Bella vita
公開 2023/09/24 15:39
最終更新
2023/09/24 17:47
※ガンスリ(GUNSLINGER GIRL)のパロ、担当官のリチャードと義体のセイギ。
タイトルはイタリア語で「いい人生」
──リチャードは、なんでも知っている。
セイギは先日仕立てたばかりの黒のハーフパンツタイプのスーツを身に纏い、リチャードの隣を歩く。手にはヴァイオリンケース。周りから見たらヴァイオリンの講師と、異国からの留学生にでも見えるんだろうか、とセイギはリチャードを見上げながら考える。……いや、彼はヴァイオリン講師には見えないかもしれない。なんせリチャードはモデルか俳優と間違われてもおかしくないような容姿の持ち主なのだ。
「セイギ」
「……はい」
「今日の標的については覚えていますね」
「はい」
「よろしい。もうすぐ標的が滞在しているアパートに着きます。気を抜かないように」
「はい」
リチャードは淡々と返答するだけのセイギをチラリと振り返り何か言いかけたが、結局そのまま前を向いた。
□ □ □
社会福祉公社。それがリチャードとセイギの所属している組織の名前だ。
イタリア政府の内閣府が運営している公営組織で、義手や義足の提供や開発をはじめとした障がい者支援を主に行う、社会福祉のための組織だ——表向きには、だが。
裏では反政府組織への諜報・暗殺などの非合法的な活動を行っている。各地から『事情のある』子供たちを集め、『条件付け』と呼ばれる洗脳を施し、身体の大半を人工筋肉などの人工物に改造して生きる兵士として造り上げる。その過程で得られた結果などが表向きの事業に反映されているのだから皮肉というほかなかった。
子供たちは「義体」と呼ばれ、それぞれに「担当官」が1人つき、ペアになった担当官は兄弟《フラテッロ》と呼ばれ、同じ任務をこなすこととなるのだ。義体は担当官には絶対服従を誓い、担当官は現場での指揮と義体の心身的なメンテナンスを主な仕事としている。
* * *
「──リチャード、ターゲットのいる階に着きました」
インカムからセイギの声が聞こえてきたので、リチャードは意識を集中させた。
「分かりました。こちらももう着きます。該当の部屋のドアの前には何人いますか」
「2人です。武装あり」
「サイレンサーは持ってきていますね。倒れた音を聞かれると厄介です。合図と同時に飛び出して制圧を」
「はい」
ヴァイオリンケースに仕舞っていた分解された銃を素早く組み立て、セイギは合図と共に素早く駆け出し一気に2人の頭に銃弾を撃ち込む。ドアの前にいた見張りは何が起こったのか分からないままに死んだだろう。反対側から来ていたリチャードが倒れかけた男たちの身体を掴み、そっと床に倒した。
「よろしい。では中の制圧を行いましょう」
「はい」
セイギがそっとドアに耳をつける。戦闘用に聴覚も強化されているセイギはわずかに聞こえてくる音で内の人数を把握し、リチャードに向けて手を広げた。……中にいるのは6人。それを見てリチャードが頷き、そこからの静かな3カウントでドアは思い切り開かれ、そして。
あとには血だらけの6つの死体だけが残された。
□ □ □
早く義体を決めろと言われていたが、子供を殺人のための兵器にすると分かっているのにそんなにすぐ決められるわけがない。交通事故、殺人事件、自殺。そういった『事情のある』子供たちを大人の事情に巻き込んでしまうことに、リチャードは抵抗があった。
内閣府の管理する病院へ毎日のように足を運びながら、子供たちの凄惨ともいえる過去を調べ……ある日、セイギと出会った。
日本人の少年。生まれて間もないころに移住し、両親とごく普通に暮らしていた。ある嵐の夜に強盗に入られ両親は最後までセイギを守ろうとしたが叶わず目の前で殺され、その両親の死体の傍で一晩中拷問のような仕打ちを受けていたという。
爪はすべて剥がされ、鼓膜は破れ、片目も潰されていた。精神状態はひどく不安定で夢と現を行ったり来たり。たまに正気を取り戻したかと思えば、口にするのは「死にたい」という言葉だけだった。
リチャードが最初にセイギの姿を見たのは保護室のガラス越しで、セイギはひどく衰弱しているのか車椅子に座らされていた。潰されたという片目には包帯が何重にも巻かれ、残された瞳も暗く淀んでいる。無理もない。事件の報告書を読んだだけのリチャードですら吐き気がするほどの怒りを覚えたのだ。
ふいに、リチャードの姿に気付いたのかセイギが視線を上げ、目を合わせた。一瞬だけ、本当に瞬きほどの間。しかしリチャードはセイギの淀んでいた瞳が本来の色であろう琥珀の輝きを取り戻し、唇が短い単語を紡ぐのを確かにみた。
『キレイ』
そしてその瞬間に、リチャードはセイギを救うと決めたのだ。
たとえ血に塗れた未来しか用意してやれないと分かっていても。
* * *
公社からの迎えの車に乗り込んですぐに、リチャードはセイギに話しかけた。
「セイギ、以前話したことを覚えていますか。報酬の件です」
「……はい」
「今回の仕事は大変スムーズでした。無駄な弾を費やすことなく制圧出来ていましたね。仕事が上手くいったらお願いごとを1つ叶える……そういった報酬の約束が果たされるべきかと思います」
「……なんでも、いいんですか」
「ええ。買い物をしたいというのであれば、後日になってしまいますが」
「欲しいものはありません。リチャードがくれるものだけで……宝石の話を、聞きたいです」
「宝石の話……? それでいいのですか」
「はい」
「……わかりました。公社につくまでしばらくかかりますからちょうどいいですね。何から話しましょう……あなたの黒髪にちなんで、まずはオニキスからにしましょうか」
そうしてリチャードが語る数々の宝石の話を、セイギはただ静かに聞いていた。
□ □ □
──リチャードは、なんでも知っている。
宝石のことだけではなく、沢山の言葉、花の名前、銃の特性、爆薬の調合方法、星の名前、それから、人を素早く殺す方法。
セイギはたくさんのことをリチャードに教わるのが好きだった。名前を呼び捨てにしていいと言ってくれたことも嬉しかったし、全然兄弟に見えないのに自分のことを兄弟《フラテッロ》として選んでくれたリチャードのことが、大好きだった。
だから。
だからこれからずっと、リチャードのために誰かの命を奪いながら生きていくことになっても、何も後悔などするはずがないのだと、信じている。
タイトルはイタリア語で「いい人生」
──リチャードは、なんでも知っている。
セイギは先日仕立てたばかりの黒のハーフパンツタイプのスーツを身に纏い、リチャードの隣を歩く。手にはヴァイオリンケース。周りから見たらヴァイオリンの講師と、異国からの留学生にでも見えるんだろうか、とセイギはリチャードを見上げながら考える。……いや、彼はヴァイオリン講師には見えないかもしれない。なんせリチャードはモデルか俳優と間違われてもおかしくないような容姿の持ち主なのだ。
「セイギ」
「……はい」
「今日の標的については覚えていますね」
「はい」
「よろしい。もうすぐ標的が滞在しているアパートに着きます。気を抜かないように」
「はい」
リチャードは淡々と返答するだけのセイギをチラリと振り返り何か言いかけたが、結局そのまま前を向いた。
□ □ □
社会福祉公社。それがリチャードとセイギの所属している組織の名前だ。
イタリア政府の内閣府が運営している公営組織で、義手や義足の提供や開発をはじめとした障がい者支援を主に行う、社会福祉のための組織だ——表向きには、だが。
裏では反政府組織への諜報・暗殺などの非合法的な活動を行っている。各地から『事情のある』子供たちを集め、『条件付け』と呼ばれる洗脳を施し、身体の大半を人工筋肉などの人工物に改造して生きる兵士として造り上げる。その過程で得られた結果などが表向きの事業に反映されているのだから皮肉というほかなかった。
子供たちは「義体」と呼ばれ、それぞれに「担当官」が1人つき、ペアになった担当官は兄弟《フラテッロ》と呼ばれ、同じ任務をこなすこととなるのだ。義体は担当官には絶対服従を誓い、担当官は現場での指揮と義体の心身的なメンテナンスを主な仕事としている。
* * *
「──リチャード、ターゲットのいる階に着きました」
インカムからセイギの声が聞こえてきたので、リチャードは意識を集中させた。
「分かりました。こちらももう着きます。該当の部屋のドアの前には何人いますか」
「2人です。武装あり」
「サイレンサーは持ってきていますね。倒れた音を聞かれると厄介です。合図と同時に飛び出して制圧を」
「はい」
ヴァイオリンケースに仕舞っていた分解された銃を素早く組み立て、セイギは合図と共に素早く駆け出し一気に2人の頭に銃弾を撃ち込む。ドアの前にいた見張りは何が起こったのか分からないままに死んだだろう。反対側から来ていたリチャードが倒れかけた男たちの身体を掴み、そっと床に倒した。
「よろしい。では中の制圧を行いましょう」
「はい」
セイギがそっとドアに耳をつける。戦闘用に聴覚も強化されているセイギはわずかに聞こえてくる音で内の人数を把握し、リチャードに向けて手を広げた。……中にいるのは6人。それを見てリチャードが頷き、そこからの静かな3カウントでドアは思い切り開かれ、そして。
あとには血だらけの6つの死体だけが残された。
□ □ □
早く義体を決めろと言われていたが、子供を殺人のための兵器にすると分かっているのにそんなにすぐ決められるわけがない。交通事故、殺人事件、自殺。そういった『事情のある』子供たちを大人の事情に巻き込んでしまうことに、リチャードは抵抗があった。
内閣府の管理する病院へ毎日のように足を運びながら、子供たちの凄惨ともいえる過去を調べ……ある日、セイギと出会った。
日本人の少年。生まれて間もないころに移住し、両親とごく普通に暮らしていた。ある嵐の夜に強盗に入られ両親は最後までセイギを守ろうとしたが叶わず目の前で殺され、その両親の死体の傍で一晩中拷問のような仕打ちを受けていたという。
爪はすべて剥がされ、鼓膜は破れ、片目も潰されていた。精神状態はひどく不安定で夢と現を行ったり来たり。たまに正気を取り戻したかと思えば、口にするのは「死にたい」という言葉だけだった。
リチャードが最初にセイギの姿を見たのは保護室のガラス越しで、セイギはひどく衰弱しているのか車椅子に座らされていた。潰されたという片目には包帯が何重にも巻かれ、残された瞳も暗く淀んでいる。無理もない。事件の報告書を読んだだけのリチャードですら吐き気がするほどの怒りを覚えたのだ。
ふいに、リチャードの姿に気付いたのかセイギが視線を上げ、目を合わせた。一瞬だけ、本当に瞬きほどの間。しかしリチャードはセイギの淀んでいた瞳が本来の色であろう琥珀の輝きを取り戻し、唇が短い単語を紡ぐのを確かにみた。
『キレイ』
そしてその瞬間に、リチャードはセイギを救うと決めたのだ。
たとえ血に塗れた未来しか用意してやれないと分かっていても。
* * *
公社からの迎えの車に乗り込んですぐに、リチャードはセイギに話しかけた。
「セイギ、以前話したことを覚えていますか。報酬の件です」
「……はい」
「今回の仕事は大変スムーズでした。無駄な弾を費やすことなく制圧出来ていましたね。仕事が上手くいったらお願いごとを1つ叶える……そういった報酬の約束が果たされるべきかと思います」
「……なんでも、いいんですか」
「ええ。買い物をしたいというのであれば、後日になってしまいますが」
「欲しいものはありません。リチャードがくれるものだけで……宝石の話を、聞きたいです」
「宝石の話……? それでいいのですか」
「はい」
「……わかりました。公社につくまでしばらくかかりますからちょうどいいですね。何から話しましょう……あなたの黒髪にちなんで、まずはオニキスからにしましょうか」
そうしてリチャードが語る数々の宝石の話を、セイギはただ静かに聞いていた。
□ □ □
──リチャードは、なんでも知っている。
宝石のことだけではなく、沢山の言葉、花の名前、銃の特性、爆薬の調合方法、星の名前、それから、人を素早く殺す方法。
セイギはたくさんのことをリチャードに教わるのが好きだった。名前を呼び捨てにしていいと言ってくれたことも嬉しかったし、全然兄弟に見えないのに自分のことを兄弟《フラテッロ》として選んでくれたリチャードのことが、大好きだった。
だから。
だからこれからずっと、リチャードのために誰かの命を奪いながら生きていくことになっても、何も後悔などするはずがないのだと、信じている。
