しがらみ
公開 2025/11/03 12:46
最終更新 2025/11/03 13:05
わたしの一番はじめの記憶は3歳の時。大きな丸いテーブルに椅子が3却。父は仕事に出かけた後の様で、スプーンを右手全部で握り、母が作ってくれた、オムライスを食べている。

「そろそろスプーンの持ち方を覚えないとね」

母がそう言いながらわたしの頭を撫でる。ざわついたこともなく、静寂の中に流れる時間に乗りながら昼寝をしているようなそんな優しい光景。開け放たれた窓からは時期早々の心地よい風が入ってきている。季節は冬や夏の時期ではない。部屋の様子からそのことが理解できた。

もしかしたら夢で見た光景なのかもしれない。けれどわたしの一番最初の記憶として定着してるのはその穏やかな日常がわたしにとって当たり前だから。

3歳の記憶から離れてもう少し先の記憶に触れる。家のドアを開けて一歩外に出れば、わたしはわたしという人格を持ち始める。何をみて何を感じるか、その一つ一つを手繰り寄せる。レンガでつくられた家が並び、整備されたアスファルトの道路。誰が手入れしているのだろうか、道路わきに植えられた木々は綺麗に規則的に並べられて、静かな音で時より車がわたしの横を通る。わたしは近くにある建物に向かっているようだ。

建物の中では椅子とテーブルが並び子供たちがそれぞれの事情を持ち寄ってそこに座っている。小さな子供のわたしも駆け寄って席に着く。

「おはよう」

隣の席の女の子がわたしに挨拶をする。

「おはよう。」

とわたしは笑顔を作って返す。

鞄から私物を出して、机に並べると、女性の先生が入ってきて、学びの時間が始まる。そこには緊張感も身体のこわばりもなく目の前の事にだけ時間が進んでいく。

その時間が終わり、教室から人が廊下に出ていく。拘束された時間から解放されるように、わちゃわちゃと走り出す子供もいる。わたしは隣の席の女の子と一緒に廊下を歩く。走り出す男の子がわたしにぶつかった。男の子がわたしに謝る。わたしは悪気はないことをわかって頷く。そして隣を歩く女の子と顔を見合わせてクスクスと笑う。

隣りを歩く彼女の名前はもちろん知っている。大人になった彼女とも時より食事をするときもある。

大人になったわたしは大学の研究室で歴史の研究をしている。自分の大切な物を見極めて出会えた仕事だ。

大人になったわたしが住むアパートメントは両親と暮らした家よりも随分小さいけれど、わたしの日常が詰まっている。お気に入りは本棚。そして大切なわたしの友人でもある犬との暮らし。犬はわたしとの空間で自分の居場所を見つけくつろいでいる。幸せをまた一つ見つけた。

わたしは大きなスーツケースを部屋で広げて来週から出かける旅行の準備をしている。

ピンポーンとチャイムが鳴った。きっと彼だ。大人になって出会ったわたしの大切な人の一人だ。

「来週から旅行に行くんだろ?」

「そう。」

「この子はどうする?」

と彼は犬を抱えてわたしにたずねる

「両親が見てくれるから心配いらない」

彼の顔を伺うと煮え切らない顔をしている。


この間、ある場所で女性と楽しくランチをする彼を見た。彼はわたしが近くにいることすら気づかない。そんなことはよくある日常の出来事。その時わたしは目をそらした

「あれ?話かけないの?」

同僚がわたしに言う。

「うん。大事な話してるのに邪魔かなと思ってさ」

「そっか。」

彼女は休暇を使って先月海外旅行に出かけた。その時の旅の様子を事細かに話してくれた。

「わたしもいこうかな旅行。話聞いてると楽しそうなんだもん。休暇も余ってるし」

「そうしなよ~いいよ。」

ランチが終わり、彼が居た席を見るともう居なかった。そんな日がここ一ヶ月の間にあった。どれもこれもよくある日常の小さな出来事。

「どこで食事する?それとも買ってきてここで食べる?」

わたしは旅支度がまだ途中なスーツケースを閉じて彼の顔を見ながら言った。

「家で食べようか?それでいい?」

「もちろん。じゃ、買い物行こう」

わたしはリビングに置いてあるバッグを手に取って玄関のカギを閉めて、外で待つ彼のところに向かう。

あたりは夕暮れ時の時間、近くのテイクアウトできるお店に歩いて向かう。

お店で買い物してると、友達に出会った。大切な思い出の教室で隣に座っていた女の子。彼女も彼と買い物に来ていたみたいだ。

「そっか、この辺りだったね住んでるの」

「そう。元気?」

「うん。もちろん、また食事でもしようね」

そういってその場を去ろうとしたとき、

「そういえば…」

と言ってある人の吉報を知らせてくれた。

ある人とは教室から出た時廊下ですれ違いざまにぶつかった男の子。彼はどうやら結婚するらしい。忘れてた小さな淡い初恋の思い出が一つ形を変えた。

ニコニコとしてるわたしに

「どうしたの?」

とたずねれる彼に

「初恋の人が結婚するってはなし聞いたの」

「いい思い出なんだな」

と彼が言う。

「なにもないよ、だって小さな子供の時の話だもん」

「わかってるよ。」

その時、母親の手を離れた6歳ぐらいの少年が走ってきて彼にぶつかってきた。

「すいません。」

少年は小さな体で彼に頭を下げた。少年の母親が寄ってきてわたしたちに軽く謝る。わたしたちが悪気がないことを理解したことと、大丈夫ですよという意味で小さく頷く。

わたしは二週間後一人で旅に出かける。日常の中で時々過るしがらみの中でうずくまる小さなわたしに出会い、解放するために。これもよくあるわたしの日常の中の出来事の一つ。

ーおわりー

この物語はフィクションです。以前noteにて公開していた物語です。
フィクションで小説を創作しています。


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