退屈な夜に浮かぶ船
公開 2025/04/30 12:51
最終更新 2025/11/03 13:08
1週間前に忘れられない夢を見た。確かに身体は疲れているのになかなか眠れない。眠ったのは結局明け方の3時ぐらいだろう。スマホのアラームが鳴るのはAM6:30。そんな時に見た夢だった。船のような乗り物に乗りながら、誰かがわたしの船を操作して雑木林の中に突っ込んでいく夢で飛行機ではなく確かに船だった。ちょうど幼い子供が揺られて安らかに眠るゆりかごのようなそんな乗り物に船の操縦席がついているという不思議な乗り物だった。そう思ったときに、わたしはハッとした。もしかしたらこの夢の中のわたしは幼い子供だったのかもしれない。そして、遠く高いところから、わたしを嘲笑う声だけがこだましていた。その二日後の休日、出かける予定をすべてドタキャンして死人のように眠った。

満員電車のピーク時を過ぎた電車は開く扉と同時に、乗車した人の様々な思いを吐き出したかのように、爽快に走っている。電車ってこんなに軽く走行するものなんだ。こんな朝だからあんなくだらない夢のことなんて思い出してしまうんだ。扉側の手すりにまだパッとしない頭をもたげた。誰もいない伽藍洞の電車。窓には過ぎていく建物の数々が並ぶ。今日は生理痛で遅めの出勤。女なんて不利だ。好き好んでなんで血を垂れ流さなきゃいけないんだろう。そう思った時降りる駅の一つ前の駅に着いた。開いた扉から小さな男の子と母親が電車に乗ってきた。ガラガラの車内に嬉しそうに、男の子は窓の方を向いて座る。わたしは次の駅で降りる心構えをして、できるだけこの電車から早く降りようと思った。

いつもはなだれ込むように人が階段へと向かう。駅から歩いて5分のところのに勤務先はある。

「おはよう。風邪?」

同僚が話かけてきた。

「うーん、生理痛。」

「なるほど…そうそう、この間の案件今週中までにできそう?」

「もうすぐ、仕上がるよ。11時までには終わらせる」

「ありがとう。助かる。無理しないでね」

WEBデザインの企業に就職して6年目。今年で28歳。仕事は順調で貯金もたまった。この6年の間に恋人は2回変わり今は付き合ってちょうど半年になる同い年の彼氏がいる。きっかけは大学生の頃、顔見知りになった人と二度目の再会。もともとちょっと気になる相手ではあったけれどその頃には互いに彼氏彼女がいたので顔見知りで終わった。なんだかこの恋愛も続きそうにない。そんな予感がしている。

この間彼氏との予定をドタキャンして死人の様に眠った次の日、自宅でコツコツと仕事をした。彼氏はその日は休日出勤だった。

「外回り行ってきます」

今年度の新入社員を連れて、男性社員が別の会社に挨拶まわりに出かける。ホワイトボードにはその予定がぎっしりと書かれてある危うくその仕事がわたしになりそうだったけれど、外回り好きの男性社員が立候補をしてくれて、難を逃れた。いるんだよね、体育会系のやたらと人に会うのが好きなやつ。この会社の好きなところは人選がベストなところかな。

「手伝いますか?」

と声をかけてきたのは2年後輩の仕事できる系女子

「確認作業頼むわ。」

なんだかんだ言ってランチタイムの時間になってしまった。けれど仕事はひと段落。

「ランチ行く?」

同僚がわたしに話しかける。

「外じゃなければ。」

「OK。」

同僚と二人で社員食堂へ。安いし日替わりランチかなと脳内でメニューを思い浮かべた。

先に席について待っていると、同僚がコーヒーとサンドウィッチをトレイに乗せてテーブルに来た。

「どうやらわわたしは不倫してるらしい。」

「なに??」

「課長とできてるって言われてるみたい」

「そうなの?」

とわたしがたずねると

「そんなわけないじゃん。いるんだよね、噂がないと生きていけない人たちって」

「えっ?わたしもその一人だよ。」

「そんなこと言わないでよ。それより、どうよ、彼氏とはうまくいってるの?」

「まぁまぁかな…」

「今、一番いい時期なんじゃないの?」

「うーん、もともと知り合いではあったから、新鮮味には欠けるかな」

「なに?喧嘩でもしたの?」

「そんなこともないけど。」

「実はさ、紹介したい人がいるのよ。」

「わたしに?」

「うん。外資系サラリーマン。」

「パス。彼氏いるから」

「ねぇ、会うだけでもあってみない?」

「彼女はどうよ」

わたしは仕事できる系女子の方に目配せをした

「いるんじゃないの?結婚間近だとか聞くし」

「わかんないよ。聞いてみれば?」

「良い人紹介してって頼まれちゃってさ。」

「世話好きだね。」

「そう?」

この同い年の同僚には複数男がいる。彼女に言わせれば、どれも彼氏候補だとか。

「わかった。いい人見つかったんだ。それで言い寄られてる人をわたしに押し付けようとしてるんだ?」

「なんでわかったの?」

「なに?図星?冗談だったのに。」

彼女のような人の方が自分の生き方をちゃんと考えているのかもしれない。わたしはあまり何も考えていない。ただ好きな人と、好きな時に一緒にいたいだけだ。

「なおさらないよ。ややこしいことになるだけじゃん。」

日替わりランチの横に置いたスマホがその時なった。彼氏だった。

「彼氏?」

「うん。」

「じゃぁ、先行くね」

わたしはディスクに戻って彼氏に電話を折り返した。

                    *

彼氏の住むマンションは1LDK。人材派遣会社で働きそれなりの収入はある。部屋の様子は散らかってもいないし、神経質に整えられてもいない。人が暮らしている形跡が感じられるそんな場所だった。

「生理痛大丈夫?」

「うん。鎮痛剤飲んだから。コーヒーもらっていい?わたし淹れるから」

「もちろん」

キッチンにいき、コーヒーメーカーを操作してコーヒーを2人分作る。カプセルをセットして、棚からマグカップを2つ出し、マグカップを定位置に。

「ねぇ聞いていい?」

「なに?」

「なんで前の彼女と別れたの?」

いつか聞いてみたかった。でもなぜ今なのかは自分でもわからなかった。

「どうしたの急に?」

「前から聞いてみたかったんだよね」

「あぁ、向こうに好きな人ができたっていうね…そう言われたらもう別れるしかないじゃん」

「なるほど…」

「沙保は?」

何だろう、別に互いに好きな人ができたわけじゃないし、どちらともなく別れた方が良いんじゃないか…と言う意見になって終わっていく。その時、キャビネットのところに置かれてあった彼氏の2台目のスマホが鳴る。若干焦る様子が怪しい。

「前から思ってたけれど、なんで2台持ってるの?必要?」

「あぁ、これ電話にはつながってなくてWi-fiだけだからさ。」

Wi-Fiだけでもやりとりなんてできる。

「ちゃんと見えないところに、しまっておいてよ。」

「ごめん。」

「見せて」

苛立ちがこみあげてきた

「ほら何でもないって、なんかクーポンメールかなんかだよ」

そういってそのメッセージをわたしに見せる。確かにそうだ。だけど思わず、わたしは写真画像のところをタップする。ホラやっぱり、出てきた。女性とのいちゃつき写真。

「これ、元彼女じゃないじゃん。」

「まぁ、そういう時もあったよ。でも沙保と付き合ってからはもうないって」

「そういう時ってどういう時よ」

「まぁ、女の子紹介してもらって、遊んで…的なさ…沙保だってあるだろ?そうやって遊んだことぐらい」

「これじゃこのスマホ捨てれるわけないよね。」

「始末しようと思ったんだよ。削除すればデーターなんて消えるしさ。」

互いに28歳の男女。それなりの過去を持つ。それぐらいわたしにもわかる。大学生の時に付き合っていた人は、就職しだして互いに会うのが面倒になって別れた。もしかしたら、その時知らないだけで、相手には新しい彼女がいたのかもしれない。次に付き合った人はわたしの知らない金銭的事情を抱えていた。

「今日は帰るね。始末するか何とかしてよ」

ちょっとキツイ言い方だったかもしれない。止める声がしたけど知らない。その日、またあの夢を見た。船に乗る夢。次は操縦席はない古いタイプの船だった。オールを漕ぐのは知らないヘノヘノモヘジの女性。だけれど、どこかで聞いたことがあるような声。目覚める瞬間思った。わたしは誰の人生を生きてるの?

ー終わりー

この物語はフィクションです。
フィクションで小説を創作しています。


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