長野署の諸伏警部の漢文スペックが、ただの故事成語に詳しいじゃなくて大学で専攻してますよね?!の可能性があってビックリした件 前編
公開 2025/08/07 17:12
最終更新
2025/09/05 15:42
※9/5 正史三国志に「修短」が載っていたことを見落としてた件について、お詫びと注釈を書き足しました。
シンプルブログの更新がひさびさになってすみません。6月末に「名探偵コナン 隻眼の残像」を見て、もののみごとに諸伏警部に射貫かれ、にわかコナンファンになりました。
いやもうほんと諸伏警部がやばいです……。つうか長野組三人ともやばいぐらい好きですが、諸伏警部が私のツボにグッサリささってもう大変。
犯罪に対する厳しい態度から伺える正義感と高潔さ、仲間を命がけで救おうとする勇気、高い知性と、高すぎてもはや人間離れしてるフィジカル能力、そして端正な美貌という、どこからみても完璧な存在なのに、次々と繰り出す故事成語によって、おもしろ故事成語おじさんになっているというこのギャップ。たまらん。好き。
高明さんの個人的な魅力もさることながら、(元)中国史オタとしては、高明さんの使う故事成語のラインナップがやばくてビビってます。めちゃくちゃ範囲が広い。諸伏警部の漢文好き、普通の漢文好きってレベルじゃない。普通の三国志オタクじゃない。中国史全般フォローしてる。やばい。東大、もとい東都大学法学部じゃなくて二松学舎文学部じゃない……???
だって普通、三国志オタクと言ったら、「三国志ものの小説やマンガをバリバリ読んでいて、ゲームもやってて、あとなんかちょっと難しい解説書を読んでいる」イメージじゃないですか。最近の人なら、北方三国志読んでて、マンガだと蒼天航路とか読んでて、ゲームしてて、あとは「三国志の名言に学ぶ」とかいうビジネス書を読んでるんだけど、でも羅貫中の原典を読んでるかと言うとそうでもなくて、大抵三国時代しか知らないので、世界史の成績案外良くないし、中国史も三国時代以外はあんま点が取れない。そんなイメージがあるじゃないですか。
でも諸伏警部の故事成語、そんなメイドインジャパンの本だけを読んでいるような、狭いレベルじゃない。明らかに三国志演義以外も、中国の古典を、恐らくは漢文書き下しで直接読んでいる。
あ、もちろん私はコナンファンとしてはニワカもニワカ、超ニワカなんで、青山先生が「所轄の高明さんが具体的にどういうレベルの三国志オタクに設定したか」の公式設定は、まだ全然知りません。発表されてるかどうかの情報も、まだ掴めてないです。
なにせ隻眼の残像を6月末に見て「ウワー!好き!」となり、それから黙々と原作を一気読みしはじめ、やっと7月末に最新話まで追いついたという、名探偵コナンファン歴1ヶ月のひよっこなもんで……。とりあえずhuluに入会はして、長野県警が出演している地上波アニメを見て、「huluじゃなくてDMMの方がお得じゃね?」と気付いたところです。隻眼以外の映画はこれから急いで見ます。
という訳で、公式設定は全然知りませんが、中国史エンタメファン歴25年ぐらい(その後辞めて10年経過して知識は錆び付いてる)、中国語そこそこ出来る、一応大学院で中国史で論文書いたことあるという経歴の垢主が、「……もしかしてこの諸伏警部、やべえレベルの中国史文学オタで、とんでもないハイスペックでは……?」と勝手に思った理由を書きたいと思います。
とはいえそんな難しい話じゃなくて、「も~!こんな素敵でトンチキでかっこいいキャラ作られたら、青山先生に一円でも多く印税が入るように、原作一気買いするしかないやん!(通販ボタンポチー)」が最終結論なんで、気楽に読んでもらえたら嬉しいです。
隻眼の残像で高明さんが湖に落ちた時に、「人生死あり、修短は命なり」って言葉を引用したじゃないですか。
実はこの書き下しのフレーズ、「日本で良く読まれている三国志もの」には、実は出てきません。北方謙三ありません。蒼天も柴錬も陳舜臣も、もちろん出てきません。なんと書き下しが結構豊富な吉川三国志にも出てこない。
なんなら「羅貫中が書いた小説である三国志演義の日本語訳」のいずれにも、この漢文書き下しのスタイルでは出てきません。
ちなみに正史の三国志は現在2バージョンの翻訳があります。筑摩書房版(今鷹真・井波律子・小南一郎共訳)は現代日本語訳のみの収録ですが、汲古書院版(渡邉義浩ほか訳)が原文と書き下しと現代日本語訳のフルセットが揃っています。
まず小説ですが、どれもこれも「俺流に古典小説をアレンジしたった」で、むしろ漢文書き下しとかが嫌いなお客さんのために、そういう要素を抜いたものが大半。なんなら周瑜の遺言自体が出てこないのもあったしな……。
翻訳の方は、完訳ならもちろん周瑜の遺言自体はあるんですが、しかし漢文書き下しではなく、普通の日本語に翻訳されてしまっているので、「修短」という単語は出てきません。
では諸伏警部がどうやってこの周瑜の遺言の書き下し文を知ったかですが、普通に考えたら、中身被りまくりのビジネス書をローラーする中でたまたま載っている本を見つけたんだだろうな……とは思うのですが。
それにしては、あまりにも諸伏警部の網羅している故事名言の範囲が広くて深いんですよ。ありていに言えば、ビジネル書なんかに載ってるレベルを超えている。というか、三国志の故事成語じゃなくて、中国史も越えて、中国文学もフォローしていて、漢文の知識全般に広がってる。
具体的に言えば、諸橋轍次著『中国古典名言事典』(講談社学術文庫)が家にあって、毎日まめに読んでるんじゃないかと思うレベル。結構高い本なんで(現在3200円します)、図書館で探してみてください。恐らく今日本にある故事格言の本で最強レベルの本です。掲載している故事成語の数、なんと4800。文字通り桁が違う。しかも「こういう意味の故事成語を探したい」場合の検索機能がついているんですよ。マジで。
だからこれを買って手元において、常に読んで徹底的に暗記すれば、あなたも明日から諸伏警部と同じぐらいに故事成語が使えるようになれるんじゃ……と思えるぐらいの充実の内容です。ちなみにまだ版元で売ってるので普通に買えます。
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000150011
欠点は、本自体が漢文上級者向けなので、解説が非常に不親切なことと、そもそも例の周瑜の遺言が載っていないことなんですが。
でも私はあの隻眼の残像を見て、それから原作を観て思ったんですよ。
高明さんが故事成語を勉強したとしたら、きっとこういう本のような、ガチの学者の書いたまじめな本で勉強していて、なんならその故事成語の出典元である論語とか孫子とか史記とかを漢文付きの本で読んでいて。
だから漢文書き下しの能力がめちゃくちゃ高いので、原典である羅貫中の三国志演義も、原文でそこそこ読めている可能性もあるんじゃないかな……と思ったんですよ。
三国志なんて超有名だし、漢文の授業もあるんだから、別に日本人でも頑張れば普通に読めるんじゃ?って、思いません?
実はそうじゃないんです。三国志演義の原文を読むの、めちゃくちゃハードル高いです。なんなら学校の漢文の授業で出てくる文章より、読解のハードルが高いです。ぶっちゃけ言うと、中国古典小説読解のプロでないと、完全自力は正直かなり厳しいです。
三国志演義の原文の何が難しいか。400年前(明代)の中国語の口語文と、漢籍に使われる、もっと古い時代の書き言葉(具体的に言うとどんなに新しくて宋より前、メインは春秋戦国から唐ぐらい)が混ざって出てくるからです。
いわゆる「漢文」で読んでいる中国古典は、実はこの「もっと昔の書き言葉」で書かれたものが大半です。
春秋戦国から唐だと随分幅がありますが、実は中国の書き言葉は、実は辛亥革命まではそれほど大きな変化がなかったので、一度文法を把握すれば、重要な古典の本は、まあだいたい読める感じになってます。
そしてこの「古典の文語」の文語を、日本人が日本人が読むために編み出したテクニック――日本人に読めるように並べ替え、てにをはを付け加え、いわゆる「書き下し文」にする技術が、いわゆる「漢文」です。
対し、口語は文語と違い常に変化していますので、基本的にどの時代も、口語は「日本の漢文」のテクニックでは読めないです。
特に明代ともなると、口語の文法は文語とかなり大きく変化し、現代語にかなり近い形になり、漢文で対応できる文法ではなくなっています。
実例を挙げます。周瑜の死後、曹操は南方を攻める前にまずは馬騰を片付けようと思い、馬騰をおびき寄せようとします。対する馬騰は逆におびき寄せられたふりをして曹操を討とうと考え、黄奎という人物と一緒に計画を立てます。
この黄奎には李春香という妾がいて、黄奎の弟の苗沢と密通しており、黄奎から曹操打倒の計画を聞き出し、それを苗沢が曹操に密告。馬騰も黄奎も処刑されます。
苗沢は曹操に、自分は褒美は何も要らないので李春香を妻に欲しいと願いますが、それに対する曹操のセリフがこうなってます。
你為了一婦人,害了你姐夫一家,留此不義之人何用!
(貴様は女のために義理の兄一家を殺すような奴だ。そのような義理知らずの人間を生かして何になるか)
現代中国語を勉強している皆さんはもうお気づきでしょうが、前の2フレーズ、ほぼ現代語の知識で読めちゃいます。
「你」はニーハオのニーですし、「為了」(~のために)は中国語を学び始めのころに習う定番フレーズ。「お前は女ひとりのために」となります。
しかし何よりも現代語らしさ、つまり「漢文ではこれ出てこないよ?!」を感じるのは、やはり「了」でしょう。漢代中国語と現代中国語の代表的な違いと言えば、この過去や完了を現す「了」。いわゆる漢文で扱う時代の文章には、用例が極めて少ない助詞ですが、現代語では普通に使います。
ちなみに単語の意味はかなり違うものもあり、「姐夫」は現在では「姉の夫」ですが、この時代は「義理の兄」の意味ですし、あと「婦人」も現代はあまり使わないし、「害了」の「害」もちょっと今の中国語に比べると古いな……と感じますが、でも通じないことはないです。
では、いまの2文を漢文の手法で書き下せるかどうか。
チャレンジしてもらえば判ると思いますが、「為了」と「了」が邪魔で、めちゃくちゃやりづらいです。つうか両方出来る自分としては、「すみません、これ漢文が対応してない時代の文章なんで、上から現代文っぽく読んでいいですか?」と言いたいです……。
無理にやろうと思えば、「為了」は、この二字をまとめて「ために」と読むことにして、「了」は「おわんぬ」と読ませることにすれば、「なんじは一婦人のため、なんじの兄の一家を害しおわんぬ」となり、それっぽくはなります。でも、この「了」って、いちいち「おわんぬ」と訳すほどの仰々しいニュアンスはなくて、「~した」ぐらいの意味なんだよな……。
逆に3つめのフレーズは、まさしく漢文向け。「この不義の人を留め、何に用うるか」って感じで、すらっと漢文書き下しに出来ます。
そして当然、こちらは現代中国語の感覚で見ると、「うわ~、古文だ~!」です。口語でいくなら、「此」は「这」に、「之」は「的」に書き換えたいし、「不用」は「不要」にして場所は文頭に移動したい。ちょっとニュアンス変わっちゃうけど、これで現代語としてまあまあ読める感じになります。
このように、ひとりの登場人物のセリフのなかに、古代の文法(宋代以前の文語)と、現代語の文法(明代の口語)が混在する。これが三国志演義の文体です。専門的に言うと「半白半文」(半分口語で半分文語)と言います。
なので日本人が「三国志演義の原文」をガチで読もうと思ったら、まず漢文が出来るようになってから、現代中国語もやって、その上で明代の単語を検索できる辞書を調達しないといけない訳でして……。単語は愛知大学の中日大辞典と大漢和辞典があれば、ある程度はなんとかなるとは思います。多分。
それにプラス、時代背景の理解。なんか日本人って三国志を当たり前に知ってるような気分だけど、あれ、「三国時代を舞台にした、明代に書かれた小説」ですから、元ネタとなった時代と、描かれた時代の両方が分かって無いと、実は正確には読み込めないです。
余談ですが、正史の三国志は漢文で読める文法なんで、時々漢文のテキストやテストに出てきます。みんな大好き魏志倭人伝(正確には魏書東夷伝倭人条)も漢文対応してます。ただし文語も時代によって読みやすさが違いますが、晋代はかなり難易度高いです。
とまあ、読解のハードルが非常に高い三国志演義の原文ですが、とはいえ、ちゃんとした翻訳は出版されてます。
最も古いテキストは江戸時代で湖南文山版。明治に久保天随版。昭和以降は結構あって、立間祥介版、小川環樹&金田純一郎版、井波律子版。ほかに渡辺精一版と村上知行版。
「羅貫中の書いた三国志演義を、日本語で読みたい」と思ったら、ここから選ぶことになるんですが、しかし湖南文山版や久保天随版は、さすがに訳した日本語が古いし、そもそも入手困難なので、実質選択肢は5つです。
この5つは、いずれも昭和に訳された比較的新しいものなので、訳された日本語の好みで選んじゃって良いかと思います。ちなみに私の好みは立間祥介版。
とはいえこの5バージョン、さっきの「古文と現代文の文法が混在」のせいで、「漢文書き下し」はほぼありません。ほぼすべて現代の日本語になってます。さすがに作中に登場する漢詩については書き下しになってますが、小説本文はほぼすべて現代語です。
もちろん周瑜の遺言も、書き下しではなく、現代語にガッツリ訳されてます。なので「修短」という単語は登場しません。
……そうなんです、だからあの「人生死あり、修短は命なり」という書き下しの文章に出会おうと思ったら、羅貫中の原文を買ってこないと出会わないんですよ。
もちろん「たまたま買った故事成語辞典にあった」可能性もなくはないですが、その「たまたま」の確率の低さと、高明さんの故事成語レベル、三国志好きレベルから考えると、むしろ「原文がどうしても読みたくなって、神保町の内山書店か東方書店(いずれも老舗の中国関連書籍、中国語書籍の本屋さん)で購入した」の方が、エンカウント率が高いと思うんですよ。だってこっちなら、頑張って読み進めれば100%出会えますから。
それに最近では、三国志演義の原文を読もうという読書会や、そういうテキストもありますから、高明さんはどこかのタイミングで、そういう「三国志演義を原文で読もう」というような活動に参加したのかも知れません。
大学生の頃だったかもしれませんし……いや大学ではないな。多分最初から卒業したら長野に戻って県警に入るつもりだったろうから、柔道部とか剣道部で体を鍛えてただろうな。
となると就職後ですが……そんな時間あるのかな……。いやでも、今はオンラインでもそういう会に参加出来ますから、忙しい勤務の合間を縫って参加したのかもしれません。まあ高明さんぐらいの天才で、真冬の湖に頭からダイブして救急車で運ばれても病院から脱走してラストバトルに参加するような屈強な体力の持ち主なら、激務の合間に勉強会参加もいけるでしょ。
白話部分はさすがに現代中国語の分かる人の助けが要るとは思いますが、高明さんは東京大学もとい東都大学法学部かつ故事成語大好きなんで、共通一次の漢文は間違い無く満点を取れていた、つまり漢文パートは間違い無く読めるので、そっちの方で活躍したと思います。
そういう地道な読解のなかで、この周瑜の遺言の原文に出会ったのかも……と、勝手に妄想しています。公式設定は知らんけど。
という訳で、三国志演義の原文にアタックするのは相当しんどいけれど、高明さんなら多分出来たと思います。
ところで青山先生が想定している「三国志」って具体的にどの人が書いた(もしくは翻訳したか)ものなのか。
結論から言えば吉川英治の三国志、吉川英治の世界観を引き継ぐ横山光輝のマンガと人形劇三国志あたりが、青山先生の想定している「諸葛亮孔明」のイメージ元じゃないかな、と私は推測してます。
多分これはもうどこかで公式情報出てる気もするけど、何分沼落ちして1ヶ月のニワカなんでまだ判らないです。すみません。
でも、何故他の作品はイメージ当てはまらないのかは、めっちゃ明確に判ります。三国志オタなら20年以上やってたんで。
実は日本で出ている三国志ものの小説が、実は翻訳でも翻案でもなく、「ベースとなる三国志演義のものがたりを、自分の感性でアレンジした」ものである……ということは冒頭で一度書きました。
この「アレンジした」は、別に私の主観ではなく、吉川英治は前書きで堂々と宣言し、北方謙三も同じような内容(桃園の誓いのあの展開は自分的にはリアリティがないので、自分が納得できるように書き換えたという的な内容)を、歴史群像かそういう感じの雑誌で宣言ますようにおおむね作者が意図的に宣言し、公式にやってるものです。
そしてこの独自のアレンジの方向性ですが、戦後に出た小説は、ほとんどすべて、羅貫中(もしくは吉川英治)の描いた「高潔で賢明な諸葛孔明像を否定したい」という形で書かれたものです。だからだいたい孔明先生はディスられています。蜀の人物もディスられています。
高明さん経由で三国志ものを読んで見ようと思って、本屋で一番目立つところにある本を買ったら、諸葛亮孔明が期待していたような高潔な人物に描かれておらず、むしろ積極的にダメキャラや、エグいキャラに描かれていて、ひどくションボリしたことありません?私は最初に吉川英治の世界観が好きになったんで、そこからあとはほとんどションボリでした。
じゃあなんでそういう方向性になったか。戦後の小説家は、戦前の価値観が大嫌いだから。
自分達を縛り付けきた、忠臣愛国的な価値観をぶっ壊したい。だから当然羅貫中の三国志演義(儒教が普通の価値観の時代に出来た小説なので、忠臣が推奨される)も嫌い。その価値観を引き継いでいる吉川英治も嫌い。
そんなノリなんで、孔明先生をはじめとする蜀の人物は大体ディスりの対象です。あとはあれだな、孔明先生は出師表があるんだよな……。戦前までずっと「出師表を読んで泣かない人は人ではない」みたいに言われ、忠臣愛国を鼓舞する時のダシに使われていたので、当然反発は強いです。
そして坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、上の世代への憎しみは、上の世代が愛用していたツールや文化にも向かいます。
儒教の経典を読むためのメインツールでもあった漢文も当然嫌われてましたので、当然戦後の「三国志もの」には、まず「書き下し文」も出てこないし、古典由来の故事成語も出てきません。
(もちろん全員がそういう訳じゃなくて、ただ単に「吉川英治の三国志が戦前に大ヒットしてるので、それとは違う、俺だけのオリジナル三国志を出したい」と思った結果、とりあえず吉川三国志で良く描かれている蜀を、そのなかでも一番の有名人の孔明先生をディスろうとしただけの人もいたでしょうが、でもまあ「上の世代とは違うことをしたい」という意味では、だいたい同じだよねと思ってます)
というわけで、今現在普通に手に入る三国志ものの翻訳または小説で、故事成語が割と出てきて、なおかつ諸葛孔明のイメージが高明さんのイメージの元ネタとしてピッタリくるような、高潔で賢明な人物として描かれているのは、翻訳バージョンと吉川英治(戦前に連載してた)、吉川英治の世界観を引き継いでいる作品が、メインどころとなります。
もちろん歴史創作の同人誌や、マイナー作品を草の根分けて探せばあるかもしれないけど、今回はあくまでも高明さんの元ネタ探しなんで、普通の本屋で手に入る本に限定します。
翻訳は現在手に入る5バージョンのどれでも大丈夫ですが、しかし翻訳版は、やはり「400年前の中国の小説」を、まんまガチで訳しているので、正直読みづらいです。
となると、小説の選択肢は吉川英治ほぼ一択。故事成語も結構出てくるし、なによりもこの作品の孔明先生こそ、青山先生が、高明さんのモデルとした「諸葛亮孔明」なんですから。
あともうひとつのお勧めポイント。実は吉川三国志、青空文庫で読めます。つまり無料。だから今から三国志ものを買おうかなと思ってる諸伏警部クラスタは、青空で吉川三国志読んで、購入予算でトレカ買った方がいいと私は思ってる。
ところで、先程「戦後の小説家は戦前に大ヒットした吉川英治のことが大嫌いなので、アンチ吉川三国志の世界観ばっかり生産してる」と書きましたが、しかしマンガとか映像とか、そういうジャンル違いとなれば話は別。吉川英治大好きな作家さんが、その世界観を踏襲して作った傑作があります。
その代表が横山光輝先生のマンガ。出だしとかほぼ吉川英治のコミカライズ。なので吉川英治を読んだけど、難易度的にしんどい場合は、いったん横光のマンガを読むのもおすすめ。
そしてもうひとつ、NHK人形劇三国志ってテレビ番組があったんですが、これの人形美術を担当された川本喜八郎先生は、吉川英治の三国志の大ファンで、NHKで放映することが決まる前から人形を制作していました。なので造型はは明らかに吉川英治由来です。ただオンデマンド配信がなく、DVDを買うしかないんで、お財布に余裕のある方向けとなっています。
で、この人形劇三国志の孔明先生のデザインなんですけどね。
青山先生が、死亡の館、赤い壁で背景にちょこっと描いた諸葛孔明のデザインと……なんつうかこう……めちゃくちゃ似てるっていうか……。着ている服が黒ってデザインは、人形劇三国志と、その二次創作だけしかないんですよ(他作品は青または白が圧倒的大多数)。だからまず間違い無く、青山先生が頭に思い浮かべてる「諸葛亮孔明」って、人形劇三国志のだと思うんですよ。
青山先生の年齢的にも、多分見てるとしたらこれだろうし、またこの人形劇三国志、ものがたりの場面転換で、漢文書き下しでストーリーのひと言まとめが入るんですよ。これを見ているうちに漢文書き下しに親しんだ人も多かったそうです。つまりこれを見てると、故事成語に自然と親しめる仕様になってます。
ここまで状況証拠が揃えば、「青山先生が想定している諸葛亮孔明は、恐らく直接先生が見たのは人形劇三国志、つまりキャラクターとしては吉川三国志が描き出した孔明先生で、ビンゴじゃないかなあ、と私は思ってます。
ここまででもうすぐ制限の1万字になってしまったので、続きはこちらの記事にあります。
目次
(1)たかあきさん、体力知力以外にも漢文のスペックがハイレベルすぎてヤバイ #
シンプルブログの更新がひさびさになってすみません。6月末に「名探偵コナン 隻眼の残像」を見て、もののみごとに諸伏警部に射貫かれ、にわかコナンファンになりました。
いやもうほんと諸伏警部がやばいです……。つうか長野組三人ともやばいぐらい好きですが、諸伏警部が私のツボにグッサリささってもう大変。
犯罪に対する厳しい態度から伺える正義感と高潔さ、仲間を命がけで救おうとする勇気、高い知性と、高すぎてもはや人間離れしてるフィジカル能力、そして端正な美貌という、どこからみても完璧な存在なのに、次々と繰り出す故事成語によって、おもしろ故事成語おじさんになっているというこのギャップ。たまらん。好き。
高明さんの個人的な魅力もさることながら、(元)中国史オタとしては、高明さんの使う故事成語のラインナップがやばくてビビってます。めちゃくちゃ範囲が広い。諸伏警部の漢文好き、普通の漢文好きってレベルじゃない。普通の三国志オタクじゃない。中国史全般フォローしてる。やばい。東大、もとい東都大学法学部じゃなくて二松学舎文学部じゃない……???
だって普通、三国志オタクと言ったら、「三国志ものの小説やマンガをバリバリ読んでいて、ゲームもやってて、あとなんかちょっと難しい解説書を読んでいる」イメージじゃないですか。最近の人なら、北方三国志読んでて、マンガだと蒼天航路とか読んでて、ゲームしてて、あとは「三国志の名言に学ぶ」とかいうビジネス書を読んでるんだけど、でも羅貫中の原典を読んでるかと言うとそうでもなくて、大抵三国時代しか知らないので、世界史の成績案外良くないし、中国史も三国時代以外はあんま点が取れない。そんなイメージがあるじゃないですか。
でも諸伏警部の故事成語、そんなメイドインジャパンの本だけを読んでいるような、狭いレベルじゃない。明らかに三国志演義以外も、中国の古典を、恐らくは漢文書き下しで直接読んでいる。
あ、もちろん私はコナンファンとしてはニワカもニワカ、超ニワカなんで、青山先生が「所轄の高明さんが具体的にどういうレベルの三国志オタクに設定したか」の公式設定は、まだ全然知りません。発表されてるかどうかの情報も、まだ掴めてないです。
なにせ隻眼の残像を6月末に見て「ウワー!好き!」となり、それから黙々と原作を一気読みしはじめ、やっと7月末に最新話まで追いついたという、名探偵コナンファン歴1ヶ月のひよっこなもんで……。とりあえずhuluに入会はして、長野県警が出演している地上波アニメを見て、「huluじゃなくてDMMの方がお得じゃね?」と気付いたところです。隻眼以外の映画はこれから急いで見ます。
という訳で、公式設定は全然知りませんが、中国史エンタメファン歴25年ぐらい(その後辞めて10年経過して知識は錆び付いてる)、中国語そこそこ出来る、一応大学院で中国史で論文書いたことあるという経歴の垢主が、「……もしかしてこの諸伏警部、やべえレベルの中国史文学オタで、とんでもないハイスペックでは……?」と勝手に思った理由を書きたいと思います。
とはいえそんな難しい話じゃなくて、「も~!こんな素敵でトンチキでかっこいいキャラ作られたら、青山先生に一円でも多く印税が入るように、原作一気買いするしかないやん!(通販ボタンポチー)」が最終結論なんで、気楽に読んでもらえたら嬉しいです。
(2)実はマジで読みづらい三国志演義の原文 #
隻眼の残像で高明さんが湖に落ちた時に、「人生死あり、修短は命なり」って言葉を引用したじゃないですか。
実はこの書き下しのフレーズ、「日本で良く読まれている三国志もの」には、実は出てきません。北方謙三ありません。蒼天も柴錬も陳舜臣も、もちろん出てきません。なんと書き下しが結構豊富な吉川三国志にも出てこない。
なんなら「羅貫中が書いた小説である三国志演義の日本語訳」のいずれにも、この漢文書き下しのスタイルでは出てきません。
※9/5追記 #
すみません、「修短」という単語、正史の三国志にも掲載されていることを見逃してました!周瑜伝を確認して「あれ、ないなあ」と思ったんだけど、魯粛伝に載ってました……。正史の全文検索をサボった私のミスです。ほんとすみません。ちなみに正史の三国志は現在2バージョンの翻訳があります。筑摩書房版(今鷹真・井波律子・小南一郎共訳)は現代日本語訳のみの収録ですが、汲古書院版(渡邉義浩ほか訳)が原文と書き下しと現代日本語訳のフルセットが揃っています。
まず小説ですが、どれもこれも「俺流に古典小説をアレンジしたった」で、むしろ漢文書き下しとかが嫌いなお客さんのために、そういう要素を抜いたものが大半。なんなら周瑜の遺言自体が出てこないのもあったしな……。
翻訳の方は、完訳ならもちろん周瑜の遺言自体はあるんですが、しかし漢文書き下しではなく、普通の日本語に翻訳されてしまっているので、「修短」という単語は出てきません。
では諸伏警部がどうやってこの周瑜の遺言の書き下し文を知ったかですが、普通に考えたら、中身被りまくりのビジネス書をローラーする中でたまたま載っている本を見つけたんだだろうな……とは思うのですが。
それにしては、あまりにも諸伏警部の網羅している故事名言の範囲が広くて深いんですよ。ありていに言えば、ビジネル書なんかに載ってるレベルを超えている。というか、三国志の故事成語じゃなくて、中国史も越えて、中国文学もフォローしていて、漢文の知識全般に広がってる。
具体的に言えば、諸橋轍次著『中国古典名言事典』(講談社学術文庫)が家にあって、毎日まめに読んでるんじゃないかと思うレベル。結構高い本なんで(現在3200円します)、図書館で探してみてください。恐らく今日本にある故事格言の本で最強レベルの本です。掲載している故事成語の数、なんと4800。文字通り桁が違う。しかも「こういう意味の故事成語を探したい」場合の検索機能がついているんですよ。マジで。
だからこれを買って手元において、常に読んで徹底的に暗記すれば、あなたも明日から諸伏警部と同じぐらいに故事成語が使えるようになれるんじゃ……と思えるぐらいの充実の内容です。ちなみにまだ版元で売ってるので普通に買えます。
https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000150011
欠点は、本自体が漢文上級者向けなので、解説が非常に不親切なことと、そもそも例の周瑜の遺言が載っていないことなんですが。
でも私はあの隻眼の残像を見て、それから原作を観て思ったんですよ。
高明さんが故事成語を勉強したとしたら、きっとこういう本のような、ガチの学者の書いたまじめな本で勉強していて、なんならその故事成語の出典元である論語とか孫子とか史記とかを漢文付きの本で読んでいて。
だから漢文書き下しの能力がめちゃくちゃ高いので、原典である羅貫中の三国志演義も、原文でそこそこ読めている可能性もあるんじゃないかな……と思ったんですよ。
三国志なんて超有名だし、漢文の授業もあるんだから、別に日本人でも頑張れば普通に読めるんじゃ?って、思いません?
実はそうじゃないんです。三国志演義の原文を読むの、めちゃくちゃハードル高いです。なんなら学校の漢文の授業で出てくる文章より、読解のハードルが高いです。ぶっちゃけ言うと、中国古典小説読解のプロでないと、完全自力は正直かなり厳しいです。
(3)具体的にヤバさを解説するよ! #
三国志演義の原文の何が難しいか。400年前(明代)の中国語の口語文と、漢籍に使われる、もっと古い時代の書き言葉(具体的に言うとどんなに新しくて宋より前、メインは春秋戦国から唐ぐらい)が混ざって出てくるからです。
いわゆる「漢文」で読んでいる中国古典は、実はこの「もっと昔の書き言葉」で書かれたものが大半です。
春秋戦国から唐だと随分幅がありますが、実は中国の書き言葉は、実は辛亥革命まではそれほど大きな変化がなかったので、一度文法を把握すれば、重要な古典の本は、まあだいたい読める感じになってます。
そしてこの「古典の文語」の文語を、日本人が日本人が読むために編み出したテクニック――日本人に読めるように並べ替え、てにをはを付け加え、いわゆる「書き下し文」にする技術が、いわゆる「漢文」です。
対し、口語は文語と違い常に変化していますので、基本的にどの時代も、口語は「日本の漢文」のテクニックでは読めないです。
特に明代ともなると、口語の文法は文語とかなり大きく変化し、現代語にかなり近い形になり、漢文で対応できる文法ではなくなっています。
実例を挙げます。周瑜の死後、曹操は南方を攻める前にまずは馬騰を片付けようと思い、馬騰をおびき寄せようとします。対する馬騰は逆におびき寄せられたふりをして曹操を討とうと考え、黄奎という人物と一緒に計画を立てます。
この黄奎には李春香という妾がいて、黄奎の弟の苗沢と密通しており、黄奎から曹操打倒の計画を聞き出し、それを苗沢が曹操に密告。馬騰も黄奎も処刑されます。
苗沢は曹操に、自分は褒美は何も要らないので李春香を妻に欲しいと願いますが、それに対する曹操のセリフがこうなってます。
你為了一婦人,害了你姐夫一家,留此不義之人何用!
(貴様は女のために義理の兄一家を殺すような奴だ。そのような義理知らずの人間を生かして何になるか)
現代中国語を勉強している皆さんはもうお気づきでしょうが、前の2フレーズ、ほぼ現代語の知識で読めちゃいます。
「你」はニーハオのニーですし、「為了」(~のために)は中国語を学び始めのころに習う定番フレーズ。「お前は女ひとりのために」となります。
しかし何よりも現代語らしさ、つまり「漢文ではこれ出てこないよ?!」を感じるのは、やはり「了」でしょう。漢代中国語と現代中国語の代表的な違いと言えば、この過去や完了を現す「了」。いわゆる漢文で扱う時代の文章には、用例が極めて少ない助詞ですが、現代語では普通に使います。
ちなみに単語の意味はかなり違うものもあり、「姐夫」は現在では「姉の夫」ですが、この時代は「義理の兄」の意味ですし、あと「婦人」も現代はあまり使わないし、「害了」の「害」もちょっと今の中国語に比べると古いな……と感じますが、でも通じないことはないです。
では、いまの2文を漢文の手法で書き下せるかどうか。
チャレンジしてもらえば判ると思いますが、「為了」と「了」が邪魔で、めちゃくちゃやりづらいです。つうか両方出来る自分としては、「すみません、これ漢文が対応してない時代の文章なんで、上から現代文っぽく読んでいいですか?」と言いたいです……。
無理にやろうと思えば、「為了」は、この二字をまとめて「ために」と読むことにして、「了」は「おわんぬ」と読ませることにすれば、「なんじは一婦人のため、なんじの兄の一家を害しおわんぬ」となり、それっぽくはなります。でも、この「了」って、いちいち「おわんぬ」と訳すほどの仰々しいニュアンスはなくて、「~した」ぐらいの意味なんだよな……。
逆に3つめのフレーズは、まさしく漢文向け。「この不義の人を留め、何に用うるか」って感じで、すらっと漢文書き下しに出来ます。
そして当然、こちらは現代中国語の感覚で見ると、「うわ~、古文だ~!」です。口語でいくなら、「此」は「这」に、「之」は「的」に書き換えたいし、「不用」は「不要」にして場所は文頭に移動したい。ちょっとニュアンス変わっちゃうけど、これで現代語としてまあまあ読める感じになります。
このように、ひとりの登場人物のセリフのなかに、古代の文法(宋代以前の文語)と、現代語の文法(明代の口語)が混在する。これが三国志演義の文体です。専門的に言うと「半白半文」(半分口語で半分文語)と言います。
なので日本人が「三国志演義の原文」をガチで読もうと思ったら、まず漢文が出来るようになってから、現代中国語もやって、その上で明代の単語を検索できる辞書を調達しないといけない訳でして……。単語は愛知大学の中日大辞典と大漢和辞典があれば、ある程度はなんとかなるとは思います。多分。
それにプラス、時代背景の理解。なんか日本人って三国志を当たり前に知ってるような気分だけど、あれ、「三国時代を舞台にした、明代に書かれた小説」ですから、元ネタとなった時代と、描かれた時代の両方が分かって無いと、実は正確には読み込めないです。
余談ですが、正史の三国志は漢文で読める文法なんで、時々漢文のテキストやテストに出てきます。みんな大好き魏志倭人伝(正確には魏書東夷伝倭人条)も漢文対応してます。ただし文語も時代によって読みやすさが違いますが、晋代はかなり難易度高いです。
(4)高明さんの手元には三国志演義の原文版があると思う #
とまあ、読解のハードルが非常に高い三国志演義の原文ですが、とはいえ、ちゃんとした翻訳は出版されてます。
最も古いテキストは江戸時代で湖南文山版。明治に久保天随版。昭和以降は結構あって、立間祥介版、小川環樹&金田純一郎版、井波律子版。ほかに渡辺精一版と村上知行版。
「羅貫中の書いた三国志演義を、日本語で読みたい」と思ったら、ここから選ぶことになるんですが、しかし湖南文山版や久保天随版は、さすがに訳した日本語が古いし、そもそも入手困難なので、実質選択肢は5つです。
この5つは、いずれも昭和に訳された比較的新しいものなので、訳された日本語の好みで選んじゃって良いかと思います。ちなみに私の好みは立間祥介版。
とはいえこの5バージョン、さっきの「古文と現代文の文法が混在」のせいで、「漢文書き下し」はほぼありません。ほぼすべて現代の日本語になってます。さすがに作中に登場する漢詩については書き下しになってますが、小説本文はほぼすべて現代語です。
もちろん周瑜の遺言も、書き下しではなく、現代語にガッツリ訳されてます。なので「修短」という単語は登場しません。
……そうなんです、だからあの「人生死あり、修短は命なり」という書き下しの文章に出会おうと思ったら、羅貫中の原文を買ってこないと出会わないんですよ。
もちろん「たまたま買った故事成語辞典にあった」可能性もなくはないですが、その「たまたま」の確率の低さと、高明さんの故事成語レベル、三国志好きレベルから考えると、むしろ「原文がどうしても読みたくなって、神保町の内山書店か東方書店(いずれも老舗の中国関連書籍、中国語書籍の本屋さん)で購入した」の方が、エンカウント率が高いと思うんですよ。だってこっちなら、頑張って読み進めれば100%出会えますから。
それに最近では、三国志演義の原文を読もうという読書会や、そういうテキストもありますから、高明さんはどこかのタイミングで、そういう「三国志演義を原文で読もう」というような活動に参加したのかも知れません。
大学生の頃だったかもしれませんし……いや大学ではないな。多分最初から卒業したら長野に戻って県警に入るつもりだったろうから、柔道部とか剣道部で体を鍛えてただろうな。
となると就職後ですが……そんな時間あるのかな……。いやでも、今はオンラインでもそういう会に参加出来ますから、忙しい勤務の合間を縫って参加したのかもしれません。まあ高明さんぐらいの天才で、真冬の湖に頭からダイブして救急車で運ばれても病院から脱走してラストバトルに参加するような屈強な体力の持ち主なら、激務の合間に勉強会参加もいけるでしょ。
白話部分はさすがに現代中国語の分かる人の助けが要るとは思いますが、高明さんは東京大学もとい東都大学法学部かつ故事成語大好きなんで、共通一次の漢文は間違い無く満点を取れていた、つまり漢文パートは間違い無く読めるので、そっちの方で活躍したと思います。
そういう地道な読解のなかで、この周瑜の遺言の原文に出会ったのかも……と、勝手に妄想しています。公式設定は知らんけど。
という訳で、三国志演義の原文にアタックするのは相当しんどいけれど、高明さんなら多分出来たと思います。
(5)戦後の「三国志」ものは漢文がだいたい嫌い #
ところで青山先生が想定している「三国志」って具体的にどの人が書いた(もしくは翻訳したか)ものなのか。
結論から言えば吉川英治の三国志、吉川英治の世界観を引き継ぐ横山光輝のマンガと人形劇三国志あたりが、青山先生の想定している「諸葛亮孔明」のイメージ元じゃないかな、と私は推測してます。
多分これはもうどこかで公式情報出てる気もするけど、何分沼落ちして1ヶ月のニワカなんでまだ判らないです。すみません。
でも、何故他の作品はイメージ当てはまらないのかは、めっちゃ明確に判ります。三国志オタなら20年以上やってたんで。
実は日本で出ている三国志ものの小説が、実は翻訳でも翻案でもなく、「ベースとなる三国志演義のものがたりを、自分の感性でアレンジした」ものである……ということは冒頭で一度書きました。
この「アレンジした」は、別に私の主観ではなく、吉川英治は前書きで堂々と宣言し、北方謙三も同じような内容(桃園の誓いのあの展開は自分的にはリアリティがないので、自分が納得できるように書き換えたという的な内容)を、歴史群像かそういう感じの雑誌で宣言ますようにおおむね作者が意図的に宣言し、公式にやってるものです。
そしてこの独自のアレンジの方向性ですが、戦後に出た小説は、ほとんどすべて、羅貫中(もしくは吉川英治)の描いた「高潔で賢明な諸葛孔明像を否定したい」という形で書かれたものです。だからだいたい孔明先生はディスられています。蜀の人物もディスられています。
高明さん経由で三国志ものを読んで見ようと思って、本屋で一番目立つところにある本を買ったら、諸葛亮孔明が期待していたような高潔な人物に描かれておらず、むしろ積極的にダメキャラや、エグいキャラに描かれていて、ひどくションボリしたことありません?私は最初に吉川英治の世界観が好きになったんで、そこからあとはほとんどションボリでした。
じゃあなんでそういう方向性になったか。戦後の小説家は、戦前の価値観が大嫌いだから。
自分達を縛り付けきた、忠臣愛国的な価値観をぶっ壊したい。だから当然羅貫中の三国志演義(儒教が普通の価値観の時代に出来た小説なので、忠臣が推奨される)も嫌い。その価値観を引き継いでいる吉川英治も嫌い。
そんなノリなんで、孔明先生をはじめとする蜀の人物は大体ディスりの対象です。あとはあれだな、孔明先生は出師表があるんだよな……。戦前までずっと「出師表を読んで泣かない人は人ではない」みたいに言われ、忠臣愛国を鼓舞する時のダシに使われていたので、当然反発は強いです。
そして坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、上の世代への憎しみは、上の世代が愛用していたツールや文化にも向かいます。
儒教の経典を読むためのメインツールでもあった漢文も当然嫌われてましたので、当然戦後の「三国志もの」には、まず「書き下し文」も出てこないし、古典由来の故事成語も出てきません。
(もちろん全員がそういう訳じゃなくて、ただ単に「吉川英治の三国志が戦前に大ヒットしてるので、それとは違う、俺だけのオリジナル三国志を出したい」と思った結果、とりあえず吉川三国志で良く描かれている蜀を、そのなかでも一番の有名人の孔明先生をディスろうとしただけの人もいたでしょうが、でもまあ「上の世代とは違うことをしたい」という意味では、だいたい同じだよねと思ってます)
(6)となるとやっぱり吉川しかない。証拠もある。 #
というわけで、今現在普通に手に入る三国志ものの翻訳または小説で、故事成語が割と出てきて、なおかつ諸葛孔明のイメージが高明さんのイメージの元ネタとしてピッタリくるような、高潔で賢明な人物として描かれているのは、翻訳バージョンと吉川英治(戦前に連載してた)、吉川英治の世界観を引き継いでいる作品が、メインどころとなります。
もちろん歴史創作の同人誌や、マイナー作品を草の根分けて探せばあるかもしれないけど、今回はあくまでも高明さんの元ネタ探しなんで、普通の本屋で手に入る本に限定します。
翻訳は現在手に入る5バージョンのどれでも大丈夫ですが、しかし翻訳版は、やはり「400年前の中国の小説」を、まんまガチで訳しているので、正直読みづらいです。
となると、小説の選択肢は吉川英治ほぼ一択。故事成語も結構出てくるし、なによりもこの作品の孔明先生こそ、青山先生が、高明さんのモデルとした「諸葛亮孔明」なんですから。
あともうひとつのお勧めポイント。実は吉川三国志、青空文庫で読めます。つまり無料。だから今から三国志ものを買おうかなと思ってる諸伏警部クラスタは、青空で吉川三国志読んで、購入予算でトレカ買った方がいいと私は思ってる。
ところで、先程「戦後の小説家は戦前に大ヒットした吉川英治のことが大嫌いなので、アンチ吉川三国志の世界観ばっかり生産してる」と書きましたが、しかしマンガとか映像とか、そういうジャンル違いとなれば話は別。吉川英治大好きな作家さんが、その世界観を踏襲して作った傑作があります。
その代表が横山光輝先生のマンガ。出だしとかほぼ吉川英治のコミカライズ。なので吉川英治を読んだけど、難易度的にしんどい場合は、いったん横光のマンガを読むのもおすすめ。
そしてもうひとつ、NHK人形劇三国志ってテレビ番組があったんですが、これの人形美術を担当された川本喜八郎先生は、吉川英治の三国志の大ファンで、NHKで放映することが決まる前から人形を制作していました。なので造型はは明らかに吉川英治由来です。ただオンデマンド配信がなく、DVDを買うしかないんで、お財布に余裕のある方向けとなっています。
で、この人形劇三国志の孔明先生のデザインなんですけどね。
青山先生が、死亡の館、赤い壁で背景にちょこっと描いた諸葛孔明のデザインと……なんつうかこう……めちゃくちゃ似てるっていうか……。着ている服が黒ってデザインは、人形劇三国志と、その二次創作だけしかないんですよ(他作品は青または白が圧倒的大多数)。だからまず間違い無く、青山先生が頭に思い浮かべてる「諸葛亮孔明」って、人形劇三国志のだと思うんですよ。
青山先生の年齢的にも、多分見てるとしたらこれだろうし、またこの人形劇三国志、ものがたりの場面転換で、漢文書き下しでストーリーのひと言まとめが入るんですよ。これを見ているうちに漢文書き下しに親しんだ人も多かったそうです。つまりこれを見てると、故事成語に自然と親しめる仕様になってます。
ここまで状況証拠が揃えば、「青山先生が想定している諸葛亮孔明は、恐らく直接先生が見たのは人形劇三国志、つまりキャラクターとしては吉川三国志が描き出した孔明先生で、ビンゴじゃないかなあ、と私は思ってます。
ここまででもうすぐ制限の1万字になってしまったので、続きはこちらの記事にあります。
