この体温が沁みるまで
公開 2023/08/10 11:46
最終更新
-
💎商タンザ期 エトラ左右なし
自然とハグができるようになった正義くんは、タンザ期の間に作られたのだと思っています。
動けない。
上げかけた手をどうしようか迷って、もう一度上げたり、下げたり、更にもう一度上げてみたりして、最終的に下ろしてしまってから、もう随分と時間が経ったような気がする。
ほんの少しでも身動ぎすれば、すぐに柔らかな髪に頬を押し付けてしまうだろう態勢に——親愛のハグというには深すぎる抱擁に、どうすればいいのかわからない。
きっと、そんな風にこちらが戸惑っていることなど、細身の割に力の強い腕の持ち主はとうにわかっているだろうに、背中に回った腕は解かれる気配がない。
「あの……リチャード……?」
無言のまま回された腕に、強すぎるわけではないのに、深く潜り込んでしまうような体温に、ようやく声をかけてみても返事はない。
聞こえるのは、時計の秒針がカチカチと動く音と、静かなリチャードの呼吸の音。
それから、音として聞こえているはずではないのに、触れ合った身体越し、皮膚と服を挟んだその奥から伝わるトクトクという心臓の音。
今日は、起きてから何をしたんだっけ。
むしろ、何かしたんだったろうか。
いつ起きて、いつ寝て、いつ食べて。
そんなことが曖昧な日が時々あって、今日はまさにそうだった。
こんな日は、誰も来なければいいと思うのに。
誰にも姿を見られずにいられたらいいと思うのに。
どうして、そういう日に限ってこの男はここに来るんだろう。
俺のところなんかに、来てくれるんだろう。
「なあ……リチャードって……」
いつも言葉を尽くして、そのやさしい声ですっきりと頭の中を揃えてくれるリチャードなのに、時々こうして何も言わないで抱きしめてくれることがある。
こんな風に誰かに抱きしめられることには、慣れていないのに。
どうしていいのか、わからないのに。
それなのに、どうしてだろう。
触れたところから沁み込んで混ざっていくような少し高い体温に、
何もしゃべっていないのに話しかけられるような心音に、
ふわりと包まれるような優しい香りに、
身体がどんどん緩んでいく。
身体どころか涙腺まで緩んでしまって、気付けば顎を伝っていた涙のせいでリチャードの肩まで水濡れだ。
「正義」
ようやく耳元で聞こえた声に、やっとの思いで返事だけすれば
身体ごと包み込まれるようなあたたかさの中、
世界中のどの音よりも優しい声が紡ぐ
グッフォーユーが聞こえた。
『この体温が沁みるまで』
2022/5/22 Twitter投稿:再掲
自然とハグができるようになった正義くんは、タンザ期の間に作られたのだと思っています。
動けない。
上げかけた手をどうしようか迷って、もう一度上げたり、下げたり、更にもう一度上げてみたりして、最終的に下ろしてしまってから、もう随分と時間が経ったような気がする。
ほんの少しでも身動ぎすれば、すぐに柔らかな髪に頬を押し付けてしまうだろう態勢に——親愛のハグというには深すぎる抱擁に、どうすればいいのかわからない。
きっと、そんな風にこちらが戸惑っていることなど、細身の割に力の強い腕の持ち主はとうにわかっているだろうに、背中に回った腕は解かれる気配がない。
「あの……リチャード……?」
無言のまま回された腕に、強すぎるわけではないのに、深く潜り込んでしまうような体温に、ようやく声をかけてみても返事はない。
聞こえるのは、時計の秒針がカチカチと動く音と、静かなリチャードの呼吸の音。
それから、音として聞こえているはずではないのに、触れ合った身体越し、皮膚と服を挟んだその奥から伝わるトクトクという心臓の音。
今日は、起きてから何をしたんだっけ。
むしろ、何かしたんだったろうか。
いつ起きて、いつ寝て、いつ食べて。
そんなことが曖昧な日が時々あって、今日はまさにそうだった。
こんな日は、誰も来なければいいと思うのに。
誰にも姿を見られずにいられたらいいと思うのに。
どうして、そういう日に限ってこの男はここに来るんだろう。
俺のところなんかに、来てくれるんだろう。
「なあ……リチャードって……」
いつも言葉を尽くして、そのやさしい声ですっきりと頭の中を揃えてくれるリチャードなのに、時々こうして何も言わないで抱きしめてくれることがある。
こんな風に誰かに抱きしめられることには、慣れていないのに。
どうしていいのか、わからないのに。
それなのに、どうしてだろう。
触れたところから沁み込んで混ざっていくような少し高い体温に、
何もしゃべっていないのに話しかけられるような心音に、
ふわりと包まれるような優しい香りに、
身体がどんどん緩んでいく。
身体どころか涙腺まで緩んでしまって、気付けば顎を伝っていた涙のせいでリチャードの肩まで水濡れだ。
「正義」
ようやく耳元で聞こえた声に、やっとの思いで返事だけすれば
身体ごと包み込まれるようなあたたかさの中、
世界中のどの音よりも優しい声が紡ぐ
グッフォーユーが聞こえた。
『この体温が沁みるまで』
2022/5/22 Twitter投稿:再掲
