琵琶湖の散歩道
公開 2011/06/15 22:37
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帰宅した弟が朝に家を出たときには持っていなかった大きな紙袋から白っぽい箱を取り出してよこした。「琵琶湖の散歩道」と書かれたその箱はどこか「白い恋人」を思わせるデザインをしている。上司の土産、と言う弟へてきとうに頷きながらビニールを破ると中身は個包装されたクッキーで、私は一つを弟の手に落としもう一つの封をきった。やけに白い、けったいなかたちのクッキーで、くちに入れるともそ……とした食感があり、なんだか何かを思い出しそうになる。古くなった王林を思い浮かべて打ち消した私に「琵琶湖ってどうなの」と弟が問う。「昔からいろいろ信仰があったみたいで神社なんかもあるよ」と丁度その日に湖沼にまつわる民俗の本を読んでいた私は大雑把に答える。だが私は琵琶湖を見たことがない。たぶん弟もない。すごいな琵琶湖、と弟が言い、日本一大きいからね、と私はあわせて菓子の箱をしげしげと眺めた。「こういう平たい場所にある湖を見たことがないな」と私は言う。「山のなかの湖しか見たことがないよ」箱の表に描かれた琵琶湖は町のなかにぽっかりとできた水たまりのようでなんだか町全体がその水のうえに浮いているようにも見える。明るいな、と感じる。明るくて、とても平たい。「すごいな琵琶湖はさ、一度行ってみたいよ」と弟は言いながらいつものようにパソコンの電源を入れていて、私は菓子の箱をプリンタのうえに置いた。きっとしぬまで琵琶湖を見ることはないだろう、私もこの弟も。もう一つクッキーを取り出してよく見るとそれはどうやら花のかたちを模しているのである。琵琶湖の散歩道には、まあ、こういう花が咲いてるんだろうなと思いながらくちに入れて、私はカロリーメイトを思い浮かべ、やはり打ち消した。琵琶湖のことはそれきりで、いま私はびわが食べたい。
車の運転と犬が好き
他人に話すほどでもなく日記に書くほどでもないメチャクチャどうでもいい話と過去の習作置き場です
「いま私は静かにしている」はいちおう連作ですが、それぞれの話につながりはないです
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