何気ない日にお~いお茶を。
公開 2024/11/11 11:11
最終更新
2024/11/11 14:08

中高の 舞台のお供は お~いお茶 #
この句は、中学生・高校生の頃、演劇部に所属していたことを懐かしんで詠んだ句として有名だが、という冗談はさておき。その頃、舞台の本番の日はお~いお茶を好んで飲んでいた。と言えば聞こえが良いのだが、実際お~いお茶でなければならないと自分に課していたかのように、こびりついて剥がれない「こだわり」だった。
きっかけが何だったのか、今となってはぼんやりとしか思い出せないのだが、確か中学三年生の頃に出演した舞台の役で、お~いお茶を飲むシーンがあり、小道具の一つとして始まった、はず。この役がお~いお茶を飲んでいたことに起因して、そこからはしばらくの間ずっと、舞台の本番の日は決まってお~いお茶を飲んでいた。近所のスーパーやドラッグストアの中でおーいお茶が一番安いのはどこかを調べた記憶があるくらいに、強力な「こだわり」が始まった瞬間である。
勿論役というのがあくまでも前提ではあった。だが、その役を演じなくなった後にも「こだわり」が無くならず、むしろ増えていく一方であった。それにしたってこんなに必要だったのだろうかと自分で自分に問いただしたいが、一旦それは後回しにして思い出せる範囲で羅列していこう。
まず大前提として、飲み物はお~いお茶じゃなければならない。しかもそれは濃い味ではなくてノーマルのタイプじゃなきゃダメ。ハンカチはグレーのギンガムチェックじゃなければならない。しかもそれは2つ持っている中のこっちの方じゃなきゃダメ。いやだからそっちじゃないんだってば。
その日身に付ける下着は絶対にこれというのが決まっていた。だってそれはその日その時この役が身に付けていたのだから。ひょっとしたらお弁当の中身までも頼んでいたのだろうか。今となっては怖くて聞けない。自転車のギアは3。ウォークマンの音量は18。そんな細かいことまでも、一度決めたらはみ出せなくなってしまっていた。
しかしながら、大学入学後、その「こだわり」を崩さざるを得ないことが起きる。中高の演劇部の頃、本番は一日一回のみで、大会で優秀賞等に選ばれたら、次の大会でもう一度上演できる、といった類の物。同じ演目を何日間に渡って何回も行うことは無かったのである。それがサークルに入ったら一日に二回本番がある、だけでなく三日間にわたって五ステージもあるではないか。
お~いお茶を三日間に渡って飲むことは出来たかもしれない。でもハンカチは持っておくだけで使わないのならまだしも、下着を三日間も履き続けることなんて到底出来る訳もない。この先のことを考えたら、同じようなことがきっと何度も起きるのだろうし、高校までとは違ってサークル以外に、ひょっとしたら地方でも何かに出演することだってあるだろう。それならば「こだわり」なんて気にしている場合ではないのだなと思い、全てを一気に捨て去ったのだった。
今となって思うのは「こだわり」を続けることで、たくさんの安心材料をかき集めていたのだろうということだ。いつもこうしているから、いつもこれを持っているから、そういういくつものルーティーンを守ることで、自分自身を守っていた。だからそのルールが崩れてしまうことが許せなかったのだと思う。それを『舞台に立つ』ために、いとも簡単に無に出来たのだから、演劇の魔法は恐ろしい。
だからといって「こだわり」体質が無くなった訳では全くなく、今となっては、それは食べ物へ移り変わっている。汁物の具材は三種類。夕飯は野菜が五種類は無いとダメ。ドレッシングは常に二種類が開封済みの状態で冷蔵庫に入っている。お弁当の保冷材の数は二個。水筒は氷をこれでもかというくらいに詰める。羅列するとキリが無いのでこの辺りで。
でも今の「こだわり」は安心するためでも許せないものでも無くて、それを試したら自分が幸せを感じたからだ。ある日、汁物に具材を三種類入れたら、野菜が五種類あったら、ドレッシングが二つ並んでいたら、保冷材を二個使ったら、氷がたくさん詰め込まれていたら、幸せだったのだ。
勿論それが「こだわり」になってしまったのは事実。だけれども、その日その時、あの日あの時、自分がその行動で幸せになれたのは事実だし、それを続けることで心の安定を保ってきたのだ。
あの日あの時、私は、あの役は、幸せだったのだろうか。いや、決して役として幸せな気持ちや感情になる役ばかりであった訳ではないのは百も承知なのだが、それでもその「こだわり」が、幸せのための行動であったことを祈りたい。
今となっては、本番の前日も当日も翌日も、何かをすることや何かをしないことを決めていることは無くて、それが嬉しくもあり寂しくもある。あ、そんなこと無かった。今は稽古場に持ち込む飲み物だけ唯一決まっていた。
水を飲む 持ち込むボトルは 2リットル #
どちらも字余り。
【次回は12月11日(水)に公開予定です】
中西崇将 エッセイ『ハチミツはまだ早い』
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