全知と無知
公開 2023/09/24 12:07
最終更新
-
分かってる先生と分かってない山田さんの話
先生は何でも知っている。
銃の扱い方、クスリの調合方法、人が一番苦しむ拷問の仕方、花の名前、宝石にまつわるエピソード、いろんな国のいろんな言葉。
それから、俺のカラダのイイトコロ。
「先生はなんでも知ってるもんねぇ……」
「なんですか、急に」
「だって本当のことじゃないですかぁ」
1人掛けのソファで本を読んでいた先生の足元に座っていた俺の頭を、バクスチャー先生がそっと引き寄せて膝に乗せてくれた。
ひんやりした手が耳の形を確かめてからゆっくりと髪を撫でてくれるのが気持ちがよくてうっとりしていたら、先生が喉の奥で笑う声がした。
「なんでも知っているわけではありませんよ。私にも解らないことはあります」
「……たとえば?」
「そうですね。あなたが本当の意味で私のモノになるにはどうすればいいのか、でしょうか」
「……? 俺はもう先生のモノですよ?」
「いいえ。まだまだ足りないのですよ、山田さん。私の望みはそんなものではない」
「えー、これ以上あげられるものなんかないですよぉ……?」
会話の間も撫でる手は止まらず、次第に眠りの淵に意識が落ちていく。
俺のカラダも、心も、全部先生のためだけにある。先生と交わした「何があっても生きて先生のところに帰る」約束が有効な限り、先生だけが俺の命を自由にできる。
でも、だけど、本当は。
(俺は、最後にあなたの役に立って、あなたの命を守るために死にたい)
心のどこかでずっとそう思っていることを、先生は見透かしているのかもしれないな。でもどうか俺のこの願いだけは奪わないでほしい。それ以外なら、本当に全部ぜんぶ先生に捧げられるから。
「……あなたの願いが壊れたとき、ようやくあなたは私のモノになるんですよ」
夢うつつの中で先生の手の感触だけを感じていた俺には、先生の言葉は聞こえなかった。
先生は何でも知っている。
銃の扱い方、クスリの調合方法、人が一番苦しむ拷問の仕方、花の名前、宝石にまつわるエピソード、いろんな国のいろんな言葉。
それから、俺のカラダのイイトコロ。
「先生はなんでも知ってるもんねぇ……」
「なんですか、急に」
「だって本当のことじゃないですかぁ」
1人掛けのソファで本を読んでいた先生の足元に座っていた俺の頭を、バクスチャー先生がそっと引き寄せて膝に乗せてくれた。
ひんやりした手が耳の形を確かめてからゆっくりと髪を撫でてくれるのが気持ちがよくてうっとりしていたら、先生が喉の奥で笑う声がした。
「なんでも知っているわけではありませんよ。私にも解らないことはあります」
「……たとえば?」
「そうですね。あなたが本当の意味で私のモノになるにはどうすればいいのか、でしょうか」
「……? 俺はもう先生のモノですよ?」
「いいえ。まだまだ足りないのですよ、山田さん。私の望みはそんなものではない」
「えー、これ以上あげられるものなんかないですよぉ……?」
会話の間も撫でる手は止まらず、次第に眠りの淵に意識が落ちていく。
俺のカラダも、心も、全部先生のためだけにある。先生と交わした「何があっても生きて先生のところに帰る」約束が有効な限り、先生だけが俺の命を自由にできる。
でも、だけど、本当は。
(俺は、最後にあなたの役に立って、あなたの命を守るために死にたい)
心のどこかでずっとそう思っていることを、先生は見透かしているのかもしれないな。でもどうか俺のこの願いだけは奪わないでほしい。それ以外なら、本当に全部ぜんぶ先生に捧げられるから。
「……あなたの願いが壊れたとき、ようやくあなたは私のモノになるんですよ」
夢うつつの中で先生の手の感触だけを感じていた俺には、先生の言葉は聞こえなかった。
