異(常世)界 第11話「外資系レフト」
公開 2025/05/22 00:05
最終更新
2025/05/22 00:05
🐾
ダンボールの香りには、人間を安心させる何かがある。
マットレスは安物だが、シーツは清潔、タオルケットは肌触りのよいコットン100%だ。
条件が整いすぎて、つい惰眠を貪ってしまった。
起床して広場へ行くと、朝食の炊き出しをしている善人ども、人生のままならなさを表現する芸術家たちの姿が目に入る。
……いかん、早朝特有のブレインフォグだ。
『人生のままならなさを表現する芸術家たち』だと……? 陰気なオーラを身にまとい、虚ろな目をしてうつむいているホームレスの方々。こちらが正解だ。
エキセントリックな方向へと思考が突っ走ったが、修正して理論理性を取り戻した。
「デスモンさん、ちわーっす!」
リーダーが挨拶してきたので、「おう、おはよう」と答えた。
定着は固着の前段階ではあるが、実態は似たようなものである。自称から始まったとはいえ、『デスモン』っておい……。まあいい。いつか“リネームカード”を行使してやる。
このキャンプに来て二週間、少なからず変化があった。
血の気の残っている者を集め、任侠ライトに育て上げようとしたところ、王都への不満を持つ者が多かったため、その逆、外資系レフトと化してしまった。
イデオロギーなど問題にならず、シミュラークルからは逃れられないのだ……。
だがこちらが行動を起こそうとした途端の出来事である。これを偶然の一致で片づけるほど落ちぶれてはいない。
外資系レフトへと注がれた資金の流れを、それとなく追っておくことにしよう。
ところで、『王都』などと乱暴に言い放ったが、王都は王都である。
王様のいない王都など考えられるか……? 側近に十二名の騎士がいるのは当然だろう……? そして城内のみならず、城下町にも兵士たちがいるのもまた当然。
のちにカントにこっぴどく叩かれることになったライプニッツも、その著書『モナトロジー』で『一における多の表出』だと、表象について述べていた。
ちなみにこの場合の『モナド』とは、関数型プログラミングにおける、計算の構造を抽象化し、副作用や状態を安全に管理するための設計パターンのことではなく、純粋関数型言語で重要な役割を果たしたりもしない。
「デスモンさん、早く王のタマぁとったりましょうや!」
貧民のひとりが瞳を濁らせて訴えてくる。
憤りと暴力、そこに中間地点、つまり思考を介在させることの出来ない者の末路。
栄養失調の脳ではろくなことが思い浮かばないということの証左。
ズガッ!! ズザザザザ…………。左のスマッシュで鎮圧した。なるほど、たしかに『話せばわかる』は『問答無用』の前には無力に等しい。歴史から学ぶべし。
「先走るンじゃねェ!」
一同を黙らせる。こうなった以上、自分の手を汚す必要があるな。
よいよ、たいぎぃのぅ…………。
ダンボールの香りには、人間を安心させる何かがある。
マットレスは安物だが、シーツは清潔、タオルケットは肌触りのよいコットン100%だ。
条件が整いすぎて、つい惰眠を貪ってしまった。
起床して広場へ行くと、朝食の炊き出しをしている善人ども、人生のままならなさを表現する芸術家たちの姿が目に入る。
……いかん、早朝特有のブレインフォグだ。
『人生のままならなさを表現する芸術家たち』だと……? 陰気なオーラを身にまとい、虚ろな目をしてうつむいているホームレスの方々。こちらが正解だ。
エキセントリックな方向へと思考が突っ走ったが、修正して理論理性を取り戻した。
「デスモンさん、ちわーっす!」
リーダーが挨拶してきたので、「おう、おはよう」と答えた。
定着は固着の前段階ではあるが、実態は似たようなものである。自称から始まったとはいえ、『デスモン』っておい……。まあいい。いつか“リネームカード”を行使してやる。
このキャンプに来て二週間、少なからず変化があった。
血の気の残っている者を集め、任侠ライトに育て上げようとしたところ、王都への不満を持つ者が多かったため、その逆、外資系レフトと化してしまった。
イデオロギーなど問題にならず、シミュラークルからは逃れられないのだ……。
だがこちらが行動を起こそうとした途端の出来事である。これを偶然の一致で片づけるほど落ちぶれてはいない。
外資系レフトへと注がれた資金の流れを、それとなく追っておくことにしよう。
ところで、『王都』などと乱暴に言い放ったが、王都は王都である。
王様のいない王都など考えられるか……? 側近に十二名の騎士がいるのは当然だろう……? そして城内のみならず、城下町にも兵士たちがいるのもまた当然。
のちにカントにこっぴどく叩かれることになったライプニッツも、その著書『モナトロジー』で『一における多の表出』だと、表象について述べていた。
ちなみにこの場合の『モナド』とは、関数型プログラミングにおける、計算の構造を抽象化し、副作用や状態を安全に管理するための設計パターンのことではなく、純粋関数型言語で重要な役割を果たしたりもしない。
「デスモンさん、早く王のタマぁとったりましょうや!」
貧民のひとりが瞳を濁らせて訴えてくる。
憤りと暴力、そこに中間地点、つまり思考を介在させることの出来ない者の末路。
栄養失調の脳ではろくなことが思い浮かばないということの証左。
ズガッ!! ズザザザザ…………。左のスマッシュで鎮圧した。なるほど、たしかに『話せばわかる』は『問答無用』の前には無力に等しい。歴史から学ぶべし。
「先走るンじゃねェ!」
一同を黙らせる。こうなった以上、自分の手を汚す必要があるな。
よいよ、たいぎぃのぅ…………。
