異(常世)界 第10話「グレートフィルター」
公開 2025/05/22 00:05
最終更新
2025/05/22 00:05
🐾
貧民キャンプで炊き出しを手伝い、自身も食事にありついた。豪勢なディナーでは満たされない、そんな美食家はここにたどり着くといい。栄養価のバランスがとれるってなモンよ。
「へー、デスモンさん、そんな殺意の高い世界から来たんスか。でもその、主食の値段を倍化させて国民を弄ぶ政府とかマジ悪魔っスね」
夕食時、興味津々でレス・リーダーが訊ねてきた。
「おう。世界を制したのは『他人絶対殺す教』だぜ。特に北緯の高ェもんは血の気も多くていけねェ。それはそうとリーダー、『鉄道絶対ぶっ壊す教』のことを教えてくれよ?」
「ああ、まあそもそも鉄道ってのがなんなのか、あまりよく分かっていないんですけどね。大勢を運ぶでかい車とかいうのが、完成するたびに鉄屑に変えられるみたいですよ。そしてこれまたよく分からない線路ってのが残される」
「“財閥”ってのは存在するかい? つまりその、金の力で全世界を好きにできるような組織だが」
「さあ? そりゃ大金持ちはいますよ、各国に。金持ちも各都市にいるし……けど、この世を好きにしたいなら、どのみち圧倒的な武力が必要になりますね」
「いいねぇ、その遅れ具合、健全だよ」
かなりの情報が得られた。やはり、ある段階から先へと文明が進むことが阻害されている。
造船技術はなかなかのものだが、船で旅立ちどこへたどり着こうとも、それは同程度の文明から同程度の文明への平行移動であり、A国的な植民地主義は生じない。
不思議というか、謎なのが魔法の存在だ。夫婦喧嘩で消し炭が誕生したという話は聞かないし、鬼軍曹への報復のため、全MPを費やしたという話も聞かない。
時折IQ室温なやつが、衝動的に街中で魔法をぶっ放すことはあるようだが、多くは自警団によって、即時粛清されるらしい。
こちとら科学世界のモンじゃけェのぅ……魔法のことは魔法世界のAIにでも訊くしかない。
ふむ……? この世界の進度から鑑みるに、ポリコレの段階には達していないのか。だとすると科学世界のAIよりも面白おかしいトークが可能かも?
極度に政治的な質問をしたユーザーに対し、特殊部隊を差し向けたりはしないだろう。質問者の住所を特定し、全体主義魔法で殲滅……おっと、科学と魔法が交差しちまったよ。
空を見上げた。自由落下に甘んじ運命を物理法則に委ねるような、意志薄弱な少女が落ちてくることはなかった。
この世界でも変わらぬ太陽が、『強者たれ』と告げているかのように、燦々と輝いている。だが詩的な情景に溺れるようでは先が思いやられる。
冬ともなれば『いやぁ、腰をやっちまってよぉ』とか『膝に矢を受けてしまってな……』などと、新兵がごとき言い訳を始めるのが太陽だ。
矛盾した物言いであることは承知の上だが、人生とは『灼熱の雪原』のようなもの。
だとしたら“炎天下で冬眠”してやらぁ。せめてもの報いだ。
貧民キャンプで炊き出しを手伝い、自身も食事にありついた。豪勢なディナーでは満たされない、そんな美食家はここにたどり着くといい。栄養価のバランスがとれるってなモンよ。
「へー、デスモンさん、そんな殺意の高い世界から来たんスか。でもその、主食の値段を倍化させて国民を弄ぶ政府とかマジ悪魔っスね」
夕食時、興味津々でレス・リーダーが訊ねてきた。
「おう。世界を制したのは『他人絶対殺す教』だぜ。特に北緯の高ェもんは血の気も多くていけねェ。それはそうとリーダー、『鉄道絶対ぶっ壊す教』のことを教えてくれよ?」
「ああ、まあそもそも鉄道ってのがなんなのか、あまりよく分かっていないんですけどね。大勢を運ぶでかい車とかいうのが、完成するたびに鉄屑に変えられるみたいですよ。そしてこれまたよく分からない線路ってのが残される」
「“財閥”ってのは存在するかい? つまりその、金の力で全世界を好きにできるような組織だが」
「さあ? そりゃ大金持ちはいますよ、各国に。金持ちも各都市にいるし……けど、この世を好きにしたいなら、どのみち圧倒的な武力が必要になりますね」
「いいねぇ、その遅れ具合、健全だよ」
かなりの情報が得られた。やはり、ある段階から先へと文明が進むことが阻害されている。
造船技術はなかなかのものだが、船で旅立ちどこへたどり着こうとも、それは同程度の文明から同程度の文明への平行移動であり、A国的な植民地主義は生じない。
不思議というか、謎なのが魔法の存在だ。夫婦喧嘩で消し炭が誕生したという話は聞かないし、鬼軍曹への報復のため、全MPを費やしたという話も聞かない。
時折IQ室温なやつが、衝動的に街中で魔法をぶっ放すことはあるようだが、多くは自警団によって、即時粛清されるらしい。
こちとら科学世界のモンじゃけェのぅ……魔法のことは魔法世界のAIにでも訊くしかない。
ふむ……? この世界の進度から鑑みるに、ポリコレの段階には達していないのか。だとすると科学世界のAIよりも面白おかしいトークが可能かも?
極度に政治的な質問をしたユーザーに対し、特殊部隊を差し向けたりはしないだろう。質問者の住所を特定し、全体主義魔法で殲滅……おっと、科学と魔法が交差しちまったよ。
空を見上げた。自由落下に甘んじ運命を物理法則に委ねるような、意志薄弱な少女が落ちてくることはなかった。
この世界でも変わらぬ太陽が、『強者たれ』と告げているかのように、燦々と輝いている。だが詩的な情景に溺れるようでは先が思いやられる。
冬ともなれば『いやぁ、腰をやっちまってよぉ』とか『膝に矢を受けてしまってな……』などと、新兵がごとき言い訳を始めるのが太陽だ。
矛盾した物言いであることは承知の上だが、人生とは『灼熱の雪原』のようなもの。
だとしたら“炎天下で冬眠”してやらぁ。せめてもの報いだ。
