小さな、けれど清らかな声で(ヘンリー誕)
公開 2023/09/24 00:21
最終更新
2023/09/24 17:21
※2020年 ヘンリー誕お祝いSS
……タブレット越しに聞こえてくるピアノの音に、ソファの上に寝転がった正義は嬉しそうに足をパタパタと動かしていた。
ソファの下に寝そべったジローも正義に合わせるようにゆっくりと尻尾を振っていて、とても愛らしい。思わず後ろから見ていたリチャードがスマホで動画にして撮ってしまうほどに。
やがてゆっくりと曲が終わると、正義は小さな手で精いっぱいの拍手を送った。タブレットの向こうにいたピアノの演奏者──ヘンリーが、こちらに向かって深々とお辞儀をする。
『楽しんで、もらえましたか』
「うん! へんりーさんのぴあの、すごくきれいで、おれだいすき!」
『ありがとう、ございます。中田くんは、ピアノに興味がありますか?』
「ぴあの……。ひけたら、たのしいかなぁっておもうけど、おれはおうたのほうがすきかなぁ」
『歌、ですか』
「正義は歌が大変上手なんですよ、ヘンリー。先日も幼稚園での合唱で、伸びのある素晴らしい歌声を披露していました」
「えへへ……りちゃーどね、すごくほめてくれたの」
『そうですか、それは聞きたかった、ですね』
「動画に撮ってありますので、後で送ります」
まだジェフリーや私ほど日本語を話せないヘンリーだが、正義と話すのにまったく支障がないほどには熟達していた。
何事にも努力を怠らない彼のことだ。こうしてビデオ通話をするたびに、会話が滑らかになっていくのが分かり驚かされることも多い。
「あっ、そうだ! あのね、へんりーさん」
『はい? どうかしましたか』
正義はそれまで寝そべっていた身体を起こし、ソファの上に正座して真剣な顔でタブレットを掴んだ。
「おれね、へんりーさんに、いわなきゃいけないことがあるの」
『私に、ですか?』
「うん! りちゃーど、おてつだいして!」
「勿論です、正義。私の準備は出来ていますよ」
正義に渡されたタブレットをスタンドに立て、少しだけ二人で距離を取る。
画面の向こうで不思議そうな顔をするヘンリーにも見えるように、と私がソファの陰から取り出したものに、おや、と懐かしむような柔らかい声がタブレットから聞こえてきた。
『それは……久しぶりに君のヴァイオリンが聴けるのかな、リチャード』
「そこまで腕が鈍ってはいないと思います。それに、今回のメインは正義ですので」
『中田くん?』
「はい! なかたせいぎ、がんばります!」
腕をぴーんと上げて宣誓したあと、正義は私の方を見て息を合わせる。短い前奏を奏でるだけで、すぐに何の曲か分かるほどの、そして今日という日にぴったりな、幼稚園でも習う定番の曲。
ハッピーバースデー・トゥー・ユー。
私のヴァイオリンに合わせてのびのびと歌う正義の姿を、ヘンリーはくすぐったそうに微笑みながらも、じっと見つめていた。まだ少し歌詞が舌っ足らずなところはあるが、子供ならではの綺麗なハイトーンは演奏しながらでも美しいと思える。
そうして短い曲を丁寧に歌い終えた正義は、先程のヘンリーのようにぺこりと大きくお辞儀をした。
「へんりーさん、おたんじょうび、おめでとー! いつもぴあのきかせてくれて、ありがとう、ございます」
『とても素敵な、プレゼントをもらいました。ありがとう、中田くん。リチャードが言っていた通り、とても素晴らしい、歌声でした』
「えへへ……」
『リチャード、君にも感謝を。懐かしい調べだった』
「お誕生日おめでとうございます、ヘンリー。あなたの新しい一年がより幸多からんことを、心から願っています」
『ありがとう』
それからも少しだけ話をして、お祝いと近況報告を兼ねたビデオ通話は終了となった。
* * *
後日、ヘンリーから届いたメールに添付されていた写真では。
私が手配した国際便の中身──プレゼントとして、正義が愛用のクレヨンで一生懸命に描いたヘンリーの似顔絵とひらがなで書かれた手紙、それから折り紙で作った花が、ピアノ室の壁に綺麗に飾られていた。
……タブレット越しに聞こえてくるピアノの音に、ソファの上に寝転がった正義は嬉しそうに足をパタパタと動かしていた。
ソファの下に寝そべったジローも正義に合わせるようにゆっくりと尻尾を振っていて、とても愛らしい。思わず後ろから見ていたリチャードがスマホで動画にして撮ってしまうほどに。
やがてゆっくりと曲が終わると、正義は小さな手で精いっぱいの拍手を送った。タブレットの向こうにいたピアノの演奏者──ヘンリーが、こちらに向かって深々とお辞儀をする。
『楽しんで、もらえましたか』
「うん! へんりーさんのぴあの、すごくきれいで、おれだいすき!」
『ありがとう、ございます。中田くんは、ピアノに興味がありますか?』
「ぴあの……。ひけたら、たのしいかなぁっておもうけど、おれはおうたのほうがすきかなぁ」
『歌、ですか』
「正義は歌が大変上手なんですよ、ヘンリー。先日も幼稚園での合唱で、伸びのある素晴らしい歌声を披露していました」
「えへへ……りちゃーどね、すごくほめてくれたの」
『そうですか、それは聞きたかった、ですね』
「動画に撮ってありますので、後で送ります」
まだジェフリーや私ほど日本語を話せないヘンリーだが、正義と話すのにまったく支障がないほどには熟達していた。
何事にも努力を怠らない彼のことだ。こうしてビデオ通話をするたびに、会話が滑らかになっていくのが分かり驚かされることも多い。
「あっ、そうだ! あのね、へんりーさん」
『はい? どうかしましたか』
正義はそれまで寝そべっていた身体を起こし、ソファの上に正座して真剣な顔でタブレットを掴んだ。
「おれね、へんりーさんに、いわなきゃいけないことがあるの」
『私に、ですか?』
「うん! りちゃーど、おてつだいして!」
「勿論です、正義。私の準備は出来ていますよ」
正義に渡されたタブレットをスタンドに立て、少しだけ二人で距離を取る。
画面の向こうで不思議そうな顔をするヘンリーにも見えるように、と私がソファの陰から取り出したものに、おや、と懐かしむような柔らかい声がタブレットから聞こえてきた。
『それは……久しぶりに君のヴァイオリンが聴けるのかな、リチャード』
「そこまで腕が鈍ってはいないと思います。それに、今回のメインは正義ですので」
『中田くん?』
「はい! なかたせいぎ、がんばります!」
腕をぴーんと上げて宣誓したあと、正義は私の方を見て息を合わせる。短い前奏を奏でるだけで、すぐに何の曲か分かるほどの、そして今日という日にぴったりな、幼稚園でも習う定番の曲。
ハッピーバースデー・トゥー・ユー。
私のヴァイオリンに合わせてのびのびと歌う正義の姿を、ヘンリーはくすぐったそうに微笑みながらも、じっと見つめていた。まだ少し歌詞が舌っ足らずなところはあるが、子供ならではの綺麗なハイトーンは演奏しながらでも美しいと思える。
そうして短い曲を丁寧に歌い終えた正義は、先程のヘンリーのようにぺこりと大きくお辞儀をした。
「へんりーさん、おたんじょうび、おめでとー! いつもぴあのきかせてくれて、ありがとう、ございます」
『とても素敵な、プレゼントをもらいました。ありがとう、中田くん。リチャードが言っていた通り、とても素晴らしい、歌声でした』
「えへへ……」
『リチャード、君にも感謝を。懐かしい調べだった』
「お誕生日おめでとうございます、ヘンリー。あなたの新しい一年がより幸多からんことを、心から願っています」
『ありがとう』
それからも少しだけ話をして、お祝いと近況報告を兼ねたビデオ通話は終了となった。
* * *
後日、ヘンリーから届いたメールに添付されていた写真では。
私が手配した国際便の中身──プレゼントとして、正義が愛用のクレヨンで一生懸命に描いたヘンリーの似顔絵とひらがなで書かれた手紙、それから折り紙で作った花が、ピアノ室の壁に綺麗に飾られていた。
