ニッケル⑳
公開 2025/05/06 00:02
最終更新
2025/05/06 00:02
🐾
そして日曜日。
寝起き特有のブレインフォグのままPCに向かう。
エボ3……北関東……K3……N……『North』の『N』などと奇妙なワードで検索をした。
はっと思い忘れていたことを思い出した、自分でも何を表現しているのか分からないが、これを『ブレインフォグ式表現法』と呼ぶ。
『低い値の計算』、これは『引く一(マイナス1)のK3』ということにならないだろうか? すると意味が転じて『K2』……直感だが、もはやその直感を信じるしかない。
『クリプトス K2』でネット検索をし、その解読文を表示させる。
「なんてこった……マジか…………」
北緯と西経が詳細に記されていた。だが西経はこのさい無視してもかまわない。問題は北緯だ。
三十八度――ずいぶんときな臭い。
考えが行き詰ったので、昼食としてペペロンチーノを作って食べた。辛さこそ正義、辛さこそ人生。
『低い値の計算』とはなんだったのか。最初からダイレクトに『K2』に導かなかった理由を考えねばならない。もちろん回りくどいからこその暗号なのだが……。
待てよ……俺は『K3』を考えたときに何をした……? そう、『N』にフォーカスした。すると『N』は北緯だけでなく別の意味を持ってくる。
PCから離れ、冷蔵庫からボトルドウォーターを取り出しノドを潤した。
椅子に腰かけ机の上を見ると、ノートPCの横にあった例の手紙が目に入る。どうにも無造作に放置していたらしい。
『Your life』……ふむ、改めて見てもよく分からん。
クリプトスの全文をPCに表示させ、ゆるいヒップ・ホップをBGMにぼーっと眺めてみる。
しかしK4には『E』が極端に少ないな、たった二つだけだ。そもそもK2やK3と比較して、全体としての文字数が少ない。
画面のスクロールに終始する。このままでは埒が明かないな。
『OBKR
UOXOGHULBSOLIFBBWFLRVQQPRNGKSSO
TWTQSJQSSEKZZWATJKLUDIAWINFBNYP
VTTMZFPKWGDKZXTJCDIGKUHUAUEKCAR』
これがK4の全文だ。いい加減にしろと言いたい。
「ユアライフ、ユアライフ…………」
召喚術に失敗した。人生なんてこんなもんだなと諦めかけた瞬間、『LIF』が目に留まった。だが『E』が足りない。
次の『E』にたどり着くまでの間に、挟まるようにして存在した文字列は『BBWFLRVQQPRNGKSSOTWTQSJQSS』だった。アナグラムを用いて意味のある文に変えるのは困難どころか不可能のように思われる。
何か糸口は――と思っていたところ、視覚的判断が行われた。先頭の『BB』と末尾の『SS』は、さすがに見過ごせない。
しかし、だ。『BBSS』でググったところでそれが無意味だと思い知らされる。やはりウィキペディアのページがヒットするのが好ましい。
次に、同じ文字が連続している部分に注目した。さっそく『BQSS』でググる。
ダメだった……視覚認知能力がこの件となんの関係がある……?
さすがに手詰まりかと思ったが、『低い値の計算』=『引く一(マイナス1)のK3』のことを思い出した。『BQSS』ではいかにもひとつの『S』が不要のように思える。
「よし、それなら――」すぐに『BQS』でググった。ウィキペディアのページがヒット! どうやら本命にたどり着いたようだ。
『BQS』といえばパキスタンのバスティ・クトゥブ駅、ロシアのイグナチェヴォ空港。うーむ、どちらも北緯三十八度という条件には当てはまらない。
そして大学に休学届を提出してまで訪れるような場所でもないし、ましてや命がけで訪れるような場所でもない。
『バス待合所』――『BQS』が意味するものの中でもありふれていて、かえって浮いている。
ここに『N』は北緯だけでなく別の意味を持っているという考えを当てはめてみるか……?
『日本 北緯三十八度』でググる。すぐに新潟県の佐渡島がヒットした。これだと思った。新潟県=N県ということなのだろう。佐渡島というのも象徴的だ。
情報を統合する。K3における『N』を考えていたときに思いついた日付けは四月二十二日。場所は佐渡島にあるバス待合所(停留所)。
これで日時と場所が判明したと思いたいが、明らかに間違いだと理性が告げている。そもそも日時に関しては、一度は却下した案だ、正しいはずがない。
そういえば『This Sapporo is painted』が未解読だったな。直訳すると『この札幌が描かれている』となるだろう。『札幌』を地名として考えるほど愚かではない。
さんざんググって疲れ果て、昨夜おこなわれたプレミアリーグの試合のダイジェストを、つべで視聴することにした。スポーツは良い。
「おのれ赤ユニ野郎ども……」
もはや優勝は目前だ。それにひきかえ応援している青ユニのチームときたら。
動画のなかでフォワードの選手がプレミアムなシュートミスを披露し、英語の実況も思わず「Disappointed!」と絶叫した。気持ちは分かる。
「ん……? Disappointedというと……」
サッカーの英語の実況では頻発の単語なのだが、その響きがまるでそう――『This Sapporo is painted』と同じに聞こえた。
意味としては『がっかりした』だが、それだけではない。たしか『失意』という意味もあったはずだ。
「失意……しつい……421……あっ!?」
四月二十一日。これこそが本当の日付けじゃないのか……?
元気を取り戻し、次は佐渡島における路線バスの停留所名を調べ始める。もちろん未解読のままの『Your』を念頭に入れて。
すべての停留所名に目を通したが、俺の苗字や名前と一致するところはなかった。事務三本、そりゃないぜ……。
失意の俺は路線の名前に目をさまよわせている。どれもこれも……と思っていたところで、『東海岸線』に目が留まった。
東海岸といえばバージニア州がそうだ。念のためググったが、やはり間違いはない。となると……?
東海岸線のなかの停留所名を、思考を巡らせながら何度もスクロールする。『住吉温泉前』の文字をとらえたとき、温泉か、いいなと思った。
温泉……湯あみ……『Yourみ』……いや、まさかな。
出発点の『佐渡中等教育学校前』を一とし、二十二番に相当する『真木』を最有力候補とした。K3にあった『N』の総数二十二個をここに適用する。なお次点で十六番の『住吉温泉前』。
エアメールが届いたときはお亡くなりの恐怖に囚われたが、今では少しワクワクしている。なんというか、スパイ的な非日常。
しばらくは“自主休講”かな……そんなことを考えて、日曜の夜の中に沈んでいった――深い眠りだった。
そして日曜日。
寝起き特有のブレインフォグのままPCに向かう。
エボ3……北関東……K3……N……『North』の『N』などと奇妙なワードで検索をした。
はっと思い忘れていたことを思い出した、自分でも何を表現しているのか分からないが、これを『ブレインフォグ式表現法』と呼ぶ。
『低い値の計算』、これは『引く一(マイナス1)のK3』ということにならないだろうか? すると意味が転じて『K2』……直感だが、もはやその直感を信じるしかない。
『クリプトス K2』でネット検索をし、その解読文を表示させる。
「なんてこった……マジか…………」
北緯と西経が詳細に記されていた。だが西経はこのさい無視してもかまわない。問題は北緯だ。
三十八度――ずいぶんときな臭い。
考えが行き詰ったので、昼食としてペペロンチーノを作って食べた。辛さこそ正義、辛さこそ人生。
『低い値の計算』とはなんだったのか。最初からダイレクトに『K2』に導かなかった理由を考えねばならない。もちろん回りくどいからこその暗号なのだが……。
待てよ……俺は『K3』を考えたときに何をした……? そう、『N』にフォーカスした。すると『N』は北緯だけでなく別の意味を持ってくる。
PCから離れ、冷蔵庫からボトルドウォーターを取り出しノドを潤した。
椅子に腰かけ机の上を見ると、ノートPCの横にあった例の手紙が目に入る。どうにも無造作に放置していたらしい。
『Your life』……ふむ、改めて見てもよく分からん。
クリプトスの全文をPCに表示させ、ゆるいヒップ・ホップをBGMにぼーっと眺めてみる。
しかしK4には『E』が極端に少ないな、たった二つだけだ。そもそもK2やK3と比較して、全体としての文字数が少ない。
画面のスクロールに終始する。このままでは埒が明かないな。
『OBKR
UOXOGHULBSOLIFBBWFLRVQQPRNGKSSO
TWTQSJQSSEKZZWATJKLUDIAWINFBNYP
VTTMZFPKWGDKZXTJCDIGKUHUAUEKCAR』
これがK4の全文だ。いい加減にしろと言いたい。
「ユアライフ、ユアライフ…………」
召喚術に失敗した。人生なんてこんなもんだなと諦めかけた瞬間、『LIF』が目に留まった。だが『E』が足りない。
次の『E』にたどり着くまでの間に、挟まるようにして存在した文字列は『BBWFLRVQQPRNGKSSOTWTQSJQSS』だった。アナグラムを用いて意味のある文に変えるのは困難どころか不可能のように思われる。
何か糸口は――と思っていたところ、視覚的判断が行われた。先頭の『BB』と末尾の『SS』は、さすがに見過ごせない。
しかし、だ。『BBSS』でググったところでそれが無意味だと思い知らされる。やはりウィキペディアのページがヒットするのが好ましい。
次に、同じ文字が連続している部分に注目した。さっそく『BQSS』でググる。
ダメだった……視覚認知能力がこの件となんの関係がある……?
さすがに手詰まりかと思ったが、『低い値の計算』=『引く一(マイナス1)のK3』のことを思い出した。『BQSS』ではいかにもひとつの『S』が不要のように思える。
「よし、それなら――」すぐに『BQS』でググった。ウィキペディアのページがヒット! どうやら本命にたどり着いたようだ。
『BQS』といえばパキスタンのバスティ・クトゥブ駅、ロシアのイグナチェヴォ空港。うーむ、どちらも北緯三十八度という条件には当てはまらない。
そして大学に休学届を提出してまで訪れるような場所でもないし、ましてや命がけで訪れるような場所でもない。
『バス待合所』――『BQS』が意味するものの中でもありふれていて、かえって浮いている。
ここに『N』は北緯だけでなく別の意味を持っているという考えを当てはめてみるか……?
『日本 北緯三十八度』でググる。すぐに新潟県の佐渡島がヒットした。これだと思った。新潟県=N県ということなのだろう。佐渡島というのも象徴的だ。
情報を統合する。K3における『N』を考えていたときに思いついた日付けは四月二十二日。場所は佐渡島にあるバス待合所(停留所)。
これで日時と場所が判明したと思いたいが、明らかに間違いだと理性が告げている。そもそも日時に関しては、一度は却下した案だ、正しいはずがない。
そういえば『This Sapporo is painted』が未解読だったな。直訳すると『この札幌が描かれている』となるだろう。『札幌』を地名として考えるほど愚かではない。
さんざんググって疲れ果て、昨夜おこなわれたプレミアリーグの試合のダイジェストを、つべで視聴することにした。スポーツは良い。
「おのれ赤ユニ野郎ども……」
もはや優勝は目前だ。それにひきかえ応援している青ユニのチームときたら。
動画のなかでフォワードの選手がプレミアムなシュートミスを披露し、英語の実況も思わず「Disappointed!」と絶叫した。気持ちは分かる。
「ん……? Disappointedというと……」
サッカーの英語の実況では頻発の単語なのだが、その響きがまるでそう――『This Sapporo is painted』と同じに聞こえた。
意味としては『がっかりした』だが、それだけではない。たしか『失意』という意味もあったはずだ。
「失意……しつい……421……あっ!?」
四月二十一日。これこそが本当の日付けじゃないのか……?
元気を取り戻し、次は佐渡島における路線バスの停留所名を調べ始める。もちろん未解読のままの『Your』を念頭に入れて。
すべての停留所名に目を通したが、俺の苗字や名前と一致するところはなかった。事務三本、そりゃないぜ……。
失意の俺は路線の名前に目をさまよわせている。どれもこれも……と思っていたところで、『東海岸線』に目が留まった。
東海岸といえばバージニア州がそうだ。念のためググったが、やはり間違いはない。となると……?
東海岸線のなかの停留所名を、思考を巡らせながら何度もスクロールする。『住吉温泉前』の文字をとらえたとき、温泉か、いいなと思った。
温泉……湯あみ……『Yourみ』……いや、まさかな。
出発点の『佐渡中等教育学校前』を一とし、二十二番に相当する『真木』を最有力候補とした。K3にあった『N』の総数二十二個をここに適用する。なお次点で十六番の『住吉温泉前』。
エアメールが届いたときはお亡くなりの恐怖に囚われたが、今では少しワクワクしている。なんというか、スパイ的な非日常。
しばらくは“自主休講”かな……そんなことを考えて、日曜の夜の中に沈んでいった――深い眠りだった。
