梅雨の訪れ、イジュの花
公開 2024/05/21 16:36
最終更新
2024/06/17 22:08

伊集の木の花や あんきよらさ咲きゆり
わぬも伊集のごと 真白咲かな
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<ぶっちゃけ歌意>
イジュの木は真っ白できれいな花が咲いていてとてもみごと。私もイジュみたく真っ白に咲きたいな♪
なんやイジュって見たことないがな・・・・・・
辺野喜節を聴くたびに思っていました。
ところがどっこい、本島北部でOLをするようになり早数年。毎年この時期に会社近くの野山にこれでもかというほど咲きみだれている白い花こそが、まさにイジュであるとようやく知ったのでした。
イジュは椿のなかまで沖縄だけの固有種だとか。
開花は梅雨入りまえの4月~5月あたりで、梅雨の訪れを告げる花ともいわれています。
(ちなみに、沖縄の県花である梯梧の開花は強い台風の到来を窺わせるもの)
白く大きな花に魅せられたうえに、某地元紙の記事で良い「匂い」のイジュが咲きほこっていると聞き及び(香りものが好き)、昨年の初夏からどうにかイジュの花を間近で見て匂いを感じたいとあれこれ考えておりました。
が、高い。
木が高い。
イジュは花木です。いわゆる木に花が咲くやつ。そして花が咲いているのはだいたい木のいちばん上あたり。なぜだ。社内の道端にお花は落ちているのに、目の前ではお花が咲いていない。それどころか社内は開花時期が被っている「マーニ」(*)の凄まじい香りが充満しており、とてもではないがイジュの仄かな匂いなど感じられるわけがない。
今年こそは・・・・・・今年こそはイジュを眺めながらその匂いを感じながらロハスな気分を味わいたい。そんな不純な動機を募らせた私は、ついに車を走らせて会社の裏山へと向かった。ちょうど母の日の夕方のことである。
1分ほど車を転がすと、両脇にイジュが植わりまくった細い山道に突入。ぼつぼつと降りはじめた雨に焦りながら路肩に車を停めて降りると、ちょうど私の顔の高さほどに結構な数のイジュが咲いていた。
これ幸いと、私は用意していたハサミで至極慎ましい量のお花をカット。
(事務所のお姉さんが裏山からとってきていいって言ってた。許可のない植物の伐採はやめましょう。)
自然の植物には虫がつきものなので、即ビニール袋に封印して帰宅後に水洗い。我が家には花瓶がないのでとりあえず食器棚にあった瓶に生けてみる。これ、たぶん日本酒のワンカップの瓶だ。

そして匂いである。
このために私は裏山まで車を走らせたのだから。
今度こそ歌にも詠まれる美しいイジュはきっと匂いも素敵に違いない・・・・・・!
「・・・・・・?」
うっすら・・・・・・うっすらお花の香りがするようなしないような気がした。
慎ましやかで、ちょっと甘いけれどマーニのようにゴテゴテな甘さではない。青さのある匂いだ。
まあ、椿的な・・・・・・。
そう、椿ってそもそも匂いが強いお花ではないんですよね。
であればイジュもまた然り。
そっかぁ・・・・・・。
たしかに、歌だってイジュの花の「白さ」が美しいといってるのであって匂いがどうこうとは言っていない。
おそらくマーニくらい香っている花のほうが珍しいんですよね。とりあえず、イジュの匂いを間近で嗅ぐという目標を達成できたので良しとしましょう。
ちなみにイジュの香水やアロマはほぼほぼないといっても過言ではない。私の狭い情報網にかかった範囲では、「伊集ぬ花」という香水は廃版になっており、アロマオイルは販売サイトが不思議すぎる雰囲気で購入には至れなかった。う~~~~~ん!!!仕方がない!!!
ということで、あまり成果(?)は得られませんでしたが、ここ数年とても気になっていたことを一つ消化できたのであります。
そして、母の日なのに椿系の花を持ち帰ってきた私に母は言った。
「ああ、ボトッッって落ちるやつね」
・・・・・・ごめん。

↑遠目からみたイジュ
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【メモ】
<イジュを歌った琉歌>
イジュを歌った琉歌はおもに下記のふたつです。
「伊集早作田」という歌もありますが、こちらの「伊集」はお花ではなく地名でございます。「伊集」自体がそもそも当て字らしく、発音は「ンジュ」、古文書では「いちよ」「いぢよ」などと表記されます。王国時代、イジュは王府の御用木でして、勝手に売買すると罰せられたそうです。
伊集の木の花や あんきよらさ咲きゆり
わぬも伊集のごと 真白咲かな
―――辺野喜節/読み人しらず
あの伊集の花や あがきよらさ咲きゆり
わぬも伊集やとて 真白咲かな
―――伊集の木節/読み人しらず
<マーニ>
和名は「クロツグ」。ヤシ科の木で4月~5月くらいにオレンジの花を咲かせます。これがと~~~ても甘い香りがする。ちょっと気張った柔軟剤みたいな感じ。まさかこれが植物の香りだとは思うまい。会社に植わっている。
「マーニ」は方言。八重山歌謡では人の生まれの良さを表現する植物としてうたわれることが多いようです。建築資材や縄、箒など生活にかかせない道具の材料として使われてきました。神聖な植物らしく御嶽に植えられるそうな。
イジュの木植えたいんですけどね、家に庭がないというところで現実の壁にぶち当たりました。
いつか素敵なイジュが咲き乱れるお庭をつくりたいです。
<参考文献・史料>
◆島袋盛敏『琉歌集』(風土記社、1969年)
◆池宮正治『続・沖縄ことばの散歩道』(ひるぎ社、1995年)
◆佐々木和子「八重山歌謡の表現の研究―植物を中心に―」(沖縄県立芸術大学、2019年博士論文)
◆「今帰仁間切杣山法式(抄)」(沖縄県教育委員会『沖縄県史料 前近代6 首里王府仕置2』、1989年)
