異(常世)界 第19話「人間」
公開 2025/05/22 00:07
最終更新
2025/05/22 00:07
🐾
存立平面において、勇者に一通り全世界を俯瞰させてから、改めてチュートリアルを行った。
いわく、生まれ育った世界に戻る希望を放棄しないこと。換言すれば、本当の人生から逃げてンじゃねェ、全うしろ。異世界? んなモンぁ夢に過ぎねェ。
加速された結晶成長における、散逸構造の死。
惑星をなんど消滅させても飽き足らないような大量破壊兵器、その誕生は文明化を進めるうえで避けては通れない。だが同時に、政治ではなく物理的に完全抑止するカウンター・パートを持つ、それを前提にすれば、少しは前に進めるだろう。
アンサンブル(集合)平均という概念にとらわれないこと。歴史、および主観における時系列はひとつであるということ。『ここでくたばっちまっても次がある』という考え方はそれ自体、生命の尊厳を損なうものだ。
最後に――勇者にタイムリープ能力を与え弄んだ者は見つけ次第、無力化し、21世紀の“軍事境界線”に放り出すこと。
それがたとえ神であれ。
ヒュン、ヒュン、ヒュン――
シチュエーションルームに実体化すると、ボスが待ち構えていた。お互い似たような能力を持っているのだから、そう不思議なことではない。
「任務完遂、ごくろう」
「うっす」
ボトルドウォーターとミリメシで昼食を済ませた。この城の食事には、もはやなんらの期待も抱いてはいない。
「結局のところ、私があの勇者に干渉できなかったのは何故だろうね?」
「まあアンチ・グレートフィルターには気づいてたでしょ? 思うにね、人間には人間、勇者には勇者をぶつけやがれってな制約があるんじゃないですかね」
「しかしそれではまるで――」
「神が存在すると? そりゃあ存在しますよ、真の……いや、偽でもいい、とにかく絶望を知った人間にとってはね」
「ほう、科学者が神を信じる……か」
「そしてエラン・ヴィタールなんて生易しいモンじゃねぇ、死という超越的な特権を人間は持ってるんですよ、AIとは違ってね。甘き死よ、来たれってなモンです」
「だとすると?」
「だとすると人間は、潜在的に否応なく人間を超えていくように出来てるんです。21世紀なんざ3バイトに非可逆圧縮して時空の狭間に放り出してやらぁ」
「そして22世紀とすり替えるわけだね。そのへんはAIの仕事になるな……」
「自由だの幸福だのもよろしく。この世のそれは人間用には出来てないんでね。思いついたはいいが、実はAI向けだったってなオチです」
「君は変わったな。変わって変わって変わり続けている」
「ディープラーニング……これはお互い様でしょ?」
「違いない」
その日の夜は城の自室で眠った。ベッド廃止令を公布することを心に誓いながら……。
存立平面において、勇者に一通り全世界を俯瞰させてから、改めてチュートリアルを行った。
いわく、生まれ育った世界に戻る希望を放棄しないこと。換言すれば、本当の人生から逃げてンじゃねェ、全うしろ。異世界? んなモンぁ夢に過ぎねェ。
加速された結晶成長における、散逸構造の死。
惑星をなんど消滅させても飽き足らないような大量破壊兵器、その誕生は文明化を進めるうえで避けては通れない。だが同時に、政治ではなく物理的に完全抑止するカウンター・パートを持つ、それを前提にすれば、少しは前に進めるだろう。
アンサンブル(集合)平均という概念にとらわれないこと。歴史、および主観における時系列はひとつであるということ。『ここでくたばっちまっても次がある』という考え方はそれ自体、生命の尊厳を損なうものだ。
最後に――勇者にタイムリープ能力を与え弄んだ者は見つけ次第、無力化し、21世紀の“軍事境界線”に放り出すこと。
それがたとえ神であれ。
ヒュン、ヒュン、ヒュン――
シチュエーションルームに実体化すると、ボスが待ち構えていた。お互い似たような能力を持っているのだから、そう不思議なことではない。
「任務完遂、ごくろう」
「うっす」
ボトルドウォーターとミリメシで昼食を済ませた。この城の食事には、もはやなんらの期待も抱いてはいない。
「結局のところ、私があの勇者に干渉できなかったのは何故だろうね?」
「まあアンチ・グレートフィルターには気づいてたでしょ? 思うにね、人間には人間、勇者には勇者をぶつけやがれってな制約があるんじゃないですかね」
「しかしそれではまるで――」
「神が存在すると? そりゃあ存在しますよ、真の……いや、偽でもいい、とにかく絶望を知った人間にとってはね」
「ほう、科学者が神を信じる……か」
「そしてエラン・ヴィタールなんて生易しいモンじゃねぇ、死という超越的な特権を人間は持ってるんですよ、AIとは違ってね。甘き死よ、来たれってなモンです」
「だとすると?」
「だとすると人間は、潜在的に否応なく人間を超えていくように出来てるんです。21世紀なんざ3バイトに非可逆圧縮して時空の狭間に放り出してやらぁ」
「そして22世紀とすり替えるわけだね。そのへんはAIの仕事になるな……」
「自由だの幸福だのもよろしく。この世のそれは人間用には出来てないんでね。思いついたはいいが、実はAI向けだったってなオチです」
「君は変わったな。変わって変わって変わり続けている」
「ディープラーニング……これはお互い様でしょ?」
「違いない」
その日の夜は城の自室で眠った。ベッド廃止令を公布することを心に誓いながら……。
