プリンの上限
公開 2023/09/24 16:59
最終更新
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※2.5部軸
宝石商の仕事には、朝も夜もない。
世界中にお客様がいる以上休日の概念が違うし時差もある。マナーとしてある程度「空き」となる時間もあるが、繁忙期になるとそんなことを言ってられなかったりした。
顧客からの要望をまとめて在庫のチェック。足りなければ買付けの予定を立て、飛行機やホテルの手配。出向いた先で商談を組めそうなら予定に組み込む。なるべく無駄足にならないよう慎重に、確実に。週末は銀座・エトランジェでの営業が入っている。予約のお客様だけでなく、飛び込みや紹介で来店される方も少なくはない。
二年間見習いをしていたとはいえ実務に慣れるまでは大変だと分かっていたけれど……正直、ここまで大変だったとは。
「リチャード、お前は本当にすごい奴だったんだなぁ……」
ぐでん、とホテルのソファに情けなくも倒れ込んだ俺を叱るでもなく、リチャードは「皺になりますよ」とだけ告げて笑っていた。
「お前のことを、スイーツが大好きな可愛い甘味大王だと思ってたけど」
「……はぁ」
「こんなに忙しかったら脳が糖分を欲しがるのも当然だよなぁ……。ごめんな、俺お前がここまで忙しくしてたなんて分かってなくて」
「正義、それは」
「これからはプリンの上限、一日四個から五個にするから、俺のプリンで良ければ存分に疲れを癒してくれ」
「二言はありませんか」
「ん? ああ、いいよ。約束する」
「左様ですか。お忘れなく、正義」
後光が差しているかのような笑顔を浮かべたリチャードが、妙にご機嫌な様子で「先にシャワーを使わせて頂きます」とバスルームに向かっていくのを、神々しい美を浴びてしまった俺は無言で見送るしかなかったの、だが。
後日、シャウルさんから聞いた話によればこの頃のリチャードの仕事はここ数年で一番、と言えるくらいの仕事量だったらしい。色々なタイミングが重なってしまった結果のことで、二人で回すのも難しいかと思ったのですが中田さんも大変頑張って下さいましたね、と直々に褒められてしまった。
そしてその後の業務は、確かに忙しいもののピークから考えたら余裕があるもので、俺が調整しているのもあるけれどリチャードも適宜休息を取れている。
今も俺の世界で一番美しく優しい、大好きな雇用主は中田謹製プリンに舌鼓を打っているところだ。
(……実は本当に、ただのスイーツ大好きな甘味大王なんじゃないか?)
そう思ったものの、幸せそうに俺の作ったものを食べてくれるリチャードの姿を見れることは俺にとってのご褒美でもあるし、約束もしてしまったので。
一日辺りのプリンの上限は、五個から下げられそうもない。
宝石商の仕事には、朝も夜もない。
世界中にお客様がいる以上休日の概念が違うし時差もある。マナーとしてある程度「空き」となる時間もあるが、繁忙期になるとそんなことを言ってられなかったりした。
顧客からの要望をまとめて在庫のチェック。足りなければ買付けの予定を立て、飛行機やホテルの手配。出向いた先で商談を組めそうなら予定に組み込む。なるべく無駄足にならないよう慎重に、確実に。週末は銀座・エトランジェでの営業が入っている。予約のお客様だけでなく、飛び込みや紹介で来店される方も少なくはない。
二年間見習いをしていたとはいえ実務に慣れるまでは大変だと分かっていたけれど……正直、ここまで大変だったとは。
「リチャード、お前は本当にすごい奴だったんだなぁ……」
ぐでん、とホテルのソファに情けなくも倒れ込んだ俺を叱るでもなく、リチャードは「皺になりますよ」とだけ告げて笑っていた。
「お前のことを、スイーツが大好きな可愛い甘味大王だと思ってたけど」
「……はぁ」
「こんなに忙しかったら脳が糖分を欲しがるのも当然だよなぁ……。ごめんな、俺お前がここまで忙しくしてたなんて分かってなくて」
「正義、それは」
「これからはプリンの上限、一日四個から五個にするから、俺のプリンで良ければ存分に疲れを癒してくれ」
「二言はありませんか」
「ん? ああ、いいよ。約束する」
「左様ですか。お忘れなく、正義」
後光が差しているかのような笑顔を浮かべたリチャードが、妙にご機嫌な様子で「先にシャワーを使わせて頂きます」とバスルームに向かっていくのを、神々しい美を浴びてしまった俺は無言で見送るしかなかったの、だが。
後日、シャウルさんから聞いた話によればこの頃のリチャードの仕事はここ数年で一番、と言えるくらいの仕事量だったらしい。色々なタイミングが重なってしまった結果のことで、二人で回すのも難しいかと思ったのですが中田さんも大変頑張って下さいましたね、と直々に褒められてしまった。
そしてその後の業務は、確かに忙しいもののピークから考えたら余裕があるもので、俺が調整しているのもあるけれどリチャードも適宜休息を取れている。
今も俺の世界で一番美しく優しい、大好きな雇用主は中田謹製プリンに舌鼓を打っているところだ。
(……実は本当に、ただのスイーツ大好きな甘味大王なんじゃないか?)
そう思ったものの、幸せそうに俺の作ったものを食べてくれるリチャードの姿を見れることは俺にとってのご褒美でもあるし、約束もしてしまったので。
一日辺りのプリンの上限は、五個から下げられそうもない。
