春
公開 2024/04/07 11:43
最終更新
2025/07/05 16:56
先輩とホテルの朝ごはんを食べ(二時間も居座ったので最後にはだれもいなくなっていた)先輩の希望でニトリとイオンに行った。都会のひとには分からないだろうが田舎の人間は全員イオンに行く。
先輩と働いていたのはもう十年も前のことで、当時からわれわれはこんな感じだった。先輩の買い物に付きあう。思い返せば、いろいろな買い物があった。先輩のおばあちゃんに贈るお菓子、先輩のおとうさんに贈るサンダル(俺が試し履きさせられた)、先輩の甥っこに贈る絵本、先輩本人の服や靴や、さまざまな日用品、などなどなど。
時には完全に別行動もする。大抵は俺がひとりに飽きて先輩のところへもどるが、気づいたら先輩が隣りにいることもある。先輩が服をえらぶ横で「そんなんほかにも持ってるよね?」などと言う。先輩は「うるせー」と言いつつ「これはどう思う?」などと訊く。昨今の流行りの服を見ながら「こんなん三十年前にも流行ってなかった?」などと言って笑いあう。先輩は買い物のときかなり熟考する。妥協しない。そのくせ「なんでもいいから何か買いたい……金を使いたい……」と言うので「狂っとる」と言ってまた笑った。
朝ごはんを二時間もかけて食べたので昼にまったく腹がへらない。しかし先輩は俺に三食くわせるのを使命と思っている。俺はお茶程度でいいと言って、喫茶店に入る。するとまったく食う気がしないと言っていた先輩がビーフシチューハンバーグとかいうメチャクチャ重そうなものを注文する。狂ってんのか? 先輩が食うのに俺がお茶だけというのもアレなので、仕方なくいちばん軽そうなホットドッグをえらぶ。先輩はシチューを服にこぼす。「あんたいつもこぼすんだから白っぽい服を着るな」と言うと「そうだっけ」と先輩は言う。
われわれは中高年なので互いに記憶があやしい。「ほらアレ」「あのときのアレ」「アレはどうしたっけ」「あー思い出せない」「ここまで出てる」などと言いながら謎解きみたいに喋りつづけた。無理して昼を食ったので吐きそうなほど苦しく、駅で土産物を眺めながら正直いまは何もいいと思えない(あまり憤慨もしない)。めんどくさくなって、「自信作」と手書きの飾りがついたお菓子を買う。「自信作って言ってるし」と言うと先輩は「おまえってそういうとこあるよな」と呆れたように言った。どういうとこだ?
新幹線の改札前でアスパラガスを売っている。レアなホワイトアスパラガスもあり、しかも安い。俺はアスパラガスが大好きなのだ。しかし結局買わなかった。悩む俺の横で先輩はこごみを見ていた。たらの芽も出ていた。そういう季節なのだ。つまり春。
先輩と働いていたのはもう十年も前のことで、当時からわれわれはこんな感じだった。先輩の買い物に付きあう。思い返せば、いろいろな買い物があった。先輩のおばあちゃんに贈るお菓子、先輩のおとうさんに贈るサンダル(俺が試し履きさせられた)、先輩の甥っこに贈る絵本、先輩本人の服や靴や、さまざまな日用品、などなどなど。
時には完全に別行動もする。大抵は俺がひとりに飽きて先輩のところへもどるが、気づいたら先輩が隣りにいることもある。先輩が服をえらぶ横で「そんなんほかにも持ってるよね?」などと言う。先輩は「うるせー」と言いつつ「これはどう思う?」などと訊く。昨今の流行りの服を見ながら「こんなん三十年前にも流行ってなかった?」などと言って笑いあう。先輩は買い物のときかなり熟考する。妥協しない。そのくせ「なんでもいいから何か買いたい……金を使いたい……」と言うので「狂っとる」と言ってまた笑った。
朝ごはんを二時間もかけて食べたので昼にまったく腹がへらない。しかし先輩は俺に三食くわせるのを使命と思っている。俺はお茶程度でいいと言って、喫茶店に入る。するとまったく食う気がしないと言っていた先輩がビーフシチューハンバーグとかいうメチャクチャ重そうなものを注文する。狂ってんのか? 先輩が食うのに俺がお茶だけというのもアレなので、仕方なくいちばん軽そうなホットドッグをえらぶ。先輩はシチューを服にこぼす。「あんたいつもこぼすんだから白っぽい服を着るな」と言うと「そうだっけ」と先輩は言う。
われわれは中高年なので互いに記憶があやしい。「ほらアレ」「あのときのアレ」「アレはどうしたっけ」「あー思い出せない」「ここまで出てる」などと言いながら謎解きみたいに喋りつづけた。無理して昼を食ったので吐きそうなほど苦しく、駅で土産物を眺めながら正直いまは何もいいと思えない(あまり憤慨もしない)。めんどくさくなって、「自信作」と手書きの飾りがついたお菓子を買う。「自信作って言ってるし」と言うと先輩は「おまえってそういうとこあるよな」と呆れたように言った。どういうとこだ?
新幹線の改札前でアスパラガスを売っている。レアなホワイトアスパラガスもあり、しかも安い。俺はアスパラガスが大好きなのだ。しかし結局買わなかった。悩む俺の横で先輩はこごみを見ていた。たらの芽も出ていた。そういう季節なのだ。つまり春。
車の運転と犬が好き
他人に話すほどでもなく日記に書くほどでもないメチャクチャどうでもいい話と過去の習作置き場です
「いま私は静かにしている」はいちおう連作ですが、それぞれの話につながりはないです
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