見つかる香り
公開 2026/02/01 05:36
最終更新
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Marieはわりとすぐにその変化に気付いていた。
何ということはない。間違えたのだ。
あのMarieがLyon以外に心を開く、あの大切な『狼さん』と悪魔を。
ふわりと香る狼さんの甘く優しい香りは、漂流者の内面を表したかのようで、Marieはとても好きだったのに。
間違えてにこやかに振り向いた時、あの悪魔はなんとも言えない顔をしていた。
喜びとも困惑とも取れるその顔を見るのは、この悪魔の世話を任されてから初めて目にする表情だった。
「Oh, je n'arrive pas à y croire ! Je n'arrive pas à croire que vous ayez pris mon loup pour cet horrible démon ! Le démon a dû faire quelque chose !
(あぁもう信じられない! あの醜悪な悪魔と私の狼さんを間違えただなんて! きっと悪魔が何かやったに違いないわ!)」
大聖堂の自分のスペースで祈りを捧げながらも、Marieはさっきから聖句を唱えることもなく、ひたすらRoatheを罵倒し続けていた。
さすがのLyonも、ぶつぶつと罵り続ける同胞を放っておくにも限界が来た。
ただでさえ今日は幻聴も幻覚もいつもより酷いのに、これにMarieの悪口雑言が続いては堪ったものではない。
「Marie、今日はいったい何にそんなに腹を立てているんだ? 祈りの言葉よりもRoatheの悪口ばかりだな。できればその悪口を聖句に置き換えてほしいんだけども」
少しばかり茶化すように、なるべくMarieの気持ちが軽くなるよう気を付けながら、Lyonはにこやかに歩み寄った。
「Roatheに何かされたのか?」
「いえ、あの……煩くしてごめんなさい、Lyon。私じゃないの、あの……なんて説明したらいいのかしら」
「ゆっくりで構わないよ。今日はなぜかRoatheもいないし、何も気にせず落ち着いて」
LyonはMarieの背を気遣うようにさすりながら、長椅子へと誘導した。
こんなに狼狽したMarieを見るのはいつ以来だろうか。
長椅子に腰掛け、ふと膝に置かれたMarieの手を見ると、固く握り締められていたからなのか、肌は青白く、手のひらに食い込んだ爪は皮膚に薄く血を滲ませていた。
「Marie、あぁ、ほら、力を抜いて。何があったのか分からないけれど、順を追って話してごらん」
Marieはいまだ纏まらぬ頭で、朝の出来事を話して聞かせた。
なるべく感情的にならないように気を付けながら、極力事実だけを説明することに注力した。
といっても、Marieは直接何かを見たわけではない。
些細というには大きすぎる違和感を覚えただけなのだ。
「Lyon……なんであの悪魔から、私の狼さんの香りがするの……?」
Roatheの自室では、まだ漂流者が無防備な姿でベッドに潜り込んでいた。
先ほどまでの濃厚な夜の気配はいささか薄くなったとはいえ、部屋の中にはその名残が濃いまま残っている。
穏やかな寝息を聴きながら、読みかけの本を開く。Roatheはかつてないほどの多幸感に酔いしれていた。
だから構わないと思ったのだ。
乱暴に開けられるドアの向こうには、Roatheが言うところの狂信者の二人が立っていた。
「……Roathe、そこにいるのは……誰、だ」
低く唸るような問いかけ。
この二人が漂流者に対して特別な感情を持っていることは、その態度からわかっていた。
昨日までは、漂流者はこの二人のどちらかを選ぶのだろうと漠然と考えてもいた。
ところがどうだ。漂流者が選んだのはRoatheだったのだ。
自ら選んで堕ちてきた。望んで所有された。
それは否定しがたい事実だ。
このことをこの狂信者どもは理解するのだろうか。それとも頭ごなしに否定する? 或いは陰謀だと騒ぎ立てるかもしれない。
Roatheはいくつかのパターンを想像して、ほくそ笑んだ。
──どう転んでも『これ』は我のモノだ。
「狂信者だけに飽き足らず、無法者の称号まで得たいとは! ずいぶん酔狂が過ぎるのではないか? Lyonよ」
Lyonの背に隠れるように立っていたMarieは、Roatheの言葉など耳にも入らない様子で、ベッドのふくらみを凝視していた。
わずかに見える髪の毛、あの特徴的な髪色は……。
Marieは逃げ出していた。
見たくない、聞きたくない、知りたくない、分かりたくない、認めたくない、考えたくない。
Lyonが止める間もないほど素早く、Marieは走り出していた。
「Roathe、それに……起きているんだろう? 納得のいく説明をしてくれないか。Marieにも説明しなきゃいけない」
怒気にいくらか呆れを含んだ声音で、Lyonはベッドの中のRoatheのモノに声をかけた。
いくら激しすぎる行為の後で疲労困憊とはいえ、ドアが開け放たれたところから、漂流者は目を覚ましていた。
なんなら、今のこの状況をどう説明しようかと寝起きの頭をフル回転させていたが、何の解決策も思いつかないまま、Lyonに声をかけられてしまった。
「出てこないなら……わかるだろ?」
さすがに観念したのか、もぞもぞと体を起こし、布団の中から顔の上半分だけをぬっと出す。
「お、おはよう、Lyon」
「あぁ、『おはよう』、親愛なる漂流者。そろそろこちらに出てきてもらおうか。出てこないなら引きずり出すが?」
慇懃に返された挨拶に、Roatheが喉を鳴らして嗤った。
布団の中の漂流者は笑い事ではなかった。全裸なのだ。
それも体中に所有印をこれでもかと刻まれて、傍から見れば暴力を受けたと思われかねない有り様だ。
「Lyon、あの、ちょっと——」
「察しの悪い男だ。昨夜ナニがあったのか分からんほど愚かだったとは! それともお前は、裸の女を無理やり面前に立たせる趣向が好みなのか? それならば、まだ我とは気が合うかもしれんが……そういう下卑た嗜好は、気に入りの女の前で言うべきではないのでは?」
ベッドとLyonの間に割って入ったRoatheは、挑発するように大仰に言い放つ。
そうしなければ、自分だけが見ることのできる最愛の人の名誉が著しく損なわれるところだった。
可及的速やかにLyonを自室から排除し、漂流者に身繕いをさせなくてはならない。
「……!!! 大聖堂に来てください。いいですね。これはお願いではなく命令です!」
渾身の力でドアを閉めたLyonの足音が遠ざかる。
部屋には再び静寂が戻った。
「……なんでバレたんだろ」
「わからんが、おそらく気付いたのはMarieだ」
「ななな、何でMarie?? まさかRoatheが……」
「言うわけなかろう。面倒なことになるのは目に見えているではないか。……まさに今がそうだな。とりあえず身繕いをして、体裁だけでも取り繕え。あとは適当に我のせいにして構わん」
「イヤだね! なんでRoatheのせいなの。別に悪いことは何にもしてないんだよ? なのに何でRoatheが悪いことになっちゃうの。そんなんヤだよ、私。すぐ用意するから待ってて! 私がちゃんと『この人は私の恋人だから、何の問題もありません』って説明する!」
漂流者は憮然とした顔で、シーツを体に巻いたままバスルームに向かう。
深めの噛み傷に湯が染みるのか、時折「ぐ」とか「んんんん」とか、声にならない呻き声がRoatheの耳に届いた。
思わず笑みがこぼれる。
選ばれるとは、かくも心地よいものなのか。
この頼もしい恋人が、いかにしてあの二人を言いくるめるのか、想像するだけで楽しくなる。
言い負かされそうになったら助けてやろう。そして、その恩を元手に、また今夜も愉しもう。
愉悦に歪んだ口元を隠しもせず、Roatheは身繕いを手伝ってやるため、バスルームに向かったのだった。
終
何ということはない。間違えたのだ。
あのMarieがLyon以外に心を開く、あの大切な『狼さん』と悪魔を。
ふわりと香る狼さんの甘く優しい香りは、漂流者の内面を表したかのようで、Marieはとても好きだったのに。
間違えてにこやかに振り向いた時、あの悪魔はなんとも言えない顔をしていた。
喜びとも困惑とも取れるその顔を見るのは、この悪魔の世話を任されてから初めて目にする表情だった。
「Oh, je n'arrive pas à y croire ! Je n'arrive pas à croire que vous ayez pris mon loup pour cet horrible démon ! Le démon a dû faire quelque chose !
(あぁもう信じられない! あの醜悪な悪魔と私の狼さんを間違えただなんて! きっと悪魔が何かやったに違いないわ!)」
大聖堂の自分のスペースで祈りを捧げながらも、Marieはさっきから聖句を唱えることもなく、ひたすらRoatheを罵倒し続けていた。
さすがのLyonも、ぶつぶつと罵り続ける同胞を放っておくにも限界が来た。
ただでさえ今日は幻聴も幻覚もいつもより酷いのに、これにMarieの悪口雑言が続いては堪ったものではない。
「Marie、今日はいったい何にそんなに腹を立てているんだ? 祈りの言葉よりもRoatheの悪口ばかりだな。できればその悪口を聖句に置き換えてほしいんだけども」
少しばかり茶化すように、なるべくMarieの気持ちが軽くなるよう気を付けながら、Lyonはにこやかに歩み寄った。
「Roatheに何かされたのか?」
「いえ、あの……煩くしてごめんなさい、Lyon。私じゃないの、あの……なんて説明したらいいのかしら」
「ゆっくりで構わないよ。今日はなぜかRoatheもいないし、何も気にせず落ち着いて」
LyonはMarieの背を気遣うようにさすりながら、長椅子へと誘導した。
こんなに狼狽したMarieを見るのはいつ以来だろうか。
長椅子に腰掛け、ふと膝に置かれたMarieの手を見ると、固く握り締められていたからなのか、肌は青白く、手のひらに食い込んだ爪は皮膚に薄く血を滲ませていた。
「Marie、あぁ、ほら、力を抜いて。何があったのか分からないけれど、順を追って話してごらん」
Marieはいまだ纏まらぬ頭で、朝の出来事を話して聞かせた。
なるべく感情的にならないように気を付けながら、極力事実だけを説明することに注力した。
といっても、Marieは直接何かを見たわけではない。
些細というには大きすぎる違和感を覚えただけなのだ。
「Lyon……なんであの悪魔から、私の狼さんの香りがするの……?」
Roatheの自室では、まだ漂流者が無防備な姿でベッドに潜り込んでいた。
先ほどまでの濃厚な夜の気配はいささか薄くなったとはいえ、部屋の中にはその名残が濃いまま残っている。
穏やかな寝息を聴きながら、読みかけの本を開く。Roatheはかつてないほどの多幸感に酔いしれていた。
だから構わないと思ったのだ。
乱暴に開けられるドアの向こうには、Roatheが言うところの狂信者の二人が立っていた。
「……Roathe、そこにいるのは……誰、だ」
低く唸るような問いかけ。
この二人が漂流者に対して特別な感情を持っていることは、その態度からわかっていた。
昨日までは、漂流者はこの二人のどちらかを選ぶのだろうと漠然と考えてもいた。
ところがどうだ。漂流者が選んだのはRoatheだったのだ。
自ら選んで堕ちてきた。望んで所有された。
それは否定しがたい事実だ。
このことをこの狂信者どもは理解するのだろうか。それとも頭ごなしに否定する? 或いは陰謀だと騒ぎ立てるかもしれない。
Roatheはいくつかのパターンを想像して、ほくそ笑んだ。
──どう転んでも『これ』は我のモノだ。
「狂信者だけに飽き足らず、無法者の称号まで得たいとは! ずいぶん酔狂が過ぎるのではないか? Lyonよ」
Lyonの背に隠れるように立っていたMarieは、Roatheの言葉など耳にも入らない様子で、ベッドのふくらみを凝視していた。
わずかに見える髪の毛、あの特徴的な髪色は……。
Marieは逃げ出していた。
見たくない、聞きたくない、知りたくない、分かりたくない、認めたくない、考えたくない。
Lyonが止める間もないほど素早く、Marieは走り出していた。
「Roathe、それに……起きているんだろう? 納得のいく説明をしてくれないか。Marieにも説明しなきゃいけない」
怒気にいくらか呆れを含んだ声音で、Lyonはベッドの中のRoatheのモノに声をかけた。
いくら激しすぎる行為の後で疲労困憊とはいえ、ドアが開け放たれたところから、漂流者は目を覚ましていた。
なんなら、今のこの状況をどう説明しようかと寝起きの頭をフル回転させていたが、何の解決策も思いつかないまま、Lyonに声をかけられてしまった。
「出てこないなら……わかるだろ?」
さすがに観念したのか、もぞもぞと体を起こし、布団の中から顔の上半分だけをぬっと出す。
「お、おはよう、Lyon」
「あぁ、『おはよう』、親愛なる漂流者。そろそろこちらに出てきてもらおうか。出てこないなら引きずり出すが?」
慇懃に返された挨拶に、Roatheが喉を鳴らして嗤った。
布団の中の漂流者は笑い事ではなかった。全裸なのだ。
それも体中に所有印をこれでもかと刻まれて、傍から見れば暴力を受けたと思われかねない有り様だ。
「Lyon、あの、ちょっと——」
「察しの悪い男だ。昨夜ナニがあったのか分からんほど愚かだったとは! それともお前は、裸の女を無理やり面前に立たせる趣向が好みなのか? それならば、まだ我とは気が合うかもしれんが……そういう下卑た嗜好は、気に入りの女の前で言うべきではないのでは?」
ベッドとLyonの間に割って入ったRoatheは、挑発するように大仰に言い放つ。
そうしなければ、自分だけが見ることのできる最愛の人の名誉が著しく損なわれるところだった。
可及的速やかにLyonを自室から排除し、漂流者に身繕いをさせなくてはならない。
「……!!! 大聖堂に来てください。いいですね。これはお願いではなく命令です!」
渾身の力でドアを閉めたLyonの足音が遠ざかる。
部屋には再び静寂が戻った。
「……なんでバレたんだろ」
「わからんが、おそらく気付いたのはMarieだ」
「ななな、何でMarie?? まさかRoatheが……」
「言うわけなかろう。面倒なことになるのは目に見えているではないか。……まさに今がそうだな。とりあえず身繕いをして、体裁だけでも取り繕え。あとは適当に我のせいにして構わん」
「イヤだね! なんでRoatheのせいなの。別に悪いことは何にもしてないんだよ? なのに何でRoatheが悪いことになっちゃうの。そんなんヤだよ、私。すぐ用意するから待ってて! 私がちゃんと『この人は私の恋人だから、何の問題もありません』って説明する!」
漂流者は憮然とした顔で、シーツを体に巻いたままバスルームに向かう。
深めの噛み傷に湯が染みるのか、時折「ぐ」とか「んんんん」とか、声にならない呻き声がRoatheの耳に届いた。
思わず笑みがこぼれる。
選ばれるとは、かくも心地よいものなのか。
この頼もしい恋人が、いかにしてあの二人を言いくるめるのか、想像するだけで楽しくなる。
言い負かされそうになったら助けてやろう。そして、その恩を元手に、また今夜も愉しもう。
愉悦に歪んだ口元を隠しもせず、Roatheは身繕いを手伝ってやるため、バスルームに向かったのだった。
終
Warframeで遊んでたらうっかりRoathe沼にハマったテンノ。
Roatheのお陰でようやくWarframeの世界観とか諸々が理解できたので「わぁ、Roatheってすごいなぁ」って尊敬から愛情に変わるのに秒でしたよ。
なおLyon神父の事も心配しながら見守ってます。
Marieは……自由にするがよい(*ᵕᴗᵕ)⁾⁾ゥンゥン
夢の世界在住。
Roatheのお陰でようやくWarframeの世界観とか諸々が理解できたので「わぁ、Roatheってすごいなぁ」って尊敬から愛情に変わるのに秒でしたよ。
なおLyon神父の事も心配しながら見守ってます。
Marieは……自由にするがよい(*ᵕᴗᵕ)⁾⁾ゥンゥン
夢の世界在住。
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