大人なのはどちらか
公開 2023/09/24 14:37
最終更新
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※リチャ正喧嘩話
正義と喧嘩をした。思い返しても、なぜそんなことで喧嘩したのかと思うほど、とてもとても些細なことで。
今日は土曜だったが帰りにお客様のところへ商談に向かわなければならなかったので、いつもの食事にも行けなかった。謝るタイミングを完全に失っていることは自覚している。メールか電話で謝るのが一番早い。そう思ってスマートフォンを手に取るが、どうしても勇気が出なかった。
あそこまで怒る正義を見るのは初めてだったかもしれない。明日のバイトには来てくれるだろうか。無断欠勤など正義に限ってあり得ないだろうが、朝に「突然で申し訳ありませんが今日は休みます」なんてメッセージが届いていたらどうしたらいいのか。
悶々としながらも無理やり眠りに就いた時にはもう深夜2時だった。
寝不足でふらふらする頭をなんとか働かせつつメッセージを確認する。ジェックラグがあるわけでもないのに情けない。おそるおそる立ち上げたメッセージアプリには新規のものは届いていなかった。ほっとすると同時に昨夜より強い罪悪感が襲ってくる。
エトランジェに正義が来たら、すぐに謝ろう。そう心に決めて、気合を入れるべくシャワールームへと向かった。
今日はご予約のお客様は午後に1組だけの予定なので、時間の余裕はたっぷりある。そわそわしながら仕事のメールを片付けていた時、外の階段を上がってくる聞き慣れた足音に気付いた。いつもより20分も早い。
「……おはよう、リチャード」
「おはようございます正義。いつもより早い出勤なので少し驚きました。……あの、昨日は」
「ストップ! あの、出来れば先にお茶の用意をさせてくれないか。プリンを作って来たんだ」
「……わかりました。お任せしても?」
「うん。すぐ用意するから待ってて」
紙袋を持ったままキッチンに直行した正義の後姿を見送って、聞こえないように溜息を吐く。出鼻を挫かれてしまった。プリンを作ってきてくれたということは思っているより正義は気にしていないのかもしれない。それとも、食べ物を大切にする正義に限ってあり得ないとは思うが激辛プリンだったりするんだろうか。ついでに砂糖抜きのロイヤルミルクティーが出てきたとしても甘んじて受け入れよう。悪いのは私なのだ――
「おまたせ……ずっと立ってたのか?」
「……この高さから窓の向こうを見るのが好きでして」
「そうなのか? 知らなかった。ロイヤルミルクティー淹れたから座ってくれよ」
「ええ、いただきます」
いつもより大きいトレーから、正義が1つずつテーブルに並べていく。まずはロイヤルミルクティー、いつものプリン、濃茶のプリン、緑のプリン、真っ白なプリン。4つのプリンが私の前に並べられた。唖然とした私を見て、正義は満足そうに笑っている。
「昨日喧嘩しただろ。喧嘩っていうほどのものじゃないかもしれないけど……言い争っちゃったことは確かだからさ。これはお詫び、仲直りのプリンです」
「……昨日の件は完全に私に非があります。正義、本当に申し訳ありませんでした。年長者として昨日のうちに私から謝罪の連絡を入れるべきだったのに」
「リチャードがめちゃくちゃ反省してるってのは朝ドアを開けてくれた時の顔ですぐ分かったからいいんだ。お前気付いてないかもだけどすごい顔してたぞ」
「それは……お見苦しいところを」
「リチャードが見苦しいなんてことこれからも一生ないと思うけどなぁ。さぁリチャード、どれから食べる? これはいつもの、こっちがチョコプリン、抹茶プリン、この真っ白なのはミルクプリン! 好きなのから食べていいぞ!」
「ふふ、悩ましいですね……シェフ、あなたのオススメは?」
「そうだなぁ、一応全部味見してあるけど……やっぱりいつものかな」
「ではまずはそれを」
スプーンで掬って口に含んだそれは、いつもよりも甘い気がした。
「そうだ、言うタイミングがなかったんだけど、今日も世界一綺麗だな、リチャード」
「……ありがとうございます。正義、お茶のお替りを」
※実は砂糖抜きロイヤルミルクティーだったというオチにしようかと思ったんですがやめました。
正義と喧嘩をした。思い返しても、なぜそんなことで喧嘩したのかと思うほど、とてもとても些細なことで。
今日は土曜だったが帰りにお客様のところへ商談に向かわなければならなかったので、いつもの食事にも行けなかった。謝るタイミングを完全に失っていることは自覚している。メールか電話で謝るのが一番早い。そう思ってスマートフォンを手に取るが、どうしても勇気が出なかった。
あそこまで怒る正義を見るのは初めてだったかもしれない。明日のバイトには来てくれるだろうか。無断欠勤など正義に限ってあり得ないだろうが、朝に「突然で申し訳ありませんが今日は休みます」なんてメッセージが届いていたらどうしたらいいのか。
悶々としながらも無理やり眠りに就いた時にはもう深夜2時だった。
寝不足でふらふらする頭をなんとか働かせつつメッセージを確認する。ジェックラグがあるわけでもないのに情けない。おそるおそる立ち上げたメッセージアプリには新規のものは届いていなかった。ほっとすると同時に昨夜より強い罪悪感が襲ってくる。
エトランジェに正義が来たら、すぐに謝ろう。そう心に決めて、気合を入れるべくシャワールームへと向かった。
今日はご予約のお客様は午後に1組だけの予定なので、時間の余裕はたっぷりある。そわそわしながら仕事のメールを片付けていた時、外の階段を上がってくる聞き慣れた足音に気付いた。いつもより20分も早い。
「……おはよう、リチャード」
「おはようございます正義。いつもより早い出勤なので少し驚きました。……あの、昨日は」
「ストップ! あの、出来れば先にお茶の用意をさせてくれないか。プリンを作って来たんだ」
「……わかりました。お任せしても?」
「うん。すぐ用意するから待ってて」
紙袋を持ったままキッチンに直行した正義の後姿を見送って、聞こえないように溜息を吐く。出鼻を挫かれてしまった。プリンを作ってきてくれたということは思っているより正義は気にしていないのかもしれない。それとも、食べ物を大切にする正義に限ってあり得ないとは思うが激辛プリンだったりするんだろうか。ついでに砂糖抜きのロイヤルミルクティーが出てきたとしても甘んじて受け入れよう。悪いのは私なのだ――
「おまたせ……ずっと立ってたのか?」
「……この高さから窓の向こうを見るのが好きでして」
「そうなのか? 知らなかった。ロイヤルミルクティー淹れたから座ってくれよ」
「ええ、いただきます」
いつもより大きいトレーから、正義が1つずつテーブルに並べていく。まずはロイヤルミルクティー、いつものプリン、濃茶のプリン、緑のプリン、真っ白なプリン。4つのプリンが私の前に並べられた。唖然とした私を見て、正義は満足そうに笑っている。
「昨日喧嘩しただろ。喧嘩っていうほどのものじゃないかもしれないけど……言い争っちゃったことは確かだからさ。これはお詫び、仲直りのプリンです」
「……昨日の件は完全に私に非があります。正義、本当に申し訳ありませんでした。年長者として昨日のうちに私から謝罪の連絡を入れるべきだったのに」
「リチャードがめちゃくちゃ反省してるってのは朝ドアを開けてくれた時の顔ですぐ分かったからいいんだ。お前気付いてないかもだけどすごい顔してたぞ」
「それは……お見苦しいところを」
「リチャードが見苦しいなんてことこれからも一生ないと思うけどなぁ。さぁリチャード、どれから食べる? これはいつもの、こっちがチョコプリン、抹茶プリン、この真っ白なのはミルクプリン! 好きなのから食べていいぞ!」
「ふふ、悩ましいですね……シェフ、あなたのオススメは?」
「そうだなぁ、一応全部味見してあるけど……やっぱりいつものかな」
「ではまずはそれを」
スプーンで掬って口に含んだそれは、いつもよりも甘い気がした。
「そうだ、言うタイミングがなかったんだけど、今日も世界一綺麗だな、リチャード」
「……ありがとうございます。正義、お茶のお替りを」
※実は砂糖抜きロイヤルミルクティーだったというオチにしようかと思ったんですがやめました。
