秘密と誓い(新婚WebアンソロSS)
公開 2023/09/24 01:05
最終更新
2023/09/24 11:54
2020年11月22日のリチャ正新婚ウェブアンソロに投稿したSS
よく晴れた春の日。
たくさんの花が咲き誇るここ、クレアモント家の別荘の庭で、俺とリチャードはシビル・パートナーシップを結んだ。
リチャードの専属秘書になってから三年。
かつてスリランカの庭で俺が大泣きしながら求めた「大事にする一番いい方法」の答えはこれなのだと、今なら自信を持って言える。
◇ ◇ ◇
パートナーシップと結婚は微妙に違うわけだが、それを差し引いても今の俺達を世間一般の言葉で表すのであれば「新婚」と言って差し支えないだろう。
だが、その言葉の甘さはあまり──というかほとんど──生活には感じられなかった。意識して普段通りに過ごしていたというわけではなく、ただ単に美貌の敏腕宝石商リチャードの仕事が忙しかったからだ。
リチャードが忙しいということは自動的に秘書である俺も忙しいということになる。パートナーシップを結んだあと、シャウルさんの厚意で数日間まとまった休みを取ることは出来たがそれからはまたいつも通り世界中を飛び回る日々が始まった。
秘書業務に慣れてきたからといって、気を抜くわけにはいかない。ある程度手順の決まった事務作業ならまだしも、エトランジェにいらっしゃるお客様がたはただ一つの輝きを求めていらっしゃるのだ。
相手の求めるものを、最適な形で。
俺がバイト時代からリチャードがやっていたことを少しでも俺も実践出来るようになりたかった。もっと役に立って、少しでもリチャードの負担を減らせるように。そう奮起する度、お互いの左手の薬指に嵌められた揃いの指輪が俺の心を温かくしてくれる。
「……へへ」
多忙な中、まぁさんが最優先事項! と意気込んでデザインしてくれた平甲丸の指輪は、キャンディの社宅の窓から射し込む光をすべて吸い込んだかのように輝いている。
ダイヤモンドだけのデザインも選択肢には上がったけれど、せっかくなのでと二人で厳選したホワイトとパパラチア、二つのサファイアを埋め込んだ。
お互いに預け合っているものを日頃から持ち歩くわけにはいかないから、これはもう一つの誓いのつもりだ。これからの長い人生、絶対に何があっても最後の瞬間まで共にいる、という意思表明。
それをリチャードに告げたわけではないけれど、何も言わずに同意してくれたところをみると、あいつも同じことを考えていたのかもしれない。
──なんたって俺たちは『似た者同士』だから。
「今日も一日、リチャードが幸せでいられるように」
頑張ります、と自分の指輪に口付ける。
この指輪を嵌めてくれた時のリチャードの顔を思い出すだけで、俺は完全無敵の中田正義になれる気がしていたの、だが。
……そんな俺をこっそり見つめる瞳があったことに、終ぞ気付くことはなかった。
「リチャード、明日からのドイツでの買付けなんだけど、ジェファーソンさんから良いファイアオパールを数点入手できたって連絡が来てる。今のところお客様から注文が入ってるわけじゃないけど、押さえておいて貰えるよう連絡しておいてもいいよな」
「彼がそう断言するのであれば、確かに良質のものなのでしょう。宝石は一期一会です。是非拝見したいとお伝えください。……それに、そろそろ小笠原様から新しいルースを見たいと連絡が来る頃かと」
「小笠原様か……。そういえばオパールがお好きなんだよな。了解、手配しておく」
「ええ、お願いいたします」
「来月と再来月のジュエリーショーは航空券とホテルを予約済み。共有カレンダーにも追加しといた」
「ありがとうございます、確認しておきます。途中でロンドンに寄る件については」
「そっちは今、ヘンリーさんと俺で調整中。決まったらまた報告するな」
「……あなたはまた手際が良くなりましたね」
「そりゃまあ、さすがに三年目だからな」
初めは業務量の多さに悪戦苦闘していたが、ジェフリーやリチャードからの指導の甲斐もありなんとかこなせるようになった。この量を一人で片付け、土日は銀座で接客していたというだけでリチャードの能力の高さが窺える。
「正義、予定の確認と調整は以上でしたよね。お茶を淹れますので休憩にしましょう」
「お茶なら俺が」
「いえ、ぜひ私に。あなたはお茶請けの用意をお願いします」
「そうか? リチャードのロイヤルミルクティーの方が美味しいし好きだから嬉しいけど……お菓子、今朝焼いたチーズケーキでいいかな」
「もちろん。でもプリンも食べたいです」
「今は一つだけだぞ」
要求が通ったことが嬉しかったのか、リチャードはふわりと笑ってキッチンへと立ち去っていく。今日も変わらずに綺麗で、そして可愛い。
リチャードは今まで以上に俺のことを甘やかすようになった、気がする。今日のお茶の件のように俺を喜ばせようとすることが多い。とはいえリチャードは前からかなり優しい奴ではあったのだけれど、それに輪をかけて甘いというか、くすぐったい気持ちになるというか。
「……なんでだろ?」
首を傾げても、答えをくれる人はいなかった。
それからも俺の違和感は膨らんでいく。
仕事の調整での誉め言葉……は前からあったけれど、その時にそっと触れてきたりキスをくれるようになった。嬉しいけれど恥ずかしい。パートナーとなってからもリチャードの美しさは増すばかりで、何年経っても俺は慣れることができないせいだ。
一番顕著だったのは夜の営みだった。脳が融けそうなくらいトロトロにされて、もう何十回と経験しているはずなのに、初めてみたいに感じてしまう。最後には前後不覚になるくらい気持ち良くなって──いやいや、これ以上は思い出しちゃダメだ。
とにかく。
リチャードの心境に、何かしらの変化があったことは明らかだった。かといって俺のことを嫌いになったとか気に入らない部分がある、ということではないのだろうけれど、原因は知りたい。
それは専属秘書としてというより、パートナーとしての願いだ。
「というわけなんだけど」
「はぁ」
無事にスケジュールを終えてキャンディに戻った日の夜、ソファに並んで座ったところで切り出した俺を、リチャードは何故か楽しそうに見ていた。
「リチャードが、お前が最近妙に俺に甘いことに原因とか理由があるなら、教えてほしい。至らない点があるなら出来る限り直すようにするし」
「……あなたは」
「うん」
「公的な関係を結んだばかりの人間がパートナーに対して、甘やかな対応をすることに何か不満があるというのですか」
「いや、ないけ、ど……ん?」
「私とあなたは結婚ではなくパートナーシップを選んだわけですが、以前にもお伝えしたようにその二つに大きな違いはありません。つまり私とあなたは結婚したばかりの、新婚というわけです」
「そ、そうだな……?」
「新婚なのですから、パートナーを愛でても何もおかしくないですよね」
「愛でて」
「あなたが私からの好意をちゃんと受け取っていた点については良かったと思います。これ以上やっても気付かないようならさらなる行動に移さなければならなかったところです」
「待て、これ以上何をする気だったんだ」
「それはまた後日詳しく……ですがそうですね。原因と呼べるほどのことではありませんが……どうやら私のパートナーは毎朝指輪にはキスをするのに私にはしてくださらないようなので、甘い空気が足りないせいなのかと思いまして」
「…………おっま、お前、見てたのか!?」
「偶然です。ですが、これぞ僥倖でした。さて正義。私というパートナーがありながら、指輪にだけキスをすることに対する弁明を聞かせていただけますか。もうこの際面倒なので白状してしまいますが……私は嫉妬しています」
自分が嵌めたこの指輪に、と俺の左手を持ち上げ、薬指を──以前小指にしたのと同じように──肉の二枚貝で食んだリチャードの凶悪なまでの美しさに、俺は正常な思考を根こそぎ奪われてしまう。
洗いざらい白状させられた挙げ句、そのままベッドへ沈められることとなった。
◇ ◇ ◇
強く責め立て過ぎたのか、気絶するように眠ってしまった正義の中から自分のものを抜き出す。ゴムの処理を済ませてから、濡れタオルを準備しようとベッドから立ち上がったところでドアをカリカリと爪で軽く引っ掻く音に気が付いた。ジローかサブローだろう。
(正義の声に驚いたのかもしれない)
隣家と距離が離れていると分かっているせいか、正義はキャンディではあまり声を殺さない。感じていてくれるのが分かるのはありがたいが、声一つでも欲を煽られてしまうせいで何度も彼を求めてしまう。
「……お待たせしました、ジロー、サブロー。ですが正義は眠っていますので、吠えるのはなしですよ」
ドアを開ければ、聞き分けの良い二匹が静かに尻尾を振っている。下に降りるついでにおやつでも与えようと二匹を連れて階段を降りながら、私は正義の秘密を見てしまった時のことを思い出していた。
……正義は私に見つかっただけだと思っているようだが、正確には違う。一番最初に「それ」を見つけたのは、ジローとサブローだ。
準備する正義を待っていた私のところにサブローがやってきて、自分についてくるようにと珍しくアピールしてきた。
ごしゅじん、ついてこないとだめですよ、とでも言うかのような視線に、一体何事かと階段をそっと上がる。
ふんすふんすと鼻を鳴らしながらサブローが向かったのは、予想した通り正義の部屋の前。そこでずっと待っていたらしいジローと合流したあと覗きこんだ部屋の中にいたのは、もちろん正義だったのだが。
『……へへ』
『今日も一日、リチャードが幸せでいられるように』
そんな言葉を口にしながら私の贈った指輪にキスをしている姿が見れるなど、誰が予想しただろうか。
ごしゅじん、もうひとりのごしゅじんまいあさこうなんですよ。ちょっとなんとかしてください。
……ジローもサブローがこちらを見上げてくる姿は、まるでそんなことを言っているような気すらした。
「明日は私があなたの前で指輪にキスすれば、少しはこちらの気持ちを理解してくれるでしょうか」
念願叶ってようやく公的なパートナーになれた相手が、実は毎朝指輪に誓いの口づけをしていた、なんて。
そんな……幸福と愛おしさでおかしくなってしまいそうな気持ちを。
「……覚悟しておいてもらわなければ」
正義も私のスキンシップや甘やかしに少しは気付いてはいたようだが、正直こんなものでは全然足りないのだ。
もっともっと私の愛を絶え間なく与えて正義を溺れさせてやりたい。それでも今まで彼が私に与えてくれたものには見合わないのだけれども、長い時間をかけて分からせてやろう。
だって私たちの蜜月はこれからもずっとずっと、続いていくのだから。
よく晴れた春の日。
たくさんの花が咲き誇るここ、クレアモント家の別荘の庭で、俺とリチャードはシビル・パートナーシップを結んだ。
リチャードの専属秘書になってから三年。
かつてスリランカの庭で俺が大泣きしながら求めた「大事にする一番いい方法」の答えはこれなのだと、今なら自信を持って言える。
◇ ◇ ◇
パートナーシップと結婚は微妙に違うわけだが、それを差し引いても今の俺達を世間一般の言葉で表すのであれば「新婚」と言って差し支えないだろう。
だが、その言葉の甘さはあまり──というかほとんど──生活には感じられなかった。意識して普段通りに過ごしていたというわけではなく、ただ単に美貌の敏腕宝石商リチャードの仕事が忙しかったからだ。
リチャードが忙しいということは自動的に秘書である俺も忙しいということになる。パートナーシップを結んだあと、シャウルさんの厚意で数日間まとまった休みを取ることは出来たがそれからはまたいつも通り世界中を飛び回る日々が始まった。
秘書業務に慣れてきたからといって、気を抜くわけにはいかない。ある程度手順の決まった事務作業ならまだしも、エトランジェにいらっしゃるお客様がたはただ一つの輝きを求めていらっしゃるのだ。
相手の求めるものを、最適な形で。
俺がバイト時代からリチャードがやっていたことを少しでも俺も実践出来るようになりたかった。もっと役に立って、少しでもリチャードの負担を減らせるように。そう奮起する度、お互いの左手の薬指に嵌められた揃いの指輪が俺の心を温かくしてくれる。
「……へへ」
多忙な中、まぁさんが最優先事項! と意気込んでデザインしてくれた平甲丸の指輪は、キャンディの社宅の窓から射し込む光をすべて吸い込んだかのように輝いている。
ダイヤモンドだけのデザインも選択肢には上がったけれど、せっかくなのでと二人で厳選したホワイトとパパラチア、二つのサファイアを埋め込んだ。
お互いに預け合っているものを日頃から持ち歩くわけにはいかないから、これはもう一つの誓いのつもりだ。これからの長い人生、絶対に何があっても最後の瞬間まで共にいる、という意思表明。
それをリチャードに告げたわけではないけれど、何も言わずに同意してくれたところをみると、あいつも同じことを考えていたのかもしれない。
──なんたって俺たちは『似た者同士』だから。
「今日も一日、リチャードが幸せでいられるように」
頑張ります、と自分の指輪に口付ける。
この指輪を嵌めてくれた時のリチャードの顔を思い出すだけで、俺は完全無敵の中田正義になれる気がしていたの、だが。
……そんな俺をこっそり見つめる瞳があったことに、終ぞ気付くことはなかった。
「リチャード、明日からのドイツでの買付けなんだけど、ジェファーソンさんから良いファイアオパールを数点入手できたって連絡が来てる。今のところお客様から注文が入ってるわけじゃないけど、押さえておいて貰えるよう連絡しておいてもいいよな」
「彼がそう断言するのであれば、確かに良質のものなのでしょう。宝石は一期一会です。是非拝見したいとお伝えください。……それに、そろそろ小笠原様から新しいルースを見たいと連絡が来る頃かと」
「小笠原様か……。そういえばオパールがお好きなんだよな。了解、手配しておく」
「ええ、お願いいたします」
「来月と再来月のジュエリーショーは航空券とホテルを予約済み。共有カレンダーにも追加しといた」
「ありがとうございます、確認しておきます。途中でロンドンに寄る件については」
「そっちは今、ヘンリーさんと俺で調整中。決まったらまた報告するな」
「……あなたはまた手際が良くなりましたね」
「そりゃまあ、さすがに三年目だからな」
初めは業務量の多さに悪戦苦闘していたが、ジェフリーやリチャードからの指導の甲斐もありなんとかこなせるようになった。この量を一人で片付け、土日は銀座で接客していたというだけでリチャードの能力の高さが窺える。
「正義、予定の確認と調整は以上でしたよね。お茶を淹れますので休憩にしましょう」
「お茶なら俺が」
「いえ、ぜひ私に。あなたはお茶請けの用意をお願いします」
「そうか? リチャードのロイヤルミルクティーの方が美味しいし好きだから嬉しいけど……お菓子、今朝焼いたチーズケーキでいいかな」
「もちろん。でもプリンも食べたいです」
「今は一つだけだぞ」
要求が通ったことが嬉しかったのか、リチャードはふわりと笑ってキッチンへと立ち去っていく。今日も変わらずに綺麗で、そして可愛い。
リチャードは今まで以上に俺のことを甘やかすようになった、気がする。今日のお茶の件のように俺を喜ばせようとすることが多い。とはいえリチャードは前からかなり優しい奴ではあったのだけれど、それに輪をかけて甘いというか、くすぐったい気持ちになるというか。
「……なんでだろ?」
首を傾げても、答えをくれる人はいなかった。
それからも俺の違和感は膨らんでいく。
仕事の調整での誉め言葉……は前からあったけれど、その時にそっと触れてきたりキスをくれるようになった。嬉しいけれど恥ずかしい。パートナーとなってからもリチャードの美しさは増すばかりで、何年経っても俺は慣れることができないせいだ。
一番顕著だったのは夜の営みだった。脳が融けそうなくらいトロトロにされて、もう何十回と経験しているはずなのに、初めてみたいに感じてしまう。最後には前後不覚になるくらい気持ち良くなって──いやいや、これ以上は思い出しちゃダメだ。
とにかく。
リチャードの心境に、何かしらの変化があったことは明らかだった。かといって俺のことを嫌いになったとか気に入らない部分がある、ということではないのだろうけれど、原因は知りたい。
それは専属秘書としてというより、パートナーとしての願いだ。
「というわけなんだけど」
「はぁ」
無事にスケジュールを終えてキャンディに戻った日の夜、ソファに並んで座ったところで切り出した俺を、リチャードは何故か楽しそうに見ていた。
「リチャードが、お前が最近妙に俺に甘いことに原因とか理由があるなら、教えてほしい。至らない点があるなら出来る限り直すようにするし」
「……あなたは」
「うん」
「公的な関係を結んだばかりの人間がパートナーに対して、甘やかな対応をすることに何か不満があるというのですか」
「いや、ないけ、ど……ん?」
「私とあなたは結婚ではなくパートナーシップを選んだわけですが、以前にもお伝えしたようにその二つに大きな違いはありません。つまり私とあなたは結婚したばかりの、新婚というわけです」
「そ、そうだな……?」
「新婚なのですから、パートナーを愛でても何もおかしくないですよね」
「愛でて」
「あなたが私からの好意をちゃんと受け取っていた点については良かったと思います。これ以上やっても気付かないようならさらなる行動に移さなければならなかったところです」
「待て、これ以上何をする気だったんだ」
「それはまた後日詳しく……ですがそうですね。原因と呼べるほどのことではありませんが……どうやら私のパートナーは毎朝指輪にはキスをするのに私にはしてくださらないようなので、甘い空気が足りないせいなのかと思いまして」
「…………おっま、お前、見てたのか!?」
「偶然です。ですが、これぞ僥倖でした。さて正義。私というパートナーがありながら、指輪にだけキスをすることに対する弁明を聞かせていただけますか。もうこの際面倒なので白状してしまいますが……私は嫉妬しています」
自分が嵌めたこの指輪に、と俺の左手を持ち上げ、薬指を──以前小指にしたのと同じように──肉の二枚貝で食んだリチャードの凶悪なまでの美しさに、俺は正常な思考を根こそぎ奪われてしまう。
洗いざらい白状させられた挙げ句、そのままベッドへ沈められることとなった。
◇ ◇ ◇
強く責め立て過ぎたのか、気絶するように眠ってしまった正義の中から自分のものを抜き出す。ゴムの処理を済ませてから、濡れタオルを準備しようとベッドから立ち上がったところでドアをカリカリと爪で軽く引っ掻く音に気が付いた。ジローかサブローだろう。
(正義の声に驚いたのかもしれない)
隣家と距離が離れていると分かっているせいか、正義はキャンディではあまり声を殺さない。感じていてくれるのが分かるのはありがたいが、声一つでも欲を煽られてしまうせいで何度も彼を求めてしまう。
「……お待たせしました、ジロー、サブロー。ですが正義は眠っていますので、吠えるのはなしですよ」
ドアを開ければ、聞き分けの良い二匹が静かに尻尾を振っている。下に降りるついでにおやつでも与えようと二匹を連れて階段を降りながら、私は正義の秘密を見てしまった時のことを思い出していた。
……正義は私に見つかっただけだと思っているようだが、正確には違う。一番最初に「それ」を見つけたのは、ジローとサブローだ。
準備する正義を待っていた私のところにサブローがやってきて、自分についてくるようにと珍しくアピールしてきた。
ごしゅじん、ついてこないとだめですよ、とでも言うかのような視線に、一体何事かと階段をそっと上がる。
ふんすふんすと鼻を鳴らしながらサブローが向かったのは、予想した通り正義の部屋の前。そこでずっと待っていたらしいジローと合流したあと覗きこんだ部屋の中にいたのは、もちろん正義だったのだが。
『……へへ』
『今日も一日、リチャードが幸せでいられるように』
そんな言葉を口にしながら私の贈った指輪にキスをしている姿が見れるなど、誰が予想しただろうか。
ごしゅじん、もうひとりのごしゅじんまいあさこうなんですよ。ちょっとなんとかしてください。
……ジローもサブローがこちらを見上げてくる姿は、まるでそんなことを言っているような気すらした。
「明日は私があなたの前で指輪にキスすれば、少しはこちらの気持ちを理解してくれるでしょうか」
念願叶ってようやく公的なパートナーになれた相手が、実は毎朝指輪に誓いの口づけをしていた、なんて。
そんな……幸福と愛おしさでおかしくなってしまいそうな気持ちを。
「……覚悟しておいてもらわなければ」
正義も私のスキンシップや甘やかしに少しは気付いてはいたようだが、正直こんなものでは全然足りないのだ。
もっともっと私の愛を絶え間なく与えて正義を溺れさせてやりたい。それでも今まで彼が私に与えてくれたものには見合わないのだけれども、長い時間をかけて分からせてやろう。
だって私たちの蜜月はこれからもずっとずっと、続いていくのだから。
