異(常世)界 第1話「〈生まれ故郷〉は宇宙の扉に達する」
公開 2025/05/22 00:02
最終更新
2025/05/22 00:10
🐾
SDRとは『サーヴェイランス・ディテクション・ラン』の略であり、監視探知ルートのことである。いきなりどうした、頭大丈夫かと言われればそれまでだが、マインドのアプリオリはコレクト。
ここ数年は夢遊病者のように歩き回ることで追手――スパイども――をかく乱し、アパートへ帰ることを余儀なくされてきた。
いや? 普通は拠点であるアパートに張り込みをかまさないか……? “公然拠点”と勘違いしてやがるのか……? 自室のアパートから“革命”を狙ってどうするんだ……?
修辞的疑問に陥っている場合ではない。
あれはMITの修士課程に進んだ頃だろうか。
ようするに尾行に気付いたのだ。
地図の下側――メキシコ――まで蹴り飛ばしてやりたかったが、日本とはお馴染みの国々の工作員であった場合、「面白れェ、血祭りじゃあ!」などと軽佻な感覚で報復されるのは確定である。こちとら遊びで生きてるンじゃねェ。
ミサイルをすっ飛ばす――いわゆる『ミサイル外交』だが、『遺憾の意』で済ますわけにはいかないし、ハーグ行動規範(HCOC)で穏便に済ますわけにもいかない。
『STOP! 死の宅急便』だと……? そんな詩的なもんじゃねェと指摘してやりたい。『自制が大切』とか抜かすが、ぶっ放された側が“自制”してどうする?
しかし、せいぜい先方に『お静かに願います』くらいのことしか言えんのだろうな。焦土と化してから初めて理解が訪れるのだ。負け犬根性など犬に食わしとけ!
話を進めよう。博士課程に進み、卒業も視野に入ってきた。いわゆる卒論では無難に太陽光発電をテーマとし、発電量が天候に左右されるというデメリット、太陽光パネルのリサイクル技術の確立には、まだまだ時間がかかるであろうという問題点を浮き彫りにした。
殺れるモンなら殺ってみぃの根性で、共和国の方々のアプローチを切り抜ける。何もNSCだかNSAだかに入局するわけではない。民間企業への就職も決まっている。だがいかんせん、真の研究内容がつまりその……アレな!
卒業の日を迎えた。博士学位記授与式と呼んでもいいが、まあ単なる卒業式である。『コイツは賢い』と書かれた一枚の紙――卒業証書――を受け取るだけなので、あえて感慨にふけることもあるまい。
悪夢はなんの前触れもなく……ん? この追跡者だらけの状況下で前触れがなかっただと……? 『コイツは賢い』どころではない、自己矛盾から脱却せねば。
それにしても、卒業式の会場を白昼堂々と襲撃するなどと! ドドドドド!! 道路工事ではなく射撃音である。しかし、銃撃音に比肩する道路工事の音は、もはやそれ自体が犯罪ではないのか?
いかん、法的判断を下している場合ではない。社会秩序の維持や紛争解決などといったところで所詮は後手、殺られてから殺り返せばいいという考えはいかがなものか?
9mmパラベラム弾くらいならかすり傷で済むような漫画の世界ではない。もっと人命を尊重したまえ。
「ヒャッハー!」
まるでその一言のためだけに生きてきたかのような悪党が、高らかに雄叫びを上げる。まあ出番はここしかないからな。
「昂っているところ申し訳ないのだがね、この変態野郎。軍事活動は祖国でやりたまえ、英雄になれるぞ」
遮蔽物のようなものに身を隠し、建設的なアドバイスをしてみた。
「変態だって!? 違うね博士(ドク)、俺らは変態以下だ!」
遮蔽物のようなものから向こうの様子をうかがうと、カールグスタフ (無反動砲)が見えた。どうみても見えてはいけないものだった。
覚悟が必要であり、必要なのは覚悟である。ふと生まれ故郷を思い出し、「あかなくに、雁の常世を立ち別れ、花の都に道や惑はむ」と暗唱してみた。須磨――源氏物語。
あとで知ったことだが、先の一節は“かくりよ”への直行を妨げる効果を発揮するらしい。と同時に、いっそ死んじまった方が楽だったんじゃねーのかなクラスの使命を負わされることになる。
――爆ぜた――
大地。
スズメの歌声。一羽、二羽、三話……おいおい、大合唱じゃないか。それにしてもなんたる美声。『野生のミニー・リパートン』と呼んでやろう。
聴衆の木々は心なしか嬉しそうだ。大地に根差していなければ、すぐにでもダンスを始めていただろう。
ああ、そして――草原。“リノリウムの床”=“クソ文明社会”から“脱領土化”したのだと瞬時に理解する。事ここに至っては、襲撃犯がどうなったかなど些事、いや些事以下だ。
「ようこそ博士(ドク)、“民間企業”へ」
ひとりの若い男が、ゆっくりと歩いて近づいてきてからそう言った。誰何したところでどうにもなるまいよ。そもそも尋常ではない事態。
「民間企業というか、そもそも此処は“異世界”ってヤツじゃないんスかね?」
「端的すぎんかね君ィ!? もっとこう、“解き放たれた喜び”をだね……この形式の破壊者め!」
「はあ、すんません」
こうして異世界での生活は、ひどく散文化したところから始まった。
あちらもこちらも同じこと。意識あるところに世界あり、だ。
SDRとは『サーヴェイランス・ディテクション・ラン』の略であり、監視探知ルートのことである。いきなりどうした、頭大丈夫かと言われればそれまでだが、マインドのアプリオリはコレクト。
ここ数年は夢遊病者のように歩き回ることで追手――スパイども――をかく乱し、アパートへ帰ることを余儀なくされてきた。
いや? 普通は拠点であるアパートに張り込みをかまさないか……? “公然拠点”と勘違いしてやがるのか……? 自室のアパートから“革命”を狙ってどうするんだ……?
修辞的疑問に陥っている場合ではない。
あれはMITの修士課程に進んだ頃だろうか。
ようするに尾行に気付いたのだ。
地図の下側――メキシコ――まで蹴り飛ばしてやりたかったが、日本とはお馴染みの国々の工作員であった場合、「面白れェ、血祭りじゃあ!」などと軽佻な感覚で報復されるのは確定である。こちとら遊びで生きてるンじゃねェ。
ミサイルをすっ飛ばす――いわゆる『ミサイル外交』だが、『遺憾の意』で済ますわけにはいかないし、ハーグ行動規範(HCOC)で穏便に済ますわけにもいかない。
『STOP! 死の宅急便』だと……? そんな詩的なもんじゃねェと指摘してやりたい。『自制が大切』とか抜かすが、ぶっ放された側が“自制”してどうする?
しかし、せいぜい先方に『お静かに願います』くらいのことしか言えんのだろうな。焦土と化してから初めて理解が訪れるのだ。負け犬根性など犬に食わしとけ!
話を進めよう。博士課程に進み、卒業も視野に入ってきた。いわゆる卒論では無難に太陽光発電をテーマとし、発電量が天候に左右されるというデメリット、太陽光パネルのリサイクル技術の確立には、まだまだ時間がかかるであろうという問題点を浮き彫りにした。
殺れるモンなら殺ってみぃの根性で、共和国の方々のアプローチを切り抜ける。何もNSCだかNSAだかに入局するわけではない。民間企業への就職も決まっている。だがいかんせん、真の研究内容がつまりその……アレな!
卒業の日を迎えた。博士学位記授与式と呼んでもいいが、まあ単なる卒業式である。『コイツは賢い』と書かれた一枚の紙――卒業証書――を受け取るだけなので、あえて感慨にふけることもあるまい。
悪夢はなんの前触れもなく……ん? この追跡者だらけの状況下で前触れがなかっただと……? 『コイツは賢い』どころではない、自己矛盾から脱却せねば。
それにしても、卒業式の会場を白昼堂々と襲撃するなどと! ドドドドド!! 道路工事ではなく射撃音である。しかし、銃撃音に比肩する道路工事の音は、もはやそれ自体が犯罪ではないのか?
いかん、法的判断を下している場合ではない。社会秩序の維持や紛争解決などといったところで所詮は後手、殺られてから殺り返せばいいという考えはいかがなものか?
9mmパラベラム弾くらいならかすり傷で済むような漫画の世界ではない。もっと人命を尊重したまえ。
「ヒャッハー!」
まるでその一言のためだけに生きてきたかのような悪党が、高らかに雄叫びを上げる。まあ出番はここしかないからな。
「昂っているところ申し訳ないのだがね、この変態野郎。軍事活動は祖国でやりたまえ、英雄になれるぞ」
遮蔽物のようなものに身を隠し、建設的なアドバイスをしてみた。
「変態だって!? 違うね博士(ドク)、俺らは変態以下だ!」
遮蔽物のようなものから向こうの様子をうかがうと、カールグスタフ (無反動砲)が見えた。どうみても見えてはいけないものだった。
覚悟が必要であり、必要なのは覚悟である。ふと生まれ故郷を思い出し、「あかなくに、雁の常世を立ち別れ、花の都に道や惑はむ」と暗唱してみた。須磨――源氏物語。
あとで知ったことだが、先の一節は“かくりよ”への直行を妨げる効果を発揮するらしい。と同時に、いっそ死んじまった方が楽だったんじゃねーのかなクラスの使命を負わされることになる。
――爆ぜた――
大地。
スズメの歌声。一羽、二羽、三話……おいおい、大合唱じゃないか。それにしてもなんたる美声。『野生のミニー・リパートン』と呼んでやろう。
聴衆の木々は心なしか嬉しそうだ。大地に根差していなければ、すぐにでもダンスを始めていただろう。
ああ、そして――草原。“リノリウムの床”=“クソ文明社会”から“脱領土化”したのだと瞬時に理解する。事ここに至っては、襲撃犯がどうなったかなど些事、いや些事以下だ。
「ようこそ博士(ドク)、“民間企業”へ」
ひとりの若い男が、ゆっくりと歩いて近づいてきてからそう言った。誰何したところでどうにもなるまいよ。そもそも尋常ではない事態。
「民間企業というか、そもそも此処は“異世界”ってヤツじゃないんスかね?」
「端的すぎんかね君ィ!? もっとこう、“解き放たれた喜び”をだね……この形式の破壊者め!」
「はあ、すんません」
こうして異世界での生活は、ひどく散文化したところから始まった。
あちらもこちらも同じこと。意識あるところに世界あり、だ。
