仔犬の逆襲
公開 2023/09/24 15:05
最終更新
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「ただいまー」
ジローと一緒に朝の散歩から帰ってきてもリチャードはまだ起きていなかった。時計は朝の8時を示している。南米での買い付けのあとそのまま香港へ商談に向かい、キャンディに来るのは明後日の予定だったはずが「早い便の飛行機が取れましたので」と夕方に突然キャンディの社宅に帰ってきた。相変わらず過保護だと思いながらも、早く来てくれたことが素直に嬉しい。無理をしないで欲しいとは思うのだけれど。
ジローに朝ごはんをあげてから自分たちの朝食も用意する。リチャードが帰ってくるとは思っていなかったからあとで買い物に行かなければならないけれど、1日分くらいの食材は冷蔵庫に入っていたから助かった。
最近気に入っているレモンのドレッシングを使った人参のラペ、庭から捥いできた果物は一口大に切ってガラスの器へ。メインのフレンチトーストは昨日のうちに仕込んであってあとは焼くだけの状態なので、リチャードが起きてきてから焼くことにする。あとはいつもの中田謹製プリン。ミルクティーはアイスかホットどちらがいいか聞いてから準備しよう。
9時半になっても起きてこなかったら寝室に様子を見に行こうと決めて、朝の日課をこなす。シャウルさんが買い付けてきた大量の石を選別していたら、階段が軋む音がした。思わず時計を見る。9時20分。
振り返ればリビングの入り口にシーツを羽織ったままのリチャードが立っていて、思わず笑ってしまった。
「おはよう、シーツお化けさん。もう少ししたら起こしに行こうと思ってたんだ」
「……はよ……す……」
「うん、まだ寝てるな。洗面所まで1人で行けるか? 朝ごはんフレンチトーストだからこれから焼くけど……そうだ、お前ミルクティーホットとアイスどっちがいい?」
視線をテーブルに戻して石を片付けていると背後に気配を感じる。洗面所まで連れて行かないとダメかな、と考えていると、少しひんやりとした手が肩に置かれ、それから
「びゃうっ!?」
変な声が出た。
背骨、というか首の付け根。そこに柔らかくて熱い何かが押し付けられている。それがリチャードの唇だと理解したのは、ふんわりと触れるリチャードの髪の毛と、無精髭が肌に擦れるざらりとした2つの感触を一気に感じ取ったからだ。チリッとした痛みが走って思わず甘い声が出る。
「ぁ……っ」
ぶるりと身体が震えて、テーブルに着いた手を強く握った。なんだこれ。なんだこれ。まだ朝なんだけど、いや朝じゃなくてもどうかと思うんだけど。突然の出来事にパニックになっている俺のことなど気にしていないのか、リチャードはリップ音を響かせてリビングを出て行った。首を押さえたまま思い切り振り返れば、フラフラした足取りのシーツお化けが洗面所の方へと歩いていくのが見えた。
あれは、完全に、寝ぼけている!
数分前までリチャードの寝起きの姿に可愛いな、なんて思っていたのに今は猛烈に腹が立っていた。だってこんな一方的にこちらの熱を煽るようなことをしておいて、きっと身支度を整えたあとは覚えていないのだ。ズルい。ズルいというか……ズルい!
石の片付けを放り出して洗面所へと向かい、思い切りドアを開ける。顔を洗おうとしていたのか前髪を上げていたリチャードのまだ少しぽやっとした瞳と目が合った。
「……せいぎ?」
「あのな、寝ぼけてるのは分かるけど、俺も男なんだよ」
「はぁ……」
「あと俺たち一応、その、付き合ってるわけで」
「はい……」
少しずつ覚醒しているのか、話をしながらゆっくり青色を濃くする瞳を一度睨んでからリチャードの両肩を掴んで、喉仏に噛み付いた。
「……恋人同士なのに一方的な朝の挨拶をするのは、どうかと思う」
──ちなみに、フレンチトーストは昼食になった。
ジローと一緒に朝の散歩から帰ってきてもリチャードはまだ起きていなかった。時計は朝の8時を示している。南米での買い付けのあとそのまま香港へ商談に向かい、キャンディに来るのは明後日の予定だったはずが「早い便の飛行機が取れましたので」と夕方に突然キャンディの社宅に帰ってきた。相変わらず過保護だと思いながらも、早く来てくれたことが素直に嬉しい。無理をしないで欲しいとは思うのだけれど。
ジローに朝ごはんをあげてから自分たちの朝食も用意する。リチャードが帰ってくるとは思っていなかったからあとで買い物に行かなければならないけれど、1日分くらいの食材は冷蔵庫に入っていたから助かった。
最近気に入っているレモンのドレッシングを使った人参のラペ、庭から捥いできた果物は一口大に切ってガラスの器へ。メインのフレンチトーストは昨日のうちに仕込んであってあとは焼くだけの状態なので、リチャードが起きてきてから焼くことにする。あとはいつもの中田謹製プリン。ミルクティーはアイスかホットどちらがいいか聞いてから準備しよう。
9時半になっても起きてこなかったら寝室に様子を見に行こうと決めて、朝の日課をこなす。シャウルさんが買い付けてきた大量の石を選別していたら、階段が軋む音がした。思わず時計を見る。9時20分。
振り返ればリビングの入り口にシーツを羽織ったままのリチャードが立っていて、思わず笑ってしまった。
「おはよう、シーツお化けさん。もう少ししたら起こしに行こうと思ってたんだ」
「……はよ……す……」
「うん、まだ寝てるな。洗面所まで1人で行けるか? 朝ごはんフレンチトーストだからこれから焼くけど……そうだ、お前ミルクティーホットとアイスどっちがいい?」
視線をテーブルに戻して石を片付けていると背後に気配を感じる。洗面所まで連れて行かないとダメかな、と考えていると、少しひんやりとした手が肩に置かれ、それから
「びゃうっ!?」
変な声が出た。
背骨、というか首の付け根。そこに柔らかくて熱い何かが押し付けられている。それがリチャードの唇だと理解したのは、ふんわりと触れるリチャードの髪の毛と、無精髭が肌に擦れるざらりとした2つの感触を一気に感じ取ったからだ。チリッとした痛みが走って思わず甘い声が出る。
「ぁ……っ」
ぶるりと身体が震えて、テーブルに着いた手を強く握った。なんだこれ。なんだこれ。まだ朝なんだけど、いや朝じゃなくてもどうかと思うんだけど。突然の出来事にパニックになっている俺のことなど気にしていないのか、リチャードはリップ音を響かせてリビングを出て行った。首を押さえたまま思い切り振り返れば、フラフラした足取りのシーツお化けが洗面所の方へと歩いていくのが見えた。
あれは、完全に、寝ぼけている!
数分前までリチャードの寝起きの姿に可愛いな、なんて思っていたのに今は猛烈に腹が立っていた。だってこんな一方的にこちらの熱を煽るようなことをしておいて、きっと身支度を整えたあとは覚えていないのだ。ズルい。ズルいというか……ズルい!
石の片付けを放り出して洗面所へと向かい、思い切りドアを開ける。顔を洗おうとしていたのか前髪を上げていたリチャードのまだ少しぽやっとした瞳と目が合った。
「……せいぎ?」
「あのな、寝ぼけてるのは分かるけど、俺も男なんだよ」
「はぁ……」
「あと俺たち一応、その、付き合ってるわけで」
「はい……」
少しずつ覚醒しているのか、話をしながらゆっくり青色を濃くする瞳を一度睨んでからリチャードの両肩を掴んで、喉仏に噛み付いた。
「……恋人同士なのに一方的な朝の挨拶をするのは、どうかと思う」
──ちなみに、フレンチトーストは昼食になった。
