異(常世)界 第20話「輪廻のなかの原子(アトム)」
公開 2025/05/22 00:07
最終更新
2025/05/28 22:16
🐾
城から郊外へと向かう途中の山間部にある谷間にて。
「我はブラック・ドラゴン! よいか? “初見殺しの赤竜”など我の前では赤子も同然。氷竜、雷竜の繰り出す技も児戯にすぎん……」
「微笑ましい自己紹介だナ」
知性が知れる。黒竜といえば竜族のトップだろうに。
「貴様……。同族をなますにしたくらいでいい気になるなよ……?」
「記憶にない。貴公のアクセスするデータベースを疑え」
「なんという物言い、もはや超ゆるさん!」
一方的に宣戦布告され、勝手に開戦されてしまった。
「喰らえブラック・ブレス!」
ブオオオオ!!
甘んじて受け流した。これは炎属性であると同時に闇属性。だが属性対策は万全である。特に闇属性への対策は、人間であれば真っ先に取り組むべき課題。
「初歩の初歩だナー」
無感動につぶやく。
「完全無効化だと……!? それならば――」
「いい加減だまりやがれ、このブラック野郎!!」
反転攻勢を開始した。
ヒュンッ! 正常な知覚閾を超える速度で一足飛びにブラック・ドラゴンの眼前に迫る。
バシイッ! 右のフリッカージャブを顔面にヒットさせ、意識を奪った。
ズドオンッ! フリッカーの時点で捻っていた右腕を逆回転させ、ふたたび顔面にスクリューブローを叩き込む。
「ぬはぁっ…………」
ドーン…………巨体が地に落ちる。手加減はしたが、それでも六割がたHPを削っただろうか。
「無造作に拳をふるっただけでこの威力……。しかしなぜだ? なぜ武器を使わない……?」
「いいか、よく聞け」
前置きが必要だったので前置きをした。
「『武器は情動であり、情動は武器である』武器を使用することそれ自体に、素手での格闘法という学びが潜んでいるのだ」
ドゥルーズ=ガタリの『千のプラトー』からの引用。
「な、なんと…………我の負けだ…………」
そう言ってブラック・ドラゴンは純粋状態のカタトニーに陥った。
とどめをさしてもしょうがない。早々に立ち去るとしよう。
「おや? デスモンさんじゃないッスか、お久しぶりです」
キャンプ地を再訪すると、リーダーが出迎えてくれた。にしても――
「よう、リーダー。しかしこの変わりようはナンだ? 陽気ただよう貧民街だと……?」
「ああ、それはですね――――」
リーダーから受けた解説は以下。
貧民に身を扮した貴族がこのキャンプ地を訪れ、そして味わった非日常感が話題になったらしい。
皿に一品という高級料理に飽きた連中にとって、丼に山盛りのメシ、または簡素な雑煮、そういったものが新鮮であり、ときには美味と評されることも。
身なりに関しても、着飾るよりは貧民の格好の方がはるかに楽だという。
つまり貧民偽装のレジャー化が起こったのだ。
金を出してでも貧困を手に入れたい――一部の貴族などは盛り上がり過ぎて、おかしな方向へと走ったらしい。
馬鹿げたアレンジメントではあるが、シニフィアン、超コード化=脱貴族化という審級において、身分の転倒が収束し一致した……のか?
「デスモンさん、メシ、どうッスか?」
「そいつぁいい。“高級料理”をいただくとするか」
リーダーと共に夕食をとった。ただの雑煮とは思えない美味さだった。
「今夜はどうします? 専用のダンボール・ハウスは以前のままですよ」
「おお、忘れていた。一泊させてもらうぜ。そして明日からは旅に出る」
「またですか?」
リーダーの修辞的疑問。
「定住するように見えるか?」
「まさか。でもまあ、次に訪れるときは人類を粛清するついでってことになりそうッスね」
「そいつぁいいや」
ゴロゴロ……ゴロゴロ……。
ダンボールの上で意味もなく転がってみた。知能を適度に低下させつつ考え事……ソフトランディングするにはいい環境だ。
この世界に来てから色々あったな……。回想と感傷。
何を成し遂げたというわけでもない、むしろ肝心な場面では寝っ転がっていた。
元の世界には未練などない。ちらっと覗いてみたが、ドンパチに印パまで加わり、破滅へのカウントダウンが始まっていたしな。
不透明な先行きに不安を感じているのか……? いや、違う。
この後の選択は、人の輪――逆行運動による閉じた円環――から外れるものとなるだろう。
永遠に? それはわからない。
まあいい、自分らしくいこう。
逃げ出すように逃げ出したその先が見たい――ただそれだけのことなのだから――――
城から郊外へと向かう途中の山間部にある谷間にて。
「我はブラック・ドラゴン! よいか? “初見殺しの赤竜”など我の前では赤子も同然。氷竜、雷竜の繰り出す技も児戯にすぎん……」
「微笑ましい自己紹介だナ」
知性が知れる。黒竜といえば竜族のトップだろうに。
「貴様……。同族をなますにしたくらいでいい気になるなよ……?」
「記憶にない。貴公のアクセスするデータベースを疑え」
「なんという物言い、もはや超ゆるさん!」
一方的に宣戦布告され、勝手に開戦されてしまった。
「喰らえブラック・ブレス!」
ブオオオオ!!
甘んじて受け流した。これは炎属性であると同時に闇属性。だが属性対策は万全である。特に闇属性への対策は、人間であれば真っ先に取り組むべき課題。
「初歩の初歩だナー」
無感動につぶやく。
「完全無効化だと……!? それならば――」
「いい加減だまりやがれ、このブラック野郎!!」
反転攻勢を開始した。
ヒュンッ! 正常な知覚閾を超える速度で一足飛びにブラック・ドラゴンの眼前に迫る。
バシイッ! 右のフリッカージャブを顔面にヒットさせ、意識を奪った。
ズドオンッ! フリッカーの時点で捻っていた右腕を逆回転させ、ふたたび顔面にスクリューブローを叩き込む。
「ぬはぁっ…………」
ドーン…………巨体が地に落ちる。手加減はしたが、それでも六割がたHPを削っただろうか。
「無造作に拳をふるっただけでこの威力……。しかしなぜだ? なぜ武器を使わない……?」
「いいか、よく聞け」
前置きが必要だったので前置きをした。
「『武器は情動であり、情動は武器である』武器を使用することそれ自体に、素手での格闘法という学びが潜んでいるのだ」
ドゥルーズ=ガタリの『千のプラトー』からの引用。
「な、なんと…………我の負けだ…………」
そう言ってブラック・ドラゴンは純粋状態のカタトニーに陥った。
とどめをさしてもしょうがない。早々に立ち去るとしよう。
「おや? デスモンさんじゃないッスか、お久しぶりです」
キャンプ地を再訪すると、リーダーが出迎えてくれた。にしても――
「よう、リーダー。しかしこの変わりようはナンだ? 陽気ただよう貧民街だと……?」
「ああ、それはですね――――」
リーダーから受けた解説は以下。
貧民に身を扮した貴族がこのキャンプ地を訪れ、そして味わった非日常感が話題になったらしい。
皿に一品という高級料理に飽きた連中にとって、丼に山盛りのメシ、または簡素な雑煮、そういったものが新鮮であり、ときには美味と評されることも。
身なりに関しても、着飾るよりは貧民の格好の方がはるかに楽だという。
つまり貧民偽装のレジャー化が起こったのだ。
金を出してでも貧困を手に入れたい――一部の貴族などは盛り上がり過ぎて、おかしな方向へと走ったらしい。
馬鹿げたアレンジメントではあるが、シニフィアン、超コード化=脱貴族化という審級において、身分の転倒が収束し一致した……のか?
「デスモンさん、メシ、どうッスか?」
「そいつぁいい。“高級料理”をいただくとするか」
リーダーと共に夕食をとった。ただの雑煮とは思えない美味さだった。
「今夜はどうします? 専用のダンボール・ハウスは以前のままですよ」
「おお、忘れていた。一泊させてもらうぜ。そして明日からは旅に出る」
「またですか?」
リーダーの修辞的疑問。
「定住するように見えるか?」
「まさか。でもまあ、次に訪れるときは人類を粛清するついでってことになりそうッスね」
「そいつぁいいや」
ゴロゴロ……ゴロゴロ……。
ダンボールの上で意味もなく転がってみた。知能を適度に低下させつつ考え事……ソフトランディングするにはいい環境だ。
この世界に来てから色々あったな……。回想と感傷。
何を成し遂げたというわけでもない、むしろ肝心な場面では寝っ転がっていた。
元の世界には未練などない。ちらっと覗いてみたが、ドンパチに印パまで加わり、破滅へのカウントダウンが始まっていたしな。
不透明な先行きに不安を感じているのか……? いや、違う。
この後の選択は、人の輪――逆行運動による閉じた円環――から外れるものとなるだろう。
永遠に? それはわからない。
まあいい、自分らしくいこう。
逃げ出すように逃げ出したその先が見たい――ただそれだけのことなのだから――――
