CP三題噺『途中下車』『ネクタイ』『愛してると言った』
公開 2025/05/09 02:40
最終更新
2025/06/30 09:02
最近できたカレシと最初のデートの帰り道、さっきまでいた水族館が遠ざかる電車内で突然プロポーズされた。職場近くのカフェの店員さんに押し切られ付き合ってみたもののときめくものはなく、まぁこんなものかと思ったのが正直な感想。人付き合いの下手な私にこんなことを言ってくれる人なんて他にはいない。すごくありがたい話。でもすぐには頷けなくて、外に視線を移した。
窓ガラスに反射した背後に、こちらをじっと見ている男の人がいた。目が合う。視線は外されない。私も何故か外せない。見られた、と思った。バツが悪かった。知らない人なのに。嫌な汗が背中をつたう。その人の口が動いた。声は聞こえなくとも、何と言っているのかはわかった。そしてその指示に従った。
「……ごめんなさい」
「え?」
「さようなら」
駅に停車して開かれていたドアが閉まる前に外へ出た。発車メロディが流れる中、電車を振り向くと後ろにいた男性がカレの動きを遮りつつ降りた瞬間にドアが閉まった。ドアの向こうであっけに取られたまま運ばれていくさっきまでカレシだった人に頭を下げた。
降りた客たちはさっさと改札に向かい、ホームには私と男性だけが残された。
その男性はスーツのネクタイをゆるめながらゆっくり近付いてきた。
「よくやった」
「……何なんですか、あなたは」
その人は眉間に皺をよせ、歩みを止めた。
「何もわかってねぇのに断ったのか」
「あ、あなたには関係ない……! 別に、ただ、乗り気じゃなかっただけ」
その人がにやりと笑ったような気がした。ほとんど表情は変わらなかったけれど、何となくそう思った。
「まぁいい。ひとまずずらかるぞ、万が一あいつが戻ってきたら面倒だ」
その人は私の腕をつかんで改札口へと降りていく。
「待って……どこへ行くんですか」
「地下鉄に乗り換える。お前、今どこに住んでいる?」
「え……〇〇線の……」
「何だ、地下鉄のが早いじゃねぇか」
「それは……あの人が、予約している店があるとかで」
「あぁ、メシまだか。食いに行くぞ」
「はぁ!?」
「途中下車させた詫びにおごってやる」
「いりません、帰ります!」
「あいつはお前の家を知っているか?」
「家までは知りません、けれど最寄り駅は知ってます」
「直帰したら鉢合わせるかもしれねぇぞ。時間をずらさなくていいのか」
「それは……そうかもしれませんが……」
「地下鉄はやめだ、タクシーにする。来い」
「え、ちょっと……!」
その人は何でも勝手に決めて、私の腕をぐいぐい引っ張っていく。強引だけれど、何故か嫌じゃない。だからって初めて会った人についていくなんて……
「だいたいお前は男を見る目がねぇんだよ。あんな見るからに軽そうなヤツにほいほい引っかかりやがって」
「あなたに私の何がわかるって言うんですか!」
「お前のことなどお見通しだ、ミカサよ」
「えっ……どうして私の名前を」
目の前の男は私に振り向き、じっと目を見てきた。電車の中で見た時とはまた違う、少し辛そうな、寂しそうな表情。……どうして?
ふいと背中を見せて歩き出しながら彼は言葉を返してきた。もう腕は取られていなかったけれど後をついていった。
「……さっきあの男が言ってただろ」
「盗み聞きしてたんですか!? 最低!」
「目の前でおっ始めるヤツが悪いだろ、そもそもセンスねぇんだよ電車の中でプロポーズ? ブタのションベンよかくせぇ……」
「そ、れは……私も少し、思いましたけれど……」
「本当に見る目がねぇ」
しみじみ言われると、わかりきったことでも腹がたつ。
「では、あなたならどこでするんですか!?」
「俺か? 俺なら……そうだな、高い高い木の上で風に吹かれながらだな」
高層ビルをしのぐほどの大樹の上から平原を見渡すイメージが頭に流れ込んでくる。見たこともないのに、まざまざと。となりには誰かがいる気がする。
「……それ、落ちたら危ないですよ」
「俺が落とすわけねぇだろ」
何でもない風を装ったのにあっさりと否定された。彼の言葉は根拠のない自信、とは何故か思えなかった。この人なら絶対大丈夫という不思議な信頼感があった。
「そういえば、あなたの名前を聞いていない」
前を歩く彼が肩越しに振り返り、ほんの少し笑いながら言った。
「リヴァイだ」
終
窓ガラスに反射した背後に、こちらをじっと見ている男の人がいた。目が合う。視線は外されない。私も何故か外せない。見られた、と思った。バツが悪かった。知らない人なのに。嫌な汗が背中をつたう。その人の口が動いた。声は聞こえなくとも、何と言っているのかはわかった。そしてその指示に従った。
「……ごめんなさい」
「え?」
「さようなら」
駅に停車して開かれていたドアが閉まる前に外へ出た。発車メロディが流れる中、電車を振り向くと後ろにいた男性がカレの動きを遮りつつ降りた瞬間にドアが閉まった。ドアの向こうであっけに取られたまま運ばれていくさっきまでカレシだった人に頭を下げた。
降りた客たちはさっさと改札に向かい、ホームには私と男性だけが残された。
その男性はスーツのネクタイをゆるめながらゆっくり近付いてきた。
「よくやった」
「……何なんですか、あなたは」
その人は眉間に皺をよせ、歩みを止めた。
「何もわかってねぇのに断ったのか」
「あ、あなたには関係ない……! 別に、ただ、乗り気じゃなかっただけ」
その人がにやりと笑ったような気がした。ほとんど表情は変わらなかったけれど、何となくそう思った。
「まぁいい。ひとまずずらかるぞ、万が一あいつが戻ってきたら面倒だ」
その人は私の腕をつかんで改札口へと降りていく。
「待って……どこへ行くんですか」
「地下鉄に乗り換える。お前、今どこに住んでいる?」
「え……〇〇線の……」
「何だ、地下鉄のが早いじゃねぇか」
「それは……あの人が、予約している店があるとかで」
「あぁ、メシまだか。食いに行くぞ」
「はぁ!?」
「途中下車させた詫びにおごってやる」
「いりません、帰ります!」
「あいつはお前の家を知っているか?」
「家までは知りません、けれど最寄り駅は知ってます」
「直帰したら鉢合わせるかもしれねぇぞ。時間をずらさなくていいのか」
「それは……そうかもしれませんが……」
「地下鉄はやめだ、タクシーにする。来い」
「え、ちょっと……!」
その人は何でも勝手に決めて、私の腕をぐいぐい引っ張っていく。強引だけれど、何故か嫌じゃない。だからって初めて会った人についていくなんて……
「だいたいお前は男を見る目がねぇんだよ。あんな見るからに軽そうなヤツにほいほい引っかかりやがって」
「あなたに私の何がわかるって言うんですか!」
「お前のことなどお見通しだ、ミカサよ」
「えっ……どうして私の名前を」
目の前の男は私に振り向き、じっと目を見てきた。電車の中で見た時とはまた違う、少し辛そうな、寂しそうな表情。……どうして?
ふいと背中を見せて歩き出しながら彼は言葉を返してきた。もう腕は取られていなかったけれど後をついていった。
「……さっきあの男が言ってただろ」
「盗み聞きしてたんですか!? 最低!」
「目の前でおっ始めるヤツが悪いだろ、そもそもセンスねぇんだよ電車の中でプロポーズ? ブタのションベンよかくせぇ……」
「そ、れは……私も少し、思いましたけれど……」
「本当に見る目がねぇ」
しみじみ言われると、わかりきったことでも腹がたつ。
「では、あなたならどこでするんですか!?」
「俺か? 俺なら……そうだな、高い高い木の上で風に吹かれながらだな」
高層ビルをしのぐほどの大樹の上から平原を見渡すイメージが頭に流れ込んでくる。見たこともないのに、まざまざと。となりには誰かがいる気がする。
「……それ、落ちたら危ないですよ」
「俺が落とすわけねぇだろ」
何でもない風を装ったのにあっさりと否定された。彼の言葉は根拠のない自信、とは何故か思えなかった。この人なら絶対大丈夫という不思議な信頼感があった。
「そういえば、あなたの名前を聞いていない」
前を歩く彼が肩越しに振り返り、ほんの少し笑いながら言った。
「リヴァイだ」
終
