酒と飯 その二
公開 2026/03/22 09:57
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著しい物価高のこの頃、安く、味よく、量多く、そのうえ品書きの構成もツボを押さえている(酒が濃いと、なお良し)ような店に出会うのは、なかなか難しい。

母校から少し歩いたところに一軒、全てを満たす店があった。握りこぶしよりも大きなつくねを出すので有名で、ハムエッグや山形のだし(茄子、きゅうり等を昆布と一緒に細かく叩いたもの)をかけた冷奴など、酒呑みの好みを良く理解したつまみを揃えていた。酒の濃さも抜群だった。
数年前に代替わりして、一度行ってみたが、品数も減り、酒も薄くなっていた。以来、足が遠ざかっているけれども、始動まもない試行錯誤の時期であったろうから、今は往時の輝きを取り戻しているかもしれぬ。

居酒屋の定番にもさまざまあるが、唐揚げやポテトフライは、大人数のときでなければつつかない。自分から頼むことは、基本的にない。ラガービールやハイボールを常飲する質であれば違っただろう。ウイスキーは身体にあわず、飲むとくしゃみが出る。目も痒くなる。他はいくらでも受けつけるので、アルコールアレルギーではないと思う。

身体が疲れた時は焼肉やステーキが食いたくなるが、日ごろはアッサリした風味を好む。それが酒肴の選択にも反映されていて、お新香、おひたしがメニューにあると嬉しい。芋の揚げたのでも、粘りの強い大和芋をすって、海苔を巻いた磯辺揚げが好物である。油ものなら、揚げ出汁豆腐、茄子とししとうの揚げびたし。魚介ならば刺し盛りは無論、鰹のタタキ、鮪と葱のぬた、子持ちシシャモ、ハマグリもしくはアサリの酒蒸し。生わかめにポン酢をかけたのもよい。居酒屋というより、大衆割烹か小料理屋にある品々である。すし屋でも良いかもしれぬ。近ごろ、すし屋で魚ではないネタを食う喜びを覚えた。涙巻きというのか、ワサビの茎の刻んだのを入れたものや、野沢菜の漬け物を巻いて胡麻をまぶしたのとか、納豆巻きや芽ネギなど、あっさりしていて、魚の脂に少し飽きた頃につまむと実に美味いし、酒肴としての適性もすこぶる高い。
問題は、お足のほうである。もとより、すし屋では万券一枚消えるものと覚悟して入ってゆくが、呑む楽しみも求めるとなると、もう一枚ばかし加わるような気がしている。大衆割烹も近所に二軒あって、大衆と名乗ってはいるけれど、やはり四文屋の一・五倍か二倍はかかる。気軽には行けない。千住の「大はし」、大塚の「江戸一」のような名店へ足を運んでみたい気持ちもあるが、小心者ゆえ躊躇している。世の小料理屋に対しても、同様である。自分はまだ若すぎるように思う。

いろいろ考えて、もう余程のときでなければ呑まぬほうが良いとの結論に至ったが、先日もバーミヤンで紹興酒を三杯呑んでしまった。マア一杯だけなら、と言ったのに、もう二杯多く呑んでいた。何の疑問も覚えなかった。
バーミヤンとサイゼリヤは、ファミリーレストランの皮を被った居酒屋である。休みなく、昼間から開いているし、安いし、早く出てくる。紹興酒がデキャンタで699円、ソーダだかで割った「バーミヤンハイボール」は249円と、驚異の価格である。ネギザーサイ、ビーフン、メンマの小皿も憎い。春巻きも餃子もある。ラーメンもある。青菜炒めなぞ加われば、さらに魅力が増すであろう。
サイゼリヤに置いてある、ランブルスコなる発泡ワインは、実に呑みやすい。ひとり一瓶は空けられる。ボトル千円の手軽さで、これにチョリソーやエスカルゴ、プロシュートやカプレーゼをあわせても三千円代で済むはずだ。食事も飽きのこない家庭的な味で、席のつくりもゆったりしているし、居酒屋のような騒がしさもなく、肩肘をはる必要もない。常宿的に使うには、もっとも適しているのではあるまいか。
日高屋も、たしかそら豆など置いてあって、ポテンシャルは高そうである(何せ、中華そばが税込420円の安さ)。チューハイの中身に焼酎ではなくウォッカが使われているので、緑茶割りとは相性が悪く、すこし歯磨き粉の味がするが、ビール党なら気にせずに済む。「ドラゴンハイボール」の名で、紹興酒のソーダ割りも売られている。私が知らないだけで、チェーン飲食店の皮を被った居酒屋は、まだまだ存在するのだろう。
安旨い店、渋い店、理想の酒場の探究は面白そうだが、当分は四文屋、バーミヤン、サイゼリヤの三本立てでやっていこうと思っている。高い店は止す。この前クラフトビアバーで7000円を溶かしたのが、かなり効いた。これまでで最も痛く感じた。「一杯だけ……」が守られた試しはないのだから、安い店で呑み食いせねばならぬ。昔とは違って、大飲大食の愉しみより健全な財政を維持する喜びがまさるようになった。とはいえ禁酒、断酒ではストイシズムの匂いがするから、「卒酒」という考えでいくつもりである。卒業しても、OB訪問はあり得るわけだ。
生活そのものが、生きるテーマです。
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