とにかく、今すぐに
公開 2023/09/24 15:28
最終更新
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「だから、大丈夫だと言っているでしょう」
「どこがだよ。絶対に良くない。大丈夫なわけあるか」
「私が何年この仕事をしてきたと思っているんです? あのような態度を取られたことは何度もありますし、そして適切な対処法も存じております」
「なんだよ、やっぱりお前も感付いてたんじゃないか。あの人のお前のことを見る目がおかしいってこと」
「正義、約款」
「……これはそういう意味じゃない。分かってるだろ。それにこれまではそうだったかもしれないけど、今は俺がいるんだから……なぁ、考え直してくれないか」
今回の商談の相手は、シャウルさんの顧客の友人のそのまた友人──つまりほぼ無関係の人物だった。
40歳を過ぎたばかりの若さで大手商社の取締役を勤めているというスタンリー氏は、良質のカラーチェンジ・ガーネットを恩人へのプレゼントにしたいとリチャードに相談してきた。
今日は、依頼通りに買い付けてきたルースを確認していただく予定だったのだが。 どうにもリチャードを見る目がおかしい。勘違いかと思ったが、口振り、手つき、視線。それらがどうしても豪華客船でのアメン氏を連想させてくる。決定的だと思ったのは「追加でいくつかお願いしたい。今手元にあるもので構わないので、明日食事をしながらでも」などと言われたことだった。
「うあー、やっぱりお前を行かせたくない。俺が1人で行くからお前は残っててくれ」
「承諾しかねます。そもそも正義、あなたはさっきから私のことばかりを気にしていますが、スタンリー様の秘書の方があなたに熱い視線を向けていたのに気付いていないのですか。あちらのオフィスから帰る間際にも話しかけられていたでしょう」
「あれは秘書同士、仕事のノウハウの話をしてただけで」
「連絡先かメールアドレスでも渡されましたか」
「……見てたのか?」
「見てません。が、容易に想像が出来ます。相変わらず自分に向けられる好意に疎いというか……」
「確かに電話番号渡されて、今度こっちに来るときに連絡をって言われたけど、その、ちゃんと好きな人がいるからって……断ったし……」
「………………左様で」
「あぁーもう! だから俺のことはいいんだってば! とにかく、お前をスタンリー様と会わせるのは絶対に許可しないからな!」
「それは秘書としての権限を逸脱しているでしょう」
「これは秘書としてじゃなくて、俺の好きな人を大切にしたいからです!!」
「………………………………左様で」
□ □ □
「ねぇ、いい加減僕のことも思い出してくれないかなぁ」
従弟とその専属秘書──僕からしたらもうパートナー以外の何者でもないと思うんだけど、まだ付き合ってないらしい──2人に放置されたまま、ソファに横になってぽちぽちとスマホを操作する。
あーこの人か。うんうん、色々やらかしてるみたいだねぇ。
手頃なゴシップを数件ピックアップして馴染みの新聞記者に送りつつ、まだ言い争いをしているリチャードと中田くんを眺める。この様子じゃまだしばらくかかりそうだ。こっちに来るっていうから食事でも、と思ってたのに。
彼らに相手をしてもらうのは諦めて、いつも送信履歴の上位にいる相手に愚痴を聞いてもらうことに決めた。
『ハーイ、キム。急で悪いけど、今晩空いてる? 弟たちの痴話喧嘩から逃げたいんだけど』
「どこがだよ。絶対に良くない。大丈夫なわけあるか」
「私が何年この仕事をしてきたと思っているんです? あのような態度を取られたことは何度もありますし、そして適切な対処法も存じております」
「なんだよ、やっぱりお前も感付いてたんじゃないか。あの人のお前のことを見る目がおかしいってこと」
「正義、約款」
「……これはそういう意味じゃない。分かってるだろ。それにこれまではそうだったかもしれないけど、今は俺がいるんだから……なぁ、考え直してくれないか」
今回の商談の相手は、シャウルさんの顧客の友人のそのまた友人──つまりほぼ無関係の人物だった。
40歳を過ぎたばかりの若さで大手商社の取締役を勤めているというスタンリー氏は、良質のカラーチェンジ・ガーネットを恩人へのプレゼントにしたいとリチャードに相談してきた。
今日は、依頼通りに買い付けてきたルースを確認していただく予定だったのだが。 どうにもリチャードを見る目がおかしい。勘違いかと思ったが、口振り、手つき、視線。それらがどうしても豪華客船でのアメン氏を連想させてくる。決定的だと思ったのは「追加でいくつかお願いしたい。今手元にあるもので構わないので、明日食事をしながらでも」などと言われたことだった。
「うあー、やっぱりお前を行かせたくない。俺が1人で行くからお前は残っててくれ」
「承諾しかねます。そもそも正義、あなたはさっきから私のことばかりを気にしていますが、スタンリー様の秘書の方があなたに熱い視線を向けていたのに気付いていないのですか。あちらのオフィスから帰る間際にも話しかけられていたでしょう」
「あれは秘書同士、仕事のノウハウの話をしてただけで」
「連絡先かメールアドレスでも渡されましたか」
「……見てたのか?」
「見てません。が、容易に想像が出来ます。相変わらず自分に向けられる好意に疎いというか……」
「確かに電話番号渡されて、今度こっちに来るときに連絡をって言われたけど、その、ちゃんと好きな人がいるからって……断ったし……」
「………………左様で」
「あぁーもう! だから俺のことはいいんだってば! とにかく、お前をスタンリー様と会わせるのは絶対に許可しないからな!」
「それは秘書としての権限を逸脱しているでしょう」
「これは秘書としてじゃなくて、俺の好きな人を大切にしたいからです!!」
「………………………………左様で」
□ □ □
「ねぇ、いい加減僕のことも思い出してくれないかなぁ」
従弟とその専属秘書──僕からしたらもうパートナー以外の何者でもないと思うんだけど、まだ付き合ってないらしい──2人に放置されたまま、ソファに横になってぽちぽちとスマホを操作する。
あーこの人か。うんうん、色々やらかしてるみたいだねぇ。
手頃なゴシップを数件ピックアップして馴染みの新聞記者に送りつつ、まだ言い争いをしているリチャードと中田くんを眺める。この様子じゃまだしばらくかかりそうだ。こっちに来るっていうから食事でも、と思ってたのに。
彼らに相手をしてもらうのは諦めて、いつも送信履歴の上位にいる相手に愚痴を聞いてもらうことに決めた。
『ハーイ、キム。急で悪いけど、今晩空いてる? 弟たちの痴話喧嘩から逃げたいんだけど』
