SPACE
公開 2025/09/29 09:27
最終更新 2025/11/03 13:06
ここに集う人たちに与えられるものは生活。そしてその生活に少々のうるおいを与えるための欲。欲によって身バレしないための嘘もこの場所に集う人たちの一つの特権だ。もう一つの特権は仕事。この仕事の名目は、「人助け」だ。この名目も都合のいい時に使える特権の一つだといえる。

そこに示し合わせたように出会った二人の男女がいた。男は20代前半、金とSEXが目当てにこのSPEACEに近づいた。女は20代後半、風俗関係の仕事についていたが、借金をすべて肩代わりすることでSPEACEでの仕事と生活が与えられていた。客商売に熟知していた彼女にとって、嘘と自分を優位にみせるための話術は、お手の物だった。

「お前たちに請け負ってほしい仕事があるんだ。毎月口座に、50万振り込む。条件はただ一つ、身バレしないことと、その女をもといた場所に戻すこと。こっちにとっては、不都合な餓鬼でね。困るんだよ、勝手な行動をとって1億円が危うくおじゃんになるところだったんだ。一年適当に遊んでやったら帰るだろうから。」


そう言いながら50代の紳士を装った詐欺師は、女に偽装した身分証明書を渡す。もちろん詐欺師によって彼女の借金は全部肩代わりされた。

「住むところも、今の場所から別なところに住まいを借りること。こっちで偽装した家族の準備もちゃんとできているから心配するな。何かあったら、すぐ俺に連絡してこいよ」

女は有無言わずその仕事をすることが決められる。一体どんな仕事をしているのかも分からない。けれど、50万円のお金と、生活の保障が約束されている。仕事を受けない手はない。

「馬鹿な餓鬼だからわからせてやって欲しいんだ。人助けだと思ってさ。」

その瞬間女は嫌な予感を感じた。男は詐欺師に言った

「ていうか、身分を偽装するならおれの方がよくないですか?」

詐欺師は男の目をジッと見つめる。これは俺に逆らったら痛い目にあうぞという一つの脅しだ。この脅しの効力は充分に果たされるような秘密を男は詐欺師に握られていた。

「すいません。」

男はすまなさそうに頭を小さく下げる

「わかればいいんだよ。俺帰るから、ここに資料は置いておくから頼んだぞ」

女は男の方をチラッと見る。男の機嫌が気になったからだ。男はすねた様子で不貞腐れている。この男の機嫌を取るのは簡単だと女は思った。まだ20代前半の若い男だ。話からするとSEXと金が目当てでSPEACEの住人となったのだし。そう自分の中で言い聞かせて、女は詐欺師の後を追い玄関まで見送った。

「お前らどうせ俺が帰った後やるんだろ。」

「それはどうかな」

女は作り笑いを浮かべる

「けれど三鷹さん、もしうまくいかなかったらどうします?」

「心配するなよ。ただの馬鹿な餓鬼だって言ってるんだろ。まぁでも次の手立ても考えてあるからさ。お前ならできるよ。」

そう言って三鷹と言われる詐欺師はこの部屋を後にした。

「そううまくいくかな」

女は一人ごとのようにつぶやいた。これは都合の良い仕事を押し付けてくる、三鷹への反抗心から来る感情だろう。

「アンネさん、俺嫌だよ、こんなガキを落とすなんさ」

「そう言わずに、月々50万だよ。損はないよ。」

「もっとこう風俗関連の女の人かと思った。こんなちんけな20歳のどこにでもいるような女の子。」

「じゃ、まずそれなりの女の子にすることからはじめないとね」

「お願いします」

男はそういうと、女の部屋にある時計を見た。

「俺、そろそろ帰ります。」

「そう?」

「そんな俺、彼女いるんで。」

なんとなく不満に思った女は

「こんな仕事してるの知ってるの?」

と言ってみた。

「もちろん、だってそんな奴じゃなかったら、面倒でしょう」

見境はあるらしいと女は少しだけホッとした。互いが互いを傷つけないのは、無法地帯のような場所で互いをよく知らずにいるからだろう。もし傷つけたら自分の身も危なくなる。それは男女が無意識に感じている抑止力だった。

女は男が去った後、男が断片だけを読み漁った資料にじっくりと目を通す。

「どこにでもいるわね、こんな子」

またひとり言をつぶやいた。だけれど女が見た感じ、1億円の価値があるとは思えない。その瞬間、
脳裏に反社の影がチラついいたけれど、今までの仕事もうまくいったのだから大丈夫だという考えがそれをかき消した。



「なにその仕事?やっぱり反社関連?」

もと同じ店で働いていた、友達に仕事の話をした。協力関係を要請するのもこの仕事の一つだった。

「やっぱりそう思う?こっち系の商売でもなさそうだし。」

「三鷹さん関連だもん、あれなんじゃない業界関連」

「なるほど…ね。まぁ、整形と化粧さえすれば何とかなるかもね。あとはキャバクラか風俗にでも売れば小金にはなるだろうし」

「うん。だよね。じゃ、月20万でこの話、請け負ってくれる?」

「OK。わたしやっと借金返し終わったからさ、アンネはどう?」

「まだまだだよ。三桁から減らない」

「そっか、じゃ、頑張んないとね」

借金を肩代わりしてもらった話は話せなかった。

女は、契約書をわたし、封筒に書かれた住所に送るよう指示しその場を後にした。



女がターゲットの20代前半の女の子と会う場所は、デパート。女はブランド物の洋服売りばで派遣社員として働き、ターゲットの女の子は靴売り場でアルバイトとして働くことになっていた。女は何度となく思う。どう見ても性風俗とは程遠いし、自分の独自のスタイルを持っていて厄介だなと。いまだに田舎臭さは抜けていないが、写真で見るより若干垢ぬけていた。

まだまだ子供であるのは見て取れた。こっちにとって有利に働くのは、20歳前半にして男女交際の経験がない。性も未経験だということだ。学校ではイジメられて居場所がなく居場所を求めて、都会に出てきたのは一目瞭然だった。

女は今日は仕事が休みの日だ。デパートによって近づくことにした。互いに機嫌よく職場で挨拶するぐらいの面識は持ち始めていたので、もっと仲良くなるのは容易いと思った。女が思いついたのは、ヒールを折って近づいて、新しいハイヒールを選んでもらい仲良くなることだった。履きなれたちょっと傷があるヒールをシューズボックスにたたきつけて負った。それをビニール袋に入れて持っていきトイレで履き替えてターゲットの女の子に近づくことにした。靴屋はデパートの入り口からすぐ横にあって、トイレも近くにあるという好条件の立地だった。

女はトイレに入り、自分で履いてきたパンプスを折れたヒールに履き替えて、自分のバックにしまった。

「あのごめんなさい。ちょっとヒール折ってしまって。ヒール選んでもらっても良いですか?」

「あぁ、洋服売り場のお姉さん。大丈夫ですか?けがは?」

意外にもちゃんと話しかけてくることに驚いた。いつも目が合うと挨拶するときとは違った印象を覚えた。一緒に店頭に立っている男の人もよってきて、

「派手にやってしまいましたね。大丈夫ですか?」

実はこの男もSPEACEの仲間だった。知らないのはターゲットの女の子だけだ。

「ちょっと駅の階段でやってしまったんです。なんでもいいんでとりあえずヒール見せてもらっても良いですか?」

女が言うと、男はターゲットの女の子に言う。

「選んであげてよ。」

「はい。」

ターゲットの女の子が靴を選び始めている。

「値段は1万円前後でお願いします」

5000円ぐらいの黒のハイヒールと1万円ぐらいのベージュのヒールを持ってきてくれた。
ベージュのハイヒールはナイスチョイスだった。けれど黒のハイヒールは違う。けれどこの場を長く持たせるために女は色と形をいくつか提案して、ターゲットの女の子を遣った。

店員の男の提案で、社員割引きをしてもらうことになった。けれどレジに女の子が戸惑っている。

「良いですよ。定価で構いませんよ。」

「じゃぁ、僕がやるよ。」

店員の男のお陰で社員割引きで買えた。事前に得ている情報なら、彼女はこの後別のアルバイトとシフトが変わる。入れ替わりに、シフトに入るのが、この間の金とSEXが目当てでSPEACEの住人になった20代の男だ。こいつもうまいこと、潜入することに成功した。

男と入れ替えでバイトを終えた、姿を確認して、タクシーに乗って必ず帰宅途中に通る道沿いにあるカフェでターゲットの女の子を待ち伏せした。ウィンドウ越しに女の子が通るのを待ちながら、女は靴屋の二人の男にメッセージを送った。

「別に報告することはなし」

というメッセージのやり取りをしながら待っていると、都合よく、ターゲットの女の子の方が気づいて、こちらによってきた。女は店に入ってくるように促すと、彼女は何の疑いもなくカフェの店内へと入ってきた。

「先ほどは…えっと戸塚さんでしたよね。」

「そう。あなたは?」

「下井です。下井つぐみです。」

「よかったら付き合ってよ。ちょうど友達にドタキャンされちゃって」

「じゃぁ、遠慮なく。飲み物頼んできます」

下井つぐみは人との関わりに飢えているようで、人懐っこく、戸塚アンネに心をゆるした。

「さっきはありがとう、選んでくれて。」

「戸塚さん随分と焦った様子だったから、怪我でもしたんじゃないかと思って」

ちゃんと気遣える様子から見て育ちは悪くないと思った。

「この辺りが家なの?」

「ここから5分ぐらいの場所に住んでます。3ヶ月前に、田舎から出てきたばっかりで」

「そんな風には見えない。だって選んでくれたハイヒールもすごくセンスがいいし。」

先ほど履いていた折れたハイヒールと事前に履いてきたパンプスは道沿いにあるゴミ箱に捨ててきてよかったと思った。

「お金ないから、こんな服装してるけど、洋服とか好きなんです。戸塚さんは大人っぽくって綺麗で羨ましと思っていつもドキドキしてました。お話しできてうれしいです。」

「売り場隣だもんね。」

話のやり取りから、人ともそれなり関われることが分かった。随分と資料に書かれていることとは違う。

「戸塚さんは地元は?」

「わたしは生まれも育ちもここが地元。わたしの家もここから歩いて10分ぐらいのところにあるの。実家だから、一人暮らし羨ましい」

嘘だった。ここは三鷹に言われて準備してある偽装家族の出番だ。

「今度遊びにおいでよ。」

どうやらターゲットの下井つぐみは気をよくしたらしい。笑顔で返してきた。今日はこの辺りで切り上げた方が良さそうだ。そう思いそろそろこの場所をさる準備を始めると、下井美都は寂しそうな表情になったのがわかった。

「また今度ね」

「もちろんです。」

そう言いながら今日はこの辺りで帰ることにした。

デパートの閉店時間まで時間をつぶし、女は行きつけの居酒屋で二人の男を待った。靴屋の店員二人だ。

「アンネさんどうだった?」

「拍子抜けしちゃうぐらい、普通の女の子なのよね。そっちは??」

「こっちは、義務的な会話しかない。ちょっと警戒してるのもあるんだろう」

と言ったのはバイトでなくて社員の方の男。

「ちょっと気になるから調べてみますか?」

バイトの男が言った

「親が借金とかそういう感じなんじゃないのかな…。それにしては住まいは普通なんだよね。念のために調べた方がいいかもね。三鷹さんにバレないように。」

アンネはそう答えた。

バイトの男はSPACEでは有名なぐらい顔が広く、情報通だった。一緒に仕事をするのは初めてだけれど、このバイトの男と仕事をすると報酬が上がるという噂は本当だった。何度か前にいた風俗のお店のことで情報を渡したことがあったけれど、しきりに名前は名乗らなかった。噂で聞いたけれど、仕事で一緒になるまで偽名すら明かさないという話だった。

「俺も何か手伝えることがあったら手伝うよ。ネット関連は任せてよ」

鳥川という名前の靴屋の社員が言った。

「そういえば、一緒に仕事始めたんだから名前を教えてよ」

アンネが言うと

「俺ですか?靴屋では広前って名前でバイトしてます。」

と男は名乗った。

「こっちは鳥川さんですよね。やっぱり偽名?」

鳥川は頷いた。



アンネと下井つぐみは数か月後には互いの家を行き来するぐらいの仲になっていた。

「アンネさんなにか聞き出せた?」

「うーん、普通で、ちょっと臆病な子っていう印象しか感じないけれど。視覚から得た感覚では」

アンネの自宅の一軒家は事務所として、この仕事に関する人たちが集う場所となっていた。はじめはわりと近くに住む下井つぐみの動きを警戒して、贔屓にしている飲み屋や、食事処を集まるところにしたが、下井美都の行動がパターン化されていて、どの時間帯に家にいて、外出するが読めるようになっていたのが救いだった。

「無理もないよ。彼女、嘘で成り立っているようなもんだよ。マッチングアプリやチャットで男性とのチャットSEXのやり取りとか…、後輩に家の周辺を見張らせてて会うようなことはないみたいだけれど」

ネットの履歴を調べた鳥川が言った。

「こっちは、彼女の出身地のSPEACEの人から得た情報と、区役所の戸籍のデーターを調べたけれど、新興宗教の信者だったという話と確認が取れた」

そう言って資料をテーブルに出したのは広前だった。

「待ってよこの宗教はやばい宗教団体だよ。」

鳥川が言った。

「宗教団体なんて、何も知らないで手を合わせている人以外はやばい団体だと思うけどね」

アンネがそういいながら自分のしていることを棚に上げてるなと思いながら、神様を象ってないだけでマシだろうと思いなおした。

「人の為に人を殺す。そんな宗教。けれど名目は善意なんだそう」

「なんだ、広前知ってたのか?」

「SPACEだって似たり寄ったりだろ。都合が悪いのはSPACEの幹部の人の中にこの宗教団体だった人がいて、なんの因果かその人たちの利権の為に、犠牲になった人なんじゃないのか下井つぐみは」

広前はボソッと的を得ているような考えを言うとアンネは思った。

「犠牲になるにはなるだけの何かがあるわけだろ?」

鳥川は言った。

「とりあえず今の話、全部、三鷹さんに伝えないといけないのかな??」

そう言ったところに、アンネのスマホに三鷹から連絡が来た。

「わかりました。伝えます。はい。ありがとうございます。」

スマホの電話を切り終えると、アンネは安堵のため息を漏らした。

「なんだって三鷹さん?」

「なんだか急遽、下井つぐみの家に盗聴器と隠しカメラを設置するから、連れ出せっていう話。」

「ってことは?」

鳥川が言う

「わたしたちの責任から離れてわたしたちは知らないふりを装える。そして少しでも彼女に関わればキックバック…お金がはいるってこと。」



「なんか最近変な感じがするんですよね。」

同じ時間帯に仕事が終わった下井つぐみをアンネは夕飯に誘った。食事はアンネの知り合いのお店ってことでアンネのおごりということになっている。

「変って?」

「わからないけど…、なんか…ごめんなさい。気にしないでください」

ここ1年ぐらいの付き合で下井つぐみがなんとなく繊細な人間であるのはうかがえた。その繊細さを遣えば優位な立ち位置になれるので都合がよかった。

「ならいいけど。」

だけれどアンネはなんかここのところ嫌な予感しかしなかった。あまりにも思い通りに動きすぎて怖くなってきたのだ。

「また、夕飯食べにおいでってお母さんが言ってた。」

アンネが偽装家族のことを持ち出すと、下井美都は優しい表情を浮かべた。

「機会があったらまた」

そう言いながら美味しそうにサーモンとカッテージチーズのサラダを下井美都は食べていた。

この日から5日後、広前がアンネの自宅に駆け込んできた。

「ヤバいことになっちゃったよ。アンネさん。下井つぐみに殺害予告が三鷹さんから出始めてるって、なんか警察に被害届だしたみたいで、極秘で捜査が進められているみたいで。」

「なんでよ?」

「下井つぐみが警察に被害届を出したらしいんだ。それで三鷹さん危なくなっちゃったらしくて。」

「わたしたちは大丈夫よ。ただの知り合いって言っておけば。」

「ならいいけど」

その時、アンネのスマホが鳴った。鳥川からだ。

「今、見張らせたやつから連絡がきて、下井つぐみ自分の腹に包丁突き刺して、自殺図ったって」

ーおわりー

*この物語はフィクションです*
フィクションで小説を創作しています。


*週1で公開しているブログ*(日常のブログ)
https://namikana00.jugem.jp/

*有料記事販売中*新しく2026年3月から有料記事を販売する予定。
https://note.com/namino_kanata490
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