デザートはお持ち帰りで
公開 2023/09/24 00:32
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「おれ、電気のだけだと思ってた」
目の前に置かれたもの――カセットガスを使うタイプのたこ焼き器を興味深そうに見ながら山田が呟く。
「俺も昔大学の友達の家でやったのはそのタイプだよ。でもこれだと電源ケーブル伸ばす必要もないし、電気より熱の通りがいいから外側がカリッと焼ける気がするんだよな。まあ買ったのリチャードだけど」
「ふぅん……」
「よし、準備できた。やるぞー」
カセットコンロと同じ要領で火をつければ、青白い炎が一気に鉄板の下を走る。あらかじめ畳んでおいたキッチンペーパーでまんべんなく油を広げたら、生地を一面に流す。さっきから一口大の茹でダコが入った器を持ったままの山田に「いいぞ」と言うと、ぱっと笑顔を浮かべたと思えばえらく真面目な顔と手つきで1つ1つの穴にたこを入れていくから思わず笑ってしまう。
山田の後を追うようにしてみじん切りのねぎと紅ショウガ、天かす、半分のエリアにはとろけるチーズも掛ける。先に手を軽く洗ってきた山田に監視を任せて俺も席を離れた。
「縁が固まってきたら、串を走らせて生地を分割。余っている部分を真ん中に押し込めるようにして、穴の形を利用してくるりと……こんな感じで。少しくらい形が歪でも焼くうちに整うから」
「うん、うん」
「やってみたいんだろ」
「うん!」
「2本使うと便利だけど、まずは1本からな」
「うん」
そう、この奇妙なたこ焼きパーティーは山田の要望だ。
『今日せんせぇが遅いからご飯1人で食べなきゃなんだって。正義と食べたい。たこ焼き』
なんでピンポイントでたこ焼きなんだ? と思ったが、もしかしたらこの間リチャードが気まぐれを起こしてたこ焼き器を買ってきたことを知っているのかもしれない(なぜ知っているのはこの際気にしないことにする)折角買ってもらったのを押入れに仕舞いこんだままなのも気が引けて、すぐに承諾した。
にひひ、と笑った山田の持ち上げた袋の中にはスーパーで買ってきたらしいタコがいた。確信犯かよ。
「おいしい! 正義のたこ焼き美味しいねぇ」
「山田だって半分くらいひっくり返しただろ。うん、外側ちゃんとカリッと焼けててうまい」
「チーズ合うんだねぇ」
「キムチ入れる人もいるぞ」
「からいのはやだ」
「七味マヨネーズで食べるのも美味いけど」
「からいのやだってば」
それなりに若い男2人でも、50個近く焼けばさすがに腹は溜まる。少しずつ皿から減っていくたこ焼き眺めて、ぽそりと山田が本音を零した。
「……せんせぇにも食べて欲しかったなぁ」
最初はタッパーに詰めて何個か持って帰るかと提案したのだが、んーん、と首を振って断ったのは山田だ。せんせぇが食べるかわかんないし、と言ったところからすると今まで一緒にたこ焼きを食べたことがないのだろう。何でも食べそうな感じだけどなと俺が言っても、山田はただ笑って頑なに拒んだ。
「山田の先生……バクスチャーさん、甘いもの好きだよな」
「ん? そうだけど」
「んじゃ、もう少し手伝ってくれるか」
キッチンペーパーで鉄板を綺麗に拭いてから、山田にタネの入ったボウルを渡す。薄黄色のそれはふんわりとした甘い香り。
「これ……」
「ホットケーキミックス。たこ焼き機で鈴カステラもどきが作れるんだよ。刻んだ板チョコ入れてさ、おやつにしたりするんだって。これだったらバクスチャーさんも食べられるだろ」
「……」
「山田?」
「……うん、ありがと、せいぎ」
今日初めて、山田が心から笑った顔を見た気がする。
少しだけほっとしながら、俺は再びたこ焼き器に火を点した。
目の前に置かれたもの――カセットガスを使うタイプのたこ焼き器を興味深そうに見ながら山田が呟く。
「俺も昔大学の友達の家でやったのはそのタイプだよ。でもこれだと電源ケーブル伸ばす必要もないし、電気より熱の通りがいいから外側がカリッと焼ける気がするんだよな。まあ買ったのリチャードだけど」
「ふぅん……」
「よし、準備できた。やるぞー」
カセットコンロと同じ要領で火をつければ、青白い炎が一気に鉄板の下を走る。あらかじめ畳んでおいたキッチンペーパーでまんべんなく油を広げたら、生地を一面に流す。さっきから一口大の茹でダコが入った器を持ったままの山田に「いいぞ」と言うと、ぱっと笑顔を浮かべたと思えばえらく真面目な顔と手つきで1つ1つの穴にたこを入れていくから思わず笑ってしまう。
山田の後を追うようにしてみじん切りのねぎと紅ショウガ、天かす、半分のエリアにはとろけるチーズも掛ける。先に手を軽く洗ってきた山田に監視を任せて俺も席を離れた。
「縁が固まってきたら、串を走らせて生地を分割。余っている部分を真ん中に押し込めるようにして、穴の形を利用してくるりと……こんな感じで。少しくらい形が歪でも焼くうちに整うから」
「うん、うん」
「やってみたいんだろ」
「うん!」
「2本使うと便利だけど、まずは1本からな」
「うん」
そう、この奇妙なたこ焼きパーティーは山田の要望だ。
『今日せんせぇが遅いからご飯1人で食べなきゃなんだって。正義と食べたい。たこ焼き』
なんでピンポイントでたこ焼きなんだ? と思ったが、もしかしたらこの間リチャードが気まぐれを起こしてたこ焼き器を買ってきたことを知っているのかもしれない(なぜ知っているのはこの際気にしないことにする)折角買ってもらったのを押入れに仕舞いこんだままなのも気が引けて、すぐに承諾した。
にひひ、と笑った山田の持ち上げた袋の中にはスーパーで買ってきたらしいタコがいた。確信犯かよ。
「おいしい! 正義のたこ焼き美味しいねぇ」
「山田だって半分くらいひっくり返しただろ。うん、外側ちゃんとカリッと焼けててうまい」
「チーズ合うんだねぇ」
「キムチ入れる人もいるぞ」
「からいのはやだ」
「七味マヨネーズで食べるのも美味いけど」
「からいのやだってば」
それなりに若い男2人でも、50個近く焼けばさすがに腹は溜まる。少しずつ皿から減っていくたこ焼き眺めて、ぽそりと山田が本音を零した。
「……せんせぇにも食べて欲しかったなぁ」
最初はタッパーに詰めて何個か持って帰るかと提案したのだが、んーん、と首を振って断ったのは山田だ。せんせぇが食べるかわかんないし、と言ったところからすると今まで一緒にたこ焼きを食べたことがないのだろう。何でも食べそうな感じだけどなと俺が言っても、山田はただ笑って頑なに拒んだ。
「山田の先生……バクスチャーさん、甘いもの好きだよな」
「ん? そうだけど」
「んじゃ、もう少し手伝ってくれるか」
キッチンペーパーで鉄板を綺麗に拭いてから、山田にタネの入ったボウルを渡す。薄黄色のそれはふんわりとした甘い香り。
「これ……」
「ホットケーキミックス。たこ焼き機で鈴カステラもどきが作れるんだよ。刻んだ板チョコ入れてさ、おやつにしたりするんだって。これだったらバクスチャーさんも食べられるだろ」
「……」
「山田?」
「……うん、ありがと、せいぎ」
今日初めて、山田が心から笑った顔を見た気がする。
少しだけほっとしながら、俺は再びたこ焼き器に火を点した。
