地平線の先
公開 2025/05/21 10:12
最終更新
2025/11/03 13:07
「キエ、また遊びにおいでね。待ってるからね」
春休みにわたしはおばあちゃんの家に泊まりに行くのが日課だ。今年も春休みにおばあちゃんの家に3日間泊まりに行った。小さな民宿を叔父夫婦と営んでいるおばあちゃんの家の近くには海があって、その海を眺めるのがわたしは好きだった。誰もいないあの海を観光シーズンから外れた時期に眺めるのがわたしの贅沢な出来事の一つだ。
「キエ、グループわけどうする?来週の歴史のグループ発表のやつ」
昼休みになった時に小学校から一緒の芽衣子がわたしに話しかけてきた。
毎回わたしは、グループから外れる。わたしはこんな風に小さなコミュニティを作るのが苦手だ。みんなそれぞれ、信頼のおける仲が良い人がいて、一人でいることを好むわたしには誰もいなかった。休み時間には図書室に一人で向かい、文字の世界の中に飛び込んでいく。そんなわたしを陰で何か言う人がいたかはどうか知らないけれど、話かければそれにこたえ、余計な事は言わない。それでいて何十人とひしめき合うこの教室の中で自分を守り、自分でいられて、人の害にならなければそれで構わない。
「空いているところでいいよ。」
毎回、男子からも女子からも好かれる、芽衣子はわたしの居場所をたずねてくれる。芽衣子が好かれるのがよくわかる。こういう気遣いができるのも芽衣子だからだろう。毎回そういう優しさをわたしに見せてくれる芽衣子はわたしにとっては好意的な存在だ。
「わかった。」
「ありがとね」
長い休み時間に図書室に向かうのはわたしのクラスでは3人。わたしと加藤さんと言う女生徒と高木という男子生徒。加藤さんとも高木とも、特別に話をすることはなかった。腰までの高さの本棚が並び、カウンターでは図書委員と先生がいて、先生は生徒たちの動向を伺っている。図書室には面白いことにいろんな読み物があった。教育者たちから選ばれてはあるのだろう漫画。10代の子供たちが読むような、雑誌まで置いてあった。雑誌を広げながらコソコソと化粧品やファッションの話をする人、漫画を読む人、いろんな人の居場所がある。読んでいた本を閉じ辺りを見合わすと加藤さんはもう教室に戻ったようだった。高木は隣のクラスの友達と図書室の隅で談笑している。
休み時間に空いているのは図書室と、視聴覚室。視聴覚室にはパソコンなどが置かれてあってがそれぞれの階にあり、暗黙の了解の様に、その階の視聴覚室はその学年の生徒しか使われていない。
教室居残り組は持ってきたお菓子や雑誌やスマホを見ながら談笑している。芽衣子はその中に居たり時々、男女のグループになってどこかに向かうみたいだった。
「芽衣子ってさ、悪く言う人いなくない?いい人だよね」
そんな話が聞こえてきた。
「本当にそう。」
わたしもその言葉に納得できる。そして毎回、グループわけされた場所は心地よい場所だった。そこに芽衣子はいたりいなかったりした。
「芽衣子彼氏いるよね?」
「いるに決まってんじゃん。来年あたり、手をつなぎながら廊下歩き出すよ」
そんなことを言い出した。芽衣子の彼氏はどんな人なんだろう。同じ学校の人だって言うのはわかる。
「やっぱりいるよな、芽衣子っちゃんかわいいもんな」
そういったのは川田だった。わたしは川田は苦手だった。通りすがりに、ぶつかった時、
「イテーヨ、根暗」と言われたことがあった。わたしは多分小さく謝ったつもりだったのだけれど聞こえてなかったみたいだ。こういう小さなことがわたしには堪える。わたしの人生にはきっとかかわりのないただのクラスメイトだろう。
「その芽衣子ちゃんの相手、俺だったらどうする?」
「それはないんじゃない?」
そんな話が繰り広げられている教室に芽衣子が仲の良い友達と一緒に入ってきた。
「なんの話?」
「芽衣子の彼氏の話だよ」
「えっ?何言ってんの?」
芽衣子の声を遮るように、次の教科担当の先生が教室に入ってきたと同時にチャイムが鳴った。
「授業はじめるぞ、席につけ」
英語の授業が始まった。午後の授業はなかなか頭に入ってこない。わたしは将来薬剤師になるという目標がある。大学は国立の薬科大学を目指していて、いまはその方向で受験の準備をしている。英語は必修科目だけれど、今日はなんだか集中力が途切れる。ノートの空白の部分に家に帰ってから復習しなおそうと思い、箇条書きでやるべきことだけを書き出してみた。黒板に書いた英文の和訳に高木が指名された。その時思った。もしかしたら、芽衣子が付き合っているのは、高木なのかもしれない。わたしはそう思ってしまった。わたしはひそかに高木に恋心を抱いていた。もし芽衣子が高木と付き合っているなら諦めなきゃいけない。わたしが虚しいだけだから。けれど、どういう接点があるのだろうか、確かに話していることもたまにはあるし、二人が並んだ姿はお似合いだと思う。
芽衣子の彼氏が誰だかという、答えを以外にも早くわたしは知ることになった。わたしは図書室で調べものをしていていつもより、帰りが遅くなってしまい、バスの時刻表を眺めているところだった。
「めずらしいね、この時間に帰り?」
芽衣子だった。
「うん。来週のグループ発表の課題をやってたところ」
「キエらしいね…キエ、学校楽しい?」
「普通かな。」
「大学どこ受けるの?」
「国立を一応…芽衣子は?」
「うーん、」
「芽衣子、」
わたしと、芽衣子が振り返った先には隣のクラスの米沢がいた。米沢はわたしを見るなり軽く頭を下げた。わたしも同じようにした。
「バス一本ずらさない?」
米沢は芽衣子にそんな風に言った
「うん。いいよ。ゴメン、キエ、気を付けてねバイバイ」
「うん。バイバイ」
芽衣子の彼氏は米沢だったようだ。確かにそういう噂は聞いたことがあった。高木じゃなかったと思ったら少し嬉しかった。米沢とももちろん世間話なんかをしたことはなかった。けれど去年の文化祭実行員会で一緒で嫌な印象はなかった。
バスが到着してドアがわたしの目の前で開くと足元はいつもより弾んだ形で一歩目を踏み出すのが自分にもわかった。
明日は日直当番でいつもより早い朝をむかえる。今日の夕飯はなんだろう。
✙
「行ってきます。」
「気をつけてね、いってらっしゃい。」
日直の当番を真面目にこなす人なんてきっとわたしぐらいだろう。バスに揺られながらそんな事を思った。この時間帯にもまばらに人は登校しているようだ。いつもの学校の建物が威圧的にわたしに向かってくるように感じた。教室に鞄を置きに行くと、もう登校している人がいるのが廊下から聞こえてくる話声でわかった。
「芽衣子の動画なんかあったら欲しいって川田に言われてるんだけどさどう思う?」
「金も払うって言われてんだよね」
「やめときなって。」
わたしは教室に入ることを躊躇った。多分朝だから警戒心が薄れていて多少声が大きくなってしまったんだろう。
「おはよう。」
話が切り替わった瞬間に教室に入った。
「おはよう。溝口さん早いね。そっか日直か。」
この二人が早いのは、きっと昨日家に帰っていないからだろうと思った。机には私服を入れた鞄が乱雑に置いてあった。私服でなければ入れない場所もあるから着替えるのだろう。
「うん。そう。」
日直当番を真面目にこなしているわたしに対して、何も思うことはないみたいだ。いろんな人がいる。原川さんが「やめときなよ」と言わなかったら、わたしは芽衣子にとってネガティブな出来事を利用して、芽衣子に近づいたかもしれない。けれど芽衣子ならそんなわたしを嫌うだろう。原川さんが止めてくれてよかった。
「先生もう来てると思う。うちらの担任、朝早いからさ」
「ありがとう。」
職員室に向かう途中、川田と高木にあった。めずらしい組み合わせだった。わたしはうつむいて、二人の横を通り過ぎる。わたしのことは気にしていない様子。
例えばわたしが高木に思いを告げたところでわたしを受け入れられるはずがない。目にも止まらない。わたしの名前なんて知らないと思う。ただのクラスメイト。けれど、わたしが好意を持っていることは高木はなんとなく知っているような気がする。義務的な話の時のやり取りで気づかれているような気がする。
もしこの場所を離れる時、わたしは思い告げてみようかな。来年は同じクラスになるとは限らないし。ここで嫌われておくのもありかもしれない。その小さな一歩を踏み出す時かな。
またそうして、あの海に行く。もしかしたら高木が横にいるかもしれない。結果はどちらにしろ、海に行く、あの透きとおった綺麗な海と地平線を眺めにいく。
ーおわりー
*この物語はフィクションです。*
春休みにわたしはおばあちゃんの家に泊まりに行くのが日課だ。今年も春休みにおばあちゃんの家に3日間泊まりに行った。小さな民宿を叔父夫婦と営んでいるおばあちゃんの家の近くには海があって、その海を眺めるのがわたしは好きだった。誰もいないあの海を観光シーズンから外れた時期に眺めるのがわたしの贅沢な出来事の一つだ。
「キエ、グループわけどうする?来週の歴史のグループ発表のやつ」
昼休みになった時に小学校から一緒の芽衣子がわたしに話しかけてきた。
毎回わたしは、グループから外れる。わたしはこんな風に小さなコミュニティを作るのが苦手だ。みんなそれぞれ、信頼のおける仲が良い人がいて、一人でいることを好むわたしには誰もいなかった。休み時間には図書室に一人で向かい、文字の世界の中に飛び込んでいく。そんなわたしを陰で何か言う人がいたかはどうか知らないけれど、話かければそれにこたえ、余計な事は言わない。それでいて何十人とひしめき合うこの教室の中で自分を守り、自分でいられて、人の害にならなければそれで構わない。
「空いているところでいいよ。」
毎回、男子からも女子からも好かれる、芽衣子はわたしの居場所をたずねてくれる。芽衣子が好かれるのがよくわかる。こういう気遣いができるのも芽衣子だからだろう。毎回そういう優しさをわたしに見せてくれる芽衣子はわたしにとっては好意的な存在だ。
「わかった。」
「ありがとね」
長い休み時間に図書室に向かうのはわたしのクラスでは3人。わたしと加藤さんと言う女生徒と高木という男子生徒。加藤さんとも高木とも、特別に話をすることはなかった。腰までの高さの本棚が並び、カウンターでは図書委員と先生がいて、先生は生徒たちの動向を伺っている。図書室には面白いことにいろんな読み物があった。教育者たちから選ばれてはあるのだろう漫画。10代の子供たちが読むような、雑誌まで置いてあった。雑誌を広げながらコソコソと化粧品やファッションの話をする人、漫画を読む人、いろんな人の居場所がある。読んでいた本を閉じ辺りを見合わすと加藤さんはもう教室に戻ったようだった。高木は隣のクラスの友達と図書室の隅で談笑している。
休み時間に空いているのは図書室と、視聴覚室。視聴覚室にはパソコンなどが置かれてあってがそれぞれの階にあり、暗黙の了解の様に、その階の視聴覚室はその学年の生徒しか使われていない。
教室居残り組は持ってきたお菓子や雑誌やスマホを見ながら談笑している。芽衣子はその中に居たり時々、男女のグループになってどこかに向かうみたいだった。
「芽衣子ってさ、悪く言う人いなくない?いい人だよね」
そんな話が聞こえてきた。
「本当にそう。」
わたしもその言葉に納得できる。そして毎回、グループわけされた場所は心地よい場所だった。そこに芽衣子はいたりいなかったりした。
「芽衣子彼氏いるよね?」
「いるに決まってんじゃん。来年あたり、手をつなぎながら廊下歩き出すよ」
そんなことを言い出した。芽衣子の彼氏はどんな人なんだろう。同じ学校の人だって言うのはわかる。
「やっぱりいるよな、芽衣子っちゃんかわいいもんな」
そういったのは川田だった。わたしは川田は苦手だった。通りすがりに、ぶつかった時、
「イテーヨ、根暗」と言われたことがあった。わたしは多分小さく謝ったつもりだったのだけれど聞こえてなかったみたいだ。こういう小さなことがわたしには堪える。わたしの人生にはきっとかかわりのないただのクラスメイトだろう。
「その芽衣子ちゃんの相手、俺だったらどうする?」
「それはないんじゃない?」
そんな話が繰り広げられている教室に芽衣子が仲の良い友達と一緒に入ってきた。
「なんの話?」
「芽衣子の彼氏の話だよ」
「えっ?何言ってんの?」
芽衣子の声を遮るように、次の教科担当の先生が教室に入ってきたと同時にチャイムが鳴った。
「授業はじめるぞ、席につけ」
英語の授業が始まった。午後の授業はなかなか頭に入ってこない。わたしは将来薬剤師になるという目標がある。大学は国立の薬科大学を目指していて、いまはその方向で受験の準備をしている。英語は必修科目だけれど、今日はなんだか集中力が途切れる。ノートの空白の部分に家に帰ってから復習しなおそうと思い、箇条書きでやるべきことだけを書き出してみた。黒板に書いた英文の和訳に高木が指名された。その時思った。もしかしたら、芽衣子が付き合っているのは、高木なのかもしれない。わたしはそう思ってしまった。わたしはひそかに高木に恋心を抱いていた。もし芽衣子が高木と付き合っているなら諦めなきゃいけない。わたしが虚しいだけだから。けれど、どういう接点があるのだろうか、確かに話していることもたまにはあるし、二人が並んだ姿はお似合いだと思う。
芽衣子の彼氏が誰だかという、答えを以外にも早くわたしは知ることになった。わたしは図書室で調べものをしていていつもより、帰りが遅くなってしまい、バスの時刻表を眺めているところだった。
「めずらしいね、この時間に帰り?」
芽衣子だった。
「うん。来週のグループ発表の課題をやってたところ」
「キエらしいね…キエ、学校楽しい?」
「普通かな。」
「大学どこ受けるの?」
「国立を一応…芽衣子は?」
「うーん、」
「芽衣子、」
わたしと、芽衣子が振り返った先には隣のクラスの米沢がいた。米沢はわたしを見るなり軽く頭を下げた。わたしも同じようにした。
「バス一本ずらさない?」
米沢は芽衣子にそんな風に言った
「うん。いいよ。ゴメン、キエ、気を付けてねバイバイ」
「うん。バイバイ」
芽衣子の彼氏は米沢だったようだ。確かにそういう噂は聞いたことがあった。高木じゃなかったと思ったら少し嬉しかった。米沢とももちろん世間話なんかをしたことはなかった。けれど去年の文化祭実行員会で一緒で嫌な印象はなかった。
バスが到着してドアがわたしの目の前で開くと足元はいつもより弾んだ形で一歩目を踏み出すのが自分にもわかった。
明日は日直当番でいつもより早い朝をむかえる。今日の夕飯はなんだろう。
✙
「行ってきます。」
「気をつけてね、いってらっしゃい。」
日直の当番を真面目にこなす人なんてきっとわたしぐらいだろう。バスに揺られながらそんな事を思った。この時間帯にもまばらに人は登校しているようだ。いつもの学校の建物が威圧的にわたしに向かってくるように感じた。教室に鞄を置きに行くと、もう登校している人がいるのが廊下から聞こえてくる話声でわかった。
「芽衣子の動画なんかあったら欲しいって川田に言われてるんだけどさどう思う?」
「金も払うって言われてんだよね」
「やめときなって。」
わたしは教室に入ることを躊躇った。多分朝だから警戒心が薄れていて多少声が大きくなってしまったんだろう。
「おはよう。」
話が切り替わった瞬間に教室に入った。
「おはよう。溝口さん早いね。そっか日直か。」
この二人が早いのは、きっと昨日家に帰っていないからだろうと思った。机には私服を入れた鞄が乱雑に置いてあった。私服でなければ入れない場所もあるから着替えるのだろう。
「うん。そう。」
日直当番を真面目にこなしているわたしに対して、何も思うことはないみたいだ。いろんな人がいる。原川さんが「やめときなよ」と言わなかったら、わたしは芽衣子にとってネガティブな出来事を利用して、芽衣子に近づいたかもしれない。けれど芽衣子ならそんなわたしを嫌うだろう。原川さんが止めてくれてよかった。
「先生もう来てると思う。うちらの担任、朝早いからさ」
「ありがとう。」
職員室に向かう途中、川田と高木にあった。めずらしい組み合わせだった。わたしはうつむいて、二人の横を通り過ぎる。わたしのことは気にしていない様子。
例えばわたしが高木に思いを告げたところでわたしを受け入れられるはずがない。目にも止まらない。わたしの名前なんて知らないと思う。ただのクラスメイト。けれど、わたしが好意を持っていることは高木はなんとなく知っているような気がする。義務的な話の時のやり取りで気づかれているような気がする。
もしこの場所を離れる時、わたしは思い告げてみようかな。来年は同じクラスになるとは限らないし。ここで嫌われておくのもありかもしれない。その小さな一歩を踏み出す時かな。
またそうして、あの海に行く。もしかしたら高木が横にいるかもしれない。結果はどちらにしろ、海に行く、あの透きとおった綺麗な海と地平線を眺めにいく。
ーおわりー
*この物語はフィクションです。*
フィクションで小説を創作しています。
*週1で公開しているブログ*(日常のブログ)
https://namikana00.jugem.jp/
*有料記事販売中*新しく2026年3月から有料記事を販売する予定。
https://note.com/namino_kanata490
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