リチャードさんは絶対キス魔だし絶倫だと思う。だってリチャードさんと先生、俺たちみたいに双子じゃないのにあれだけそっくりなんだもん。お互い独占欲も強いし、絶対に前戯がねちっこいとことか、性癖とかも似てるに決まってるよ!」
「そっくり? うーん、そうかなぁ、確かに髪と瞳の色は似てるけど、バクスチャーさんよりリチャードのほうが俺は綺麗だと思ってるよ」
「……俺は、リチャードさんよりも先生のほうが綺麗だと思う。ってか正義。そんなことより今はもっと大切なことを正義に教えなきゃダメだと、おにーちゃんは気付きました」
ベッドの上に身体を起こした誠司は、珍しく自分のことを「お兄ちゃん」と言った。
確かに戸籍上は誠司が兄だけど、兄とか弟とか関係なく仲良くしていこうよ、と言ったのも誠司自身だ。だからこれはある意味で非常事態である。
「俺の、世界一大切で大好きで、とぉっても初心で可愛い弟である正義に、お兄ちゃんが責任もっていろんなコト、教えてあげる。だけど、俺のアレコレは先生に仕込まれたのがほとんどだから、ちょっと刺激強いかもなぁ」
だから、クセになっちゃったら、ごめんね?
謝っているのは口先だけだとはっきりわかる顔で、誠司は唇を舐めて笑った。
□ □ □
「誠司、や、ちょっ、まって」
「だぁめ。ヤダもダメも聞いてあげない。イイとか好きなら大歓迎だけど」
うつ伏せになった俺の上に乗った誠司が耳元でものすごく楽しそうな声を上げるのを、ただ聞くしか出来ない。両手首は誠司がいつの間にか取り出したリボンで縛られて、腰を太股で挟むように跨られているせいで起き上がることも不可能だった。
「ねぇ、正義? 俺たちは双子だからさ、小さい時からずーっとそっくりだって言われてきたでしょ。学校でも外でも、この業界に入ってからも」
お揃いのパジャマの裾から差し込まれた誠司の指の冷たさに息を呑む。指はそのまま脇腹から臍へ、そして腹筋を撫で、胸元へとゆっくりと上がっていく。
ちぅ、と音を立てながら耳の後ろを吸い上げる誠司の声が、項を擽るようだった。
「でもさぁ、俺たちが似てるのって声とか見た目とか……声は多分骨格のせいもあるんだと思うんだけど、とにかく、それくらいだと思わない? 性格も結構違うし、好みも全然違うよね。美味しいものが好きなのはおんなじだけど」
「……はぅ、ん。そう、だな?」
指と首元にかかる息の擽ったさに身体を震わせながら答える。誠司の言う通り、俺たちには結構真逆な部分が多くて、好きになるものが一緒になるのは珍しい方だった。それについては俺も同意するけれどいまいち誠司が何について言いたいのかが分からない。
「だけどさぁ、やっぱり身体のつくりは似てるところが多いから、俺が先生に触れられて気持ち良くなっちゃうトコは、正義もすっごく感じちゃうんじゃないかなーって、さっき思いついちゃったんだよね。つまり……開発できるのかも、って」
「は? 開発ってなに……んぁっ!」
耳に吐息と声が触れた次の瞬間、そのまま形をなぞるように誠司の唇が俺の耳輪を食んでいく。背中を一気にかけ上がっていく痺れるような感覚を逃がそうと身体を揺らしても誠司の拘束は弛む気配もなく、逃げ場がないと知った身体は余計に刺激を快感に変えた。
「せい、じぃっ。みみ、や、やぁんっ」
「正義、ここがね、俺の弱いトコロ。先生はいつもこうやって甘く噛んでキスしてくれて、俺の名前読んでくれるんだぁ。ちゃんと気持ちイイですって声出せた時は『誠司、いい子ですね』って言って褒めてくれるの」
「んんぅ、ん、ひあぁっ」
「正義も想像してみてよ。正義もリチャードさんに呼ばれるの好きでしょ? こうやって耳の中に直接吹き込むみたいに、二人きりのとき限定のあまぁい声で、ね……?」
「ふぁっ、リチャ、ァド、に?」
空を切り取ったような青い瞳が俺を見つめてくれる時の柔らかさとか、砂糖菓子よりも甘やかに俺の名前を呼ぶ声を思い出す。
「そう、こんな風に。……正義。せいぎ」
『……せいぎ』
『正義、ちゃんと気持ち良く感じて、いいこですね。……かわいい』
「っあ、だめぇ、や、リチャ……!」
「うん、上手だねぇ、正義。もっと考えて? リチャードさんのこと。俺の好きなところ全部教えてあげるから。同じことリチャードさんにされたらどうだろうって、感じて?」
頭がふわふわする。いつの間にか胸を弄っていた指から与えられる快感にも、声にも。
今、俺に触れてくる指も唇も声も誠司のものだと分かっているはずなのに、じわじわと熱に溶かされた脳は、勝手にすべてをリチャードのものに変換してしまう。
「胸とか、男は感じないと思ってるかもしれないけど、そんなことないからね? こんな風に摘まんだり、弾いたりして……ふふ、ね? ほら、震えて固くなってきた」
「あ、ぃあん、ひぅっ」
「あとは後ろの……ここ。この孔をじっくり解してもらうの。トロトロになるまで」
「や、やだっそこは、せいじ、やだぁっ」
あらぬ場所に誠司の指が触れて来て、思わず涙が出る。誠司が俺に酷いことをするはずがないのだと知っていても、どうしても怖い。必死に後ろを振り向こうとする俺の目尻に浮かんだ涙を誠司が唇で吸い取ってくれる行為に、徐々に気持ちが落ち着いていった。
「よしよし。大丈夫だから泣かないで、正義。今は撫でてあげるだけだから。正義の初めて奪っちゃうのはさすがにリチャードさんにも先生に怒られちゃうしね。でもねぇ、ここの浅いところを押されるとすごく感じるってことは覚えておいて」
「……ん、うん、わかった……」
「あーん! もう、正義ってば本っ当に素直で可愛いんだから。ほら、手のリボン解いて続きしてあげる。仰向けになって、俺のことリチャードさんだと思って真っ直ぐ見て」
「うん」
もうただ言うことを聞くことしか頭にない。さっき一瞬だけ浮かんだ恐怖心も、誠司が一緒だと思うと霧散してしまう。それにずっと『リチャードを思い浮かべろ』と言われているせいで、抵抗しようだとか逃げ出そうだなんて選択肢が出てこない。
「いい子だねー、正義。さっきのとこから中に全部入れてもらうと、お臍の下、ここらへんがちょっとぽこってするかも。外からでも入ってるのが分かるってエッチだよね。熱いしちょっと苦しいかもしれないけど、大好きな人の一部が自分の中の、指じゃ届かないトコにあるのって最高の気分だよぉ。んー、リチャードさんのはどこまで届くかなぁ」
臍の下の、のぺりとした腹を二本の指がなぞっていく。その指で開けた幅が太さと同じくらいなのだと気が付いてぶわりと熱が蘇った。ゆるく反応する俺のモノに気付きながら無視をする誠司の指は、根元から臍へと向かって腹を撫で上げていく。
「……先生のはね、この辺まで来るよ。そしてここが、俺の一番弱いトコ」
ぐり、と押された位置が思っていた以上に身体の内側で、咄嗟にひんっと変な声を上げてしまった。誠司はそのまま俺の足を持ち上げて、自分の股間を俺の尻に押し付ける。
誠司のモノもいつの間にか勃ち上がっていて、服越しに伝わってくる熱に腰が逃げそうになるけれど、もうベッドの上に逃げ場はなかった。そのままゆさゆさと誠司に腰を揺らされながら臍の下を押されると、まるで実際に挿入されているような錯覚を覚える。
「リチャードさんにこうやって押し倒されて、射れられて、揺さぶられたら、どれくらい気持ち良いだろうねぇ、正義。想像してみて? 大好きなリチャードさんが正義のことを欲しがってる姿。一回でもココでの快感を知っちゃうとね、もうおでこのキスなんかじゃ物足りなくなっちゃうから。まあ今だって、正義は足りてないんだけど」
「んっ、んぁ、ふぁ、リチャ……が、こう、やって……?」
「そうだよ。正義のことをリチャードさんが全部愛してくれるの。嬉しいでしょ?」
……今、ベッドの上で俺を押し倒しているのが、リチャードだったら。あの美しくて気高い男が俺の身体を欲して暴かれて──抱き合い、身体と心の一番深い場所で愛を交わし合って一つになるのを想像しただけで腹の奥がずくりと疼いて、一際甘い声が出た。
「っ、ふふ、正義の気持ち良さそうな声、俺とおんなじ……ぁん、俺も先生の思い出したらムズムズしてきちゃった。ねぇ正義、気持ちイイねぇ? このまま俺と一緒に、最後まで楽しもう? あ、でもここから先はリチャードさんと先生には内緒ね」
「ぁえっ、せい、んんーっ!」
俺の足を抱えたまま身体を前に倒した誠司に、口ごと食べるようなキスをされる。日頃から頻繁にキスをしてくるから行為自体は別に驚かないけれど、こんな風に最初から舌を絡めてくるキスは初めてだった。しかも、そのまま俺と自分のをパジャマから取り出して一緒に握り扱きながら、さっきよりも強く腰をトントンと合わせて揺らしてくる。
疑似的な感覚と直接的で強烈な快感に、疼いたままの奥がきゅんとする。目の前の誠司の背に腕を回しながらも頭の中で抱き締めていたのは、今一番会いたくて愛おしい、彼。
「りちゃあ、やっだめぇ、きもちぃ、リチャード……!」
「……っあ、せんせ、イっちゃうよぉ、せんせぇ……っ」
意識が一気に高まって、世界が真っ白になる直前。お互いの嬌声を飲み込むように深く口付け合った俺たちはそのまま熱を吐き出して、ベッドの上でしばらく脱力していた。
□ □ □
シーツとパジャマを新しいものに交換して、一応窓を開けて換気も済ませてから誠司と一緒に布団に包まれる。隣から伝わる温もりが気怠い身体に眠気をすぐに運んできた。
「で、明日のデートで実践できそう?」
「んん、けどさぁ? そんな突然リチャードにエ…………ッチして欲しいとか頼めないし、そもそも日曜は朝からレコーディングなのに、声が、その、嗄れそうなことするのは」
「あ、レコーディング延期になったって伝えるの忘れてた」
「…………は?」
初めて聞く情報に眠気が吹き飛んだ。思わず目を開ければ、悪びれもせずに笑う誠司がいる。もしかしてこいつ、全部企んでたな?
「機材トラブルが出たらしくて、交換部品取り寄せてるけど二日くらいかかるみたい。なので日曜日の仕事は深夜ラジオだけでーす。だから、正義はゆーっくりリチャードさんと愛を確かめ合っておいで? 俺も先生と久々に熱くて濃厚な夜を楽しんでくるしさっ」
「うぅ…………が、がんばり、ます」
「あーあ、俺の正義がオトナになっちゃうの寂しいな。もちろん楽しみでもあるんだけど。可愛さに加えて色気たっぷりになった正義、想像するだけでも最高だもん。さっきのイく直前の顔も堪んなかったし……。食べちゃうの我慢したこと、褒めて欲しいくらい!」
「そっ、それを言うなら誠司だって、すごく! その、俺でも今まで見たことないくらい色っぽい顔してて、触られてる間ずっとドキドキしてたんだからな!」
「え、ウソ、正義も俺で気持ち良くなりそうだった? えー、今度ちゃんと触り合いっこしよっか? あっそうだ! ホテルのスイートルーム借りてさ、ダブルデートしようよ。で、朝も夜も関係なくイチャイチャして部屋のいろんな場所で四人での見せ合いセッ」
「そんなことするかぁ!」
金曜の深夜、高層マンションの一室に、枕のぶつかる音と俺の叫び声が響き渡った。
さて、その後。
俺がちゃんとリチャードにキスの先の行為を「おねだり」出来て、そしてそれが上手くいったのか。それから誠司がふざけながら提案した「スイートルームでのダブルデート、四人で過ごす素敵で淫らな一日」が実現したのかどうかは。
──俺たちだけの、秘密だ。
