わたしを癒すもの
公開 2023/09/24 15:09
最終更新
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※夏の納涼SS祭り……みたいなのに向けて書いた(ような気がする)
連日の暑さで俺がひぃひぃ言っているというのに、リチャードはいつもと変わらずきっちりスーツを着こなし今日もお客様に宝石の説明をしている。世界各地を飛び回っていると体感温度も違うんだろうかと考えてしまうほどに。
「そんなわけがないでしょう」
「だよなぁ」
「暑いとは感じますし当然汗もかきますよ。特に日本の夏は湿度も高めな日が多いので不快に感じやすいのかと」
「……お前に少しでも快適な夏を過ごしてもらいたいんだけど、東京じゃそうもいかないよな」
「アルバイトにしては大変殊勝な心掛けかと思います。それに、別に無理というわけでもありませんよ、正義」
「え?」
「大学はもう夏休みに入っていたかと思いますが……そうですね、来週の金曜日に時間を作れませんか? 出来れば朝から」
「特に予定はないよ。お客様のところに伺うのか?」
「いいえ。その日は私も予定が空いていますので」
リチャードは珍しく、悪戯を思い付いたような目で微笑んだ。
「涼みに行きましょう」
□ □ □
「うぉー! 涼しい!!」
わざわざアパート近くまで迎えに来てくれたリチャードが向かった先は、温泉街の少し奥にある滝だった。たくさんの緑に囲まれて、日差しが遮られているのもあって涼しい。滝に向かう遊歩道を歩いているだけでも水の流れる音が聞こえるのも、涼しさの一因かもしれない。
「近くにお客様がお住まいで、以前訪問させて頂いたときにこの滝のことを教えてくださったのです。やはり涼しいですね」
「本当だなぁ。近くに川とかはあるけど滝はさすがにないから、こんなに近くで見られて嬉しいよ。連れてきてくれてありがとな、リチャード」
以前ダイヤモンドを見に行ったときに偶然私服のリチャードを見かけたが、今日の服装もそれに近い。ラフ過ぎず、堅過ぎずの絶妙な雰囲気を醸し出しているうえに、今は大自然に囲まれたシチュエーションだ。濃い緑の中で一際白い肌と金糸が映えて、天女が降りてきたのだと言われても納得してしまいそうになる。
「…………誰が天女だ」
「あぁごめん。また口から出てたか。でもな、それくらい美しいなという意味で」
「いいから、その口を、閉じろ」
「はい」
リチャードの頬がほんのり赤くなっている気がする。熱中症ではないみたいだけど、滝の近くは涼しいとはいえ、あとでしっかり水分補給をさせなきゃダメだな。
滝に一番近いところにまで来ると、水の落下する音がすごくてそれなりに声が大きくなってしまいそうだった。リチャードと2人で並んで、何も考えずに細かい水飛沫を肌に感じる。
「なんだっけこういうの。癒されるっていうか……マイナスイオン?」
「マイナスイオンについては諸説あるようですが、癒しの効果は科学的に証明されてはいないそうですよ」
「そうなのか? まあただ水の近くは涼しくて気持ちいいってだけだしなぁ。癒されるんならリチャードを見てる方がずっと効果あるし」
「……は?」
「リチャードイオン、なんつって」
俺が笑いながら言った途端に眉間に一気に皺が寄ったのでぎょっとする。ついでに堪えるように握り拳を作っているのにも気付いてしまい、さすがに慌ててしまった。
「大丈夫かリチャード。具合でも悪いのか? えっと甘味……いつものロイヤルミルクティー味の飴しかないけど食うか?」
「あなたは、一体、私を何だと思っているんですか…………飴は頂きます」
「うん、どうぞ」
差し出した飴を即座に口に含んだと思えばリチャードにしては大変珍しくガリゴリと音を立てて飴を噛み砕いてしまった。腹が減っているのかもしれない。
「……もう昼時ですし人も増えてきましたから、そろそろ帰りましょうか」
「あ、ああ。そうだな」
粉々になっているであろう飴を飲み込んだあとは、いつもの麗しの宝石商リチャードさんの顔に戻っていた。駐車場に引き返そうと遊歩道を歩き出したとき、背後でリチャードが何かを呟いた気がした。
「……滝より中田イオンの方が効果がありますね」
「? 何か言ったか?」
「いいえ何も。ところで正義、途中にある茶屋で甘酒を飲みませんか」
「……お客様に勧められたのはもしかしてそっちか?」
「さて、どうでしょう」
なんのことやら、としれっと答える顔も綺麗だなと言ったら、全力でデコピンをされた。
連日の暑さで俺がひぃひぃ言っているというのに、リチャードはいつもと変わらずきっちりスーツを着こなし今日もお客様に宝石の説明をしている。世界各地を飛び回っていると体感温度も違うんだろうかと考えてしまうほどに。
「そんなわけがないでしょう」
「だよなぁ」
「暑いとは感じますし当然汗もかきますよ。特に日本の夏は湿度も高めな日が多いので不快に感じやすいのかと」
「……お前に少しでも快適な夏を過ごしてもらいたいんだけど、東京じゃそうもいかないよな」
「アルバイトにしては大変殊勝な心掛けかと思います。それに、別に無理というわけでもありませんよ、正義」
「え?」
「大学はもう夏休みに入っていたかと思いますが……そうですね、来週の金曜日に時間を作れませんか? 出来れば朝から」
「特に予定はないよ。お客様のところに伺うのか?」
「いいえ。その日は私も予定が空いていますので」
リチャードは珍しく、悪戯を思い付いたような目で微笑んだ。
「涼みに行きましょう」
□ □ □
「うぉー! 涼しい!!」
わざわざアパート近くまで迎えに来てくれたリチャードが向かった先は、温泉街の少し奥にある滝だった。たくさんの緑に囲まれて、日差しが遮られているのもあって涼しい。滝に向かう遊歩道を歩いているだけでも水の流れる音が聞こえるのも、涼しさの一因かもしれない。
「近くにお客様がお住まいで、以前訪問させて頂いたときにこの滝のことを教えてくださったのです。やはり涼しいですね」
「本当だなぁ。近くに川とかはあるけど滝はさすがにないから、こんなに近くで見られて嬉しいよ。連れてきてくれてありがとな、リチャード」
以前ダイヤモンドを見に行ったときに偶然私服のリチャードを見かけたが、今日の服装もそれに近い。ラフ過ぎず、堅過ぎずの絶妙な雰囲気を醸し出しているうえに、今は大自然に囲まれたシチュエーションだ。濃い緑の中で一際白い肌と金糸が映えて、天女が降りてきたのだと言われても納得してしまいそうになる。
「…………誰が天女だ」
「あぁごめん。また口から出てたか。でもな、それくらい美しいなという意味で」
「いいから、その口を、閉じろ」
「はい」
リチャードの頬がほんのり赤くなっている気がする。熱中症ではないみたいだけど、滝の近くは涼しいとはいえ、あとでしっかり水分補給をさせなきゃダメだな。
滝に一番近いところにまで来ると、水の落下する音がすごくてそれなりに声が大きくなってしまいそうだった。リチャードと2人で並んで、何も考えずに細かい水飛沫を肌に感じる。
「なんだっけこういうの。癒されるっていうか……マイナスイオン?」
「マイナスイオンについては諸説あるようですが、癒しの効果は科学的に証明されてはいないそうですよ」
「そうなのか? まあただ水の近くは涼しくて気持ちいいってだけだしなぁ。癒されるんならリチャードを見てる方がずっと効果あるし」
「……は?」
「リチャードイオン、なんつって」
俺が笑いながら言った途端に眉間に一気に皺が寄ったのでぎょっとする。ついでに堪えるように握り拳を作っているのにも気付いてしまい、さすがに慌ててしまった。
「大丈夫かリチャード。具合でも悪いのか? えっと甘味……いつものロイヤルミルクティー味の飴しかないけど食うか?」
「あなたは、一体、私を何だと思っているんですか…………飴は頂きます」
「うん、どうぞ」
差し出した飴を即座に口に含んだと思えばリチャードにしては大変珍しくガリゴリと音を立てて飴を噛み砕いてしまった。腹が減っているのかもしれない。
「……もう昼時ですし人も増えてきましたから、そろそろ帰りましょうか」
「あ、ああ。そうだな」
粉々になっているであろう飴を飲み込んだあとは、いつもの麗しの宝石商リチャードさんの顔に戻っていた。駐車場に引き返そうと遊歩道を歩き出したとき、背後でリチャードが何かを呟いた気がした。
「……滝より中田イオンの方が効果がありますね」
「? 何か言ったか?」
「いいえ何も。ところで正義、途中にある茶屋で甘酒を飲みませんか」
「……お客様に勧められたのはもしかしてそっちか?」
「さて、どうでしょう」
なんのことやら、としれっと答える顔も綺麗だなと言ったら、全力でデコピンをされた。
