右も左もわからない。
公開 2024/10/11 11:11
最終更新 -


右と左。 #

 タイトル通り。私は、右と左を判断するのが、かなり苦手だ。利き手はどちらかと尋ねられれば右利きと答えられるし、右手を上げることは出来る。しかし、咄嗟に左右を判断したり、伝えたりすることは難しい。わからないが故に「あっち」「こっち」を多用してしまっているのも、また事実である。

 舞台では、右や左といった表現で方向や場所を示すことは無く、上手・下手(かみて・しもて)という表現をする。客席から舞台を見た時に、右を上手、左が下手、これが固定となる。そのため、舞台から客席を見たら、右が下手、左が上手、となる。書いていて頭が痛くなる。

 幼い頃は右も左もしっかりと認識していたと思う。しかしながら、恐らく全くそんなことは無いのは百も承知で言語化すると、物心ついた時には『右と左』ではなくて『上手と下手』で表すのが、良くも悪くも普通になってしまっていた。それ故に、舞台の上では何一つ不自由なく過ごせていても、現実社会は一筋縄ではいかない。


名古屋と東京。 #

 以前仕事で、ナビの付いていない車に乗り、スマートフォンの経路案内を頼りに名古屋から東京へ帰らなければならないことがあった。ただでさえ方向音痴なのに、ジャンクションで左右を間違えるなんてことをしてしまったら、山梨県や長野県の方へ連れて行かれてしまう、なんてことが起こりかねない。これは大変だ。

 当時は免許を取得する前。運転は他の方にお願いし、私は助手席に座ってナビを口頭で伝えざるを得ない状況だった。夜までかかって仕事を終え、名古屋を出発。必死で左右を見分けながらまずは高速道路へ。所々サービスエリアで休憩を挟みつつ、どうにかこうにか東京へ帰ってきて、

「インターチェンジ出たら左です。」

と伝える。左に曲がる車。逆だ。右だった。

 高速道路を降りた瞬間気が抜けたのか、そこから数回は左右を間違えた。もう少しで朝日が昇りそうな中で荷解きをし、最後にガソリンを給油して解散。兎にも角にも帰って来られたから良いのだ。始発電車に揺られながら、そう思った。


上手と下手。 #

 それでも当人としては、勿論不便なことがあるのは自覚しているので、どうにかこうにか『右と左』を覚えようと努力してきたつもりである。一朝一夕でどうにかなるものでもないが、徐々に備わってきたようにも感じる。反面、何が起きたかというと、今度は『上手と下手』が混乱するようになってきてしまった。

 大学卒業後、元来やりたいことが多いタイプの私は、演劇だけでなく、映像の仕事もしたり、今ではYouTubeチャンネルを開設して動画の編集や投稿もしたりするようになった。一人芝居を届けるために始めた所から、ラジオの企画をやり始めたり、 #タイッツー系YouTuber と名乗り始めたり、活動の場が広がっていくようになった。

 その代わりにこの間、何があったのか。一言で言えば新型コロナウイルスの蔓延である。具体的な言及はしない。ただこれにより、演劇とは距離が生まれ、費やす時間が減った。勿論意図的に遠ざかっていた節はあるし、振られた仕事の全てを引き受けなくなったこともある。他の演劇に携わっている方々と比べると、自分は分量が少ないのだろうなと思うことも、正直ある。そうした結果、あんなにも上手と下手で生きてきたのに、どこへ向かうべきなのかわからなくなってしまった。

 だけど今目の前にあるやりたいことを、どうしたって優先したくなってしまうのはもう仕方のないことだし、それを優先するからといって演劇を蔑ろにしているかと問われれば、そんなことは全くないと胸を張って言えるのも事実だ。


あっちとこっちと。 #

 右も左もわからないのならば、上手も下手もわからないのならば、迷子になってしまうこともあるかもしれない。自分の進む方向が真っ直ぐだと思っていても、全く別の方向に進んでしまっている可能性だってある。行き止まりに突き当たったり、断崖絶壁に打ちのめされたりすることもあるだろう。

 けれども、行く先を決めずにフラフラ歩いたとしても、進んだ先に何も無いなんてことは、きっと無いと信じたい。そこにあるのはダイヤモンドかもしれないし、木の枝かもしれない。見つけた何かが、他の誰かにとっては価値が無い物だったとしても、自分にとってはかけがえのない大切な宝物を見つけられるチャンスが、ひょっとしたらそこにはある。

 だとすれば、『右と左』や『上手と下手』、他の何かに縛られることもなく、自分で行きたい道を選べるなんて、こんなに素敵で素晴らしいことは無いのではないだろうか。拾った木の枝を倒して、進む方向を決めたって良いかもしれない。「どっち」に転んでも自由な世界。「あっち」や「こっち」に遠回りして。時には「そっち」へ寄り道して、朝ごはんにほうとうや信州そばを食べに行くのも楽しそうだ。人生は二択ではないのだから。


【次回は11月11日(月)に公開予定です】

中西崇将 エッセイ『ハチミツはまだ早い』
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