青4 立凪クンの受難
公開 2026/02/12 20:54
最終更新 2026/02/14 00:09
立凪クンの受難

 立田 凪はお金に人一倍執着している。⋯⋯そして、その性質を理解している雇い主こと桔梗は、お金を対価として素っ頓狂な課題をときどき与えてくるときがある。

「うーん、保っていたのは10分か。こりゃ、小遣いはなしだな」
「天界と魔界を治めるトップと戦って!10分は!ボーナスくれたって良くない!?」

 快活な笑顔で桔梗は倒れ込んだ凪を覗き込んできた。
凪が魔力切れで青髪に戻ってしまうほど疲弊した原因だというのに、桔梗は一切の引け目を感じていないようだ。その態度が癪に障ったので、凪は息を切らしながらも桔梗に全力の糾弾を浴びせた。


 何故、こんなことになってしまったのか。始まりはいつもとあまり変わらない提案だった。友と戦えば、戦闘時間が15分経つごとにボーナスを与えてやると。
 桔梗は凪たち『伝説の十色』の過去生を、友として魔法で喚んでいる。そして、時折指南役として、彼らに面倒をみてもらっているのだ。十色は下手な兵士よりも強く、力を持て余し気味な凪には丁度良い訓練相手である。
 だから、凪はいつもの訓練だと思い、二つ返事で桔梗について行った。
 ところがフタを開けてみたらなんだ、目の前に飛び込んできたのは同じ場にいるだけで足がすくむような化け物2体。見た目は悪魔なのに人畜無害そうな顔をしている魔族と、見た目は天使なのに眉間にシワが刻み込まれている天族。

「魔族の方が縲で、天族の方が綟だ」

 桔梗は良い笑顔で、魔界と天界の頂点に君臨している統治者だと紹介してきやがった。
 その後、混乱している凪をそぞろに進められていく訓練におけるハンデの内容。会話を軽く聞くだけでもひしひしと圧倒的な実力差を感じた。普段から相手をしてもらっている十色でも引けを取るだろう。盛大な報酬が待っているとはいえ、流石の凪でも戦いたくない相手であった。
 盛り上がっているところ申し訳ないが、今回は断ろうと口を開こうとしたときだった。先手必勝と言わんばかりに、桔梗はオレに囁いた。

「怖気づいたのか? 珍しい。お前にならできると思っていたのだが、まだ早かったようだな。無理ならば仕方n「はァ?できますけど???舐めないでもらえます???」⋯⋯言ったな?」

 完全なる売り言葉に買い言葉。いつもの小競り合いのように、反射的に答えてしまった。対戦相手の2体も聞いていたらしく、眼光人を射るような視線が此方に突き刺さる。
 これでは前言撤回ができないではないか。凪は思わず苦虫を潰したような顔を浮かべた。
 対照的に桔梗はあくどい笑顔を浮かべ、訓練の要項について意気揚々と告げてくる。その様子が腹立たしかったので、凪に有利な条件をさらに複数ふっかけた。哀しいことに、桔梗は特に歯牙にもかけず戦闘の準備を始めたが。


 こうして、お膳立てされた戦闘訓練に身を委ねたが、結果は見るも無残な惨敗であった。そのせいで、今こうやって体を動かすのも難しい疲労に陥ってしまっている。息を整えるためにも、さっさと体を起こしたい。
 なので、凪は両手を上にあげ振り回し、事の発端に上体を起こすように促した。桔梗はため息をつきながら手を伸ばす。

「でもよ、彼奴等はお前にめっちゃ手加減してたぞ。俺との訓練時の比にもならねえ」
「アンタの強さは例外なんだよ! 並以上の兵でもこんなの10分持たないってば!」
「そんなものなのか」

 桔梗は納得のいかない顔で、凪を引き上げた。
 王族サマは病室育ちで、世間一般のレベルを知らないのである。凪は座り込んで、追撃するように講釈をたれた。

「そうでしょ。あんな明らかに種族単位で得意な魔法で弾幕を張られたらさぁ。加減されてても無理だって」

 凪は食らった攻撃を思い出し、顔を顰める。『伝説の十色』仲間の赤がやっていたシューティングゲーム?とやらを彷彿とさせる程に、視界一面が闇魔法と光魔法で埋め尽くされた。
 あれは、極致にまで上り詰めた者でも恋焦がれる魔法だろう。どうやって、人生十数年の素人が勝てるというのだろうか。
 息を整え終わり、ふと視線を上げると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をした桔梗がいた。

「あれ、彼奴等の苦手魔法だぞ」
「は?マジで?」

 凪は思わず目を見開いて、聞き返す。桔梗は頷いた。

「縲は闇系魔法が、綟は光系魔法が一番苦手だ」
「あんな見た目なのに?」
「あのなぁ、そもそも彼奴等は龍だ。悪魔でも天使でもねえぞ。覚えてねえのか?」

 混乱している凪を、桔梗は呆れを隠さない表情で見下ろしてくる。
 忘れたも何も、そんな情報聞いたことがない。むしろ、知っているほうが可笑しいのだ。なんせ、2体とも十色の伝説上でしか語られておらず、存在そのものが怪しいとされている。
 何故、凪が知っていて当たり前のように扱われなければならないのか。頭に疑問符を散りばめていると、背後から聞き慣れない突き刺さるような声が届いた。

「親族を忘れるのは、如何なものかと思うが」
「綟クン、この子は転生してるんだし仕方ないよ」

 縲が綟を緩やかに嗜める。さっきまで離れた場所にいたというのに、いつの間に凪の背後に来たのだろうか。
 凪は立ち上がり、眉を顰めながら縲と綟の方向を向いた。

「後ろにいきなり立たないでいただけます?」
「大分前からいたのだが」
「気配に疎いのは相変わらずだね」

 縲と綟は、手のかかる子どもを見守るような目線で凪を取り囲んでくる。小っ恥ずかしさで、背中が痒くなるので是非ともやめて頂きたい。少なくとも、初対面の人間に向ける眼差しではないだろうに。
 いや、本人たちの中では初対面ではないのだろう。先程からの物言いから察するに、今までの輪廻転生のどこかで知り合いだったと思われる。残念ながら、凪には前世までの記憶は一切ない。同一人物として扱われても困るだけだ。
 桔梗は全ての転生の記憶を知っているので、聞いた方が手っ取り早い。凪は隣に移動してきた桔梗に疑問をぶつけた。

「オレのことを知ったような口振りだけど、前世とかのお知り合い?」
「お前の前前世での父親と叔父だ」
「何でそんな重要なの黙って戦わせたのさ」
「いや、二人に言われてだな」

 凪が思わず睨みつけると、桔梗は尻すぼみになりつつ答えた。
 ということは、この明らかにアンバランスだった訓練は縲と綟の2体が考案したのか。ただ会いたいだけならばこの人生十数年の間に何度もチャンスはあっただろう。わざわざ、今になって模擬戦闘の形を取って対面の機会を得ようとしたのだろうか。
 凪が尋ねるよりも先に縲が口を開く。

「下手に話して、戦闘中に前前世の記憶を思い出されたら困るもの」
「龍の力が目覚めるかどうか分からぬ故、調べたかったのもある」

 綟が頷いて縲に続いた。
 そういえば、桔梗が前世までの力が目覚めて暴走しだすケースが存在していると前に話していた。特に、前世の記憶を思い出したときに多く起こると。つまり、死なないために調査するのに、下手を打って死なれたら困るということか。
 綟と縲がこちらに顔を近づけながら、話を続ける。

「貴様の前世での死因は能力暴走だ」
「このままなら、今回も僕らがいなければ死ぬかもしれないね」
「今ならフィードバックをしてやれるが」
「聞いてくれるかな? アドバイス」

 まるでこちらの意思を尊重するかの物言いだが、実際には有無を言わせない圧倒的な容赦のなさがそこにあった。聞かなければ死ぬぞと。凪を選別するように、2体の目線は凪の沈黙を破る瞬間を待っている。
 凪は声を振り絞って何とか肯定の意を示した。

「⋯⋯無料でご助言いただけるのなら、お聞きします」

 凪の返答を聞いた縲と綟は、途端に上機嫌になった。そして、今後についての話を勝手に進め始めた。

「それじゃあ、話すついでに休息でもしようか」
「立ち話もなんだ、向こうの机にでも座るとしよう」
「ちょっと、両脇を抱えないでもらえます?」

 思いっきり、凪は縲と綟によって持ち上げられた。抵抗しようともがいたが、びくともしない。気分は捕まえられた宇宙人である。
 家主を無視して部屋の移動が決行されようとするが、桔梗はそれを一切咎めずに送り出す。

「いってら〜」
「止めてよ! 国際問題になりかねないでしょ、コレ!」

 凪は思わず叫んで止めてもらおうと、桔梗に助けを求めた。魔界と天界の頂点と一般人が3人でいるとか気まずい以外の何物でもない。そもそも初対面だぞ。
 しかし、桔梗は凪の意図とは逆に動き、凪に笑顔でグッドポーズを向けた。

「大丈夫だ。元息子、甥っ子の現在を知りたいだけのオジさんだから、問題起こしても死なねえよ」
「そういう問題じゃないってば!」

 虚しくも凪の願いは聞き入れられず、桔梗と別れて野郎だけのティータイムを過ごす羽目になった。

 後に綟は語った。凪が借りた猫みたいで面白かったので、意地悪で地上で未発見の鉱石を与えたところ、バイブレーション機能が搭載されたと。
一次創作大好きマンです
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