2022年螺鈿の書影に寄せて
公開 2023/08/09 11:30
最終更新
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💎商2部以降 エトラ左右なし
3部始動時の書影を見て
原作表紙は写真撮影をしている設定。
パシャッ
パシャッ
馴染んできたとまでは言わないが、段々聞き慣れてきたその音と、時々飛んでくる指示に顔やら手やらを動かしながら経っていることしばらく。
お疲れさまでした、と声がかかるのにようやくほっと息を吐いて、フラッシュでまだしぱしぱする目を瞬かせれば隣からくつくつと柔らかい音が聞こえる。
「お疲れさまでした、正義。眩しそうでしたね」
「リチャードも、お疲れさま。久しぶりだったからかな、なんだかすごく目が」
「今回はあなたの方が一歩前に出ていましたからね」
「そういえばそうかあ」
今回は、十三回目になる写真撮影の現場に来ていた。そう、もう十三回目だ。そのうちの一回は別々での撮影で後から編集してもらったものだけれど、それ以外はずっと二人揃ってこのスタジオで撮ってもらっている。いや、三人でアクリルパネルで仕切られた中撮ったこともあった。あの時にカメラを構えていたのは香港出身の仕事の先輩だったり友人だったり人生の大先輩だったりする人だったか。あれからもう一年だ。時間が経つのは早いものだと年々感じるようになってきた気がする。
とにかく、アイテムや背景は指定があったり、なかったり。写真の出来や仕上がりは直前まで見せてもらえないので、最終的にどのようなものになったのか、見せてもらえるまではいつもそれなりにドキドキしていたりするのだが。
「とても良い細工ですね」
「うん、俺もそう思う。この燕の意匠を隠さないように手を置いてって言われたから、ここはきっとバッチリ写ってるんだろうな」
「ある意味ではこちらが主役のようなものですからね」
くるりと箪笥を回り込んですぐ目の前に立った麗しの上司様は、そっと箪笥の縁に指を置いて空を舞い遊ぶような二羽の燕をその美しい瞳に取り込んでいるようだった。
二羽の燕。縁起の良い意匠だ。
幸福の象徴。家が栄える、商売繁盛、家庭円満、火事や病気を遠ざける。
そして——。
頭に浮かんだことを口に出すのはやめて、二人でなんとなく並んで眺めてしまった螺鈿箪笥から、スタッフの撤収するとの声を聞いて目を移す。
視界に翻る、深みのある緑。ともすれば重くなってしまいそうなそれは、リチャード自身の雰囲気に溶け込んでとても落ち着きのある色味に見える。
それを見て、ふと今回の撮影で指定されたことを思い出した。
「なあ、リチャード」
「なんでしょう」
「今回、リチャードは何か指定あったか? 服装とか」
「いいえ、特には」
「そっか」
「あなたにはあったのですか?」
「いいや、俺も特にはなかったよ」
「そうですか」
いや、指定はなかった。確かに。
うん、そうだよなと頷いていると、行きますよと一歩先に出た横顔がちらりとこちらに目をやった。
柔らかくセットされたはちみつ色の髪がふわりとゆれる間に、ああ今思い出しましたとでも言うような調子で「ただ」と言葉を切ったリチャードは、二歩でその歩みを止めてこちらを振り返る。
「My favourite colour」
胸に軽く手を当てて静かに笑った瞳が、そのグラデーションを少し深くする。
今自分の首元に寄り添ってくれているのと同じ、大好きな色。
「俺も!」
満足げに笑った顔がもう一度前に向いてしまう前にその手を取って、少しだけ浮かれて歩く先。
空高く飛ぶつがいの燕が、新しい季節を運んでくれるだろう。
『Back home with you』
2022/5/31 Twitter投稿:再掲
3部始動時の書影を見て
原作表紙は写真撮影をしている設定。
パシャッ
パシャッ
馴染んできたとまでは言わないが、段々聞き慣れてきたその音と、時々飛んでくる指示に顔やら手やらを動かしながら経っていることしばらく。
お疲れさまでした、と声がかかるのにようやくほっと息を吐いて、フラッシュでまだしぱしぱする目を瞬かせれば隣からくつくつと柔らかい音が聞こえる。
「お疲れさまでした、正義。眩しそうでしたね」
「リチャードも、お疲れさま。久しぶりだったからかな、なんだかすごく目が」
「今回はあなたの方が一歩前に出ていましたからね」
「そういえばそうかあ」
今回は、十三回目になる写真撮影の現場に来ていた。そう、もう十三回目だ。そのうちの一回は別々での撮影で後から編集してもらったものだけれど、それ以外はずっと二人揃ってこのスタジオで撮ってもらっている。いや、三人でアクリルパネルで仕切られた中撮ったこともあった。あの時にカメラを構えていたのは香港出身の仕事の先輩だったり友人だったり人生の大先輩だったりする人だったか。あれからもう一年だ。時間が経つのは早いものだと年々感じるようになってきた気がする。
とにかく、アイテムや背景は指定があったり、なかったり。写真の出来や仕上がりは直前まで見せてもらえないので、最終的にどのようなものになったのか、見せてもらえるまではいつもそれなりにドキドキしていたりするのだが。
「とても良い細工ですね」
「うん、俺もそう思う。この燕の意匠を隠さないように手を置いてって言われたから、ここはきっとバッチリ写ってるんだろうな」
「ある意味ではこちらが主役のようなものですからね」
くるりと箪笥を回り込んですぐ目の前に立った麗しの上司様は、そっと箪笥の縁に指を置いて空を舞い遊ぶような二羽の燕をその美しい瞳に取り込んでいるようだった。
二羽の燕。縁起の良い意匠だ。
幸福の象徴。家が栄える、商売繁盛、家庭円満、火事や病気を遠ざける。
そして——。
頭に浮かんだことを口に出すのはやめて、二人でなんとなく並んで眺めてしまった螺鈿箪笥から、スタッフの撤収するとの声を聞いて目を移す。
視界に翻る、深みのある緑。ともすれば重くなってしまいそうなそれは、リチャード自身の雰囲気に溶け込んでとても落ち着きのある色味に見える。
それを見て、ふと今回の撮影で指定されたことを思い出した。
「なあ、リチャード」
「なんでしょう」
「今回、リチャードは何か指定あったか? 服装とか」
「いいえ、特には」
「そっか」
「あなたにはあったのですか?」
「いいや、俺も特にはなかったよ」
「そうですか」
いや、指定はなかった。確かに。
うん、そうだよなと頷いていると、行きますよと一歩先に出た横顔がちらりとこちらに目をやった。
柔らかくセットされたはちみつ色の髪がふわりとゆれる間に、ああ今思い出しましたとでも言うような調子で「ただ」と言葉を切ったリチャードは、二歩でその歩みを止めてこちらを振り返る。
「My favourite colour」
胸に軽く手を当てて静かに笑った瞳が、そのグラデーションを少し深くする。
今自分の首元に寄り添ってくれているのと同じ、大好きな色。
「俺も!」
満足げに笑った顔がもう一度前に向いてしまう前にその手を取って、少しだけ浮かれて歩く先。
空高く飛ぶつがいの燕が、新しい季節を運んでくれるだろう。
『Back home with you』
2022/5/31 Twitter投稿:再掲
