みなに幸あれ 感想 ―新春異常帰省
公開 2024/01/28 22:59
最終更新 2024/01/28 23:09
2024年初めての映画館での鑑賞は邦画「みなに幸あれ」になりました。
年のはじめにぴったりな、縁起の良さそうなタイトルですね。ほぼほぼ満席でかなり前の方の席での鑑賞でしたがそんなこと気にならないくらいに面白かったです。
昨年12月に結構詰め込み過ぎた反動等でちょっと映画館に行くのをセーブしていましたが、また気になるものをちょくちょく観ていきたいなぁと思います。

****

東京で看護師を目指し一人暮らしをしている主人公は父方の祖父母の田舎に帰省する。実家の家族も合流する予定が、熱を出したということで彼女一人で訪れることになった。

暖かく迎えてくれた祖父母であったが、段々と異常な行動が目立っていく。そして主人公は家の二階に何かいることを察するようになる。

****

「異様な田舎の老人」、「開かずの間にいる何か」、「代々伝わっている(であろう)謎のしきたり」など、要素だけ抜き出すと昨今の所謂因習村(好きですよ)っぽさがあるように見受けられますが、蓋を開けてみると因習村と言い表すには妙な違和感を覚えます。
恐らく、上記のものによくあるような信仰(や畏れ)の対象が描かれていないため、地に足がついた感じが全然しない心許なさがあるのが原因なのかな、と思ったり。適当です。

というか田舎じゃあなくても、例えば都内のマンションの一室でも(難易度高いだろうが)成立しちゃいそうな感じもするんですよね、この話。

幼い頃の主人公の回想から話ははじまります。公式が冒頭四分を公開されているようですね。わざとらしく「幸せ?」とたずねてくるあたり非常に白々しい(褒め言葉)。

https://youtu.be/iMpcchXomgQ

このあと主人公が一人で帰省して物語が動き出すのですが、祖父母の奇行の演技がめちゃめちゃに良い。なんとなく、大昔の世にも奇妙な物語の「BLACK ROOM」を思い出した。
https://www.fujitv.co.jp/kimyo/200811-200815.html

生身の人間が真顔でする奇行というインパクトが非常に大きいです。
そこに実際にいる筈なのに、中身がすっかり何かと入れ替わってしまっているようにさえ思える不気味な良い演技でした。
特に目に入れても…のくだりはマジでやりよるのか?やりよるのか?!感があってめちゃくちゃ好きです。
この時点で主人公はさっさと帰るべきだったとは思いますが、看護師志望で認知症かも?と疑っている描写もありましたし老人を見捨てられないという主人公の性格とも合っていたのでまぁ仕方ない。


「二階に何がいるのか」という謎は割と早く解明します。
しかしそこからが出てきたものが単に襲うとか戦うという訳ではない展開が良い。
また、具体的な言葉での説明は無いのに場面場面に散りばめられたアイテムや台詞で様々な背景を類推できる作りが秀逸すぎて嫌になる(褒め言葉)。なんでその調味料がそんなところにあるんですか…?

そういった、視聴者が察することの出来るような描写が非常にストレスフリーで良かったのですが、所々やたらわざとらしい説明口調があったのが…ちょっとだけ、ちょっとだけ残念でもありました。
老人サイドだけがそういった言い回しをするのならまぁ異様な世界観に合わせてなのかな、と納得できたのですが、主人公の幼馴染が「皆で幸せに…」と言うところはちょっとうーん。。。


今作の根底には地球上の幸福は一定数であり、それを奪い合うことで人は幸福になったり不幸になったりするという思想があります。
その事実を否応なしにつきつけられて追い詰められた主人公が取るある行動が、目を覆いたくなる位にひりひりさせて来て凄く良かったです。そのあとのむちゃくちゃ虚しくなる展開も好き。キャラクターの追い詰め方が丁寧な作品は好感度が高くなります。

ラストはここまでくればまぁまぁ予測出来る…というか、どっちかだろうなというのは早めに解る気はしますが実際にお前やりよるのか……感がもうどうにもならないところまで行っていて、大変良い終わり方でした。こいつめやりよった……。

わかりやすいテーマと程よいショッキングさが心地よい、面白い作品でした!みなに幸あれ!
かえるくん
プロフィールページ
怖い話、特にホラー寄りの映画が好きです。
映画をよく観るようになったのがここ数年からなので、古い有名なものとかあまり観られていなかったりします。
最近の記事
サユリ 感想 運動して食べて寝ろ
「観終わった後、身体を鍛えたくなる映画」というのは良い作品であることが多いと思っています。まぁ実際にトレーニングするか…
2024/09/07 08:50
プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち 感想 圧倒的成長を感じろ
タイトル目が滑るなぁ…。 誰しも小学生の頃、ムキムキのドラえもんやなんか顔が濃いアンパンマンとかを自由帳に描いていたと…
2024/08/15 08:09
呪葬 感想 帰ろう!ホーンテッド実家
台湾映画、呪葬を観ました。「呪詛」「哭悲」に続く…みたいなキャッチコピーを見ましたが、その二つ地味にジャンル違わない?ア…
2024/07/20 16:52
フンパヨン 呪物に隠れた闇 感想 バンコクでピザを
フンパヨン 呪物に隠れた闇を観てきました。 今月はアジアホラーが多い印象。今作フンパヨンの他にも来週は台湾の実家系ホ…
2024/07/07 11:03
オペラ座の怪人 4Kリマスター版感想 19世紀末へ旅をしよう
オペラ座の怪人 4Kリマスター版を観てきました。 黒のリボンを巻いた真っ赤な薔薇、あまりに美しすぎる。 確か大昔…
2024/06/27 18:07
関心領域 感想 世界一子育てに向かない場所
アウシュヴィッツ強制収容所の隣で暮らす所長のルドルフ・ヘスとその一家を描く作品、「関心領域」を観てきました。 すでに…
2024/05/25 23:36
胸騒ぎ 感想 底なしの受容は美徳ではない
今年の胸糞エンド作品No. 1と名高い映画、胸騒ぎを観てきました。 間違いなく観賞できて良かったし、好みではあるし、なんなら…
2024/05/15 19:05
キラー・ナマケモノ 感想 何者にもなれない私VSナマケモノ
殺人ナマケモノ映画、「キラー・ナマケモノ」を観てきました。 かなりツッコミどころの多い映画ではありますが、ツッコむこと…
2024/05/11 14:32
武器人間 感想 −くっついちゃった!−
以前より気になっていた「武器人間」が、企画で上映されるということで観てきました。10年以上前の作品なので作品のハイライト…
2024/05/11 14:29
ゴールド・ボーイ 感想文 −きっとあなたもハンバーガーが食べたくなる
沖縄で暮らす男子中学生、朝陽(あさひ)は録画した動画の背後に人が崖から突き落とされる様子が記録されていることに気づく。そ…
2024/03/24 09:54
ボーはおそれている 感想&コラボカクテルレポ −母の愛は用法用量を守れ
アリ・アスター監督最新作、「ボーはおそれている」を観てきました。二回。 一度目は昨年12月のジャパンプレミアです…
2024/03/06 12:21
悪魔がはらわたでいけにえで私 感想 −悪魔はいつも君の側にいる
「悪魔がはらわたでいけにえで私」を観てきました。シネマート新宿舞台挨拶付きの回です。舞台挨拶込で1時間半ほど、本編のみだ…
2024/03/05 08:18
ハンテッド −狩られる夜− 感想 −コンビニ籠城戦
アリスは仕事仲間のジョン(といいつつ不倫相手)と深夜に帰宅する途中、ガソリンスタンドに立ち寄る。 ジョンが給油している間…
2024/03/05 08:13
読書記録 「ガストン・ルルーの恐怖夜話」
少し前に買った創元推理文庫「ガストン・ルルーの恐怖夜話」をようやく読み終えたので、せっかくだし感想を書きたいと思います…
2024/02/22 08:29
ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ 感想 ―ピザ屋要素、どこ?!
「ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ」を観てきました。同名ゲームの映画化ですね。原作のゲームは存じ上げないのですが…
2024/02/12 22:29
犬人間 感想 ―イケメン、金持ち、料理上手
犬人間付き! 「未体験ゾーンの映画たち2024」ラインナップの中の一作、「犬人間」を観てきました。上映館や回数が少ないこ…
2024/01/29 12:27
みなに幸あれ 感想 ―新春異常帰省
2024年初めての映画館での鑑賞は邦画「みなに幸あれ」になりました。 年のはじめにぴったりな、縁起の良さそうなタイトルです…
2024/01/28 22:59
サンクスギビング 感想 ―そのワッフルメーカー、本当に必要ですか?
胸に手を当てて考えてみてください。 グリーン・インフェルノやホステルのイーライ・ロス監督最新作、「サンクスギビング」…
2023/12/31 22:24
トーク・トゥ・ミー 感想 ―悪霊濫用、ダメ、絶対!
「A24ホラー史上最高興収を記録!」の「トーク・トゥ・ミー」を観てきました。 私は映画を積極的に観るようになったのが…
2023/12/31 21:41
ファミリー・ディナー 感想 ―因習村、一人前。
コンプレックスを持つ女の子、ヤバいおばさん、謎の儀式。 揃えちゃいけないものを揃えた感がぷんぷんするオーストリア映画…
2023/12/17 20:52
もっと見る
タグ
映画(34)
読書(1)
もっと見る