Sleep the Clock Around
公開 2010/12/08 11:44
最終更新
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チケット余ってるんだけど、要る? と問われて思わず、一晩考えさせてくださいと大仰な返事をした。弟が好きだったバンド。二人で行ったことのある、海辺のライブハウス。晴れた休日にCDを聴きながら掃除をしてコーヒーを淹れて、だらだらと喋ったっけ。「誘ってみようか」寝ころんだ私は天井を見ながらくちに出してみる。出て行った弟からは連絡がない。忙しく、楽しくやっているのだろう。一人きりの私も、それなりに楽しくやっている。「誘ってみてもいい」私たちは仲がわるいわけではないのだし、と考える。今生の別れではあるまいし、と思って彼は手を振ったにちがいなかった、「またね」と笑って背を向けた。私は? 私はいつだって、もう会えないかも知れないなと思いながら別れる。夜に目を閉じておやすみと言うときですら、明日は目が覚めないかも知れないと思っていた。弟が「明日も遊ぼうね」と言うと嬉しかった。「……やっぱりやめよう」一人で行ったっていい、それで自慢してやるほうがきっといい。いや、一人ではあの忌々しい「思い入れ」の匂いが勝手にしみだして目にしみるから、なかったことにしてしまおう、少し、惜しいけれど。ことわられたら、どうせ落ちこむし、そもそも弟のことだから、もうだれかを誘っているかも知れないし。私にそんな「だれか」はいないけれど、だからわるいってことはない、一人で聴いたって歌はいい。ライブじゃなくたって。暗いからっぽの部屋でだって。意地になってるな、と思う。寂しいんでしょと、弟に思われたくないのか。少し、ちがう。私は、弟といる時間が楽しかったということを、おなじことを、弟も思っているとできるだけ長く信じていたい。弟に会いたいわけじゃない。楽しかった時間をとりもどしたいのでもない。二人で過ごす時間が大好きだったんだよと、いつも言えなかった。私にはやっぱりこれしかないんだなあ、といま私は忌々しい匂いを思いきり吸いこむ。
車の運転と犬が好き
他人に話すほどでもなく日記に書くほどでもないメチャクチャどうでもいい話と過去の習作置き場です
「いま私は静かにしている」はいちおう連作ですが、それぞれの話につながりはないです
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