【連載】琉球芸能を習うことについて
公開 2024/06/17 17:24
最終更新 2024/06/30 15:53
<庶民の視点から見る琉球芸能の世界①>



琉球芸能―――沖縄が世界に誇る伝統文化のひとつ。
近世は琉球王国、中国から訪れる使者を歓待する宴の場で士族によって演じられた宮廷芸能にはじまり、時代の流れとともに庶民の娯楽として発展し、現在では伝統的な舞台芸能として継承者の育成が活発におこなわれています。

こうして書いてみるとすごく高尚なものに思えますが(高尚なものではある)、沖縄に住んでいると意外にも実演者として琉球芸能に携わっている人間は周りに多い。うちの会社のスタッフも、私含めて6~7名は日頃舞台に出演している踊り手だし、そのへんの子どもたちは小学校6年間のあいだに一度は三線に触っていること確実である。
もちろん、実演家として芸能を仕事にしている方もいれば、私のように会社員しながら稽古と舞台をどうにかこなしている者もいます。

で、結局どういう人が道場に通えて、どうやって舞台に出ているの?
敷居が高そうだけど庶民が習えるもんなの?
世襲制?
試験とかあるの?

エトセトラエトセトラ・・・・・・
案外、そのあたりについて知られていない気がします。

ちょうど私は琉球舞踊の道場で会計担当をしていますので、お金の話を中心に近年の琉球芸能の世界について書いていけたらなと思います。
いろんな話題がありますので、5~6回ほどに分けて。。。
私が立ち方(舞踊)なので、メインの話が舞踊になりがちということをお含みください。

ちなみに、みんな大好き「エイサー」は今回あえて触れずにおきます。
エイサーに関しては演者や後継者育成の構図が異なっているのと、活動の場が被ることがまずない。まったく別の議論をしないといけなくなるゆえ。

唐突にお金の話をはじめてもピンと来ませんので、まずは琉球芸能とは何ぞやというのと舞踊を習うことについてを浅くざっくりまとめました。

琉球芸能のジャンル #

ひとくちに琉球芸能といっても、だいたいの人が思い浮かべるものといえば「三線」くらいのもんかと思いますが、実はそれ以外にもいろんな楽器や踊りがあります。そしてジャンルもさまざま。ざっくり分けてしまうと次のようになります。

<舞台>
○組踊
近世に成立した台詞劇。
中国から訪れた使者をもてなす宴で披露され、台本の作成と演者は王府に勤める役人士族。
現代では女性が出演することに関して特に制限はないが、国立劇場の組踊伝承者育成制度(通称:研修生)の受け入れは男性のみ。
◆チケット価格帯:約2,000円~3,000円

○琉球舞踊
組踊とともに発展した舞踊。近世期に基礎ができた演目を「古典舞踊」、近代以降に創作されたものを「雑踊り」と呼び分けることも。歌三線とともに王国士族の嗜みとされた。もともと男の世界だったが、なぜか戦後は女性の家元・実演家が増加。と思いきや、近年は「男性舞踊家」の舞台が超人気。
流派の数がめちゃくちゃ多い。最大手は玉城流(たまぐすくりゅう)と宮城流(みやぎりゅう)。また、流派の下には雨後の筍のように会派が乱立し、それぞれ踊り方が微妙に違います。なんでや。
◆チケット価格帯:約1,000円~6,000円

○沖縄芝居
明治時代以降に成立・発展したお芝居。組踊同様に台詞あり、歌あり、踊りあり。
琉球王国が廃されたあと、職を失った元士族たちが生活のために市中で演じたのがはじまりとされます。現在でも昭和生まれのマダムたちにとっては最大の娯楽。最近のスタァは金城真次さん。
◆チケット価格帯:約3,000円~5,000円

○歌三線
三線は中国の三弦に由来する弦楽器、胴は蛇皮、竿は琉球黒檀が主な素材。
「工工四」と呼ばれる楽譜があり、かならず歌いながら弾きます(奏者と歌者を分けることはない)。音楽の種類はおもに「古典音楽」「民謡」「新民謡」にわかれます。小学校の音楽の授業で必ず一回は触る。歌が必須なので音痴だとつらい。
古典の流派は野村流と安冨祖流のふたつ(今回湛水流については触れません)。野村流はおもに協会・保存会・伝音の三つの会派にわかれています。安冨祖流は絃聲会と絃聲協会のふたつ。
民謡も登川流をはじめ流派・会派が存在するほか、先島地域では八重山古典・宮古民謡の会派も数多く設立されています。

歌三線をメインにした舞台もありますが、だいたいは舞踊も一緒に上演されます。
舞踊地謡ができることは実力のある証ですし、あとぶっちゃけ古典音楽の斉唱や独唱で1~2時間のプログラムをつくるのは結構至難の業かと。おもにお客様側が。こういってはなんですが、古典音楽は眠くなります。

<演者・奏者>
○立ち方:舞踊・組踊や芝居の演者
組踊の立ち方は舞踊ができることが前提です。芝居のほうもたいていは舞踊家が演じますが、こちらは芝居一本しかやってないという役者さんも少なからずいらっしゃいます。

○地謡:歌三線・箏・胡弓・太鼓・笛
歌三線は単独のライブや公演も多くみられますが、胡弓・笛・太鼓はどうしてもほかの楽器と合奏したり舞踊地謡として演奏しているイメージ。とくに胡弓は奏者人口が少ないので道場を探すのも苦労するようです。お箏は箏曲合奏ができるので、段ものなどの箏のみで演奏して歌う演目もあります。

個人的に統計を取ったことなどないのですが、上記のなかだと三線奏者が圧倒的多数という感触があります。また性別や年齢層が幅広いのも三線。対して立ち方人口は一見多いように感じますが、プロとして活動を継続していける人は一握りだと思います。
今後掘り下げていきますが、舞踊に関しては金の掛かり方が尋常じゃない。

地謡もっと詳しく説明しろよと苦情が来そうですが、舞踊を中心に話しますので何卒ご了承くださいませ。

庶民も舞踊家になれますか #

もちろんです。
ただし、どれだけお金と時間を投資できるかにかかっています。
ちなみに、琉球芸能界は世襲制が確立されていません。
親が舞踊家や三線奏者でも、子どもはまったく芸能携わっていませんという家庭も少なくない。血のつながりのないお弟子さんが二代目家元を継いでいる流派もありますし。とりあえず生まれてから一度くらいは教えたりするとは思いますが・・・・・・本人が向いていなかったら強いては続けさせないという親が多いのでしょう。
私は家族・親族のうち誰も芸能に携わっていませんので、まあそんなもんです。そして私も庶民です。

どこで習うの? #

さて、多種多様な琉球芸能。
それではどこでその技を習得するのか?
三線は小学校の音楽の授業でも触れますし、高校や大学で琉球舞踊の実践型の授業が受講できるところもあります。部活やサークルもあります。地域の公民館で講座やサークルを開いているところもありけり。三線ならお家のおじぃから習った!という方も多いでしょう。
ただし、舞踊は人口が少ないうえ、家の中でやたらと稽古できるものでもないためそうはいきません。だいたい道場に通う。人づてだったり家の近くを探したり・・・・・・。自治体によっては芸能団体協議会を設置している地域もありますので、そこに入会している道場を調べるという手もあります。近年はYouTubeチャンネルやインスタを開設している道場も増えましたので、ずいぶん情報が手に入りやすくなりました。
次回以降にお話ししますが、そもそも実演家になろうとしたら道場入門は必須となります。

何歳からはじめる? #

体の動かし方やリズムの取り方を身に染み込ませることを考えると、なるだけ早いほうが良いでしょう。周りをざっと見渡しても、2~3歳、最低でも小学校の低学年くらいまでにはじめる子が多いです。
ただし、小さいころからはじめると、中学あたりで子どもの気持ちが舞踊から離れていく場合があることも。部活だったり勉強だったり、周りの環境が大きく変化する時期です。しかし、ちょうど中学2年生からコンクール(後述)の稽古がはじまりますので、いかにこの時期を乗り越えるかがキャリアを積むうえで重要となります。
逆に、大人からでもはじめられるのか?といえば、もう人によるとしか。
社会人であれば、土日休みや有休・年休が取りやすい職業であることがまず前提です(舞台やリハーサルはだいたい土日に入る)。また舞踊をはじめると出費が増えたり家を空けがちになったりするため、家庭を持っているなら家族の理解と協力が得られなけばなかなか続けられません。そのうえで、どれくらい道場の気風に合わせられるかが重要となってきます。

月謝ってどんくらい? #

月謝については、沖縄伝統芸能舞踊保存協会によって定められた料金表が存在します(だいたい道場のどこかの壁に貼られている)。

<料金表>*平成13年時点
◆稽古週2回/1回30分
*実際は料金そのままで1回2時間くらい稽古をしていたり舞台前は週5だったりします。
◆入会金 10,000円
子ども 月5,000円(満14歳まで)
大人 月8,000円
臨時会費 月20,000円(ただし一人1曲×8回)
特別会費 月20,000円(コンクール受験年の1月より)
教師・師範の会費 月10,000円

子ども/大人は、年齢ではなく稽古時間で分ける場合もあります。
夕方の早い時間(通称子どもの部)に通っていれば子ども料金、夜の部(大人の部)であれば大人の料金、といった具合。ちなみに教師・師範の会費(月謝)が10,000円となっていますが、教師免許を取得していなくとも、新人賞以上を取得している人は10,000円に料金アップする道場が多いようです。
また、コンクール(*)月謝については、先生の裁量により徴収の仕方が異なっていますので、受験する場合は確認が必要です。

◆パターン①
通常の月謝8,000円または10,000円+コンクール月謝20,000円を毎月支払う

◆パターン②
コンクール稽古期間中は月謝の金額が切り替わる
例)受験年の1月~8月:毎月20,000円 → 9月以降は8,000円または10,000円
*不合格だった場合は9月以降8,000円または10,000円に戻る

ところでこの料金表、平成13年に値上げをしているので、道場によってはそれ以前の料金を継続してるところもあります。。先生によりけり。

試験や免許ってあるの? #

先程からやたら出てくる「コンクール」「賞」というワード。これが琉球舞踊における試験であり、まさに資格であります。つまり「あなたの腕前どんくらい?」はこのコンクールでどの賞を受賞しているかで判断されます。
やたらにコンクールコンクールといわれていますが、実際の形式はコンペティション形式ではなく、資格認定試験に近い。英検や漢検の級に相当する「賞」と呼ばれるランクが設定され、各ランクに応じた課題演目の出来栄えを審査員に選ばれた舞踊の先生方が採点します。もちろん踊るのは一人ずつで・・・・・・。
コンクールは毎年初夏~秋にかけて、県内企業の「琉球新報社」(以下、新報)と「沖縄タイムス社」(タイムス)の両社が別々で開催します。所属している会派によってどちらのコンクールを受けるかが決まっているので確認が必要。

<コンクール概要>
◆正式名称:琉球古典芸能コンクール(新報)
      伝統芸能選考会(タイムス)
◆受験部門:新人賞・優秀賞・最高賞・グランプリ(タイムスのみ)
◆受験分野:舞踊・三線・箏曲・胡弓・笛・太鼓
◆基本的に公開審査(一般の人も見学可)

<参考:新報の場合の受験条件と課題曲>
*新報の場合、受験申込書に道場のお師匠さんの署名と捺印がないと無効になります。
舞踊部門以外の詳細はこちら→ https://corp.ryukyushimpo.jp/news/posts/6ZXgA5RL


*タイムスだと入門して2年後から受験が可能、かつインターネットでの申し込みができるようです。

両社、何が違うのかと言われれば、受験条件・日程・課題曲・衣装の指定・・・などでしょう。どちらのコンクールを受けるかは道場の所属会派で決まってしまうので、両社の舞台を見学して道場を決めるという手もアリかと思います。

そんでもって、最高賞やグランプリを取ると、教師や師範といった「免許」の授与に一歩近づきます。いいですか?近づくのは一歩です。
三線の場合、教師や師範といった免許に関しては各会派(野村流や登川流など)が認定試験を実施して合否を出します。しかし、舞踊の場合は完全に先生次第。最高賞を取っていてもなかなか教師免許をあげない先生もいますし、逆に賞を取っていなくても免許あげちゃう先生もいたり(かなり少数派ですが)・・・・・・。ちなみに免許に関しては、道場によってかとは思いますがいくらか献金が必要らしいと聞き及んでおります。

若いうちから賞を取ってきた方だと、30代くらいではだいたい教師免許をもらっているようです。早い方?だと40代では師範になっていたり。

ところでかさの芸歴は #

で、散々語ったお前の芸歴はいったいどうなんだ、といわれれば・・・・・・。

◆2018年 入門
◆2021年 新人賞合格

私の場合、子どもの頃ほかの道場で習っていたんですが、コンクールを受験することもなく20歳すぎまでダラダラと続けるだけ続けていたという状態でした(踊りも相当崩れていました)。先生も高齢で病気がちでしたので、穏便に話し合いをして今の道場を移ることに。あまりポピュラーではないパターンですね。。
一応、2021年のコンクールの申し込み書類は芸歴4年で出しました。
小さい頃に習っていたとはいえ、一般社会で過ごした時間が長いので、舞踊界の慣習や風潮、感覚にはいまだ慣れないところが多いので苦労します・・・・・・。

***

いろいろ細かく書いてみましたが、本題はお金の話なんです・・・。
ただ、いきなり金の話をしても意味がわからないので、いったん琉球芸能についてまとめてみました。とはいっても、道場や先生によって稽古の仕方や道場の運営方法はかなり変わります。あくまでも、かさはこういう環境で習っているんですねとでも思っていただければ幸いです。

つづく!
レトロでロハスに社畜をしながら絵描いたり小説書いてみたりしてます。
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