ニッケル⑩
公開 2025/05/06 00:01
最終更新
2025/05/06 00:01
🐾
翌朝。
スズメの声をやり過ごし、なんとか長めに眠ることができた。土曜日には必修の授業がなく、また選択した授業もないため休日である。
さて――5セントと『Your life』を結び付けて考えてみるか。
『あなたの人生に役立ててください』というメッセージとして受けとるには、額が少なすぎる。一ドルが一億円になったとしても、この四年間の大学生活の中で、学費ともども使い果たしてしまうだろう。
『お前の命には5セントの価値しかない』こちらが正解に近いと思う。
しかし5セントとは……バイトの時給よりはるかに安いのだが…………。
軽い威嚇とも考えられる。ちなみに重い威嚇、つまり脅迫であれば銃弾が同封されていただろう……実に嫌な想像だ……。
いつものように、小説サイトで気分転換をするか。
「ん…………?」
俺の最初期の作品にひとつの応援がついていた。なんだこれは……? ここ二千年くらいはなんの動きもなかったぞ……? なぜ今さら……?
ユーザー名を確認すると『事務三本』という人物。なぜだか聞き覚えがあった。音の響きだ。別に国際指名手配されている思想犯というわけではない。
「じむさんぼん、じむさんぼん、じむさんぼーん…………」
呪文を唱えていてもしょうがないので、『事務三本』のプロフィールを見に行く。どれどれ……ふむ?
「つい先月――三月――にユーザー登録したばかりか……」
それに関してはどうでもよかったが、肝心のプロフィールが気になった。
「『微妙な陰影と光の不在の間には、幻想的なニュアンスが存在します』……だと?」
自身の愚かさを呪っている内容のようでいてそうではない、俺には分かる。
「“クリプトスのK1”かよ…………」
『クリプトス』とは世界的に有名な暗号のひとつで、特に『K4』は未解読のままだ。俺は先月、長い春休みですることがないなと思い、冗談半分でそれ――K4――の解読を試み、その当日に挫折したのだ。
K4の末尾は『CAR』となっている。俺は近況ノートにK4の全文をコピペしてから、「謎は解けた。この暗号は『If you want a real car, buy American. If you want something else, well, good luck with that』(本物の車が欲しいならアメ車だ。それ以外が欲しいなら、まあ、せいぜい頑張れ)』となる。これは他の選択肢を軽視し、アメ車が唯一の選択肢であるかのように語っている」と書き、それを一度すべて平仮名に直し、武田信玄式の暗号へと変換した。
完全にクレイジーなそれを公開したとたん俺はすぐさま後悔し、秒で削除した。
だが、なにかこう悔しかったというか……自分が無為に時間を浪費したことを認めたくなかったのだ。
次は新しい小説を作成し、「【全国書店員が選んだワーストノベル堂々の一位獲得】『気に喰わない上官を背後から撃ってみた』除斥化決定!」などという、下手をすると畜生以下の発想でタイトルをつけ、本文には『除斥』とだけ書いて本当にその小説を除斥した。
その行動だけなら発狂しているようにしか思われないだろうが、狙いは別のところにあった。もちろん、近況ノートと間違ったわけでもない。
あらすじに『震源は山梨』と書いておいたのだ。そしてあらすじはユーザーがその小説を削除してからも、ペンネームで画像検索すればしばらくの期間、確認できる。
ちなみにあらすじを変更した場合でも、しばらくは変更前のものが表示されるのだがどうでもよい。
『震源』は『信玄』を表し、『山梨』は『信玄』を『武田信玄』へと導く。
「フフフ…………」と自己満足してからふと思った。例のK4を扱った近況ノートはすでに葬り去っていたため、さすがに閲覧は無理だろう。するとこうして暗号解読法を微妙な手段で公開したところで、もはやどうにもならないのだ――――
――そう思っていた、エアメールが届くまでは。
例の近況ノートが解読されでもしない限り、こんなものは届かない。そして、うっかり俺がK4を解いてしまったわけでもないだろう。なぜならたかが俺だからだ。俺ごときの脳でなにが思いつくってんだ? 俺をなめるなよ……。
ともあれ、『事務三本』で画像検索してみた。なにしろ近況ノートも小説もゼロだったのだ。
ヒット! あらすじには…………
「なんだこれは……? 『This Sapporo is painted』だと……」
加えて小説のタイトルは『低い値の計算』で、エピソードタイトルは『N』だった。
翌朝。
スズメの声をやり過ごし、なんとか長めに眠ることができた。土曜日には必修の授業がなく、また選択した授業もないため休日である。
さて――5セントと『Your life』を結び付けて考えてみるか。
『あなたの人生に役立ててください』というメッセージとして受けとるには、額が少なすぎる。一ドルが一億円になったとしても、この四年間の大学生活の中で、学費ともども使い果たしてしまうだろう。
『お前の命には5セントの価値しかない』こちらが正解に近いと思う。
しかし5セントとは……バイトの時給よりはるかに安いのだが…………。
軽い威嚇とも考えられる。ちなみに重い威嚇、つまり脅迫であれば銃弾が同封されていただろう……実に嫌な想像だ……。
いつものように、小説サイトで気分転換をするか。
「ん…………?」
俺の最初期の作品にひとつの応援がついていた。なんだこれは……? ここ二千年くらいはなんの動きもなかったぞ……? なぜ今さら……?
ユーザー名を確認すると『事務三本』という人物。なぜだか聞き覚えがあった。音の響きだ。別に国際指名手配されている思想犯というわけではない。
「じむさんぼん、じむさんぼん、じむさんぼーん…………」
呪文を唱えていてもしょうがないので、『事務三本』のプロフィールを見に行く。どれどれ……ふむ?
「つい先月――三月――にユーザー登録したばかりか……」
それに関してはどうでもよかったが、肝心のプロフィールが気になった。
「『微妙な陰影と光の不在の間には、幻想的なニュアンスが存在します』……だと?」
自身の愚かさを呪っている内容のようでいてそうではない、俺には分かる。
「“クリプトスのK1”かよ…………」
『クリプトス』とは世界的に有名な暗号のひとつで、特に『K4』は未解読のままだ。俺は先月、長い春休みですることがないなと思い、冗談半分でそれ――K4――の解読を試み、その当日に挫折したのだ。
K4の末尾は『CAR』となっている。俺は近況ノートにK4の全文をコピペしてから、「謎は解けた。この暗号は『If you want a real car, buy American. If you want something else, well, good luck with that』(本物の車が欲しいならアメ車だ。それ以外が欲しいなら、まあ、せいぜい頑張れ)』となる。これは他の選択肢を軽視し、アメ車が唯一の選択肢であるかのように語っている」と書き、それを一度すべて平仮名に直し、武田信玄式の暗号へと変換した。
完全にクレイジーなそれを公開したとたん俺はすぐさま後悔し、秒で削除した。
だが、なにかこう悔しかったというか……自分が無為に時間を浪費したことを認めたくなかったのだ。
次は新しい小説を作成し、「【全国書店員が選んだワーストノベル堂々の一位獲得】『気に喰わない上官を背後から撃ってみた』除斥化決定!」などという、下手をすると畜生以下の発想でタイトルをつけ、本文には『除斥』とだけ書いて本当にその小説を除斥した。
その行動だけなら発狂しているようにしか思われないだろうが、狙いは別のところにあった。もちろん、近況ノートと間違ったわけでもない。
あらすじに『震源は山梨』と書いておいたのだ。そしてあらすじはユーザーがその小説を削除してからも、ペンネームで画像検索すればしばらくの期間、確認できる。
ちなみにあらすじを変更した場合でも、しばらくは変更前のものが表示されるのだがどうでもよい。
『震源』は『信玄』を表し、『山梨』は『信玄』を『武田信玄』へと導く。
「フフフ…………」と自己満足してからふと思った。例のK4を扱った近況ノートはすでに葬り去っていたため、さすがに閲覧は無理だろう。するとこうして暗号解読法を微妙な手段で公開したところで、もはやどうにもならないのだ――――
――そう思っていた、エアメールが届くまでは。
例の近況ノートが解読されでもしない限り、こんなものは届かない。そして、うっかり俺がK4を解いてしまったわけでもないだろう。なぜならたかが俺だからだ。俺ごときの脳でなにが思いつくってんだ? 俺をなめるなよ……。
ともあれ、『事務三本』で画像検索してみた。なにしろ近況ノートも小説もゼロだったのだ。
ヒット! あらすじには…………
「なんだこれは……? 『This Sapporo is painted』だと……」
加えて小説のタイトルは『低い値の計算』で、エピソードタイトルは『N』だった。
