実況!良い感じの夜
公開 2023/03/09 23:33
最終更新
2024/01/05 03:24
・23:33
これはほぼ毎日強制的に奪われてしまう「電車移動」という退屈な時間を、いかに有意義かつスパイシーに過ごす事ができるかという、テキスト実況型痛快エンターテイメント人間観察リアリティーショーなのであ〜る。
・23:36
最高だ。昼の陽気も良いんだけど、じわじわと冷めていくこの湿り気を帯びた空気。一瞬、涼しい夏の日くらいになった。
とはいえもうこんな時間。電車を待つホームはまあ肌寒い。
・23:40
僕はこんな気候を「キュン」と表現する。胸キュンとは違う。愛だ恋だなんかとは無関係なキュンっていうものがある。
今でいう「エモい」の方が合うのかな。というか今の「エモい」がデカ過ぎるから、その中に含まれるって感じ。
ちなみに昔使ってた「エモい」は今とは全然違う。バンドマン同士の共通言語としてしか使われていなかった気がするけどどうなんでしょ。
・23:54
「キュン」
この概念の発見は、実の兄との他愛もない会話の中からだった。
当初なされていたのはやはり「俗に言う方の」胸キュンなエピソードトークだ。僕ら兄弟は赤裸々な恋愛話も全然平気なのだ。
そんな会話もずっと続けていれば、あらゆるディテールの深堀りが始まる。
すると、お互いの話の要所要所に、言語化しがたい「ある感覚」を感じている事に気がつく。
心がざわめくような、身体の節々がツンと痛むような、それでいてスポンジを握った時のように全身からジュワッとにじみ出る多幸感。
そしてそれを感じるのは、必ずしも恋愛話の本筋と直接関係するポイントだけではなかった。
季節、時間、場所、時勢、そこにある物、それの形、そこの匂い、温度、天候、光、闇、振動……。様々な条件が複雑に関係しあっているようだった。
このあやふやな発見を取り逃すまいと、僕たち兄弟は次の作業に移った。
「これってなんか良いよね」
「うんうん、わかる」
それぞれの思うあらゆる「なんか良い(仮)」物事、事象、状況を、できる限り具体的に挙げ連ね、イメージする。
この作業を延々繰り返し、互いの認識をすりあわせ固めていく。
「キュンだね」
時間はかからなかった。どちらからとも無くその言葉を使い、その表現が最もしっくり来ていた。
・21:08(数日経過)
とにかく、この夜はキュンな夜だったのだ。
おわり
これはほぼ毎日強制的に奪われてしまう「電車移動」という退屈な時間を、いかに有意義かつスパイシーに過ごす事ができるかという、テキスト実況型痛快エンターテイメント人間観察リアリティーショーなのであ〜る。
・23:36
最高だ。昼の陽気も良いんだけど、じわじわと冷めていくこの湿り気を帯びた空気。一瞬、涼しい夏の日くらいになった。
とはいえもうこんな時間。電車を待つホームはまあ肌寒い。
・23:40
僕はこんな気候を「キュン」と表現する。胸キュンとは違う。愛だ恋だなんかとは無関係なキュンっていうものがある。
今でいう「エモい」の方が合うのかな。というか今の「エモい」がデカ過ぎるから、その中に含まれるって感じ。
ちなみに昔使ってた「エモい」は今とは全然違う。バンドマン同士の共通言語としてしか使われていなかった気がするけどどうなんでしょ。
・23:54
「キュン」
この概念の発見は、実の兄との他愛もない会話の中からだった。
当初なされていたのはやはり「俗に言う方の」胸キュンなエピソードトークだ。僕ら兄弟は赤裸々な恋愛話も全然平気なのだ。
そんな会話もずっと続けていれば、あらゆるディテールの深堀りが始まる。
すると、お互いの話の要所要所に、言語化しがたい「ある感覚」を感じている事に気がつく。
心がざわめくような、身体の節々がツンと痛むような、それでいてスポンジを握った時のように全身からジュワッとにじみ出る多幸感。
そしてそれを感じるのは、必ずしも恋愛話の本筋と直接関係するポイントだけではなかった。
季節、時間、場所、時勢、そこにある物、それの形、そこの匂い、温度、天候、光、闇、振動……。様々な条件が複雑に関係しあっているようだった。
このあやふやな発見を取り逃すまいと、僕たち兄弟は次の作業に移った。
「これってなんか良いよね」
「うんうん、わかる」
それぞれの思うあらゆる「なんか良い(仮)」物事、事象、状況を、できる限り具体的に挙げ連ね、イメージする。
この作業を延々繰り返し、互いの認識をすりあわせ固めていく。
「キュンだね」
時間はかからなかった。どちらからとも無くその言葉を使い、その表現が最もしっくり来ていた。
・21:08(数日経過)
とにかく、この夜はキュンな夜だったのだ。
おわり