最終処分セール(クオリティ・オブ・ライフ)
公開 2025/05/17 00:50
最終更新 -
🐾

 俺の名前は「神開真実(じんかいまこと)」……え、マジ……?
 クソッ、なんて名前だ、呪われてやがる……!
 こんな名前をつけるのは、pvゼロ常連者かうちの親くらいのものだ。

 これでもごみ収集作業員をやっているんだぜ。いつだって危険な香りを放っている。しかしモテない。恋人はゴミ。青い作業着は誇り。

 本日は四月十一日、金曜日。可燃ごみの日だ。
 ゴミ収集車を運転して現場へと向かう。アクセルペダルを底の底まで踏み込んでも、なおも前へ進まないこの感覚がたまらなく好きだ。
 隣には血の気の多い上司が同乗している。娘の給食費を横領してギャンブルに費やした罪により、その娘と妻に逃げられてしまったため、常に情緒不安定なので取り扱い注意だ。

 作業開始。

「おいおい、もったいねーな、まだ着れるじゃねーかよ」
 そう言って上司は、大きく膨らんだゴミ袋を一瞥してから、収集車へと放り込んだ。ちらっと見えたが、あれは衣類だなと判断した。
「春ですからね、冬用の衣類は用済みってことですよ」
「だ、誰が用済みだと……!? 口を慎めよ、小僧……!」
 勝手に怒りゲージを溜める上司を横目に、作業に勤しむ。衣類が詰め込まれたゴミ袋は計三つ、どれも同一犯によるものだろう。
 統一感があった。セーター・ニット類。
 違和感があった。どうにも新品が混ざっていたようだが……商品のタグが見えたしな。しかし、仕事上よくあることだと割り切る。

 俺は甘かった。見え隠れする狂気を“違和感”だと切り捨てるとは、なんたる不覚。

 四月十五日、火曜日。週明け最初の可燃ごみの日がやってきた。
「今度ぁずいぶんとまぁ大物じゃねーか、おい」
 上司が呆れるのも無理はない。スニーカー……しかも大量の。いや、それだけならまだしも、そのすべてが箱に収納されていたのだ。
「なんかの儀式なんスかね? この思い切りのよさは、呪いのアイテムに対するそれとそっくりだ」
「寝ぼけてねーで回収!」と上司。
「うっす」
 解呪すれば消滅してくれるわけでもない、これが現実だ。しかし気味が悪いな……春なのに悪寒が止まらない。
 俺たちごみ収集作業員をなんだと思っている……? しょせんゴミ屋だからと嘲笑っているのか……? こんなにも欠かせない仕事、他にはないぜ。

 俺はまだまだ甘かった、大甘だった。

 四月十八日、再び金曜日。可燃ごみの日。そしていつもの集積所。
「ぬおっ!? こ、こいつは…………?」
 上司はいちど青ざめ、それから紅潮した。危険な信号だ。
「どしたんスか――ってうわあっ!?」
 俺もまた青ざめた。集積所の中で、半透明のゴミ袋に囲まれて体育座りをしている不心得者がいた。俺の十年以上にも及ぶキャリアの中でも初の光景だった。

「クソッ、俺の仕事場に“死体遺棄”しやがって、チクショウ! 上等だぁ、どこのどいつだか知らねーが、“刑法第190条”を甘くみやがって、とことんやってやんよぉ!?」
 上司が声を震わせてなにかと戦い始めた。おそらく自身の横領罪(刑法第252条)、および賭博罪(刑法第185条)がフラッシュバックしているのだろう。
「待ってくださいよ先輩」とたしなめる。ぶん殴って再起動しようかとも思った。
 よく見るまでもなく、その人物――青年は生きている、新品同様の、白のスウェットに身を包んで。
 虚空を見つめる瞳には、認知の歪みが認められた……私感だが真実に近いだろう。

「あのー、質問いいッスかね? ここは秘密基地でもなければ月周回有人拠点でもないんスよ?」
「…………」
 青年の意識は月にあって、この地球上には存在しないらしい。由々しき事態だ。

 ニット、スニーカーときて、たぶん本人。直感的な連続性とは異なる概念がここに。扉を開いてゴミを捨て、また扉を閉める。集合するゴミたち……なるほど。位相空間における開集合と閉集合、それをこの集積所だと仮定しよう。
 コンパクト性、つまり位相空間が“閉じ込められている”かどうかが問題だ。
 メビウスの帯を思い浮かべる。
 キュピーン!
 閃いた。

「分かりましたよ、先輩」
 なおも戦慄している上司にそう告げた。
「お、おう……。やっぱ五月病の先月版か……?」
「ふざけている場合ではない!」たしなめる、やれやれ。
「この人はね――――」
 集積所の中の青年を指さして、俺は断言した。

「ミニマリストだ」
ちわっす
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