輝ける星
公開 2023/09/24 17:32
最終更新
2023/09/27 16:50
※3部軸
「おはようリチャード。今日もきれいだ」
霧江みのるがそれを初めて聞いたのは、みのるが半分血の繋がった義理の兄である正義と、正義の上司で、みのるにとってもある意味恩人でもある『幽霊』のリチャード、その三人でこのマンションに暮らし始めて二週間が経った頃だった。
その日も、正義の朝ごはんの歌で起きたのはみのるのほうが先で──というより、仕事で早朝の飛行機や新幹線に乗らなくてはならないという場合以外は常にみのるが先に起きている──洗面所で顔を洗っている時に、どこかの部屋のドアが開く音が聞こえた。
正義が「ポテトサラダにオムレツ、焼き立てのパン」と繰り返していたタイミングだったので、なんだかお腹を空かせた子供が歌につられて起きてきたみたいだなぁ、とみのるは思わず笑い出しそうになる。
正義の上司であるリチャード・ラナシンハ・ドヴルピアンという華麗な、だけどちょっと覚えるのに時間を要する名前を持つ、教会のステンドグラスから抜け出してきたような美しい男は、本当に……本当に朝には弱いようだった。
それでもみのるの前では出来るだけしゃっきりとした、全方位完璧に整えられた、格好良いスマートな大人の姿を見せようとしている、らしい。けれども、それでもどうしても時として眠気を振り払うことが出来ないらしく、リチャードは本物の幽霊のように覚束ない足取りでふらふらと同居人たちの前に姿を現した。
先日はシーツをかぶったまま部屋から出てきたものだからさすがにびっくりして声を上げてしまい、リチャードと正義から何度も謝られた。なぜ正義まで謝っていたのかは分からないけれど。
正義曰く、リチャードは以前から「シーツお化け」になることがあったらしい。半分寝ている状態でフラフラ、フラフラと部屋を歩き回るそうだ。危なっかしいけど可愛いんだよなぁ、と笑いながら正義が言うので、次に出会ったら今度はちゃんと見てみよう、とみのるは決意している。
その寝起きの悪さで何年も正義を困らせてきたリチャードだったが、最近は「みのるくんが見てるぞ」という正義の言葉で、ほぼ一瞬で覚醒するようになったらしい。
見栄っ張りだからさ、と正義は笑って教えてくれたけれど、みのるは別にリチャードのだらしないところ──不思議なことに、リチャードは寝ぼけていようと寝言を言おうと、それこそシーツお化けの状態であっても、妙にキラキラと輝いて美しく見えるので、この言葉は当てはまらないだろうけど──を見ても、幻滅なんてしないと思っているのだが、それを口にしたことはない。
多分リチャードも、今はみのるに『ええかっこしい』をしているのだろう。少し前の正義が、みのるに対してそうだったように。
それが少しずつ緩んできて、もう少しで遠慮とか、悪い意味ではない気遣いがなくなるのかなと思った頃。
みのるの耳に、その声は飛び込んできた。
「おはようリチャード。今日もきれいだ」
朝の挨拶にしては少し恥ずかしいセリフな気もしたけれど、もしかしたら自分が知らないだけで、英国人のリチャードに対しては普通のものなのかな、とみのるは最初考えた。中学一年生の英語の授業では、誰にでも使える英語のことしか習っていないからだ。
ハローエブリワン、グッモーニン、ハウアーユー、アイムファイン、なんとかなんとか。
親しい関係、たとえば上司と秘書。スーパー友達と同じくらいの大切な友人。仲間。そういう、教科書に出てくるような人よりもずっと深いところで繋がっている人同士で交わす挨拶があって、それがさっき正義が告げたものなのかもしれないと。
だから、付き合いが長い正義がリチャードにそういった言葉を告げていても、特に不思議だとか変だとは思わなかった。それにリチャードが「きれい」なのは事実なのだから、正義は間違ったことを言ってはいないのだし。
……だけど。だけどだ。
それからほぼ毎日――時折、リチャードと正義のどちらかが仕事で不在になることはあれど、二人が揃っている時には、みのるはこの言葉を頻繁に耳にするようになった。朝に限らず、いつでも。
「今日もきれいだ、リチャード」
正義はいつも優しいけれど、その中でも一番澄んだ、柔らかくて真っ直ぐな声で、まるで二人だけの秘密の暗号を確認するかのようにリチャードに告げるのを聞きながら。
みのるはようやく「あれ、これは何かが違うかもしれない」ということに思い至った。
□ □ □
それからまた数日後の土曜日の朝。
いつものように三人で囲む朝食の席には、ほかほかごはん――炊き立ての白米、油揚げとわかめと茗荷の味噌汁、焼鮭、牛肉とゴボウとキノコの炒め煮、だし巻き卵、胡瓜の浅漬けが並んでいる。リチャードとみのるが美味しい、おいしいと交互に言うものだから、正義はずっと嬉しそうに笑っていた。
ほのぼのとした空気の中で、綺麗に層を重ねているだし巻き卵の残り半分に箸を入れてから、みのるは意を決して口を開いた。
「……あの、正義さん」
「うん?」
「その、少し、聞きたいことがあって」
「? うん、なんだろう? なんでも聞いてくれていいよ」
「正義さんは……正義さんは、リチャードさんに『きれいだ』って言うって、約束か何かしてるんですか?」
「ぶっふ」
「……正義」
ほとんど飲み込んでいたご飯の残りカスが、テーブルに飛んだのを見てリチャードが素早くウェットティッシュで拭いた。というか、今一瞬だけリチャードも咳き込みそうになっていた気がするけれど、見間違いだったのだろうか。
唾が気管に入ったのか咳き込み続ける正義に、聞いてはいけないことだったのかとみのるが顔を青くする直前。リチャードがバシン、と正義の背を一度大きく叩いたのでぎょっとした。とはいえ、そのお陰か正義の咳と呼吸は落ち着いている。ぽかんとするみのるに、リチャードが微笑みながら恭しく頭を下げた。
「まったく。……おほん。みのるさま、大変失礼いたしました。朝食の席で噴飯するなどお見苦しい限りです」
「ふえっ!? い、いえ、大丈夫です……」
噴飯したのは正義なのに、なぜリチャードが謝ったのかいまいち分からなかったが、まあシーツお化けのときもなぜか正義が謝っていたことを考えると、この二人の間では普通のことなのかもしれない。お互いが謝れないとき……寝ぼけているとか、咳き込んでいるとかの場合は代わりに謝っておくよ、と決めているとか。
そう納得しかけた頃には正義はだいぶ復活していて、目尻に浮かんだ涙を拭っていた。
「げほ、……っあー、みのるくんごめんね、聞いてくれたのに、答えてなくて」
「い、いえっ。変なこと聞いてごめんなさい。もうさっきのは忘れてください」
「え、いやいや大丈夫。ちゃんと言っておけば良かったなぁ。俺がリチャードに『きれいだ』っていうのは、まあ確かに約束……もしているんだけど、それが理由って訳じゃないんだ。俺の癖みたいなものなんだけど」
「……癖?」
「そう。俺、昔からリチャードに対しての気持ちが口に出ちゃうんだよ。世界一きれいだなーとか、プリン食べてるときの顔が可愛いなーとか、リチャードのことが大好きだとか、今日のスーツも完璧に似合ってるぞとか新しい香水が前のよりトップノートが瑞々しくて朝一番の満開のバラの香りを思い出すなーとか」
「正義」
「な、なるほど……?」
「はは、昔はもっとひどくて、たくさん怒られたりしたんだけどね。うん、最近は少し抑えてはいるんだよ……でもたまに言っちゃうから、みのるくんを驚かせることがあるかもしれない。でもまた正義さんが何か言ってるなぁってくらいに考えて、うん、気にしないでいいからね」
「はぁ……分かりました」
「みのるさま、そこは許容しなくていいのですよ」
「なんだよー、せっかくみのるくんも理解してくれてるのにそんなこと言わなくても」
「ですが」
口を尖らせた正義にリチャードが追加で何かを言う前にと、みのるは慌てて箸を置いた。
「リチャードさん、あの、本当に大丈夫ですから。前にもそんな感じのことは聞いていたので! 星だとか」
「……星?」
「ああ、そうそう! みのるくん、覚えててくれたんだね」
「まぁ……」
「正義、星とは何です」
「ん? 内緒。俺とみのるくんだけの秘密の話だよ」
「正義」
「まあまあ。あ、みのるくんも内緒だからね」
「えっ? は、はい」
「みのるさま!」
「いやぁ、リチャードが一緒に住むのを渋るから、その間に俺たちは内緒の話をたくさんしたもんなぁ」
「ぐぅ……っ」
「あ、でも内緒の話なら、リチャードさんともしたことがあります」
「えっ!?」
「……! ええ、みのるさま、左様でしたね。あれは私たちだけの内緒の話です」
「えっ、そんなのいつの間に、リチャード!」
「……っふは、あははっ!」
みのるのたった一言で、正義とのリチャードが勝ち誇ったり悔しがったり、ころころと表情を変えてくれるのが嬉しくて……こそばゆくて。
胸とお腹からぐぅっとこみ上げた気持ちのまま、思わず声を出して笑ってしまったみのるに、子供のような言い争いをしていた大人二人はきょとんと目を丸くしてから一緒に笑ってくれた。それに、ますますみのるの胸は温かいものでいっぱいになる。
『星みたいな人だよ』
『輝ける星、シューティング・スター』
正義が前に温泉からの帰り道で、大切な友人――それが誰のことを指していたのかなんて、もう聞かなくても分かる――をそう評していたけれど、みのるにとっては正義とリチャードこそが星のような人だった。
正義は、突然目の前に落ちてきて、あっという間に願いを叶えてくれた、流れ星。
リチャードは、いつも相談を聞いてくれて、悩む自分に道を教えてくれた、北極星。
だけどそれを誰かに言うのはまだ恥ずかしいし、正義やリチャードに教えるのはもっと照れ臭かったので、みのるは「自分だけの内緒の話」にしようと心に決めた。
もしも自分がもっと大人になって、正義やリチャードが自慢に思ってくれるようないい子になったら、そのときには伝えてみてもいいかもしれないと思いながら。
ぼくの大切な人たち。ぼくを、大切にしてくれる人たち。
あなたたちこそが、ぼくの。
「おはようリチャード。今日もきれいだ」
霧江みのるがそれを初めて聞いたのは、みのるが半分血の繋がった義理の兄である正義と、正義の上司で、みのるにとってもある意味恩人でもある『幽霊』のリチャード、その三人でこのマンションに暮らし始めて二週間が経った頃だった。
その日も、正義の朝ごはんの歌で起きたのはみのるのほうが先で──というより、仕事で早朝の飛行機や新幹線に乗らなくてはならないという場合以外は常にみのるが先に起きている──洗面所で顔を洗っている時に、どこかの部屋のドアが開く音が聞こえた。
正義が「ポテトサラダにオムレツ、焼き立てのパン」と繰り返していたタイミングだったので、なんだかお腹を空かせた子供が歌につられて起きてきたみたいだなぁ、とみのるは思わず笑い出しそうになる。
正義の上司であるリチャード・ラナシンハ・ドヴルピアンという華麗な、だけどちょっと覚えるのに時間を要する名前を持つ、教会のステンドグラスから抜け出してきたような美しい男は、本当に……本当に朝には弱いようだった。
それでもみのるの前では出来るだけしゃっきりとした、全方位完璧に整えられた、格好良いスマートな大人の姿を見せようとしている、らしい。けれども、それでもどうしても時として眠気を振り払うことが出来ないらしく、リチャードは本物の幽霊のように覚束ない足取りでふらふらと同居人たちの前に姿を現した。
先日はシーツをかぶったまま部屋から出てきたものだからさすがにびっくりして声を上げてしまい、リチャードと正義から何度も謝られた。なぜ正義まで謝っていたのかは分からないけれど。
正義曰く、リチャードは以前から「シーツお化け」になることがあったらしい。半分寝ている状態でフラフラ、フラフラと部屋を歩き回るそうだ。危なっかしいけど可愛いんだよなぁ、と笑いながら正義が言うので、次に出会ったら今度はちゃんと見てみよう、とみのるは決意している。
その寝起きの悪さで何年も正義を困らせてきたリチャードだったが、最近は「みのるくんが見てるぞ」という正義の言葉で、ほぼ一瞬で覚醒するようになったらしい。
見栄っ張りだからさ、と正義は笑って教えてくれたけれど、みのるは別にリチャードのだらしないところ──不思議なことに、リチャードは寝ぼけていようと寝言を言おうと、それこそシーツお化けの状態であっても、妙にキラキラと輝いて美しく見えるので、この言葉は当てはまらないだろうけど──を見ても、幻滅なんてしないと思っているのだが、それを口にしたことはない。
多分リチャードも、今はみのるに『ええかっこしい』をしているのだろう。少し前の正義が、みのるに対してそうだったように。
それが少しずつ緩んできて、もう少しで遠慮とか、悪い意味ではない気遣いがなくなるのかなと思った頃。
みのるの耳に、その声は飛び込んできた。
「おはようリチャード。今日もきれいだ」
朝の挨拶にしては少し恥ずかしいセリフな気もしたけれど、もしかしたら自分が知らないだけで、英国人のリチャードに対しては普通のものなのかな、とみのるは最初考えた。中学一年生の英語の授業では、誰にでも使える英語のことしか習っていないからだ。
ハローエブリワン、グッモーニン、ハウアーユー、アイムファイン、なんとかなんとか。
親しい関係、たとえば上司と秘書。スーパー友達と同じくらいの大切な友人。仲間。そういう、教科書に出てくるような人よりもずっと深いところで繋がっている人同士で交わす挨拶があって、それがさっき正義が告げたものなのかもしれないと。
だから、付き合いが長い正義がリチャードにそういった言葉を告げていても、特に不思議だとか変だとは思わなかった。それにリチャードが「きれい」なのは事実なのだから、正義は間違ったことを言ってはいないのだし。
……だけど。だけどだ。
それからほぼ毎日――時折、リチャードと正義のどちらかが仕事で不在になることはあれど、二人が揃っている時には、みのるはこの言葉を頻繁に耳にするようになった。朝に限らず、いつでも。
「今日もきれいだ、リチャード」
正義はいつも優しいけれど、その中でも一番澄んだ、柔らかくて真っ直ぐな声で、まるで二人だけの秘密の暗号を確認するかのようにリチャードに告げるのを聞きながら。
みのるはようやく「あれ、これは何かが違うかもしれない」ということに思い至った。
□ □ □
それからまた数日後の土曜日の朝。
いつものように三人で囲む朝食の席には、ほかほかごはん――炊き立ての白米、油揚げとわかめと茗荷の味噌汁、焼鮭、牛肉とゴボウとキノコの炒め煮、だし巻き卵、胡瓜の浅漬けが並んでいる。リチャードとみのるが美味しい、おいしいと交互に言うものだから、正義はずっと嬉しそうに笑っていた。
ほのぼのとした空気の中で、綺麗に層を重ねているだし巻き卵の残り半分に箸を入れてから、みのるは意を決して口を開いた。
「……あの、正義さん」
「うん?」
「その、少し、聞きたいことがあって」
「? うん、なんだろう? なんでも聞いてくれていいよ」
「正義さんは……正義さんは、リチャードさんに『きれいだ』って言うって、約束か何かしてるんですか?」
「ぶっふ」
「……正義」
ほとんど飲み込んでいたご飯の残りカスが、テーブルに飛んだのを見てリチャードが素早くウェットティッシュで拭いた。というか、今一瞬だけリチャードも咳き込みそうになっていた気がするけれど、見間違いだったのだろうか。
唾が気管に入ったのか咳き込み続ける正義に、聞いてはいけないことだったのかとみのるが顔を青くする直前。リチャードがバシン、と正義の背を一度大きく叩いたのでぎょっとした。とはいえ、そのお陰か正義の咳と呼吸は落ち着いている。ぽかんとするみのるに、リチャードが微笑みながら恭しく頭を下げた。
「まったく。……おほん。みのるさま、大変失礼いたしました。朝食の席で噴飯するなどお見苦しい限りです」
「ふえっ!? い、いえ、大丈夫です……」
噴飯したのは正義なのに、なぜリチャードが謝ったのかいまいち分からなかったが、まあシーツお化けのときもなぜか正義が謝っていたことを考えると、この二人の間では普通のことなのかもしれない。お互いが謝れないとき……寝ぼけているとか、咳き込んでいるとかの場合は代わりに謝っておくよ、と決めているとか。
そう納得しかけた頃には正義はだいぶ復活していて、目尻に浮かんだ涙を拭っていた。
「げほ、……っあー、みのるくんごめんね、聞いてくれたのに、答えてなくて」
「い、いえっ。変なこと聞いてごめんなさい。もうさっきのは忘れてください」
「え、いやいや大丈夫。ちゃんと言っておけば良かったなぁ。俺がリチャードに『きれいだ』っていうのは、まあ確かに約束……もしているんだけど、それが理由って訳じゃないんだ。俺の癖みたいなものなんだけど」
「……癖?」
「そう。俺、昔からリチャードに対しての気持ちが口に出ちゃうんだよ。世界一きれいだなーとか、プリン食べてるときの顔が可愛いなーとか、リチャードのことが大好きだとか、今日のスーツも完璧に似合ってるぞとか新しい香水が前のよりトップノートが瑞々しくて朝一番の満開のバラの香りを思い出すなーとか」
「正義」
「な、なるほど……?」
「はは、昔はもっとひどくて、たくさん怒られたりしたんだけどね。うん、最近は少し抑えてはいるんだよ……でもたまに言っちゃうから、みのるくんを驚かせることがあるかもしれない。でもまた正義さんが何か言ってるなぁってくらいに考えて、うん、気にしないでいいからね」
「はぁ……分かりました」
「みのるさま、そこは許容しなくていいのですよ」
「なんだよー、せっかくみのるくんも理解してくれてるのにそんなこと言わなくても」
「ですが」
口を尖らせた正義にリチャードが追加で何かを言う前にと、みのるは慌てて箸を置いた。
「リチャードさん、あの、本当に大丈夫ですから。前にもそんな感じのことは聞いていたので! 星だとか」
「……星?」
「ああ、そうそう! みのるくん、覚えててくれたんだね」
「まぁ……」
「正義、星とは何です」
「ん? 内緒。俺とみのるくんだけの秘密の話だよ」
「正義」
「まあまあ。あ、みのるくんも内緒だからね」
「えっ? は、はい」
「みのるさま!」
「いやぁ、リチャードが一緒に住むのを渋るから、その間に俺たちは内緒の話をたくさんしたもんなぁ」
「ぐぅ……っ」
「あ、でも内緒の話なら、リチャードさんともしたことがあります」
「えっ!?」
「……! ええ、みのるさま、左様でしたね。あれは私たちだけの内緒の話です」
「えっ、そんなのいつの間に、リチャード!」
「……っふは、あははっ!」
みのるのたった一言で、正義とのリチャードが勝ち誇ったり悔しがったり、ころころと表情を変えてくれるのが嬉しくて……こそばゆくて。
胸とお腹からぐぅっとこみ上げた気持ちのまま、思わず声を出して笑ってしまったみのるに、子供のような言い争いをしていた大人二人はきょとんと目を丸くしてから一緒に笑ってくれた。それに、ますますみのるの胸は温かいものでいっぱいになる。
『星みたいな人だよ』
『輝ける星、シューティング・スター』
正義が前に温泉からの帰り道で、大切な友人――それが誰のことを指していたのかなんて、もう聞かなくても分かる――をそう評していたけれど、みのるにとっては正義とリチャードこそが星のような人だった。
正義は、突然目の前に落ちてきて、あっという間に願いを叶えてくれた、流れ星。
リチャードは、いつも相談を聞いてくれて、悩む自分に道を教えてくれた、北極星。
だけどそれを誰かに言うのはまだ恥ずかしいし、正義やリチャードに教えるのはもっと照れ臭かったので、みのるは「自分だけの内緒の話」にしようと心に決めた。
もしも自分がもっと大人になって、正義やリチャードが自慢に思ってくれるようないい子になったら、そのときには伝えてみてもいいかもしれないと思いながら。
ぼくの大切な人たち。ぼくを、大切にしてくれる人たち。
あなたたちこそが、ぼくの。
