紛れもなく、揺るぎなく、初舞台。
公開 2025/06/11 11:11
最終更新
2025/07/10 22:55

二人芝居と一人芝居。 #
昨年書いた脚本『インナーに、タイツ、長袖、長ズボン』は、ゴールデンウィークに実家に帰省した息子と、クリーニング屋でパートとして働く母の、短編の会話劇だ。今回この作品を一人芝居にアレンジして上演することとなった。モノカフェというイベントに参加することを決め、一体どんな作品にしようかと考えた時、5月に行われること、今まで書いた脚本の中で上演したことのない作品であること、といった理由で選んだ。
とは言え、二人芝居から一人芝居へのアレンジは、なかなかにハードルが高い。例えば、二人芝居版では母が帰宅したことを息子がイヤホンで音楽を聴いていて気が付かず、母が持っていたペットボトルを首元に当てて気付かせる、といったシーンから始まる。しかしながら、一人芝居版ではそれは通用しないため、イヤホンで音楽を聴くことは止め、「おかえり」というセリフを入れることで母の帰宅を表現する、という手法を取ることとなった。終始この調子ではあったものの、自分でも納得のいく仕上がりとなった。
稽古と本番。 #
いざ稽古をしてみると、映像とは異なり画面の外に小道具を置いておくといったことは一切出来なかったり、洗濯カゴや衣類をどこに配置すれば客席から観やすいのかといったことを考慮したりと、舞台の演出的な側面に次々と立ち向かうこととなった。ただ自分自身は映像よりも圧倒的に舞台で培ってきたものが多い、所謂『演劇人』であるため、適切な表現かはわからないが「そうだよ!これだよ、これ!」みたいな気持ちでしかなかった。率直に言って楽しかった。
公演が近付くにつれ、実際に本番で使う用の小道具用の衣類を準備し、外部の稽古場で最終調整を行った。髪型は役のイメージは勿論なのだが、映像ではカメラの位置や向きを考慮して、表情の見えやすさで前髪の向きを考えたのだが、舞台では洗濯物を畳むシーンが多いから、出来るだけ前髪が短くなるように美容師さんにオーダーをした。これだけでもかなり面白い違いだなと感じた。
当日は、やはり想像通りワクワクよりも緊張の方が上回っていた。有観客での一人芝居が初めてということもさることながら、上演順が6組中6番目という大トリという大役をいただき、感謝とプレッシャーが同時に押し寄せていた。1時間のイベントで1人持ち時間は10分。開演から50分後、いよいよ『インナーに、タイツ、長袖、長ズボン』の出番。一番強く感じたことは、舞台の上には一人しか居ない状況で見た客席を、きっと一生忘れないのだろうということだ。
その景色を知っている人が自分一人しかいないことが、何故だか面白くて嬉しくて誇らしい。あぁそうか、0歳の赤ちゃんも100歳を超えたご長老も、この景色を知らないのか。脚本も演出も出演も、何もかもを一人で背負って舞台に立った先に見える景色は、本当に一人だけのものだった。誰にも知られることのない、誰にもあげられない、特別で唯一の、贅沢極まりない経験だった。
初舞台と初舞台。 #
記憶は無いが、幼稚園のクリスマスイベントで明確に役名と台詞を与えられて舞台に立ったのが、恐らくは人生での初舞台なのだろうなと思っている。その後、小学校のクラブ活動で、自分の意思で入った演劇クラブでのシンデレラも、これもまた自分自身の初舞台なのだろうと思っている。
しかしながら、今回の『インナーに、タイツ、長袖、長ズボン』もまた、紛れもなく、揺るぎなく、初舞台だなと思ってしまったのだった。後にも先にも、これほどまでに、自分が舞台の上にいることを、自分しか舞台の上にいないことを、痛感させられることは無いのだろう。
一人芝居を、無観客で、YouTubeで、無料で、収録で、しか公開して来なかった私は、正直言って、有観客で、対面で、有料で、生物で、披露することが、自分にはそんな価値なんて無いと、恐くて、怖くて、仕方が無かった。そこから少し時間がたった今、ちょっとだけ、人前に立つことに対して、本当にちょっとだけ、希望を持てそうな気がしている。だから、出来るだけ早く、もう一度、皆様の前で舞台に立ちたいと、思う。一人であれ、幾人とであれ、お芝居というドレスを身に纏ったら、あぁ、自分は、まだ生きていて良かったと思える。そして、また着飾ってパーティーに出掛けたいなと、この先の『演劇人』としての人生に思いを馳せる。
【次回は7月11日(金)に公開予定です】
中西崇将 エッセイ『ハチミツはまだ早い』
https://simblo.net/u/Ti6HDX
その他のコンテンツはこちらから
YouTube https://www.youtube.com/@takanobu_info
タイッツー https://taittsuu.com/users/takanobu_info
Twitter/X https://twitter.com/takanobu_info
お問い合わせ https://forms.gle/v4368g5b2FFWJp4p7
