ハッピーバレンタイン!
公開 2025/02/14 23:51
最終更新
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お久しぶりです。
亡くなった祖母のことでバタついたり、転職活動したり、入院したり、手術したり、退院して自宅で転がっていたりで、あまりにバタついて先日ようやくインコンパラブルに辿り着いたriddeleです。
何はともあれバレンタイン(あと数分)ですね!
正直インコさんの衝撃がすごくて、色々と考えていたらちょっとシリアスっぽい風味のお話になってしまいましたが、折角書いたので投下しておきます。
まだまだ寒い日が続きますが、心地よい春が今年は少しでも長くありますように!
💎商 2部以降時空3部前
エトラ左右なし
植物を育てるのは、あまり得意ではなかった。
庭を作るのは専門職の庭師の仕事であるため、自身で庭の手入れをする必要はない。歴代の親戚たちの中には新種の植物を育てるのに心血を注いだような人物が何人もいるのを知っているが、己がその血を引いているとも思えない。スクールの課題で出された植物を育てて観察をする類のものでさえ、気付けば枯らせてしまう始末。
料理の腕はともかくも、植物を育てるのにも向いていないのだと自覚をしたのはいつの頃だったろう。
『植物の育て方の本を読み、土や肥料の勉強をし、水と光を注いで育てる』こと。
それは、そう難しいことではないように思われた。だというのに、枯れないように、今度こそ枯れないようにとたっぷり水を注ぎ、元気がないと思えば肥料をやり、太陽に当て、また暑さや寒さから避難させ——大切に大切に育てようとすればするほど、気付けばその鉢の葉は落ち、蕾は開かないまま朽ちて、知らぬ間に枯れていく。与えた水が足りなかったのか、それともたくさんやりすぎたのか。手をかける適切な量を量れないまま、次こそはと思ったものがこの手の中で壊れていく。
壊すために、種を蒔いたのではないのに。
「——リチャード?」
ふいに頭上から降ってきた声に、目が覚めた。気付けば夕暮れ時の最後の光が部屋をオレンジ色に染めている。いつの間にか寝てしまっていたのか、とソファーに横になっていたらしい上体を起こせば読みかけだった本が腹から滑り落ちた。それが床に崩れ落ちる前に「おっと」と軽い調子で受け止めた気配は、まだすぐ傍に。
「珍しいな、こんな時間にこんなところで寝てるの。疲れてたならベッド行った方がよかったんじゃないか?」
ほら、と差し出された本に礼を言って受け取ると、顔半分を部屋と同じオレンジに染めた顔が笑う。よく見ると、本を持っていない方の片手はその背後に回っているようだ。何かを持っているのだろうか——そう思ったのが顔に出ていたのかもしれない。
「あ、バレた。リチャード、ハッピーバレンタイン! 日頃の感謝と、お前に出会えた喜びを込めて」
「——」
半分だけ照らされた笑顔は、後ろに回していた手をひょいと前に差し出した。
小ぶりの植木鉢を、その手に乗せて。
「——ありがとうございます、正義。しかし、これは……チョコレートでできた花、なのでしょうか」
「そうなんだよ。あ、この器も本物の植木鉢ってわけじゃないぞ? 植木鉢を模してる食器! 土のとこはケーキだし茎も葉も花も全部チョコだから食べられる」
「作ったのは、あなたが?」
「そう。ただ溶けたら崩れそうだから、早めに食べるの推奨だ」
白い陶器の植木鉢、その中には明るい茶色の土があって、すらりと伸びた茎に長い葉がゆるやかなカーブを描いてそっと寄り添い、その上に乗っているのはほんのり開いた形のチョコレートでできたチューリップの花。
当然ながら、水やりも肥料も必要ない。
ただ己に食べられるのを待っている——そんな花が三本。
そっと両手の中に受け取って、艶めくその花が何色なのかを想像すると自然と笑みが零れた。
「本当に、あなたはパティシエでないのが不思議なほどですね。これほど食べることが惜しく感じるチョコレートは初めてです」
「いや、俺もやりだしたらなんだか凝っちゃってさ。チューリップ解体してまじまじと観察したのは初めてだよ。楽しんで食べてくれ」
「そうさせていただきます」
満足そうに笑う顔に、沈む前の夕陽の赤が重なる。
出会った頃、どのように育つか分からない種のようだった彼は、いつの間にか芽を出して、こちらが何を注いでも貪欲に吸収して根を、茎を伸ばして葉を茂らせた。膨らみかけた蕾は、けれどまだ何色の花を咲かせるかを見せようとしない。
この花だけは、枯らせたくない。
この花だけは、この手の中で咲かせたい。
水の代わりに言葉を、肥料の代わりに知識を、光の代わりに愛を、大切に大切に注いで。
「本当に、楽しみです。ありがとうございます、正義」
いつか花咲くその時を、今は密かに待ち焦がれている。
【枯れせぬ花に願うこと】
亡くなった祖母のことでバタついたり、転職活動したり、入院したり、手術したり、退院して自宅で転がっていたりで、あまりにバタついて先日ようやくインコンパラブルに辿り着いたriddeleです。
何はともあれバレンタイン(あと数分)ですね!
正直インコさんの衝撃がすごくて、色々と考えていたらちょっとシリアスっぽい風味のお話になってしまいましたが、折角書いたので投下しておきます。
まだまだ寒い日が続きますが、心地よい春が今年は少しでも長くありますように!
💎商 2部以降時空3部前
エトラ左右なし
植物を育てるのは、あまり得意ではなかった。
庭を作るのは専門職の庭師の仕事であるため、自身で庭の手入れをする必要はない。歴代の親戚たちの中には新種の植物を育てるのに心血を注いだような人物が何人もいるのを知っているが、己がその血を引いているとも思えない。スクールの課題で出された植物を育てて観察をする類のものでさえ、気付けば枯らせてしまう始末。
料理の腕はともかくも、植物を育てるのにも向いていないのだと自覚をしたのはいつの頃だったろう。
『植物の育て方の本を読み、土や肥料の勉強をし、水と光を注いで育てる』こと。
それは、そう難しいことではないように思われた。だというのに、枯れないように、今度こそ枯れないようにとたっぷり水を注ぎ、元気がないと思えば肥料をやり、太陽に当て、また暑さや寒さから避難させ——大切に大切に育てようとすればするほど、気付けばその鉢の葉は落ち、蕾は開かないまま朽ちて、知らぬ間に枯れていく。与えた水が足りなかったのか、それともたくさんやりすぎたのか。手をかける適切な量を量れないまま、次こそはと思ったものがこの手の中で壊れていく。
壊すために、種を蒔いたのではないのに。
「——リチャード?」
ふいに頭上から降ってきた声に、目が覚めた。気付けば夕暮れ時の最後の光が部屋をオレンジ色に染めている。いつの間にか寝てしまっていたのか、とソファーに横になっていたらしい上体を起こせば読みかけだった本が腹から滑り落ちた。それが床に崩れ落ちる前に「おっと」と軽い調子で受け止めた気配は、まだすぐ傍に。
「珍しいな、こんな時間にこんなところで寝てるの。疲れてたならベッド行った方がよかったんじゃないか?」
ほら、と差し出された本に礼を言って受け取ると、顔半分を部屋と同じオレンジに染めた顔が笑う。よく見ると、本を持っていない方の片手はその背後に回っているようだ。何かを持っているのだろうか——そう思ったのが顔に出ていたのかもしれない。
「あ、バレた。リチャード、ハッピーバレンタイン! 日頃の感謝と、お前に出会えた喜びを込めて」
「——」
半分だけ照らされた笑顔は、後ろに回していた手をひょいと前に差し出した。
小ぶりの植木鉢を、その手に乗せて。
「——ありがとうございます、正義。しかし、これは……チョコレートでできた花、なのでしょうか」
「そうなんだよ。あ、この器も本物の植木鉢ってわけじゃないぞ? 植木鉢を模してる食器! 土のとこはケーキだし茎も葉も花も全部チョコだから食べられる」
「作ったのは、あなたが?」
「そう。ただ溶けたら崩れそうだから、早めに食べるの推奨だ」
白い陶器の植木鉢、その中には明るい茶色の土があって、すらりと伸びた茎に長い葉がゆるやかなカーブを描いてそっと寄り添い、その上に乗っているのはほんのり開いた形のチョコレートでできたチューリップの花。
当然ながら、水やりも肥料も必要ない。
ただ己に食べられるのを待っている——そんな花が三本。
そっと両手の中に受け取って、艶めくその花が何色なのかを想像すると自然と笑みが零れた。
「本当に、あなたはパティシエでないのが不思議なほどですね。これほど食べることが惜しく感じるチョコレートは初めてです」
「いや、俺もやりだしたらなんだか凝っちゃってさ。チューリップ解体してまじまじと観察したのは初めてだよ。楽しんで食べてくれ」
「そうさせていただきます」
満足そうに笑う顔に、沈む前の夕陽の赤が重なる。
出会った頃、どのように育つか分からない種のようだった彼は、いつの間にか芽を出して、こちらが何を注いでも貪欲に吸収して根を、茎を伸ばして葉を茂らせた。膨らみかけた蕾は、けれどまだ何色の花を咲かせるかを見せようとしない。
この花だけは、枯らせたくない。
この花だけは、この手の中で咲かせたい。
水の代わりに言葉を、肥料の代わりに知識を、光の代わりに愛を、大切に大切に注いで。
「本当に、楽しみです。ありがとうございます、正義」
いつか花咲くその時を、今は密かに待ち焦がれている。
【枯れせぬ花に願うこと】
