どちらかが魔性~Which is the Bitch?~
公開 2023/09/24 14:41
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※エトラの二人が女体化してます※
「ハーイ、こちらは午前11時過ぎのニューヨーク、会議が終わって一段落のジェフリー・クレアモントです」
「すみませんジェフリーさん、突然連絡してしまって」
「気にしないで。どうせ年寄りの話を聞くだけのつまらない会議が待っているだけなんです。僕の息抜きに付き合ってもらう形になるかもしれませんよ」
「少しは休んでくださいね。で、その……お聞きしたいことがあって」
「まあ大体想像はつくけど、リッキーのことかな?」
「はい」
「今度は何したんだい? 趣味に合わないランジェリーでも贈られた? それともネグリジェかな」
「………………なんでリチャードが買ってきたもの知っているんです?」
「本当に聞きたいですか?」
「やめてください、なんか怖い……!」
「アッハッハ」
「……まあとにかく、その、買ってきてもらったものじゃなくて、リチャード自身についてなんですけど」
「うんうん、続けて? コーヒー飲みながら聞くから」
「リチャードってビッチなんですか?」
「ビッ……ぅげっほ! がふっ……は……はぁぁ!!?」
□ □ □
リチャードからのボディタッチが多いことに気が付いたのは、私がキャンディで宝石商見習いをするようになってしばらくしてからのことだ。自分の立ち位置が分からなくてふわふわしていた時期を過ぎ、リチャードが視察として頻繁にここスリランカを訪れるようになった頃だった。
何気ない会話の合間に、するりと手の甲を指でなぞったり。料理をしているとき、刃物と火を扱っていないタイミングで後ろから抱き着いてきたり。ソファで並んで本を読んでいると、僅かな隙間を詰められて二の腕同士がぴたりとくっつく距離になったあと、ことりと私の肩に形の良い頭を預けるようになったり。
極めつけは、眠る前に私の部屋の前でキスを――頬や額だけでなく首筋や鎖骨、耳元にまで――落としてくるようになったことだ。おやすみの挨拶を交わすとき、リチャードの桃色の唇が小さく音を立てながら私の身体に触れ、満足げに微笑みながら必ず最後に右手で頬をそわりと撫でる。
「おやすみなさい、正義……良い夢を」
つ、とフェイスラインをなぞるように指を滑らせた後、リチャードは3階の自室へと向かって背を向ける。それを見送る私の心臓はもう破裂するんじゃないかと思うくらい動悸が激しくて、まるで全力疾走をした直後のように暴れまわっている。リチャードとの付き合いもそれなりの年数になったけれど、あの美しさはいつだって私の身体をおかしくさせるのだ。
熱に浮かされてふらつく身体をなんとか立て直して自分のベッドに倒れこんだ後、いつも枕に顔を埋めて数分間呻いてしまう。いつも寸でのところで堪えているけれど、本当に本当にこのままでは美の過剰摂取で死んでしまう。首筋をキスされた時ぞわってして変な声が出そうだった。しかもあんな色っぽいとしか言いようのない艶めかしい顔で笑うなんて反則過ぎる。だってあんなの私が男の人だったら勘違いしちゃうよ……!
勘違い、という単語にピタリと全身の動きが止まった。
(……あれ、まさかとは思うけど……もしかして、もしかするのか?)
なんとか呼吸を落ち着けてからもぞもぞと動いて、キャンディにくる前に新調したスマホを取り出した。サンキューインターネット。検索サイトにぽちぽちと単語をいくつか入れてみる。「ボディタッチ 心理 女性」
出てくるページからさらに別のワードを追加したり入れ替えたり、を何度かやり行きついた先にあったのは『小悪魔感がスゴイ! 清楚系ビッチの特徴とは』というワードだった。
「なるほど、清楚系ビッチ……!」
□ □ □
「ということです」
「ううーん、何ひとつ意味がわからない」
「? だから、リチャードが清楚系ビッチなんじゃないかって」
「そこじゃないんだなぁ……あと先に言っておくけどそれだけは! 絶対! ないから!! 僕の従妹は純度1000%のピュアの塊ですよ!!」
「私も、リチャードに限ってとは思うんですけど。でもなんかもう調べれば調べるほど当てはまるし……お客様に対してそんな素振りをしていたことバイト時代も見たことはないけど、あの頃は週に2日しか会えなくて他の5日は海外に行ったり商談したりあちこち飛び回ってたわけで」
「まさかその間にリッキーが男漁りでもしてたって思っているんですか?」
「おとっ……! そうじゃなくて逆です! いろんな人から言い寄られて清楚系ビッチって見られてたんじゃないのかってことが、その、心配で……!」
「あぁーそっち!? そっちかー!」
「リチャードは優しいから、すごく……すごく優しいからいろんな人のことを助けたり慰めたりしてきたと思うんです。私が落ち込んでたり泣いちゃったときに慰めるために、その、キ、キ、キ」
「キスね」
「キ、キス、です。はい。最近は何もなくても、その、してくれるから」
「なんでキスって単語より清楚系ビッチってことの方がスラスラ言えるの?」
「なんか、恥ずかしくて……」
「中田くんの恥じらいポイント大丈夫? 壊れてない? ……まあとにかくですね。さっきも言ったけれどリッキーは君のいうところの清楚系ビッチ……可哀想になってきた。そんなものではなく本当に、ほんとーに! 素直で一途な子ですよ」
「そう、です、よね……じゃあなんでだろ」
「そういえば、ねぇ中田くん。あいつにキスされた部位を覚えていますか?」
「? はい、一応。順番とかは別にないですけど、額、頬、耳、鼻……あと首と鎖骨のあたりかな。たまに手首とか手のひらとかにも」
「ワアォ、情熱的だねぇ。意図が相手にまったく伝わっていないのが可哀想になってくるけど」
「はぁ……ん? 意図?」
「今度キスの場所と意味についてを調べてみるといいですよ。いや、直接聞いた方が早いかな」
「直接? ってだれ」
「ええ、今夜じっくりと教えて差し上げることにします。ではジェフ、また後日連絡しますので」
「ぎゃあ!! えっ、リチャ」
「オススメのワインで手を打つよ」
「えっ本当にリチャード!? おま、帰ってくるの明日の予【通話が終了しました】
□ □ □
真っ暗になった画面の電源を落としつつ、キャンディで今慌てふためいているであろう中田くんと恐ろしいと感じるほどの笑顔を浮かべていたリチャードの姿を想像して、どっと疲れが襲ってくるのを感じた。
中田くんは真剣に相談していたから気付いていなかったようだが、リチャードは結構早い段階、具体的には僕がコーヒーを噴き出した直後辺りから画面の端にいた。
これが日本にいるご両親とのやりとりであれば最後まで姿を見せることなく自室に向かったのだろうが、相手が僕だと気付くや否や「私が戻っていることを正義には知らせないように」とメールを寄越してきた。なんでも抱え込みがちの中田くんの相談なんて滅多にあるものじゃない。しかも自分に関する相談とくれば、思わず聞き耳を立てたくもなるだろう……内容は、ともかくとして。
「……………………つかれた」
午後の会議はあと3件。いずれも議事録に目を通しておけばなんとでもなる内容だ。秘書に夜に入っている会食の時刻まで休みにする旨をメールして、そのままデスクチェアでひと眠りすることにした。
後日。
リチャードから最近お気に入りだというイタリアワインが1ダース贈られてきた。そのお礼と近況確認を兼ねてキャンディに連絡すればリチャードは不在だったが、中田くんが面白いくらいに顔を真っ赤にしながら「その節は、大変、ご迷惑をおかけしまして……」などと謝ってくるものだからPCの前で涙を流すくらい大笑いしてしまった。この様子からすると、不器用で一途すぎる従妹の愛情はちゃんと流れ着く先を見つけたらしい。
中田くんはリチャードを魔性の女だと思っていたみたいだけれど、おそらくリチャードからは中田くんこそが魔性だっただろう。自分の持つ魅力に気付かないまま、周囲の人を温かく照らすような女性だ。スリランカでも結構な頻度で男性からアプローチを受けているらしい。リチャードが焦って態度をあからさまにするのも無理はない。
さて、晴れて幸せなスタートを迎えた2人に、今度モルディブ行きのチケットでも送ってやろうか。水上コテージの予約もついでに取ってしまおう。リチャードは美しい顔を顰めつつ、中田くんは目をキラキラさせながら喜んでくれるだろう。そんな中田くんの姿にやれやれと肩を落とすリッキー、までが1セットだ。
中田くんの近況を聞きながら、僕は航空会社のページを開いた。
「ハーイ、こちらは午前11時過ぎのニューヨーク、会議が終わって一段落のジェフリー・クレアモントです」
「すみませんジェフリーさん、突然連絡してしまって」
「気にしないで。どうせ年寄りの話を聞くだけのつまらない会議が待っているだけなんです。僕の息抜きに付き合ってもらう形になるかもしれませんよ」
「少しは休んでくださいね。で、その……お聞きしたいことがあって」
「まあ大体想像はつくけど、リッキーのことかな?」
「はい」
「今度は何したんだい? 趣味に合わないランジェリーでも贈られた? それともネグリジェかな」
「………………なんでリチャードが買ってきたもの知っているんです?」
「本当に聞きたいですか?」
「やめてください、なんか怖い……!」
「アッハッハ」
「……まあとにかく、その、買ってきてもらったものじゃなくて、リチャード自身についてなんですけど」
「うんうん、続けて? コーヒー飲みながら聞くから」
「リチャードってビッチなんですか?」
「ビッ……ぅげっほ! がふっ……は……はぁぁ!!?」
□ □ □
リチャードからのボディタッチが多いことに気が付いたのは、私がキャンディで宝石商見習いをするようになってしばらくしてからのことだ。自分の立ち位置が分からなくてふわふわしていた時期を過ぎ、リチャードが視察として頻繁にここスリランカを訪れるようになった頃だった。
何気ない会話の合間に、するりと手の甲を指でなぞったり。料理をしているとき、刃物と火を扱っていないタイミングで後ろから抱き着いてきたり。ソファで並んで本を読んでいると、僅かな隙間を詰められて二の腕同士がぴたりとくっつく距離になったあと、ことりと私の肩に形の良い頭を預けるようになったり。
極めつけは、眠る前に私の部屋の前でキスを――頬や額だけでなく首筋や鎖骨、耳元にまで――落としてくるようになったことだ。おやすみの挨拶を交わすとき、リチャードの桃色の唇が小さく音を立てながら私の身体に触れ、満足げに微笑みながら必ず最後に右手で頬をそわりと撫でる。
「おやすみなさい、正義……良い夢を」
つ、とフェイスラインをなぞるように指を滑らせた後、リチャードは3階の自室へと向かって背を向ける。それを見送る私の心臓はもう破裂するんじゃないかと思うくらい動悸が激しくて、まるで全力疾走をした直後のように暴れまわっている。リチャードとの付き合いもそれなりの年数になったけれど、あの美しさはいつだって私の身体をおかしくさせるのだ。
熱に浮かされてふらつく身体をなんとか立て直して自分のベッドに倒れこんだ後、いつも枕に顔を埋めて数分間呻いてしまう。いつも寸でのところで堪えているけれど、本当に本当にこのままでは美の過剰摂取で死んでしまう。首筋をキスされた時ぞわってして変な声が出そうだった。しかもあんな色っぽいとしか言いようのない艶めかしい顔で笑うなんて反則過ぎる。だってあんなの私が男の人だったら勘違いしちゃうよ……!
勘違い、という単語にピタリと全身の動きが止まった。
(……あれ、まさかとは思うけど……もしかして、もしかするのか?)
なんとか呼吸を落ち着けてからもぞもぞと動いて、キャンディにくる前に新調したスマホを取り出した。サンキューインターネット。検索サイトにぽちぽちと単語をいくつか入れてみる。「ボディタッチ 心理 女性」
出てくるページからさらに別のワードを追加したり入れ替えたり、を何度かやり行きついた先にあったのは『小悪魔感がスゴイ! 清楚系ビッチの特徴とは』というワードだった。
「なるほど、清楚系ビッチ……!」
□ □ □
「ということです」
「ううーん、何ひとつ意味がわからない」
「? だから、リチャードが清楚系ビッチなんじゃないかって」
「そこじゃないんだなぁ……あと先に言っておくけどそれだけは! 絶対! ないから!! 僕の従妹は純度1000%のピュアの塊ですよ!!」
「私も、リチャードに限ってとは思うんですけど。でもなんかもう調べれば調べるほど当てはまるし……お客様に対してそんな素振りをしていたことバイト時代も見たことはないけど、あの頃は週に2日しか会えなくて他の5日は海外に行ったり商談したりあちこち飛び回ってたわけで」
「まさかその間にリッキーが男漁りでもしてたって思っているんですか?」
「おとっ……! そうじゃなくて逆です! いろんな人から言い寄られて清楚系ビッチって見られてたんじゃないのかってことが、その、心配で……!」
「あぁーそっち!? そっちかー!」
「リチャードは優しいから、すごく……すごく優しいからいろんな人のことを助けたり慰めたりしてきたと思うんです。私が落ち込んでたり泣いちゃったときに慰めるために、その、キ、キ、キ」
「キスね」
「キ、キス、です。はい。最近は何もなくても、その、してくれるから」
「なんでキスって単語より清楚系ビッチってことの方がスラスラ言えるの?」
「なんか、恥ずかしくて……」
「中田くんの恥じらいポイント大丈夫? 壊れてない? ……まあとにかくですね。さっきも言ったけれどリッキーは君のいうところの清楚系ビッチ……可哀想になってきた。そんなものではなく本当に、ほんとーに! 素直で一途な子ですよ」
「そう、です、よね……じゃあなんでだろ」
「そういえば、ねぇ中田くん。あいつにキスされた部位を覚えていますか?」
「? はい、一応。順番とかは別にないですけど、額、頬、耳、鼻……あと首と鎖骨のあたりかな。たまに手首とか手のひらとかにも」
「ワアォ、情熱的だねぇ。意図が相手にまったく伝わっていないのが可哀想になってくるけど」
「はぁ……ん? 意図?」
「今度キスの場所と意味についてを調べてみるといいですよ。いや、直接聞いた方が早いかな」
「直接? ってだれ」
「ええ、今夜じっくりと教えて差し上げることにします。ではジェフ、また後日連絡しますので」
「ぎゃあ!! えっ、リチャ」
「オススメのワインで手を打つよ」
「えっ本当にリチャード!? おま、帰ってくるの明日の予【通話が終了しました】
□ □ □
真っ暗になった画面の電源を落としつつ、キャンディで今慌てふためいているであろう中田くんと恐ろしいと感じるほどの笑顔を浮かべていたリチャードの姿を想像して、どっと疲れが襲ってくるのを感じた。
中田くんは真剣に相談していたから気付いていなかったようだが、リチャードは結構早い段階、具体的には僕がコーヒーを噴き出した直後辺りから画面の端にいた。
これが日本にいるご両親とのやりとりであれば最後まで姿を見せることなく自室に向かったのだろうが、相手が僕だと気付くや否や「私が戻っていることを正義には知らせないように」とメールを寄越してきた。なんでも抱え込みがちの中田くんの相談なんて滅多にあるものじゃない。しかも自分に関する相談とくれば、思わず聞き耳を立てたくもなるだろう……内容は、ともかくとして。
「……………………つかれた」
午後の会議はあと3件。いずれも議事録に目を通しておけばなんとでもなる内容だ。秘書に夜に入っている会食の時刻まで休みにする旨をメールして、そのままデスクチェアでひと眠りすることにした。
後日。
リチャードから最近お気に入りだというイタリアワインが1ダース贈られてきた。そのお礼と近況確認を兼ねてキャンディに連絡すればリチャードは不在だったが、中田くんが面白いくらいに顔を真っ赤にしながら「その節は、大変、ご迷惑をおかけしまして……」などと謝ってくるものだからPCの前で涙を流すくらい大笑いしてしまった。この様子からすると、不器用で一途すぎる従妹の愛情はちゃんと流れ着く先を見つけたらしい。
中田くんはリチャードを魔性の女だと思っていたみたいだけれど、おそらくリチャードからは中田くんこそが魔性だっただろう。自分の持つ魅力に気付かないまま、周囲の人を温かく照らすような女性だ。スリランカでも結構な頻度で男性からアプローチを受けているらしい。リチャードが焦って態度をあからさまにするのも無理はない。
さて、晴れて幸せなスタートを迎えた2人に、今度モルディブ行きのチケットでも送ってやろうか。水上コテージの予約もついでに取ってしまおう。リチャードは美しい顔を顰めつつ、中田くんは目をキラキラさせながら喜んでくれるだろう。そんな中田くんの姿にやれやれと肩を落とすリッキー、までが1セットだ。
中田くんの近況を聞きながら、僕は航空会社のページを開いた。
