ムカデ人間2 カラー版 感想 ―被害者が加害者に
公開 2023/12/17 20:43
最終更新 2023/12/17 20:43
「いつか観てみたいけれど、機会がなかったり心の準備が出来ていなかったりで中々観られていない映画」がいくつかあります。

公式Twitter(現X)が古今東西のなんか繋がってる画像を無言でRTしてくることで有名なムカデ人間シリーズの二作目、「ムカデ人間2 」はその筆頭です。
今回特別に上映されるということで、ヒューマントラストシネマ渋谷に観に行ってきました。特別料金1,000円、助かる。

「ムカデ人間(一作目)」は2020年のニコ生で鑑賞しました。一作目は言うほど直接的なシーンは無く、普通に面白いホラー映画といった感じでしたが

二作目はヤバい

という情報も得て、非常に気にはなる存在でした。
しかし調べれば調べるほどヤバさの程度が振り切っていることがわかり、ちょっとこれは覚悟が必要だな…とずっと先延ばしにしていた作品でもあります。

今回も非常に迷いました。12月1日に情報が出てから、ついにこの時が来たか。いやまて本当に行くのか。せめて1か3なら…。っていうかカラー版マジ?とチケット発売日まで一日のうち二、三時間はムカデ人間に思いを馳せる日々。

お前は何と戦ってるんだ。

レビューを参考にしようとすると高確率で「モノクロだから見られた」というような感想。
今回カラーなんだよ…置いていかないでくれ(?)……。

そんな感じで毎日迷いに迷っていたのですが「ここまで毎日ムカデ人間のことを考えているのに観ないのは失礼過ぎない?」と気付きを得たので、このたび観ることを決断いたしました。

幸運なことに次の日たまたま休み&ボーはおそれているのジャパンプレミアのチケットを取れていたので、ムカデ人間2を観てダメージを負ったとしてもその傷口にアリ・アスター監督が塩を擦り込んでくれるだろうしどうにかなるかなとも思ったりも…。

……実はここまでの文章は鑑賞前に書いています。万が一想像を超えるダメージを受けてしまいブログをダラダラと書く気力すらなかったら、ここから下はごめん!無理だった!で〆るつもりです。それではどうぞ。

*****

グロいしキツいし汚いけれど、観て良かった!不思議と清々しさすらある。なんでだ???

今回凶行に至るマーティンのキャラクター性が絶妙なバランスでむちゃくちゃ引き込まれる作品でした。

マーティンは作中、理解できる言語を発しません(母親の台詞から察するに、会話自体はできるようです)。しかし表情や仕草、笑い方などから真っ当な生育環境になかったことが手に取るようにわかります。
父親は幼少期の彼に性的虐待を行い獄中におり、そのせいで母親からは異様に恨まれている。主治医もマーティンを性的な目で見ている。

逃げ場のなさが容赦ないし、逃げるという発想すらマーティンにはできないのでしょう。

しかし彼には心の支えがありました。映画「ムカデ人間」です。

「ムカデ人間2」の世界では「ムカデ人間(一作目)」はフィクションの映画として登場します。我々の世界と同じですね。
マーティンは映画「ムカデ人間」に傾倒しており、仕事中何度もDVDを観たり、スクラップを作ったり、実際にムカデも飼っています。なんならムカデ人間に性的興奮すらしています。

そして当然のように自分もムカデ人間を作ろうとするのです。

駐車場の警備員をしている彼は次々とバールのようなもので獲物を投打、拉致し、拘束して貸倉庫につれこみます。妊婦さんだろうがなんだろうがお構い無しで、前作「ムカデ人間」のキャストさんも偽のオーディションで呼び出して拉致します。
作中何度か「ムカデ人間の手術は医学的に可能」といった台詞や文がでてきますが、何アピールしてるんだよ…。となる。

獲物集めライフを送っている最中、マーティンの母親は彼の異常な趣味に堪忍袋の緒が切れたのか「ムカデ人間」のスクラップを破いてしまいます。
破かれたスクラップの「ハイター博士(前作でムカデ人間の手術を行う医師)」のページを大事そうに抱きかかえながら泣いているマーティンがもう本当に本当に辛かった。
台詞らしい台詞は無いのに、これでもかという程に悲しみが伝わってきます。

グロさやキモさ、汚さにフォーカスが当たりがちな本作ですが本来被害者でしかなかったマーティンが何も与えられず、救われず加害者になる悲痛さ、やるせなさというのもこの作品の魅力の一つなのだと感じました。

この後の行動がご存知の通りもう擁護出来ないレベルなのですが、こういった面もしっかり描かれているためただのヤバいやつにはおさまらない、悲しい魅力のあるキャラクターになっていると思います。

メタ的な話になってしまいますが、ハイター博士を演じられた役者さんは2020年に亡くなられているんですよね。
勿論2が制作された頃はご存命で、何なら3にもご出演されているようですが、2023年に本作を鑑賞した自分としては遺影を抱きしめているようにも見えてそういった意味でも凄く胸が締め付けられるシーンでした。

マーティンはこのあと母親の頭部をバールのようなもので穴が空く位投打して殺しますが、殴っている最中も狂気や恨みの他に悲哀さが見て取れます。マーティン役の方、本当に凄いなぁ。機会があったら他の作品も観てみたい。

と思ったら3にも出てるんですね!
3、ブラックコメディ色が強そうなあたりかなり好みな予感なのでいずれ観たいです。
主要男性キャスト全員ご出演の上にトム・シックス監督ご本人もご出演されているの、ムカデ人間オールスター感謝祭じゃん…。

後半、待ちに待ったムカデ人間制作が始まります。

一般家庭にしてはやたら多い工具と粘着テープ!
麻酔代わりのバール!!
ホチキスで縫合!!!

めちゃくちゃにめちゃくちゃやってるんですが、映画を真似てか切り取るところをマジックであたりをとるなど妙な細かさもある。その細かさを道具選びにも分けて欲しかったぞマーティン。

個人的には脚の腱(?)を切断するところが結構ぶっとくてヒッてなりましたね〜…。

ムカデ人間が完成してからの一連の流れはもう言う必要無いでしょう!笑
映倫の人ってどんな映画でも観なきゃいけないから大変そうだな〜…って気持ちで観ていました。

死んだと思った妊婦さんが息を吹き替えして車で逃走するところ。なんかもうついでに殺しとくか感がしてきて本当にひどい(褒め言葉)。

ラスト、夢オチ派何食わぬ顔で日常に戻っている派と分かれてるんですがどっちにもとれそうな不気味な終わり方は大変好きですね。
赤ん坊の泣き声だけ聴こえるのがなんとも。

観る前は本当に再起不能レベルでショックを受けたらどうしようとも思い、テリファー2以来のエチケット袋持参で映画館に行きましたが使うこと無く劇場を出ることができてホッとしております(テリ2のときも大丈夫だったよ)。

結構自分自身もグロい!とかヤバい!みたいな評判で気になっていたからこそ観ることを決めた作品ですが、それだけには留まらないどうすることもできなかった人間の悲哀と狂気のようなものが予想以上に刺さる良い作品でした!オススメは全くできませんが!

繰り返しになりますが3も是非観たいです。どこかでリバイバル上映してくれないかな〜…レンタルするかなぁ。

ところで全く関係ないキース・ヘリング展( https://macg.roppongihills.com/jp/exhibitions/keithharing/ )のこれがムカデ人間に見えて仕方ないです。つなげてみたい。
かえるくん
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映画をよく観るようになったのがここ数年からなので、古い有名なものとかあまり観られていなかったりします。
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